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小説書き込み自由コミュの死を告げる妖精-S.W.B.F.-(6-2)

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第弐話 「防衛ライン崩壊」

 なんなんですの!? FCSが作動しないなんて! わたくしは三機のヴァルキューレに追われ、コンピュータの原因不明の動作不良に混乱しながらも必死に攻撃を回避しています。しかも操縦系統もおかしくなっているらしく、右に切ると左にローリングしたり、すべて逆転しているのかと思って行きたい方向の逆へ切ると今度は上昇したりと、コンピュータがわけ判らない状況に陥っていますの。ウェポンベイを開いても対地攻撃モードが作動しなかったり…どうなってますの!?
「シュヴァルトライテ1! 前回墜とし損ねた相手よ。全力でいく!」
「判ってるさ! 俺が仕掛ける。穴埋めは頼むぞ!」
 三機のうち二機はコンビネーションが回数を重ねるごとに冴えてきて、わたくしでもなかなかしんどいですわ。アトロポスお姉様はラケシスお姉様を討ったヴァルキューレのお相手をしていらっしゃるようですし、そのラケシスお姉様も二隻沈め、一機ヴァルキューレも撃墜して帰り途中だというし…ああん、どうしましょう?
「おお、やってるな。こちらブリュンヒルデ1、ようやく南部戦線の防衛に区切りがついた。支援しようか?」
 きゃ〜! フィリル様ですわ! 先程はやられてしまいましたが、今度は…。
「こちらゲルヒルデ1、ここにはゼルエルがもう三機いるし、その必要はないと思うよ。それよりS1エリアでアトロポスと交戦中のオルトリンデ1の援護に向かってくれ」
 え…?
「了解だ。ティクス、ラグドメゼギスの反応も探りつつオルトリンデ1を探せ」
 ええ…!?
「了〜解! えと、ちょっと移動しちゃってるね。C3エリアにオルトリンデ1、アトロポス捕捉。ラグドメゼギスは今のところ見当たらない。基地の中かな?」
「判った。じゃあここは任せるぞ。みんな生きて会おうな!」
 そう言い残して西へ飛んでいってしまうわたくしのフィリル様…。思わず追いかけようとクロートーの機首をそちらに向かせた直後、響き渡るミサイルアラート。慌てて回避、クロートーの主翼をかすめてミサイルが通過していきます。少しタイミングを誤れば被弾していましたわ。
「ゲルヒルデ2よりゲルヒルデ1、周辺の敵機はあらかた掃除しました。そちらに向かいましょうか?」
「いや、周りに敵がいないなら君たちは今の内に補給に帰っておきなよ。ぼくはまだ飛べる」
 うう…わたくしも女神の一人ですのに、なんなんですの? この敵の余裕ぶりは…。三人のヴァルキューレに翻弄されっぱなしのわたくしはただ逃げ惑い、知らず知らず高度も上がっていて爆弾も放出できず地上の友軍を支援できませんでした。

 ミサイルアラートが鳴り響き、意識を後方のアトロポスに向ける。ミサイルの追尾性能は他と変わらないけど、さすが運命の三女神の長女…使い方が上手い。ミサイルを回避させた先にバルカン砲で弾幕を張るということも普通にやってくる。慎重かつ瞬間的に相手の予測する回避方向を推測し、自分が何処へ逃げればいいか決める。
「なるほど。なかなか腕のいい、それに頭もいいパイロットだね。ミレットが苦戦するわけだわ」
 アトロポスの冷静な声が聞こえる。だが私は向こうの焦りも感じ取っていた。交戦してから一度として敵機の背後に転位してはいないが、最初から撃墜なんて狙っていない。要は例のラグドメゼギスと双璧を成すこのエースパイロットをここに引き留めておくだけでいいのだ。それを最優先事項と定めた私は今、勝利を確信していた。
「…あと五分弱ですか」
 それがアトロポスの作戦行動限界、つまり今相手は残りの燃料が底をつき始めている。私は交戦してすぐ敵の攻撃を回避しながらコンピュータにアトロポスが最後に補給を受け、飛び立った時間とアフターバーナーを点火した合計時間とを調べさせ、データにあるハッツティオールシューネの最長航続時間から残りの活動限界時間を算出させておいた。あと五分もすれば相手は基地に戻る燃料すらなくなり、頭のいいこのパイロットなら帰投を選択するだろう。私もその頃には帰艦せざるを得ない状況になるだろうが、この戦闘自体そろそろ終盤だろうし、問題ないだろうと思う。日没も近い。最初の戦闘が開始されてから十二時間が経過していた。
「…っ、そろそろ限界みたいね。この私が墜とせないなんて、悔しいけど」
 攻撃ポジションを維持し続けてきたアトロポスも帰投のため反転して降下していく。頭の中で思考回路が回避から攻撃に切り替わり、私はすぐさま降下中の敵機を追った。バルカン砲・ミサイルの残弾には余裕があるし、三分ほど戦闘機動が出来るくらい燃料にも余裕はある。何としても、撃墜して友軍を支援したかった。
「シーカーオープン、フォックス2…!」
 二発のミサイルがウェポンベイから放出されてアトロポスを追尾し始める。
「なっ!? まだ動けるの!?」
 無駄な燃料の消費を避けたいアトロポスは機体をほぼ垂直に降下させて機速を稼ぎ、私がそうしていたように最小限の動きだけでミサイルを回避する。やはりただ追尾するだけのミサイルじゃ駄目ですか…。私はFCSを通じてミサイルにある指令を与えてから再び二発放出した。
「くぅ! しつこいわね!」
 アトロポスは再度回避行動をとる。先程と同様に、最小限の動きで…。そうすると必然的にミサイルは目標の近くを通過する。私の計算通りに…。二発のミサイルがアトロポスの主翼に接近した直後、突然爆発した。
「!?」
 私はアトロポスとの相対速度からミサイルの到達時間を算出し、その時間経過したと同時に自爆するようインプットしておいたのだ。直撃ほどの大ダメージは与えられないが、炸裂して飛び散った破片だけでも多少損害を与えられる。元々希少価値の高い機体だ。補給パーツも少ないはず、これでいい。
「なんてこと! く、エンジン1が死んだか…」
 機体各所から白煙をあげるアトロポスにとどめを刺そうとしたが、突然のCAUTIONランプ点灯に驚いて機首を上げる。ロックオンされた? レーダーに視線を向けると自分の真下に輝点が二つ…一つはアトロポス、もう一つにはラグドメゼギスと表示されていた。
「こんな時に…!」
 もう帰艦にギリギリの燃料しか残っていない。逃げ切れるだろうか…。私は反転して東の海を目指す。
「ディーシェ!?」
「まさか貴様まで手傷を負うとはな。敵も存外にやるじゃないか」
 敵はやはり追ってくる。交戦するか? いや、そんなことをすれば帰れなくなる。万一に備えてアフターバーナーを点火して帰った場合を想定しておいてよかった。私はスロットル全開で帰投ルートに乗る。
「逃がすか!」
 ミサイルアラート、すぐさまチャフとフレアを放出して回避機動に移る。これだけでも多少の燃料ロスになってしまうが、動かなければ撃墜されてしまうのだから仕方ない。レーダーをちらと見ると後方から徐々に距離を詰める敵機が確認できた。…あれ? 左舷から友軍機が飛んでくる。視線をそちらに向けるとキャノピー越しに一機のゼルエルが見えた。
「やらせるか!」
「オルトリンデ1、シルヴィ少佐! 大丈夫!? 帰投して、わたしたちでここは食い止める!」
 ブリュンヒルデ1が夕焼け空に鋭く白い雲を引いて旋回してくる。ラグドメゼギスもそれを見て私への攻撃を中断、迎撃体勢を整える。
「来たか、隊長機! ファリエル様のため、死んでもらうぞ!」
「ふざけるな、狂信者が! オレはこんなとこで死ぬつもりは無いね!」
 二機が複雑な螺旋を空中に描く。私は急いで海を目指した。早く補給を終えて帰ってくる…今はそれが最優先事項だ。

 アレクトのCICでは各地の戦況が逐次報告されている。第一艦隊の合流で、少しは戦況が有利に傾けばとも思ったが、状況はあまり好転していない。いや、むしろ悪化している。
「第三防衛ライン上の友軍機、消耗率80%を突破しました! 防衛ラインを維持できません!」
「こ、こちら第三防衛ラインのオルトリンデ4! 敵機が多すぎる! 駄目だ、包囲され…うあぁああ!」
「こちらリャナンシー1! 限界だ。第三防衛ラインを放棄! 第二防衛ラインまで後退する!」
「アレクトCICよりリャナンシー1! オルトリンデ3やヘルムヴィーケ4はどうした!?」
「さっきから応答が無い。やられたんだ、多分…。! 敵の攻撃機がそっちへ向かうぞ。警戒しろ!」
「リャナンシー1、後方に敵機だ!」
「畜生! こいつらよってたかって…ぐぁあああ!」
「リャナンシー1がやられた! 畜生、敵6機に包囲されて突破できない! 誰か助けて、誰か…ぁあああッ!」
「第三防衛ライン上の友軍機…消耗率100%!? 第三防衛ライン、全滅しました!」
 私は思わず目の前にあったデスクに自分の拳を打ちつけた。もはやこの戦闘は我が艦隊の全滅が先か、プラウディア基地が陥落するのが先かの戦いになっている。開戦時の泥沼の戦闘の再現だ。くそ、悪夢だな。
「レギオンリーダーより全機へ! 今日ここがプラウディアだったということも何かの因果だ。連邦の誇りを、オレたちの空を取り戻せ!」
「ここを失えば、我々には帰る場所なんてもう何処にも無くなるんだぞ! これ以上、フォーリアンロザリオのクソ虫共に連邦を蹂躙させるな! 行くぞ!」
 敵兵の士気が高い。こちらの第二防衛ラインもヘルムヴィーケ1を筆頭に頑張ってくれてはいるが、敵はそれでも突っ込んでくる。
「ルー・ネヴィン! 4時方向から敵攻撃機! 仕掛けてくるぞ、回避しろ!」
「取り舵30! CIWS起動! 回避しろ!」
「駄目です、間に合いません! …うわぁあっ! 後部甲板、第三主砲塔付近に被弾!」
「ダメージコントロール急げ! ああ! ロリヤックが!」
 第一艦隊所属の軽空母・ロリヤックが敵からの対艦ミサイルの直撃を受け、轟沈した。もはや艦隊の上空には敵と味方の戦闘機が5:5くらいの割合でいるように見える。
「右舷前部甲板CIWS、エンプティコール(弾切れ)!」
「自分が行きます!」
「駄目だ、戻れ軍曹! 敵機だ!」
「え? ぎゃああっ!」
 弾薬を補給しに行こうとした兵士が甲板上で敵機の機銃掃射を受け、絶命した。自分よりも若い命が、次々と散っていく状況に胃がキリキリ痛む。くそ、もう沢山だ。
「発射可能な艦対空ミサイルはすべて撃ち尽くせ! それまでは死んでも死に切れんぞ! 前線からローレライ一個中隊を呼び戻せ! 艦隊の防衛にあたらせろ!」
「りょ、了解! アレクトCICよりグレイスティグ隊へ! 第三防衛ラインが全滅した。艦隊の防御にまわってくれ!」
「グレイスティグ1、了解! 待ってろ、すぐ行くからな! グレイスティグ隊各機、聞いたとおりだ。母艦をやらせるな! 続け!」
「了解!」
 中隊規模で生き残っている部隊はもうそれほど多くない。戦闘開始から10時間が経過した現時点でこちらの航空戦力総合消耗率は35%を超えている。三機に一機は撃墜されている計算だ。海軍の航空機だけでも戦闘機・攻撃機合わせて360機、空軍は更に多い550機の航空機をこの作戦に投入している。このうちの300機以上が既に撃墜されているのか…。消耗率35%なんて言えば、昔は「全滅」という言葉さえ使われたほどの大損害だ。だが軍令部からは「撤退の選択肢は無い。如何なる犠牲を払ってでも敵拠点を撃破せよ」との命令を受けている。如何なる犠牲…か。軍令部の人間はそれが意味するものを、理解しているのだろうか。

コメント(6)

 第弐話はこの戦闘がピークを迎える時期を描いているので、書いてるこっちもなかなか熱くなってた覚えがあります。(・ω・*

 …まぁそんなわけで、書き込んだ直後に誤字発覚orz

 最後の部分、消耗率35%だったらおそらく「全滅」ではなく「壊滅」の誤りです。歩兵部隊なら3人に1人が戦死もしくは負傷して戦闘参加不能の状態ですからね。負傷兵一人を運ぶのに二人必要なので、事実上作戦行動が取れなくなることから「壊滅」と表現されていたそうです。

 しかし明日あたり第弐話の後編をアップして…そしたらもう第参話ですか。早いもんで、もうすぐこの戦いも終わってしまいますねぇ。でもまぁ、こんだけの激戦を10時間ぶっ続けでやっててもまだ決着がつかないっていう状況はどうなんでしょうね?
 実際あるんでしょうか…。
「とにかく超長時間に及ぶ全力vs全力の総力戦を最後に描きたい!」っていう思いで書いた部分ですし、現実的に考えても長いだろ、ていうくらい長い戦闘シーンを描きたかったのですが、ちゃんと描けていますかね?

 まあ、とりあえず…次回もお楽しみに!w(結局これでしめw
「オルトリンデ1、シルヴィ少佐! 大丈夫!? 帰投して、わたしたちでここは食い止める!」

この、わたしたちって、誰ですか?ていうか誰が話してるんでしょうか・・・?これがわかりません><
>>リルさん
 ふっふ〜、ブリュンヒルデは複座機であることをお忘れですか?w
 その台詞はブリュンヒルデの後部席に座っているティクスのものですよ〜w
(後半)

 結局ラグドメゼギスとは一対一で勝負がつかず、どちらも燃料切れで自然に離れた。…やがて陽が沈み、夜となって…更にその夜もじき明ける。しかしそれでも戦いの炎は静まることを知らなかった。オレはコクピットに体を埋めたまま、追加支給された栄養補給ゼリーと興奮剤を胃の中に流し込んでいた。
「航空戦力、48%消耗!」
「イージス艦メルクリウス、残弾15%! 補給が間に合いません!」
「ルー・ネヴィン、右舷甲板に被弾! 対空火器の30%が使用不能!」
「こちら陸軍第三師団ペルセフォネ隊だ! プラウディアの東側一帯の制圧完了!」
「同じくケレス隊、南側制圧完了! このまま往くぜ!」
 劣勢なんだか優勢なんだかいまいちよく判らない。もう戦況を知らせる通信なんて、少なくとも今のオレにはBGM並の価値しかなかった。あんまし聞いていても意味が無いような気がする。とりあえず空じゃ一進一退が続いてると見て間違いないんだろ? それさえ判ればいい。
「アラクネ、戦闘が始まって…もうどれくらい経つ?」
<About 25H. > 大体25時間だね。
 丸一日以上戦ってまだ落ちんのか…でももう少しだろ。後ろではティクスが疲れきった顔で眠っている。もう少し寝かしといてやるか。オレはオレで…考えとかなくちゃいけないこともある。それは無論、ファルのことだ。これが終われば戦争は終わるだろう。終戦までお互いが生き残れたら答えを聞かせる…それはオレ自身が彼女に提案したことだ。それに彼女からも言われたし…。
『生きて終戦を迎えられたら…先日の答えを聞かせて下さい。どんな答えでも、構いませんから』
 どんな答えでも…ファルはそう言った。是か非か、そのどちらでも構わないと…そういう意味も込めての言葉なのだろう。ならオレはどうすればいい? …いや、多分オレの中でとっくに答えは出ているのだ。だがそれが正しい選択なのか…自信が無い。だから…判らない。オレは彼女に、どう答えるべきなのか…。
「こちらアレクトCIC! ブリュンヒルデ1、出られるか!?」
 自分のコールサインが呼ばれ、オレは空になった元気ドリンクのビンとゼリーのパックをもはやゴミ袋と化しつつあるサバイバルポーチに押し込んでマスクを口元に近づける。
「こちらブリュンヒルデ1、問題ない。出してくれ」
「すまない! 残存する味方機でまともに動けるのはヴァルキューレたちくらいなもんなんだ。ブリュンヒルデ1が出るぞ。各員配置につけ!」
 切実だな、オイ。とりあえず相棒を起こすか。シートから少し身を乗り出して後席を覗き込む。半開きの口の端からよだれが垂れそうになっているのを見て幼馴染の醜態に呆れる。誰も覗き込んでこなくてよかった。
「おいティクス、出撃だ。起きろよ」
 若干声を大きく出したつもりだが、何分肉体が疲労困憊で悲鳴を上げているのでどのくらいの声量か自分自身よく判らない。とりあえず相棒の瞼は開かれなかった。
「おいティクス、出撃だぞ?」
 今度は手を伸ばして肩を揺さぶってみた。少しうめいたが、やはり起きない。ここでオレは何を思ったのか、本気で心にも無いことを口走った。
「………、目覚めのキスしてやろっか?」
 だがこれは若干効果があったらしい。規則正しかった呼吸が一瞬止まり、一秒ほど間を置いて再開した。だが顔が少しずつ紅くなってきてる。
「バレバレだ、この馬鹿たれ!」
 オレは何時しかと同じようにティクスの鼻先を指で弾いてやった。途端に眼をカッと見開いて鼻を抑え、眼に涙を浮かべて半分泣いたような顔をするティクス。
「い、いいい痛いってばぁ! それやめてよぅ!」
「お前が下らん三文芝居なんぞやるからだ! ほら、出撃だぞ。口元拭いとけ!」
 オレは自分のシートに背を預け、機体の操縦系統や兵装に問題が無いか調べる。飛行甲板の上でも兵装の変更などは出来るから今ならまだ異常が見つかっても大丈夫だ。空に上がってはもうどうにもならない。とりあえず一応アラクネにも調べさせて、全システム異常無しと返答がきた。外では空中戦が激化している。多分、これが最後の発艦となるだろう。甲板上に上げられ、カタパルトに接続する。
「健闘を祈っているよ、ヴァルキューレ!」
「今度こそ、あの悪魔の槍(ラグドメゼギス)をへし折ってきてやる! ブリュンヒルデ1、出るぞ!」
 機体が前へ押し出され、戦いの空へオレを放った。ラグドメゼギス…アラクネに調べさせたところ、パイロットのディーシェント・メルグは開戦当初に時々戦場を駆けたルシフェランザ空軍最強のパイロットで、彼が出撃したとされる戦闘ではフォーリアンロザリオ軍機は一機残らずすべて撃墜されているらしい。一機残らず…とは戦闘空域から離れた場所で指示を出す空中管制機さえも残さず…である。奴がいる限り、パイロットたちは気が気じゃない。逆に言えば奴さえ墜ちれば片が付く。
「そうさ、奴を墜とせばすべて終わる! ………ん?」
 オレがすべて終わると言った瞬間、アラクネが呼んだ。ディスプレイにはただ単に、<System-codeX666 is not ready. >と表示されている。「システム、コードXの666番プログラムが起動していないよ」と言っているが、妙だな。カタログを読んだ限り、確かにブリュンヒルデにはコードAナンバーからZナンバーまでに膨大なシステムが複雑に組まれている。しかし…カテゴリXの666番プログラム? そんなもの見た覚えないぞ?
「…ま、いっか。往くぞ、ティクス。狙うはラグドメゼギスと女神たちだ!」
「了解! 今までの敵の機動からいろいろ対処プログラム作ってみるよ!」
 情報戦に強い偵察機型ゼルエルは採取した敵機の戦闘記録から使用頻度の高い機動や危険度の高い機動に対し対処プログラムを考案・設定することが出来、それらをメインコンピュータに記憶させておくことで交戦時パイロットの判断を補助したり、ブリュンヒルデではアラクネシステムによる緊急回避機動をコンピュータの判断で自動的にとらせたりできるのである。
「ターゲットはこっちが探す。そっちは頼むぞ」
 オレは激戦の続く最前線へ機体を急がせた。

 地上施設の大部分は地上部隊が制圧したらしく、戦闘開始直後のような分厚い対空砲火は無い。しかしそれを補って余りある戦闘能力を有する三女神とラグドメゼギス。特にラグドメゼギスは鬼神の如き戦果をあげていた。一体今まで幾つの部隊が奴一機に全滅させられただろう。
「ヴァルトラオテ1よりゲルヒルデ1、ここは私とアトゥレイに任せてあなたは補給も兼ねて艦隊の防衛に回って! グリムゲルテ隊が後退する…そっちの援護も頼むわ!」
「了解した。君たち、ついておいで」
 クロートーは私たちだけでもなんとか対処できそうだった。一度地上部隊への爆撃を許してしまったが、その一度きりであとは雲の上に縛り付けていられる。この高度から正確な爆撃など不可能だ。視界の隅でゲルヒルデ1と三機のミカエル?が降下していく。
「さて、シュヴァルトライテ1! 今度こそ墜とすわよ!」
「ああ! バンシー隊の時から借りがたまってんだ。利子つけて返してやろうぜ!」
 段々アトゥレイが頼もしく見えてくる。パイロットになって以来の腐れ縁だし礼儀知らずの馬鹿だけど…今は共に飛べることを、少し嬉しく思う。私たちは互いに互いの機動を読んで、クロートーに波状攻撃を絶え間なく仕掛け続ける。そのおかげでクロートーは大した攻撃も出来ずにただ逃げ回っていた。
「ああん、もう! しつこいですわよ、あなたたち!」
 クロートーのパイロットが喚くが、しつこく追いまわさなきゃ地上の友軍を守れない。以前この私を侮辱した借りも合わせて、絶対返してやる! 私は心身の疲れを気力で振り払い、敵機を睨んだ。

 爆弾を使い果たし、一機だけ残った僚機をつれて母艦を目指す。後退の護衛にとデイジー隊に加えゲルヒルデ隊まで合流し、私は安心して母艦へと向かった。ゲルヒルデ隊は僚機をまだ一機も失っていない。イーグレット中尉は指揮官としても有能なのか…。本当に万能な人だな。やがて海が見え、上空を飛び回る航空機とその下に浮かぶ鋼鉄の浮き船が見える。その時だった。
「あら、ヴァルキューレが二人揃ってお帰り? …でも、見つけたからには見逃すわけにもいかないのよね」
 この声は、アトロポス!? なんで艦隊の近くに…前線にいるんじゃなかったの!?
「方位075にアトロポス、方位110にラケシス捕捉。ち、次女の援護に来てたのか」
 イーグレット中尉が冷静にそう呟く。レーダーに視線を移すと、確かにその方向に反応があった。
「グリムゲルテ1、メルル少尉。君はこのまま母艦へ向かえ。ぼくらとデイジー隊でアトロポスは引きつける」
「ら、ラージャー! 頼みます!」
 私は迎撃体制を整えるゲルヒルデ隊とデイジー隊を後目に迫る女神から逃げるように僚機をつれて三番艦ティスホーンへ急ぐ。
「ふぅん…仲間のために危険を冒す、ねぇ。美しくて壊すのも悲しいけど、ここは戦場なのよね」
 アトロポスはその化け物じみた機動性と操縦技術を遺憾無く発揮し、デイジー・ゲルヒルデ両隊の包囲攻撃をいとも簡単に突破して見せた。そしてその機首は私たちへと向けられる。
「くそ、せめて…!」
 ゲルヒルデ1が局所ECMを展開し、アトロポスの攻撃を阻もうとするが敵の方が一足早かった。
「ブレイク、ブレイク!」
 回避を叫ぶが、僚機はミサイル二発の直撃を喰らい爆散。…というか、私へ向かっていたミサイルの進路上にわざと旋回させて被弾したようだった。護ってくれた…?
「ECMとコンピュータウィルス? 確かにちょっとうざいけど、何とかならないレベルじゃないわね」
 アトロポスは尚もこちらに迫ってくる。ゲルヒルデ1のECMは操縦系統にも異常を発生させることが出来るが、それすらもものの数秒で順応して私を追いかける。機体も化け物ならパイロットも化け物なの!?
「あなたたちヴァルキューレをここで墜とせばルシフェランザもまだ戦える。私たちの名誉はあなたたちを殺すことで挽回させてもらうわ!」
「くぅ! 母艦は見えてるのに!」
 燃料もそんなに残っているわけじゃない。急いでどうにか着艦しなくては海に墜ちてしまう。
「ECMくらいで、ミサイルが飛んでこないなんて思わないことね。ミレット!」
「合点!」
 突然のロックオンアラート。驚いてレーダーから前方に視線を移すと、真紅の鮮やかな機体が夜の星が微かに残る瑠璃色の空を切り裂いて旋回し、機首をこちらに向けていた。ラケシスはゲルヒルデ1のECM有効範囲内には侵入していないのでロックオンは可能だ。だがこんな相対速度の大きい状況から撃って当てられる相手だと、女神たちは思っているのか。
「ふざけないでよ!」
 ミサイルアラートが鳴り響くが、私は若干進行方向を変えつつローリングさせてミサイルを回避する。けれど次の瞬間、私は自分のとった行動の浅はかさを知った。回避したミサイルはアトロポスの至近距離で炸裂、その周辺にはなにやら靄のようなものが発生してアトロポスを包んだ。
「!? しまった、ゲルヒルデ1よりグリムゲルテ1。女神が撃ってくるぞ、ブレイクしろ!」
「え…?」
 ロックオンアラートが一瞬鳴ったかさえ判らぬほど突然ミサイルアラートが機内に響く。そうか、先程のミサイルにはあの靄に包まれた機体を外部からのあらゆるアクセスを遮断する、ある種のジャミングシステムが搭載されていたのだと解釈する。如何にゼルエルといえど、外部とのシステムリンクには光を使う。音さえ追いつけない戦闘機相手では、これ以上適した通信媒介が無い。先程の靄は機体を薄いヴェールで包み、それがはがれるまでの間外部とのすべての情報を絶ってしまう効果があるのだろう。そしてゼルエルがそうであると同様、ルシフェランザ軍機にはその影響下でもその効果を受けないワクチンがあっても不思議は無い。後方からミサイルが二発、私は燃料が少ないことも顧みずフルスロットルで逃げる。時間差で発射したらしく、二発の間の距離がかなりある。片方を避けたとしても、もう片方を回避できるかどうか…。
「このぉ!」
 スロットルをやや戻し、減速しつつ機体を左舷降下・上昇・右舷旋回の順に操ると、一発目のミサイルが二枚の垂直尾翼の間から左舷主翼の上数十?を通り抜けて迷走を始めた。だがもう一発の方は…。
「グリムゲルテ1!」
 既にすぐ後方に迫っている。機体を捨てて離脱するか…いや、ゼルエルに予備機は無い。上手く対処してバランスを保って操縦すれば翼を一枚失ったとしてもある程度飛べる設計にもなっているらしいと聞いたこともある。ここはなるべく被害の少ない部位に被弾させ、何が何でも帰艦する…そういった作戦を頭の中で組み立てようとしていた、その時だった。
「グリムゲルテ1、すべてのチャフとフレアを放出しなさい。今すぐ!」
 聞き覚えのある声がそう叫ぶ。私は反射的にその指示に従っていた。機体後部からチャフとフレアを全部放出しながら急速背面降下をとる。だがそれだけでは回避不可能なほど接近していたはず…。私は気になって後方に視線を向けると、一機のミカエル?が飛び抜けていった。その後方にはミサイルが迫っており、先程鳴り止んだミサイルアラートであれが私を追っていたミサイルだと判る。垂直尾翼に雛菊と日本刀が描かれたエンブレムを確認した直後、それはエンジンブロックごと無惨に吹き飛ばされた。
「姉さん!」
 その時、姉のとった行動が瞬時に理解出来た。おそらく姉は私が背面降下すると予測した上で私のすぐ後ろに転位し、フレアとチャフが舞う中をフルスロットルで飛んでミサイルのホーミングシステムにデイジー1をターゲットと認識させたのだ。急速にミサイルの追尾範囲から遠ざかるグリムゲルテ1に比べれば、前方をアフターバーナーから大量の熱量を吐き出しながら飛ぶデイジー1は簡単に捕捉できる。ミサイルは瞬時にターゲットを切り替えた。
「こちらデイジー1! 被弾した。機体中破! イジェクト、イジェクト!」
 脱出を宣言した直後、デイジー1のキャノピーフレームが炸裂。イジェクションシートがその中から弾き出される。さすが教官も務める姉だ。被弾直前にエンジンへの燃料供給をカットさせて被弾と同時の爆発を防いだ。
「………グリムゲルテ1よりゲルヒルデ1、艦へ戻って補給が終わり次第発進しましょう」
「了解だ。ぼくも艦に長居する気は無い。彼女たちも帰るようだ。発艦時は増速用ブースターもつけてもらう」
 それぞれ別れて別々の空母に着艦する。デイジー1の…姉の救出は友軍の救助ヘリがやってくれる。着艦してから格納庫にも入らず、飛行甲板上で補給を行う。ミサイルもバルカン砲の弾丸も燃料も、増速用ブースターもすべて格納庫から運び出してもらい、着艦から十数分で私はカタパルトで打ち出された。
 後半分をアップしました〜(*´ω`)~♪

 あ、思えば昨日のリルさんの質問ですが…「わたしたち」とは?という質問に答えてませんでしたね。あれはブリュンヒルデに乗るフィリルとティクスのことです。

 この台詞はRIOであるティクスのものなので、パイロットであるフィリルが言ったのなら「オレが」でもよかったかも知れないのですが、あえてここは「わたしたち」という言葉を用いました。
 複座機は二人の息が合って初めてその性能を最大限に活かせるものですからね、「わたしが」ではおかしいと思ったのです。
なるほど♪

しかしすっかり忘れてました、複座のこと><

ズミさんファンとして恥ずかしい。。。

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