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小説書き込み自由コミュの死を告げる妖精-S.W.B.F.-(4-3)

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第参話 「ヴァルキューレ」

 指定された日時に航空基地へ向かうと格納庫へ通された。ここは海軍の施設なので、本来は空母に搭載されている艦上戦闘機セイレーンと、新型機だろうか…見覚えのない機体が並ぶ格納庫をいくつか通り過ぎた後、今度は見覚えのある機体がその翼を休めていた。
「…まさか、ゼルエル?」
「よくお判りになりましたね、フォルムも試作機とは変わっているはずですが」
 確かに所々変更された部分はあるが、基本的なデザインは変わっていない。元はバンシー隊…つまり空軍での運用が考えられていたせいか、セイレーンよりはヴァーチャー・ミカエルシリーズにシルエットが近い。やはり機体後方に突き出た二本のエンジンユニットが印象的なフォルムはそのまま…ファルが乗った試作機と外見上の違いといえばやや流線形なイメージがついたのと、コクピットが複座になったことか。
「FR−163D、ゼルエル。軍令部はこの機体を、中佐に託すそうです」
「こいつで第三艦隊へ向かえばいいのか?」
 オレの質問にここへ案内した基地の憲兵は一度首を縦に振った。
「この機体は偵察機仕様となっていますので、情報戦で負けることはありません。敵味方を問わずハック可能な高性能コンピュータを搭載し、ミカエルよりもより早く、効率的に詳細で正確なデータを得ることが出来ます」
「つまり、オレたちはそのシステムを今から体感させられるわけだな?」
 オレがそう言うと、憲兵は「は?」と目を丸くした。
「第三艦隊が今どこへ向かっているのか、オレらは聞かされていない。そこまで高性能のハッキングシステムがあるならそれで海軍司令部のコンピュータや第三艦隊所属機にでもハックすればおおまかな位置はつかめるだろうし、ミカエルよりレーダーもセンサーも強化されてるんだろう? それが事実ならいけるさ」
 格納庫の中へ入ってオレとティクスに託された機体の周りを歩きながら見ていると、既にエンブレムも貼られていて一人前の戦闘機になっていた。垂直尾翼には中世の兜に羽を生やしたようなヘルメットをかぶった女性の横顔が描かれていた。
「ヴァルキューレ…か」
 神話の中に存在する戦場を駆ける九人の乙女たち。神話では神オーディーンの娘として戦場で戦死する戦士の魂を選び、ヴァルハラと呼ばれる宮殿へ導く。真の英雄を選ぶのが彼女たちの仕事らしい、ということは以前本で読んだ。皮肉なものだな。バンシーもヴァルキューレも、共に死に関連する妖精と女神の名だ。
「………ん?」
 機首のコクピットを挟んで両側に描かれているエンブレムと垂直尾翼のエンブレム…同じキャラクターが描かれているのだが、同じステッカーを使用していない。垂直尾翼に描かれていた方は首から上しか描かれていなかったが、こちらは全身が描かれている。盾と剣を持ち、その足元にはアルファベットで何か書かれている。
「…ブリュンヒルデ?」
 確かその名前は、九人いるヴァルキューレの筆頭だった気がする。
「マグナード中佐とパロナール少佐は以後、コールサインがブリュンヒルデとなります。それはヴァルキューレ隊一番機としてのパーソナルエンブレムになります」
「無駄なところに血税使いやがって…」
 見ればその画風…っていうのか? 絵の感じがどこかで見覚えのある気がした。何処かで見た覚えがある。
「どっかの絵描きにでも依頼したのか?」
「いえ、これは…陛下自ら筆をとって描かれたものだとか」
 女王が? ああ、そう言えば絵を描くのが趣味だとか、こんな血筋に生まれなければ絵描きにでもなりたかったとテレビで語っていたことがあったな。この絵の感じ…その時見たものか。
「戦場へ向かう兵士に、せめてもの手向けって感じだな。こんなもの、こっちとしちゃ偽善に他ならんが…悪い気は、せんな」
 オレは無意識に口の端がつりあがるのを感じながら、憲兵の方を振り向く。
「FR−163Dゼルエル、確かに受領した。すぐにでも発ちたい、基地司令へ案内しろ」
「は、はい!」
 格納庫に備え付けられた電話で司令とコンタクトを取らせ、司令室へ向かう。

 許可自体はすぐに取り付けた。第三艦隊は現在補給を終えて作戦領域へ向けて急行中、二日後には目標地点に到達するということだったので、出発するなら急げと逆に急かされた。格納庫を出てからものの30分も経たず帰ってきてコクピットに体を納める。
「外部空気源、外せ。電源入れろ」
「うわぁ、この機体すごいよ。デジタル化がここまで進んでるなんて…ほとんどすること無いって言うか、高性能なコンピュータだね」
 言われてみれば、ミカエルにはかなり色々と細かなスイッチがあったが、随分減った。後席に回されたのかと思っていたがそうでもないのか。HUDのすぐ下に大き目のディスプレイがあり、メインコンピュータが起動と同時に何か表示され始めた。これは…蜘蛛?
<…A. R. A. C. H. N. E. System Stand-by. All system green. Let’s go, CDR>
 一匹の蜘蛛が張り巡らされた糸の上を這いまわり、腹が這った後には光が点々と燈っていく。おそらくそれらは一つ一つのシステムを表しているのだろう。表示された文字の最後、CDRは中佐の略称だ。こいつには人工知能でも搭載されているのか?
「…やれやれ、機械にまで急かされるか」
「え?」
 ティクスが間の抜けた声を出す。向こうの画面にこれは表示されていないらしい。いや、そもそもパイロットの操縦を補佐する目的なら、RIO(レーダー要員)に無用な情報を与えることもないということかも知れない。向こうにもこの蜘蛛が行った操作の情報は与えられるだろうが、それは操作に対してだけだろう。
「いや、どうやらもう飛べるらしい。行くぞ、音速を超えた戦いの空へ“ただいま”だ」
 エンジン出力を上げると機体が前へ動き出し、タキシングウェイを進みながらキャノピーが閉まる。ミカエル?のキャノピーは脱出時の確実性を考慮して炸薬入りのフレームを有するタイプらしいが、ゼルエルにはフレームが少ない…というか外枠にしか金属フレームは使われていない。戦闘時の視界を確保するためか。
「こちら管制塔。ブリュンヒルデ、発進を許可する。第三艦隊は現在も作戦領域に向け進撃中だ。無論貴機との合流ポイントなど定められてはいない。独力で合流を果たせ」
「了解だ。ブリュンヒルデ、テイクオフ!」
 アフターバーナーが激しい炎を吐き出して一気に機速を跳ね上げていく。新開発のエンジンは好調らしい。ミカエルより断然加速がいい。滑走路の半分を過ぎたあたりでHUD下のディスプレイでは離陸可能という文字がオレを急かし始める。2/3まで滑走したところで機首上げし、ギアが地を離れる。ギア格納と同時に再び蜘蛛がせわしなく動き始めた。
 民間機とのニアミスを防ぐため、首都に程近いこの基地から離陸するとすぐに雲の上まで上昇する。しばらく西へ飛行していると、機内に電子音が響く。
「え? 何?」
「オレが訊きたい」
 ティクスの反応を見るに、機体のトラブルでは無さそうだ。蜘蛛がいたディスプレイを見ると、<I found it!>と誇らしげに文字が明滅している。
「ああ、どうやらこいつが何か見つけたらしい。そっちで何か変化無いか?」
「えっと…特に。いや、レーダーに線が引かれてる」
 ディスプレイでは蜘蛛が<Com’on, CDR. I’ll guide you to 3rd fleet. >と八つの目を光らせている。
「どうやらその線の指す方に第三艦隊がいるらしい。確かにすごい機体だな、こいつは」
 やや右旋回。第三艦隊は北の海に進出しているらしいな。今この機体には自衛用の短距離空対空ミサイル2本と増槽タンクしか取り付けられていない。出発前に渡されたこの機体に関する資料を取り出してもう一度読む。カタログスペックではこの状態でもマッハ3近くまで出せるらしい。ウェポンベイの配置は大体ミカエルと同じ。機体中央のメインには偵察用ポッドが固定装備、それにプラスして空対空ミサイルを6発搭載可能。吸気口脇の小さいウェポンベイにも空対空ミサイルが2発搭載可能。現在装備されているミサイルはここに納められている。
「…燃料は豊富にあるし、最高速度で飛んでも大丈夫だよな?」
 ドロップタンクと呼ばれる増槽を二つ抱え、さらに機体内部の燃料タンクにも燃料を満載したゼルエルの航続距離は4500kmを越える。これだけあれば1800km以上離れた戦場へ飛んでいって戦い、余裕を持って帰ってこれるくらいだ。
「うん、大丈夫だと思うよ? このまま巡航速度マッハ1.7で飛んでも一時間かからず追いつけるって言ってるし」
 ティクスも賛同してくれた。一方のアラクネシステムも、言うべき言葉は彼女に代弁されてしまったと言うように何も言ってこない。
「よし、行ってみるか…」
 オレはスロットルを引いてエンジンの回転数を最大まで跳ね上げる。回転数と同時に急激にその数値を上げていく速度計。高度計と共にHUD上でデジタル表示されるようになったそれは見やすく、また以前のように様々な計器が並ぶHUD下にスペースを設ける必要が無いため機器の配置に余裕が出来、他もデジタル化・自動化が進んでこちらが操作しなくてはならない機器は格段に減った。コクピットは今まで乗った機体のどれよりも広く感じた。
「なんだか、戦闘機に乗ってる感じがあんまりしないね。便利すぎちゃって」
「三ヶ月近くベッドの上だったんだ、ブランクを補ってくれて嬉しい限りじゃねぇか」
 耐Gスーツを着ていても感じるシートの背もたれへ押し付けられるような圧迫感。だがキャノピー越しにすぐ近くを通り過ぎていく綿雲を見れば、車や電車など比べ物にならないほど速く動いているのが判る。それでも体に感じるGがこれだけですむというのは当たり前のようですごいことなのかも知れんな。
「合流を急ぐぞ。さっさと行って作戦の詳細も知りたいし、新しい部下たちの顔も見ておきたい」
 マッハ2突破。ラムジェットエンジンも装着してないのにまだ加速する。速度計は見る見るうちにその数値を跳ね上げていき、もしこのままスロットルを戻さなかったらスクラムジェットを追加したミカエルにも追いつくんじゃないかと思うほどどんどん加速していく。

コメント(6)

 第参話の始まり始まり〜w …といっても所詮二回の更新で次の話へ行ってしまうわけですけどね(・・;

 さてさて、怪我も完治(左目は義眼ですが)したフィリルはフォーリアンロザリオ海軍所属第三機動艦隊との合流を急ぐわけですが、この後どんな展開になるかは…ちょっと前の話を読み返すとおおよそのことは読めちゃったりしますw

 てなわけでここでそんな間を空ける必要もないかと思っているのですが、今夜にでも後半分載せちゃったほうがいいですかね?
 皆さんがそのほうがいいと言うなら、オレは載せようと思うのですが…。ハイ! リクエストタイムスタートで〜すw(ぇ
載せてください、ぜひ!!

明日からテスト期間なんで、全部載せてもらっても読みますww
(後半)

 第三艦隊は今、南から進撃する陸軍とそれを支援する第二艦隊と別れて敵の北側の拠点へ向かっている。ケルツァーク基地や敵から奪った前線基地を拠点に攻防を続けるフォーリアンロザリオ軍はやや膠着気味で、戦果の欲しい上層部は敵の目が南に向いていて北は手薄と判断。北の一大拠点であるラストレチャリィ基地攻撃作戦を立案し、空母三隻とイージス艦四隻、護衛巡洋艦八隻から成るこの機動艦隊に白羽の矢が立った。
 他の艦艇に比べるとかなり巨大な空母はその格納庫に約八十機の航空機を搭載できる。三隻が集結しているので全機発進させれば240もの戦闘機と攻撃機が敵地へ赴くわけだが、実際そんなことにはならない。一度に発進させるのはどんな大規模な作戦だろうとせいぜい20〜30機前後…それくらいの規模を二回くらい発進させれば十中八九勝敗がつく。敵は妨害電波で情報を漏らさないようにしていて、その動きは読めない。こっちもECM(電子妨害装置)で動きを知られないようにしてはいても、やはり敵の偵察機や哨戒機が飛んでこないかとヒヤヒヤしながらレーダーを見つめる。突然、周囲に展開しているイージス艦の一隻からデータリンクがなされる。後方を警戒していた艦からだ。
「…レーダーに反応。方位110、距離は艦隊後方800km」
「敵か?」
「IFFの信号キャッチ、友軍です。機種特定、FR−163Dゼルエル」
 コンピュータが解析したデータを読み上げると、後ろに立っていた艦長が「そうか、ようやく英雄のお出ましか」と嬉しそうに答えた。
「着艦を求めてきたら応じてやれ。彼らはヴァルキューレ隊の隊長機だ。彼らのゼルエルは格納庫に収容、パイロットは航海ブリッジへ通してくれ」
「はっ!」
 敬礼してCIC(戦闘情報センター)を後にする艦長を見送る。その直後、そのゼルエルからコンタクト。
「こちら第144航空隊所属、ブリュンヒルデ。アレクトCIC、応答せよ」
「こちらアレクトCIC。ブリュンヒルデ、そちらの信号は捕捉している。思いの外早かったな」
「最高速度で飛んできた。ヴァルキューレ隊はどの艦に着艦すればいいんだ?」
「このアレクトに着艦してくれればいい。他の八機もこの艦に搭載されている」
「了解。着艦許可を求む」
 レーダーを確認。さっきはレーダーの隅にいたのだが、もう艦隊の上空を旋回しながら着艦に備えてかなり減速した状態でいた。
「了解。ブリュンヒルデ、着艦を許可する」
 今まで上空を旋回していた輝点がこの艦のやや右舷後方に転位する。

 …ちっ、ちょっち感覚掴めないな。
 そもそも空軍のパイロットだった奴…しかもつい数日前までベッドの上だった奴にいきなり着艦やらせようってのが無茶なんだが。とりあえず着艦用のアレスティングフックとメインギア、ノーズギアを下ろす。これまでとの違いを挙げると、まず航空基地の滑走路に下りる空軍では、空母みたいに狭くて動く滑走路なんて考えられない。しかも着艦用の飛行甲板は艦の進行方向を向いて伸びているわけでもない。正直上手く着艦できる自信は無い。エアブレーキは展開せず、エンジン出力を極力抑えて滑空する。
「…フィー君、風に流されちゃうよ」
「くそ、思いの外難しいな…」
 やや左に流されている。操縦桿を右に倒し、機体を少し降下させながら右へ流す。
「今度はちょいきり過ぎ…」
 その時またアラクネが呼んだ。<Could you give me control? >…つまり操縦桿を渡せということらしい。
「………それもやむ無しか。こいつに乗るのも初めてだし、こんなとこで壊すわけにもいかない。O.K. You have control.」
 オレがそう言うとすぐに<I have control. >と表示され、操縦桿と両足のペダルが勝手に動き出した。それまでが嘘のように、最適なコースと速度をピタリと保ち、艦へ近づく。メインギアが先か、アレスティングフックが先か、とりあえず機体が飛行甲板上に触れた直後に強い衝撃が体を襲い、どうにか無事に着艦できた。ディスプレイには<Don’t mind CDR. This is 1st flight>と表示されている。
「…やれやれ、ありがとよ」
 ティクスがキャノピーを開けて、ヘルメットを外す。オレもヘルメットを外すとすぐに機外へ出た。
「アレクトへようこそ。機体は我々が格納庫へ運び入れておきますのでマグナード中佐とパロナール少佐は航海ブリッジ(艦橋)へ向かってください」
「了解した」
 言われたとおり、ヘルメットを脇に抱えたままティクスと二人で艦橋の根元にある扉から中へ入ってブリッジへ上がる。現用空母にはブリッジが二つあり、船の操艦を担当する航海艦橋と、その下にある戦闘艦橋である。ここでは戦闘に関する情報などが集められる。途中数名のパイロットや空母の乗組員らと擦れ違ったが、軽く敬礼しあった程度で特に会話もしない。らせん状に続く金属の階段を何度か上って、やや飽きかけたところでブリッジに着いた。水上レーダーを見る者や飛行甲板の作業を見守る者などがいる中で、一人艦の前方を見つめ続ける中年の男が立っていた。
「フィリル・F・マグナード中佐、ティユルィックス・パロナール少佐両名、ただいまより第三艦隊と行動を共にします」
 敬礼。隣でティクスも少し遅れて敬礼。すると艦の前方を見つめていた男がゆっくりとこちらを振り向いた。
「第三艦隊提督、ホルンスト・ヴィンスター大佐だ。このアレクトの艦長でもあるがな。君たちを歓迎するよ、元バンシー隊のエース」
「ミカエルが自分を生かした…自分はそう考えます」
 実際、ヴァーチャー?で女神たちと出会ったら瞬殺されてただろうしな。
「そう謙虚になることも無かろう。諸君らの働きのおかげで、我々海軍も主力機の代替わりが出来たのだ。セイレーンの後継機、ローレライはいい機体だと兵たちの士気も上がっている。もう少し自分のした偉業を誇ったらどうかね?」
「自分はあの時、部下を死なせてしまいました。その上自らの愛機まで失い、隊長としての務めをまっとう出来ませんでした。それもまた、事実です」
 そう言うとヴィンスター艦長はふぅっと溜息を一つ吐いて、かぶっていた帽子をとった。
「君も、かね。レイヤーファル大尉もそう言っていたよ」
「彼女を知っているのですか?」とティクスが思わず口に出した。
「知っているとも。そもそもヴァルキューレ隊は元バンシー隊のメンバーに加え、各戦線から選ばれた者たちが集まって結成された部隊だ。今はブリーフィングルームにみんなを集めてある。行こうか」
 そう言って艦長はブリッジを後にする。オレとティクスは艦長の背中を追ってブリッジを出る。さっき上った階段を今度はそれ以上の段数下る。段々退屈になってきたので、少し気になっていた質問を投げかけてみる。
「しかしゼルエルはすごいですね。あのアラクネシステムとやらの性能といったら、そこら辺の人工知能なんて比較にならないほどだった」
「それは隊長機にのみ実験的に搭載された新システムだ。他のゼルエルには搭載されていない」
 意外な返答が返ってきた。オレはてっきり全機に搭載されているものだと思ったんだが…。
「アラクネ…かつてその優れすぎた技量によって女神の逆鱗に触れ、蜘蛛の姿となってしまった機織女の名だ。本国では敵味方問わずリアルタイムで即座に大量の情報をその巣糸と八肢で収集・処理し、人間の限界を超えた飛行すらも実現させることの出来る最強の戦闘サポートシステム…というコンセプトで開発されたらしい」
 人間の限界を超える…つまり戦場でアイツに操縦桿任せたら命の保障は無いわけだ。機械とは人間よりも頑丈に出来ているものだ。それが兵器ともなれば尚更で、それが限界ギリギリの行動ってのはつまり人間の限界を遥かに超えたところに存在する。パイロットなんかが操るよりも格段に鋭く、すばやい機動が可能となるだろうが、そんなことを続けられたら敵より先にパイロットの方がおしゃかになる。
「上層部は無人戦闘機でも作るつもりでしょうか?」
「ゆくゆくはそうなるだろうな。そうなれば君たちパイロットはインストラクター的な存在になるのだろう」
「それもエースとして活躍してるパイロットだけですよ。一気に失業者が増える…」
 艦長は苦笑しながら「皮肉だな」と呟いた。戦闘機に乗らなければ、今のように兵士が戦場で死ぬことは無い。しかしそうした死と隣り合わせの状況で働いているからこそ他よりいい給料がもらえ、戦時下だからこそ需要がある。撃破されても命の無い無人機なら補充も楽だろう。しかし、その反動も予想するに容易かった。
 途中パイロットスーツの上から取り付けていた様々な道具を外すためロッカールームに立ち寄り、少し歩くともうブリーフィングルームの扉の前まで来ていた。艦長はオレたちに少し部屋の外で待っていて隊員たちに隊長機の合流を告げてから入ってきてくれと言ってから部屋へ入っていった。

 艦長にこの飛行隊準備室に集められて、もう10分近くになる。つい先程丁度この真上を通る着艦用甲板から衝撃と轟音が伝わってきた。哨戒機が飛んでいったという情報は受けていないし、おそらくヴァルキューレ隊の残る一機が合流したのだろうと思う。
「誰なんだろうな、今度の隊長」とアトゥレイ中尉が話題を提供するといえば最近こればっかり。
「バンシー隊だったメンバーがここまで集まってちゃ、やっぱ俺としちゃあの隊長に来て欲しいけどな」
「異動は軍令部が決めることよ。それに隊長は前回撃墜されて入院したって言うじゃない。そうそう簡単に前線復帰は出来ないと思うわ」
 カイラス大尉の言葉に、珍しくイーグレット中尉も会話に加わった。
「でもあり得ない話ではないと思うね。各戦線に散らばっていたバンシー隊のメンバーに再召集をかけて結成した部隊だ。次期も妙だったし、もしかしたら隊長の回復を待っていたのかも知れない」
 実際、第三艦隊には補充兵力として幾つかの航空部隊も合流している。必要な物資を積み終えた後も港に停泊していたようだし、何かを待っていた…というイーグレット中尉の言い分も間違ってはいないかも知れない。
「シルヴィ大尉はどう思う?」
 突然そのイーグレット中尉に声をかけられ一瞬驚いたが顔に出さず、少し考えた後に自分の思うように答えた。
「別に…隊長がマグナード隊長でも他の誰でも、私たち部下が尊敬に値するような有能な人間ならば私は構いません」
「ふむ。ま、言ってしまえばそれに尽きるのだがね」
 イーグレット中尉がそう言った直後、ブリーフィングルームの扉が開いて艦長が入ってきた。私たちはその場で直立し、敬礼。
「…さて諸君、こうして集まってもらうのは始めてだったな。君らはこれ以降ヴァルキューレ隊として戦場を駆けてもらうことになるのだが、先程ようやく隊長機が到着した。この部隊では神話になぞらえ、九人の戦乙女の名を持つゼルエルはそれぞれ機体とパイロットの相性を考えて開発されている。偵察機、電子戦闘機、戦闘機、攻撃機…これらを一つの部隊で運用するのはまれだが、それを可能としたのがこのゼルエルという機体だ。空母という移動可能な滑走路と格納庫、そして制空戦闘、拠点攻撃、偵察や敵の情報収集まで可能なヴァルキューレ隊…この二つを組み合わせることで自由度の高い主力部隊を作ろうというのが上層部の意向である。諸君らは各戦線から選ばれたエース…いや、エースなどでは収まらない。我が軍のジョーカーだ。国から与えられた務めを果たし、この戦争を生き抜こう。…では、そんな諸君らを先導する隊長と副隊長を紹介しよう。コールサインはブリュンヒルデだ」
 そう言って目線を出入り口へ向けた艦長に従ってそちらを見ると、耐Gスーツに身を包んだ二人の士官が入ってきた。私はその時…呼吸すら忘れてその人たちを見つめていた。多少予想していたとは言え、本当にあの人が来るなんて思っていなかったから…。
「…ここは『初めまして』というべきか『久しぶり』というべきか判断に困るな。合流が遅くなってすまなかった。オレはフィリル・F・マグナード中佐だ。諸君らは皆エースということでオレも指揮官に任命されて誇らしく思うが、戦場では基本的にオレの指示に従ってもらう。独断行動は許さん」
「私はティユルィックス・パロナール少佐。以後よろしく」
 短めの自己紹介…いや、そもそも軍隊で自己紹介など必要では無いのかも知れないが、それだけ言うと艦長が二人に向き合い「ではあとは頼んだぞ。私はブリッジに戻らなくてはな」と言って去っていった。二人とも敬礼して見送る。
 艦長が部屋から出て扉が閉まり、一瞬間をおいて隊長は少し大きく息を吐いた。
「はぁ〜、やっぱこういう慣れない環境はだめだな。変に緊張して疲れる疲れる」
 確かに先程までなんだか張り詰めたような空気が漂っていたが、その一言でかなり和らいだ。
「ぃよ〜ぅ! 隊長じゃねぇか! 久しぶりだな!」
 最初に駆け寄ったのはアトゥレイ中尉だった。ま、これも予想通り…。
「アトゥレイも元気そうだな。まだ死んでなかったとは…運の強い奴だ」
「当たり前じゃねぇか! 俺がそうそう簡単に墜とされるはずねぇだろ!」
「空ならまだ安全だろ? お前にとっちゃ地上の方が危険だ。そうだよな、カイラス?」
 隊長に言われてカイラス大尉は握り締めた拳の動きをピタッと止めた。
「もうすぐ作戦領域に入るんだろ? 今怪我人出したら僚機が減っちまうよ」
「そ、それはそうですが…。しかしアトゥレイ中尉の言動は不適当かと」
 拳は下ろしてもアトゥレイ中尉に向けられた眼光は鋭利なナイフのように鋭く光っている。
「その“不適当”をオレは気にしてないし、それほど大きな問題とも思わん。確かに君の言うとおり、君たちはオレの部下だが…戦友だろ? 軍規も大事だろうが、も少し肩の力を抜いてもいいんじゃないか? ストレスで参っちまうぜ?」
 そう言いながら隊長はカイラス大尉の肩に手をぽんと乗せ、他の隊員の方へゆっくり足を運びました。
「君は初めまして…じゃあないな。確かケルベロス隊にいただろう?」
「はい。ソフィ・フレイヤ少尉です。部隊で伝説のようになっているケルベロス6と7、そのお二方と共に飛べるなんて夢のようです」
 そう答えたソフィ少尉は元ケルベロス隊で、私たち同様空軍から選ばれたパイロット。話し方や雰囲気からも、本国では名のある名家の生まれらしく、戦闘スタイルも航空ショーでも見ているかのように美しい型にはまった機動をするそうだけど…それが実戦で役に立つのか私は知らない。この部隊に来たからにはそれなりに腕はいいのでしょうけど…。
「確か、六番機のヘルムヴィーケだったな。期待しているよ」
「足枷にならぬよう、ベストを尽くします」
 隊長がソフィ少尉から離れ、次に声をかけたのは七番機ジークルーネのパイロット。彼女もバンシー隊ではなく、海軍の中で選抜されたパイロットだった。
「えっと…君は初めましてかな?」
「はい、フェイ・アンジェラルト少尉であります! わたすも皆さんの足を引っ張らんやう頑張りたか思います」
「………? あ、ああ。まあ頑張ってくれ」
 彼女の言葉は微妙に判りにくかったりして困る。意味は理解できても、幾つもの地方言葉を組み合わせたような無茶苦茶な言葉遣いが気になって言葉の意味に辿り着くまでの過程を邪魔してしまうのだ。
 隊長もそれ以上会話しようとはせず、イーグレット中尉の方へ向かった。
「久しぶりだな、イーグレット」
「また逢えて嬉しいよ、隊長。ただもう少し寝ていてもよかったんじゃないか? 異動前の部隊の娘からお茶をもらう約束があったのに、すっぽかしてしまったよ」
「あはは、そいつぁすまなかったな。生きてりゃその内また逢えるさ」
「隊長にも逢えたしね、それに賭けるしかないけどさ」
 イーグレット中尉は、以前バンシー隊にいた頃も思っていたけれど何をとっても中性的な人。つかみ所がないというか、何を考えているかも判り難い。彼の腕は認めているけど、私は…正直苦手だった。
「メルルも久しぶりだな。八番機のグリムゲルテは攻撃機だったな。本領発揮か?」
「そう出来ればいいですけど、新型の性能を活かしきることを目指しますよ。ああ、それと姉が隊長に礼を言っておいてくれと」
「教官が? 何に礼を言ってるんだか…オレ何かしたかな?」
 隊長には心当たりが無いようで、きょとんとしてる。メルル少尉も「さあ?」と首を傾げるだけで、結局判らず終いらしい。
「やっほ〜ぅ、隊長さん! ボクはディソール・ネイティス、階級は少尉なんだ。以後よろしく!」
 やたらと明るい声…。赤い瞳にピンクの髪と見た目も派手なディソール少尉。私はこの人もあまり近寄りたくない人だった。
「あ、ああ…よろしくな」
 何よりこの無意味なテンションの高さはうざったいにも程がある。それに変な噂もたってるし…。
「いやぁ、中佐みたいにかっこいい人が上に立ってくれるとこっちも士気が上がるってもんだよ!」
「お前は九番機のロスヴァイセだったな。ま、せいぜい生き残れよ。…で」
 そしてくるっと首を回し、私と目が合った。
「久しぶりだな、ファル。君のオルトリンデは二番機だったな。戦場じゃ一緒に飛ぶことが多いだろうが、また背中を任せてもいいか?」
「え? …あ、あの……私は………」
 言おうかとも思った。パイロットとして自信がないと、あなたの後ろを護れる自信がないと…でも結局、私は何も言えず隊長の瞳を見つめ返すだけしか出来なかった。左眼の瞳にちょっと違和感を覚えたのはそのときだ。
「ん? ああ、コレか。あのとき左眼をやられてな、義眼だ」
 まるで私の心を見透かすようにそう言って笑った隊長の声はとても心地よく、その優しさは私の心を癒し、そして同時に深く切り裂いた。責めてくれたら、なじってくれたなら…幾分楽だったのでしょうか。
「…ま、今日はこれくらいにして、また今度の任務が明らかになったらまたここに呼ぶから、それまで休んでてよしとしよう。解散」
 隊長がそう言って部屋を出る。私は他の皆が部屋を出て行くのを見ながら何故命令を受け入れ、この艦に乗ったのかと自問した。あの時私の胸の内を明かし、パイロットを辞めたいと申告することも出来たはずだ。しかし、私は今戦場へ向かっている。
「………情けない」
 私はそう呟き、部屋に戻る気も起きなくて艦内を歩くことにした。
 は〜い、ご要望にお応えして後半分アップしました〜w

 ………って! リルさんはテストですか! テスト勉強ははかどってますか? つーかこんなもん読んでる暇あるんですか? そして万が一オレが全部乗っけたら、それこそ地獄を見るのでは…?(・・;



 ともあれこうして読み返してみると、やっぱしこの第四章はファルがメインですね〜(* ̄ω ̄)~♪
 実際彼女がこの話に出てくるキャラの中で一番のお気に入りですしねw 筆者の思い入れが強いキャラです。親友の死を引きずるエース…まるで某映画のエースパイロットを彷彿とさせますが…べ、別に意識したつもりは無かったんですがね。やっぱしいい話を書こうという意識が潜在する記憶から引っ張り出してきてしまったのでしょうか?(・・;

 他にもぶっちゃけパクりでしょ?っていうシーンとか台詞とか…色々探せば出てくるんですよね〜。
 で、でも…ほら、プロの作家だって一つのジャンルをとって見てもあんだけ数がいてあんなにたくさんの本が並べば似たような描写やシーンだってあるはずですよね? た、多少似てしまうのは仕方の無いことですよね?(・・;)…と自己弁護を図ってみる

 …とまぁ、「あれ? この展開どっかで見たぞ?」とか「この台詞ってもしかして…あの話にもまったく同じような部分があったよね」とか言う部分があったら、指摘してくださっても結構です!(ぉ
 でもそのほとんどは意図せず似てしまった部分なので…「この盗作野郎が!」などと見捨てずご容赦の程をよろしくお願いします。 m;;;A;)m
ヴァルキューレ隊・・・。

まだ、バンシー隊を忘れられませんが楽しみです^^

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