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小説書き込み自由コミュの死を告げる妖精-S.W.B.F.-(1-1)

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第壱章 邂逅、過去の咎人は…

第壱話 戦いと休息

 一年前、どういうワケか戦争が始まった。いや、理由ならなんとはなしに予想がつく。海を挟んだ大陸の大国同士のいがみ合いなんて随分昔から続いていたことだ。オレたち戦闘機パイロット…に限らず軍人って職のくだらなさは、なってみて初めて知った。要は政治屋共の腹いせを晴らしてやるという仕事を、命がけでやらなきゃいけない…それで戦争起こした当のアホ共は、戦場から遠く安全なトコからああでもないこうでもないと論議をしてやがるわけだ。明日死ぬかも知れず疲れ果ててる兵士の事なんかヤツらの頭の片隅にでもありはしないのが現状だろうな。どうせ一度も殺したり殺されたりをしたことのない連中だ。
 そうは言っても、やはりまだ死にたくはないから任務で出撃すれば全力で敵を叩きつぶす。殺されたらそこで終わりだが、戦時下だったら敵を殺しても罪に問われないし…。
「……ぃ! …おい、ケルベロス6! 聞いているのか!?」
 …しまった。
「こちらケルベロス6…」
「またトリップしてたのか? 間もなく交戦エリアに入る、ボサッとしてると喰われるぞ!?」
 五月蠅ぇな。ここに来るまでどのくらい飛んでたと思うんだ。暇なんだよ。
「喰われませんよ。安心して下さい、ケルベロスリーダー」
「そうそう、わたしが後ろについてますから」
 後方に視線をやると、すぐ近くに僚機がくっついていた。キャノピー越しにパイロットが手を振っているのが見える。幼い頃からの腐れ縁で、今もこうして同じ部隊機として飛んでいる。ティユルィックス・パロナール…階級は二つ下の少尉なのに、時々タメ口きいてくる。
「フィー…リルは昔からそうだよねぇ」
 ほら来た…。最初「フィー」と伸ばしたのは、おそらくあだ名で呼びそうになったんだな。
「……私語は慎めケルベロス7、それにオレはお前より上官なんだが?」
「失礼しました、フィリル・F・マグナード大尉」
 いつも通り誠意の欠片もない、むしろ楽しんでさえいるかのような口調…取り合えず無視。レーダーを広範囲モードに切り替えると、前方で空戦が行われていることが見て取れた。
「上空のAWACS(早期警戒空中管制機)から交戦許可が下りた。ケルベロス中隊各機、いつもどおり接敵と同時に散開。単独戦闘は禁ずる。僚機との相互援護を忘れるな」
 耳にたこができたよ、その台詞…。とはいえ、そのくらいしか言うことが無いことも判ってはいる。
「ケルベロス6よりケルベロスリーダーへ、先行する。ケルベロス7、後ろは任せた」
「何!? おい、待てケルベロス6!」
「ケルベロス7、ラジャー。ケルベロス6の後方につきます」
 先行する、と言っても交戦ポイントはそれほど遠くない。こっちが交戦して二分経たず本隊も到達するだろう。
 スロットルをMAXへ…機体後部にある二つのジェットエンジンからアフターバーナーの炎が煌めき、一気に機体を前へ押し出す。レーダーディスプレイに目をやり、自機の後方300mやや左舷上空にケルベロス7が追随してくるのを確認。二十秒後、敵機視認。全兵装の安全装置解除、HUD上に敵機を捕捉する。
「ケルベロス6、エンゲージ。マスターアーム・オン、シーカーオープン」
 交戦を宣言した直後、ミサイルシーカーが敵機を囲み、短距離空対空ミサイルが発射可能を知らせてくる。
 …無理か、撃っても外れる。向こうのコンピュータもこちらのロックオンは感知している。敵機は回避行動を取り始め、オレは反射的にスロットルを絞って減速しつつ敵機を追う。操縦桿の頭に取り付けられた突起を操作し、ドッグファイトモードに切り替える。切り替えたと同時にガンサイトがHUDに表示され、敵機の進行方向・相対速度などからはじき出された理想的な射撃方向を示してくれる。面倒なことは全部FCSがやってくれる。パイロットはそのポイントに弾を撃ち込めば自ずと敵は爆砕する。
 現にトリガーを引いて三秒としない内に敵機は火を吹き、それが航空燃料に引火して空中分解した。
「Good Kill! Good Kill!」
 ケルベロス7が撃墜を確認したと伝えてくれる。パイロットとして空に上がってから五機撃墜すればエースの称号をもらえるが、オレは今まで五機墜とさなかった任務はない。オレはどんな称号をもらえたか…特にない。お偉方から睨まれる、お世辞にも真面目とは言えないお荷物な「エース」だ。
 突然耳に警告音が鳴り響く。ロックオンされた…レーダーで敵の方位と高度差を確認、まだミサイルは撃たれない。撃っても簡単に回避できる角度だし、それは敵のパイロットも知っている。左へ急旋回するが、無論その程度で逃げ切れるワケはない。敵機はまだ追い掛けてくる…が、敵のその行動が命取りとなる。敵機がこちらの後方にポジショニングした直後、レーダーから機影が消え失せた。ケルベロス7が撃墜したのである。
 オレが二機目を撃墜した頃、ようやく本隊が到着…。雲の上は敵味方入り乱れて大混戦だ。ここでオレたちの任務は半分完了していた。敵の目を空に釘付けにしておくこと…後はレーダーの効きが悪くなる海面スレスレを接近中の爆撃機の群が敵の飛行場を攻撃してくれる手はずになっている。
「…ロックオン。フォックス2、フォックス2」
 主翼の下からミサイルが切り離され、敵のエンジンめがけて一直線…二秒後、オレは本日三機目を撃破した。

 戦争なんて、別に関係ない…。ティニは九九の覚え方を一生懸命熱弁する先生を後目に、窓の外に拡がる空を見上げていた。快晴…とまではいかないが、ほどよく綿雲があって空の青さを引き立てている。テレビでは毎日自国の宣戦布告の正当性を訴える政治家が飽きもしないで国民に愛国心を求めているけど、そのせいで結構好きだったアニメが放映中止になったりするなど迷惑この上ない。
 その日は相手の国の戦闘機が近くで戦っているとかで午前中だけで授業は終わった。それでも帰ったところで仲の悪い家族と大して楽しくもないテレビを見て半日過ごす気にはなれないし、家の近くの高台で暇を持て余すことにした。周囲を森に囲まれ、滅多に人が立ち入ることもないこの原っぱはお気に入りの場所だった。
「ふぅ…」
 ランドセルを放り投げ、青々とした草むらに寝ころぶと幾分気が楽になった。自分の家族のことを嫌うのは、別に反抗期だから…というわけじゃない。本当に仲が悪いの、昔から。何時からこんな状態になったのかが思い出せないくらい自然と、家族とは疎遠になった。それでも非行に走るようなことは無い。そんなことをすれば、周りから家族の気を引きたいんだという哀れみを含んだ、嫌に優しい眼差しを向けられるに決まっている。でもそれで状況が改善するならまだいい…けど、相手はあの両親だ。100%あり得ない。
 とりあえず考えるだけで憂鬱になるので、何も考えずボーッと空を眺めていた。長い時間無心で雲を眺めると、形の変化が見れてこれはこれで面白い。けど今日は少しだけ邪魔者がいた。
 近くの基地にいる戦闘機のジェットエンジンが猛々しく叫び、鉄の塊を次々と雲の上へ上げていく。
(ああ、そう言えばなんか戦争やってるんだっけ)
 雲の合間に目を凝らすと、何本も飛行機雲が見えた。複雑なループを幾重にも描き、時々爆発があって…。
(…まあ、関係ないか)
 戦争が始まっても相変わらず家族とは疎遠のままだし、学校も退屈な授業がいつも通り行われている。戦争が始まる前と今とで、何か違いがあるかと言われても…あまりピンと来ない。
 何時しか基地から飛び立つ戦闘機も無くなり、彼女の周りは静けさを取り戻した。それでも耳をすますと遠くからまだ爆音が聞こえてくる。しばらく雲の向こうの「戦争」を眺めていると、突然幾つかの飛行機が真っ直ぐ雲の下へ降りてくるのが見えた。
(あれ、どうしたんだろ? 基地に戻ってくるってわけでもなさそうだけど…)
 飛行機の向かう先を追って視線を動かすと、海に黒い帯が見えた。ううん、よくよく見るとそれらは海面より少し上を飛ぶ沢山の飛行機だ。戦闘機に比べるとかなりでかいのが遠目にも判る。
「あれって…もしかして爆撃機ってヤツ?」
 子供でもそのくらいは知識として知っているけど、何処か現実味がない。だってそんな…。

「ちっ、気付かれたか。ケルベロス7、追うぞ!」
 戦闘中ふと視界に入った戦闘機一個小隊が急降下を始めた。ここまで頑張ってきても、爆撃機隊が襲われたら元も子もない。即任務失敗で上層部からどやされる。
 FCSに多数同時ロックオンを指示し、ミサイルの残弾を確認する。残り三発…。敵機は四機いるがとにかく急がねばならない。三発を一斉に機体から切り離して敵機を襲わせる。一発回避されたものの、二機撃墜。すかさず後方のケルベロス7が、こちらの撃ち漏らした敵機に猛攻を浴びせる。片方はバルカンで蜂の巣にし、残る一機にはミサイルを時間差で四発も発射してなんとか仕留めた。エース級だったらしい。
 お互いにミサイルが尽きて随分身軽な格好となった。その後は二機で適当に敵機と振り切り振り切られを繰り返しながら爆撃機隊の攻撃完了を待った。
 しばらくすると、空中を飛ぶこのコクピットにも響いて聞こえるくらいの轟音をまき散らして、敵の飛行場はその機能を完全に失った。
「こちらアヴァロン、敵基地の沈黙を確認した。ケルベロス中隊、ご苦労だったな。護衛・陽動任務を解く」
 空中管制機から通信が入り、作戦成功が知らされる。他の僚機たちが隊長機の元へ集まっていくのを確認し、オレらもそちらに合流すべく機体を操る。雲の上へ上がる前に見えた敵基地があった場所…その周辺にも被害は及んでいるのが見える。周辺の民家も一緒に吹き飛んだらしい。ま、御愁傷様…戦争に犠牲は付き物さ。こんな御時世だ、家族を失ったことの無い人間の方が珍しい。
 他人ごとのように気楽にそんなことを心の中で呟いた直後、また隊長機にどやされたオレは合流を急いだ。
「ケルベロス中隊、コンプリートミッション、RTB」
 最初十二機いた編隊も、今日は三機の未帰還機を出した。しかしこれくらいならまだいい方で、他の部隊では時に出撃機の三分の二が未帰還という事態もあるほどだ。最近では若年兵が前線に赴くことだって珍しくはないのに、政治屋共の都合で始まった戦争で殺されていく若い命…敵も味方もホント、腐った馬鹿ばかりだ。

 原っぱからその一部始終を見たとき、何とも形容しがたい気持ちになった。一瞬悪寒が走り、直後になんだか晴れ晴れとした気持ちになり、その後は二つが入り交じって…やっぱり言葉には出来ない複雑な気持ちになった。
 家に着いたとき、そこには既に「家」がなかった。すべてにおいて現実感がまるで無い。道端に散らばってる体の“パーツ”、臭覚を突き刺す蛋白質が焦げる匂い、周囲でけたたましく鳴り響いてるはずのサイレン、そして幸か不幸か死に損なってしまった人たちの悲鳴…。それら全部が何処か遠くに感じられて、ティニは呆然と今朝まで…いや、つい今さっきまで自分の家があったそこに立ち尽くした。
 辺りを見回す。人間の上半身が転がっているのが見えた。
(ああ、あの服はお母さんかな…)
 大部分が黒く焦げていたが、所々に見慣れた色が見える。次にひしゃげた学生鞄が視界に入った。兄弟の物だ。
(そっか…みんな死んじゃったんだ)
 まだ現実味が湧いてこない。自分の全神経と思考回路にフィルターが張られているような錯覚を覚える。
(…………今夜、何処で寝ようかな)
 ようやく現実的なことを考えられるようになったとき、最初に思い立ったのはそんなことだった。
(どうすればいいのかな…これから)
 付近の住民に手を引かれ、公園に設けられた臨時の避難所に連れて行かれるその間も…そんなことをひたすら考えていた。



 もう一年半続いているこの戦争は完全に泥沼化し、互いの技術力も兵力も似たような物であることからお互い疲弊の色は隠せなくなりつつある。だがそうであるにも関わらず政治屋共は戦争をやめようとしない。
 敵国本土への攻撃も今週の頭にやった敵の航空基地爆撃の他には、半年前実行された上陸作戦…そのとき得た土地に二ヶ月前ようやく一つ飛行場の建設したところで膠着状態が現在まで続いている。攻勢に出ようとすれば別の場所で防衛陣地が突破されかけ、消耗した兵力を増強しようとすれば敵の航空機に輸送船を攻撃されたり…。どちらかが一方的な優位を長期間勝ち取ることは出来ずにいた。
 かく言うオレは今、相棒のティユルィックス少尉と共に我がケルベロス隊の駐留するヴァリアンテ基地の司令官の面前に立たされている。
「……異動、ですか?」
 隊長から司令が呼んでると言われ、若干冷や冷やしながら何かやらかしたかと思い来てみれば、言い渡されたのは新設される部隊への異動だった。
「そうだ。まだ部隊名も決まっていないが、遠からず発足することとなる。上層部は諸君等の戦歴を高く評価し、ついてはこの部隊の隊長とその補佐に任命するに至った」
「それは光栄ですが…どのような部隊なのですか? 仮に爆撃が主任務だとしたら、自分らにこれまでのような戦果を期待するのは筋違いかと」
 この質問に、この中年太りの司令は「さあな」と平然と言って見せた。この狸親父め…。
「具体的な創設目的は私にも聞かされてはおらんのだ。ただ諸君等を隊の中枢としておくのだから、戦闘機隊であると私は考えている。これが異動先となる基地だ」
 そう言われ渡された資料を見たとき、上層部はきっと自分たちを殺したいに決まっていると本気で思った。
「…なるほど、この間完成したばかりの基地に名もない部隊を新設ですか」
 敵の大陸に踏み込んだ地上部隊が作り上げた「ケルツァーク航空基地」がオレたちの新天地らしい。
「それからも解るように、今度の仕事は最前線でしかできない任務のようだな」
「しかしこんな中立国との国境線ギリギリの所に基地を作るなんて…」
 中立国、ウェルティコーヴェン共和国。敵国であるルシフェランザ連邦の隣国で、領土は並でも豊富に取れる地下資源を武器に大国と肩を並べる小さな大国である。今回の戦争でも事前に不可侵条約を両国の間で締結しておいたために戦火を免れている。
「ま、我が軍が敵から奪えたのはここだけだったからな。現在海軍第二艦隊航空隊が制空権を確保しているが、早くこの基地にも航空戦力を配備したいと考えているのだ。せっかくの空母が動けないのでは無意味だからな」
 分からない話ではない。空母も艦載機も海の上を移動できてこその代物だ。
「了解しました。フィリル・F・マグナード大尉、及びティユルィックス・パロナール少尉、新設部隊への異動任務を負います」
「うむ、頼んだぞ」
「…しかし司令。一つ質問をよろしいでしょうか?」
「む? なんだね」
「まだ発足もされていないのに異動が本日付けになっているのですが…、我々は基地へ出向いて何をしていればよいのでしょうか?」
 部隊が発足していないのでは訓練などできはしない。おそらく他の隊員だって…。
「さてな。詳しいことは私にも聞かされていないが、新設部隊には現在急ピッチで生産されている新型機が配備されるそうだ。諸君等以外の隊員も今は各戦線で戦っているだろうからな、全員がそろうまでには時間がかかるだろう。なぁに、その頃には新型機も基地に搬入がすんでおるだろうし、心配はいらん」
 そう言ってこっちの不安を笑って誤魔化すこの肉だるまに殺意を覚えたのはこれが初めてではない。
「…そうですか、では異動の準備を致します。失礼」
 とにかくこれ以上一分だって同じ空気を吸いたくなかった。足早に退室し、自分たちの寮へ向かう。
「…ったく、結局オレらを追い払いたいだけじゃねぇか!」
「名前も決まってないって言ってたね。じゃあわたしたちがつけてもいいのかな?」
「さあな…。まあ向こうついたら掛け合ってみるが、ネーミングセンスの無いクソジジイ共にコールサインつけられたらたまったもんじゃねぇからな」
 前例として、「ポーン」と名付けられた戦車部隊がいて一ヶ月で壊滅したそうだ。二の舞にはなりたくない。
「…新型機って、どんな機体なのかな?」
「さあな。まあ今更しょぼい機体も作らないだろ? 最前線で戦うんだから、それなりの性能がなきゃな」
 基地施設の中に兵員宿舎がある。男性と女性用それぞれ三棟ずつ向かい合って建てられており、オレらは一応ケルベロス隊の隊長に報告して、その後それぞれ荷物をまとめて二日後にケルツァーク基地へと向かう輸送機に乗り込んだ。

 基地に着き、基地司令官に会いに行くと、案の定他の隊員はまだ到着していなかった。いや、それどころか…。
「すまないな、せっかく来てもらったのだが君らの機体もまだ生産途中らしい」
 そう言う彼の口元は微笑っていた。しかし以前の肉ダルマのような単なる誤魔化し笑いではない、謝罪の念がこもった微笑だった。取り合えず、第一印象はそれほど悪くない。
「いえ、事前にそうなるだろうとは聞かされていましたので…」
「今しばらくの間、君たちは自ら求めたわけでもない休暇を過ごさねばならんようだ。海軍はよくやってくれているが、何時までも空母をここに引き留めておくわけにもいかん」
 窓の外を見る目も、何やら歯がゆそうである。オレは新型機がどんな機体か気になって、訊ねた。
「…ノヴァ大佐」
「ん? 何かね、大尉?」
「大佐は例の新型機について、何かご存じですか?」
 この質問に大佐は机の引き出しから資料を何枚かと、白紙の上質紙を手渡してきた。
「XFR−136『ミカエル』…、それはそう呼ばれている」
 資料を見ると、見たこともない戦闘機の設計図らしき図面とその性能が記されていた。
「…「R」? 偵察機ですか?」
 戦闘機には様々な種類があり、機体の型式番号の前に書かれたアルファベットから読み取れる。爆撃機ならBomberの「B」、戦闘機ならFighterの「F」、攻撃機ならAttackerの「A」、偵察機ならReconnaissanceの「R」…といった具合にだ。これに試作機は「X」が付けられる。
「戦闘偵察機だ。空戦をしつつ敵の情報を探る偵察機…」
「そんなことをして、なんになるんです? このスペックなら、純粋に戦闘機としてでも通用するというのに」
「相手も次々と新しい戦闘機を開発してくる。このXFR−136のコンピュータをもってすれば、その敵機の形状はもちろん、FCSの性能、エンジンの推定最大出力、推定最大速度、推定最高上昇可能高度、更には敵機搭載ミサイルの最大射程や機動性等も即座に分析可能となる」
「そして掴んだ情報を元に、こちらの兵器の改良・開発を進めるわけですね?」
「その通りだ。つまり、これからの戦い、君たちにかかっていると言ってもよいものとなるだろう」
「あの…」
 隣から資料を覗き込んでいたティユルィックス少尉が恐る恐る手を挙げた。
「何かね?」
「今の大佐のお話から、この機体がスゴイという事は理解できましたが…この白紙の紙は、一体?」
 オレもさっきから気になってはいたが…。彼女の問いに、大佐は「ああ、それはな」と一つ咳払いをしてから説明してくれた。
「君たちも知っての通り、新設部隊にはまだコールサイン、部隊名が決まっていない。こちらから指定するのは簡単なのだが…せっかくだ、君たちに決めてもらおうと思ってね。その紙に好きに部隊名を書いてくれたまえ。ついでにエンブレムも描いてくれれば、そのデザインでステッカーも発注しておこう」
「我々が…決めてもよろしいので?」
「ああ、隊員と機体が届くまでの、いい暇つぶしにもなるだろう?」
 そう言って大佐は笑った。今時珍しく、いいヤツらしい。ここは前の基地に比べ、やりやすそうだ。

 その後、オレは少尉と共に基地の内部を歩いた。急ピッチで建造されたにしてはなかなか設備が充実しており、それほど複雑でもなくて多用するだろう施設への道を覚えるのに時間はかからなかった。
「案外いいトコだね」
「そうだな。前線基地にしちゃ整いすぎって気もしなくないが」
 基地内を一通り見て歩いた後、オレたちは屋上から滑走路を見渡した。全長約2500m、幅約50mの滑走路が東西に二本並行に走り、更に垂直に交差するもう一本の滑走路。空から見たら巨大な十字架に見えるらしい。
「…そう言えばこの新型、複座なんだな」
 資料を見ると、コクピットに座席が二つある。前部に座るのが操縦や武装の発射と選択を行うパイロットで、後部に座るのはそれを補佐し、レーダーや各計器類を操作するウェポン・システム・オフィサ…WSOである。海軍航空隊には似たようなポジションとしてRIOと呼ばれる飛行士がいるが、WSOはパイロットに万が一のことが起きたとき機体を操縦出来るようにコクピット周りから違う。RIOは基本的に操縦は行わない。
「じゃあ最低あと六人そろわなきゃ作戦行動出来ないね」
「そうだな。…ティクス、お前確かWSOの訓練も受けてたよな?」
 オレは手すりに背中を預けるついでに、屋上に自分たち以外誰もいないことを確認してから、幼少期から口にしてる、彼女のあだ名を呼んだ。他人の存在を確認したことに深い意味はないが、強いて言うなら…変な噂でも立てられたら困るからだ。
「ん? ああ、一応ね…。あ、フィー君が何言いたいか、当ててあげよっか?」
 オレの前に移動し、身をかがめて上目遣いに顔を覗き込んでくる。無垢な子供みたいにニコニコと微笑むのは、何時まで経っても変わらない。成長がないと言うべきか、それを彼女の美点と言うべきか…。
「わたしに、フィー君のWSOをやってって言いたいんでしょ?」
「べ、別にそれを強要しようとは思ってない! これから合流する隊員でWSOやれるヤツが少なかったときはお前が…」
「え〜? どうせ後席に乗るならフィー君の後ろがいいな」
「いや、そんな我が儘な…」
「嫌なの?」
 さっきのニコニコ顔が曇る。無垢な笑顔で近付かれても困るが、この顔はこの顔で…やはり困る。
「別に、嫌とは…」
「い・や・な・の?」
 …ったく、こいつは。昔ッからそうだった。最初逢ったときは引っ込み思案の暗い子だったのを覚えているが、しばらく一緒にいたら途端に今みたいな性格になった。女は化ける…オレは子供の時点でそれを思い知った。
「…そこまで言うなら、後席は任せたぞ? ティクス」
「うん! WSOの訓練もフィー君の為に受けたようなモノだったしね、今まで乗ってた機体単座だったし…」
 やっと役に立てると、その日彼女の機嫌はすこぶる良かった。

 その後話し合った結果、やはり同じ機体に乗って互いの命を預け合うパートナー同士で同じ部屋を使った方がいいだろう(ティクスの持論、こじつけとも言う)という理由から、オレたちは一緒の部屋でそれぞれの荷物を広げた。そして簡単に夕飯を食べて、あっと言う間に就寝時間となった。
「なんだか、懐かしいね」
「ん? 何が?」
「ほら…こんな風にさ、フィー君と同じ部屋で寝るなんて」
 そう言えば軍に入る前はよく一緒に遊んで、その後どっちかの家に泊まるなんて事も度々あった。
「言われてみりゃ、そうだな…」
 窓から射し込む月明かりが、部屋の中を蒼く照らしてくれているおかげで視界は確保できる。壁に金具で固定されたベッドに身を預け、何も考えずに天井を見上げていると、反対側の壁に固定されているもう一つのベッドから小さな笑い声が聞こえた。
「えへへへ、嬉しいな。またこうして、二人で寝れる日がくるなんて…」
「じゃあお前は幸せだな、機体と人材が届くまでこんな夜が続くんだ」
 皮肉を込めて言ったつもりが、彼女には逆効果だった。まあ、その方がいいのだろうけど…。
「うん、だから嬉しいんだよ」
 視線を感じて顔を横に向けると、ティクスがこちらを見つめていた。氷のように澄んだ、薄い水色の瞳で…。
「おやすみ、フィー君…」
 そう言うと彼女は静かに目を閉じた。穏やかな寝顔、本当に平和そうな…。
「…おやすみ」
 戦争なんて、早く終わってしまえと思う。しかし今、彼女にもオレにも帰る場所がない。オレたちが軍に徴集される直前、敵の爆撃で家も家族も全部吹っ飛ばされた。軍に所属していれば衣食住の心配はない。
 しかし戦争が終われば? オレたちが不要となったら? おそらくそんなことにはならないだろうが、「もし」…と考えてしまう。オレたちは…何処へ行けばいい?

コメント(8)

えと、やっぱし長いですね…(・・;
しかもWordからコピーして貼り付けただけだから文字が密集してしまったorz

あ、あの…申し訳ないです。少しずつ改善していこうとは思います。

試行錯誤しながら、どうすれば読みやすいかを見つけていきたいと思いますので、どうかご指南の程をお願いします OTL
かなり読むのに根気がいります・・。
それに疲れました。
この小説は、1つのまとまりが多すぎるのではないかと私は、思います。詳しく書いているところは、いいんですが、詳しく書きすぎるのでは、ないでしょうか・・??
私の意見は、このような感じです。
だけど、続きを知りたいな・・と思いました。
>>夢人さん
 詳しく書きすぎましたか…なるほど、読み手にこっちの思い描いた情景を何とかそのままに近い形で届けたいって思って細かい描写を心がけたんですが、やり過ぎたかorz

>>ラッチさん
 おお!気に入って頂けて嬉しいです!

>>お二方
 読むのに根気を使わせてしまって…申し訳無いです(´・ω・`)次回からはもうちょい一度にUPする量を減らしてみます
すごいこの作品好きです^^

戦争ものが好きなんで、どんどんupお願いします^^
>>リルさん
 気に入っていただけて光栄ですw
 とりあえず毎週水曜と土曜にUPしようと思ってます。
 処女作にしては長い話ですが、最後までお付き合いくださると嬉しいですw
拝見させていただきました。いやぁ・・・・・・凄いですね。よく飛行機戦闘なんてものが書けるものだと感心してしまいます。マニアック過ぎですw

残りもぼちぼち閲覧させていただきますね。
マニアック言われちまいましたかw
まぁリアリティを追求してかなり専門用語を使いましたしね、軍事マニアっぷりが露呈する作品なのは否めませんw

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