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小説書き込み自由コミュの死を告げる妖精?-S.E.D.S.-(1-1・改訂版)

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第壱章 離別、新たなる神話…

第壱話 血に染まる空

 雨上がりの早朝、静謐な空気を切り裂いて鋼鉄の翼が戦の空へ飛ぶ。西の雲が朝陽を反射し、昨夜の雨が空気中の塵を落としたために今朝の朝焼けは赤みが強い。まるで空に血を撒き散らしたかのようだ…心の中で呟く。でも、多分間違ってはいない。これから私たちはこの朝の爽やかな空に血を、命を散らさせに行くのだから。
「こちら空中管制機アヴァロン。ヴァルキューレ隊全機、聞け。敵迎撃機の接近を確認した」
「数は…?」
「16…いや、上空にもう一部隊いるな。計28機を確認」
 思いの外少ないですね。舐められたものです。今日の任務は地上を進撃する友軍への支援も兼ねている。このオルトリンデ1にも小型爆弾が二発搭載されている。対地レーダーに敵車両を捕らえる。
「オルトリンデ1よりヴァルキューレ全機、交戦後は小隊ごとに散開。以降は小隊長の指示に従ってください」
 追随する僚機たちから了解の返事が返ってくる。
「…全機ベストを尽くしてください」
 何気なく言ったつもりだったが、アトゥレイ大尉にはそうは聞こえなかったらしい。
「な、なあファル。お前、やっぱり今回も…」
「……当然です。ブリュンヒルデ1、任務内容は明らかですか?」
< Of course. Search and Carnage. > もちろん。索敵・殺戮。
「よろしい。交戦エリアに入りました。敵機視認、全機交戦を許可します。オルトリンデ1、エンゲージ」
 そう、殺戮だ。今回敵はクーデターを起こした好戦派の軍人たち。かつて二年近くに渡って激戦を繰り広げたルシフェランザとの友好関係を重視した女王の判断のおかげで、現在両国はまさに比翼連理といった関係を築けている。しかし女王ルティナが戦後賠償を要求しなかったため両国の経済状態は過去最低記録を三年連続で塗り替え、生活水準を維持できた人間の大部分は軍人か一部大企業幹部、それから自らの保身に躍起になった政治屋である。近年ようやく回復傾向にあるなか、今回のクーデターは起こった。彼らの言い分は、国民の生活を無視して己の私欲のために職権を濫用した政治家の粛清、そして女王ルティナに過去最悪の経済不況の原因を作った責任を問う…つまり、政治家と女王の命をもらおうというわけだ。国民の生活水準がどん底の頃は確かにそんな不満の声も聞かれたので、彼らの言い分も一見一理あると思えるのだが、クーデターの首謀者たちはみな過去の戦争の勝利に酔った好戦派政治家もしくは軍関係者だったことから、結局勝利の美酒をもう一度味わいたいだけなのだという非難がクーデター勃発直後から囁かれていた。
 対するフォーリアンロザリオ行政府もこのクーデターを早急に鎮圧するために対クーデター軍、トリプルエースを創設してこれに対処している。私たちヴァルキューレ隊もその主力部隊として参加しているわけだ。女王や政治屋連中は大義名分を掲げて兵士たちを鼓舞しているが、私にはそんなものどうでもいい。
「トリスタン3、後方に敵機! ヴァルキューレだ、ブレイクしろ!」
「畜生、何時の間に!?」
「シュヴァルトライテ1、フォックス2!」
 周囲の敵機を駆逐しながら、ふと視線を横へ向けるとアトゥレイ機が敵機にミサイルを発射、命中した。
「ぐっ! 畜生、駄目だ! こちらトリスタン3、右主翼大破! 脱出する!」
 そう言って敵機から脱出シートが射出される。
「……逃がしません」
 操縦桿をきり、脱出した敵パイロットへと機首を向ける。
「? あのヴァルキューレは何をしようと…」
 兵装選択スイッチを操作してバルカン砲の安全装置を解除、RDY−GUN…ターゲット・インサイト。
「!? まさか…嘘だろ? やめろ、やめろぉぉおおっ!!!」
 敵の僚機からのものなのか、耳元のマイクからうるさい声が私に向けられる。私はそれを気にも留めず、ただ平然と、淡々と、機械的に私の『目的』を遂行した。トリガーを引き、大気摩擦で輝きながら飛んでいく弾丸が機外へ放り出されてパラシュートで地上へ降りようとしていた敵パイロットを瞬時にただの肉塊へと変貌させた。
「く、狂ってやがる…! 脱出したパイロットを撃つなんて…正気かよ!?」
 狂ってる? そうですね、私は狂っているのかも知れません。いえ、狂っています。壊れています。ですが…私をそこまで狂わせたのもあなたたちなのですよ?
「ランスロット2! 敵機、上から突っ込んでくるぞ!」
「何!? がっ!!!」
 アラクネシステムによって自律制御されているブリュンヒルデ1は現在、パイロットは乗っていない。機械に制御された射撃は正確無比を極め、一撃で敵機のコクピットを撃ち抜いた。
「さぁ、誰一人として…生かして返しません」
 私は新たな獲物を見つけ、機体を操る。8年前のプラウディアに比べれば随分楽な戦場だけど、今の私には…任務達成以外にもう一つ、自分に課した至上命令が存在するので油断は出来ない。それは…敵のパイロットには二度と生きて大地を踏みしめることが出来ないように必ずパイロットを殺す…ということ。
「そう、これは復讐なのですから」
 そう呟きながら私は、クーデター軍兵士たちの命を根こそぎ摘み取っていく。



 三週間前、フォーリアンロザリオ王国首都フィンヴァラ近郊のパルスクート基地。あの人は突然女王陛下から直々に言い渡された命令に戸惑いながらも、出発の準備をしていた。
「視察…ですか?」
「ああ。判ってるよ、なんでこんな時期にって言いたいんだろ? オレもその部分に関しては不思議に思ったけどさ。まあ、ここんとこ軍内部でも好戦派の馬鹿共が怪しい動きをしてるからな。女王陛下が気になるってのも頷ける…」
「ですが、ブリュンヒルデを置いて生身で行く必要も無いはずですのに…。なぜ女王陛下は時間のかかる陸路をわざわざ指示したのでしょうか? 身重のティクスさんへの配慮なら、フィリルさんだけなら空路でも…」
「さぁな。国の財政がようやく回復傾向に安定したとはいえ、少しでも経費を削減したいんじゃないのか?」
 それは…そうかも知れないけれど。でもそれは女王直属の軍隊、グリフィロスナイツのメンバーでもあるフィリルさんとティクスさんがやらねばならない仕事とも思えない。それにティクスさんは妊娠して半年になるのにこんな仕事に駆り出されるなんて…。胡散臭さも感じたけれど、女王の勅令ともあれば断ることなど出来ない。
「それにしたって…」
「なに、たかだか五日国内を回るだけだ。すぐ帰ってくるよ」
 フィリルさんは微笑しながらそう言うけれど、ならば尚更フィリルさんが行く必要のある重要な任務とは思えない。でも…フィリルさんのその微笑みと、「すぐ帰ってくる」という言葉に、私はこう答えた。
「……判りました。あなたの留守は任せてください」
 するとフィリルさんは「ああ、よろしく頼むぜ」と言いながらまとめた荷物をぽんと叩いた。
「それからオレとティクスはそんなんだから、もしかしたら今週末の式典飛行には参加出来ないかも知れない。その時はアラクネに飛ばせてやればいいさ。全機飛ばせとは言われてないし、女神も来るらしいからアラクネ、ファル、アトゥレイ、それからカイラスの四機で十分だろ。あとは待機、だらだらさせとけ。詳細はメファリア少将に聞けば教えてくれるはずだ」
「了解です。でも…早く帰ってきてくださいね?」
「また『御早いお帰りを…』ってか? 無論そのつもりさ…」
「ん…」
 肩に手が置かれ、フィリルさんがそっとキスしてくれる。御早いお帰りを…それは8年前の戦争に終止符を打ったプラウディア攻防戦の際に私がフィリルさんに言った言葉だ。
「…うぅ〜、見せ付けてくれちゃってぇ〜」
 恨めしそうな声が聞こえて私たちはどちらからというでもなく体を離す。揃って部屋のドアへ視線を投げると、ティクスさんが子供みたいに頬を膨らませながらこちらを睨みつけている。この人は8年経っても相変わらず子供っぽいところがある。それがこの人の可愛いところなのかも知れないけれど…。
「なんだ、ティクス。準備は出来たか?」
「出来たからここに来たんでしょ!? もう…わたしだってフィー君の奥さんなんだからね!? ファルちゃんだけえこひいきしてな〜い?」
「さあ? まあ否定はしないが」
「しようよ!? うぅ…」
 若干目尻に涙まで浮かべて訴えるティクスさん。常日頃フィリルさんも「こいつほど精神年齢が発達しねぇ奴もいねぇよな」と言っているけれど、私も段々フォローに回れなくなってきた今日この頃…。
「と、とにかく! 今は勤務中! ここは基地! わたしたち軍人! 仕事場に私情を持ち込むのはどうかなって思うな!」
「…なるほど、お前もようやく大人の判断が出来るようになったんだな。オッケー、判った。では出発するぞ、『ティユルィックス中佐』」
 わざといつもの愛称ではなく名前で呼び、加えて階級の部分を強調するフィリルさんにティクスさんもハッとした様子で表情を曇らせる。
「え? あ、いや…あの、フィー君?」
「貴様ぁ! 上官に対してその口の利き方はなんだ!?」
「ひゃう!? は、はぅ…ご、ごめんなさいぃ………」
 フィリルさんが急変させた態度にティクスさんはすっかり怯えてしまい、体を小さくしている。
「……、やれやれ。まったく、ホントお前はからかってて退屈しないやつだな」
「え? あ、はうぅ…ひどいよ」
「お前が言い出したことだろうが…。さ、行くぞ? じゃな、ファル」
「はい、お気をつけて…」
 特別任務に出発する二人を敬礼で見送り、五日後に迫った式典飛行のための準備に取り掛かった。ただし普段からそれなりにコンビネーションを訓練しているヴァルキューレ隊…それもメンバーはバンシー隊から一緒だったメンバーなので、そんなに色々細かく決める必要はないかも知れない。そもそも式典飛行といってもやることといえば終戦記念日を祝う式典が催されている記念スタジアムの上空を編隊飛行し、いくつか演技飛行をやればいい…。アラクネシステムならばフィリルさんの飛び方を完璧にコピーしてくれるはずだ。

 式典当日、ルシフェランザとフォーリアンロザリオを隔てる海に浮かぶ島に建設されたスタジアムの上空…。
『…あの凄惨な第二次天地戦争終結から、早くも8年が過ぎ、我々は互いの手を取り合って今日の復興を成し遂げた。いまだ苦しい財政は続いているが、それも希望の光が見えている』
『その光を絶やさぬために、私たちは共に歩んでいきましょう。憎しみの畑には…何も実りません。再び過ちを犯さないために、私たちは互いを信じあい、アルガートの旗の元で互いを支えあいましょう。そう、比翼の鳥の如く…!』
 女王ルティナと最高評議会議長ファリエル・セレスティアが大衆を前に肩を並べ演説する。その上空に私たちヴァルキューレ四機が翼端から鋭く引かれる雲で碧空のキャンヴァスにループを描き、私たちに続いて運命の三女神たちが新たな弧を書き足していく。やがて七機の戦闘機は合流し、翼を並べる。さながら両国の関係を表すかのように…。
「こんな空を飛べるなんて…8年経ったとはいえ、なんだか不思議な気分ね」
 そう言ったのは三女神の長女ことアトロポスのレイシャス・ウィンスレット特別准将。
「そうだなぁ…。でもなんか、退屈って気がしなくもないが」
 アトゥレイ大尉の呟きにカイラス少佐が「集中しなさい」と檄を飛ばしたが、同意を示した人物もいた。
「確かに、あたしたち軍人には退屈な空だね。こんな空じゃ、ラケシスも欲求不満だろうに…」
「だよな〜。まったく、戦争が終わってこのかた曲芸飛行しかしてねぇような気がする。そろそろ飽きてきた」
 そんな話をしながら七機で編隊飛行をしていると、平和宣言を行う両国の子供たちがスタジアムの中央に立ち、集まった人々も神妙な面持ちでそれを見守っている。
「しかし戦わなければ誰も死にません。私たちにも、そして他国の人間にだってそれぞれ大切な人が……え?」
 突然レーダーに自分たち以外の機影が現れたことに私は驚いた。ヴァルキューレ隊以外に今日この空域を飛ぶ飛行隊はいないはず…。それにディスプレイに表示された機影は一機や二機ではない。
『…だからぼくたちは、二度と戦争を起こさないことを、ここに誓います』
 スタジアムのマイクとリンクしたラジオからなのか、子供の声でそんな言葉が聞こえる。
「………欺瞞だな。思い起こせ、民衆よ」
「オルトリンデ1より接近中のフォーリアンロザリオ機へ、現在この空域は曲芸飛行を担当するヴァルキューレ隊、及び運命の三女神隊所属機を除くあらゆる航空機の接近が禁じられています。ただちに進路を変更してください」
「知っているさ。だがここを通らねば、我々の任務は達成されない」
「…?」
 このパイロットは何を言っているのだろう? どうしたものかと考えていると、ブリュンヒルデ1を操縦するアラクネシステムから全機へ驚くべきデータが送られてきた。
「…爆装している!? それに……クーデター、ですって!?」
 本国の隣国にあたるイクスリオテ公国が突如としてアルガート連合からの脱退を表明、更にフォーリアンロザリオの傘下からの離脱をも一方的に宣言し、同時にフォーリアンロザリオ国内のいくつかの軍閥がそれに同調しクーデターを起こした…という内容だった。
「ということは、あの接近中の部隊は…!」とカイラス少佐。
「どうやらそういうことらしいわね。ハッツティオールシューネがウェポンベイ装備機でよかったわ。ミサイル外付けだったらこんな空をミサイル丸出しで飛べるわけないし…。ラケシス、久々の獲物よ。交戦準備!」
「やっぱこうでなきゃね! 了解!」
 編隊を解き、運命の三女神が交戦モードに入る。
「オルトリンデ1よりヴァルトラオテ1、シュヴァルトライテ1へ! 女神たちと同行して敵性勢力を排除してください! スタジアムに近づけさせるわけにはいきません! 矢が放たれてしまった場合には私とブリュンヒルデ1で叩き落します!」
「ヴァルトラオテ1、了解! よかったわねアトゥレイ、待ち焦がれた戦場よ!」
「待ち焦がれたって…ひでぇ言われようだな。人を戦闘狂みてぇに言うんじゃねぇよ!」
 二機のゼルエル改が旋回、三機のハッツティオールシューネ改を追って接近中の飛行隊に向かう。
「偽りの平和は今日のこの時をもって幕を閉じる。我々は真に国を憂う者として…真の十字架を背負う者として、今こそ立ち上がらん! イゾルデ1より全機へ、状況を開始せよ! 戦いの烽火を野に放て!」
 接近中の飛行隊を先導するパイロットの言葉を皮切りに、来襲した全航空機から長距離空対地ミサイルが放たれる。この完全な敵対行為に、アラクネシステムがIFF(敵味方識別装置)にアクセス…レーダー上の表示がFRIENDからENEMYへと切り替えられた。
「くっ、通しはしません。アラクネ!」
< Roger. > 了解。
 ミサイルはすべてスタジアムを目標に定めている。速度・軌道・バルカン砲の弾丸射出速度などから計算して算出したデータをFCS(火器管制システム)に打ち込みガンサイトを修正する。トリガーを引くとバルカン砲から弾丸が連続して撃ち出され、ミサイルを撃墜していく。ブリュンヒルデ1の射撃も正確で、私より早いペースで撃墜していく。その間にも女神たちが敵機を撃墜していく。
「イゾルデ6がやられた! くそ、ルシフェランザのメス狗共め!」
「ヴァルキューレにエレイン2が喰われた。畜生、13もだ!」
「ヴァルトラオテ1より全機へ。敵機はすべて空中で分解させてやって! 下の民家に墜落したら大惨事だわ!」
「なるほど、その通りね。アトロポス、了解」
「こいつらあたしたちがこの空にいるってこと知ってて来てんだよね? にしちゃ脆すぎない?」
 ラケシスが不満そうに言う。見れば既にレーダー上に敵性反応がまばらになってきている。さすが先の大戦のエースたちだ。
『な、なんだ!? 空中戦が始まってるぞ!?』
『さっきのミサイルといい、どうなっている!? 状況の確認を急げ!』
『そんなの後回しだ! スタジアムの混乱を防げ! 民間人を避難させろ! 女王陛下とルシフェランザの姫君脱出を最優先だ!』
 スタジアムでもようやく避難が開始されたようだ。だが避難が完了する頃には戦闘も終わっているに違いない。そう思って安心していると、レーダー上に遠方から接近中の敵性反応を感知。まったく、とんだ平和式典になったものです…。

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