第二章で述べた衰退の原因、欠点を改善させる必要があり、現在十分な集客パワーを持ち合わせ、強力であるカテゴリーキラーやショッピングセンター等のライバルとの差別化を図り、その失われた百貨店全体の魅力を再び向上させ、存在価値を高める必要があると言えよう。その後、ある程度百貨店のビジョンが確立され、安定した後に個々の百貨店の差別化を行えば、十分な相乗効果が得られるに違いない。前者が第一段階であり、後者がそれを基盤として構築する第二段階とでも言おう。これらの2ステップを踏むことでより力強いものとなるであろう。この章では第一段階において効果的と推測される我々の策を挙げていくことにする。 まず百貨店の現在の欠点を改善させるためにはやはり対象とするターゲット層を絞り、なおかつ他の百貨店との差別化を図ることが望ましいであろう。まずターゲットの限定についてであるが、従来の一般的ニーズを平均的に満たそうとするコンシューマー発想から、一点集中の「こういう客」というようにターゲットを具体化し、コンセプトを確立するカスタマー発想へとのシフトが望ましいと言えよう。まず現在「2007年問題」として取り上げられているように、団塊の世代と言われる方たちが一斉に定年退職を迎えると言われている60代以降、いわゆるシニア層が挙げられるであろう。このような社会現象を各業界も着目している。定年退職を迎えることで余暇も増え、また退職金等の給付により、現役世代と比較して時間と資金にも余裕が出てくるため、これらの世代をうまく刺激することで、これらの財力は莫大な可能性を秘めていると見込むことが十分可能であるからである。また次に、子供がある程度自立し、学費などの負担も比較的軽減され始める40〜50代いわゆるマチュア層が挙げられる。前者のシニア層にも共通して言えることであるが、これらの中高年と言われる年齢層、いわゆるマチュア層とシニア層を含む40〜60代は、商品等に対する高級志向・ホンモノ志向が強い傾向が見られ、また「美」に対する意識も高いため、実年齢よりも若い世代のものを身に付けていることも多く、様々なことに興味を持っているのである。そのため、このような年代はファッションや趣味等に対して出費を惜しまないため、少々値が張っても、高品質・信頼性が保証されているものであれば購入するのである。このように十分な需要が予測可能であるからこそ、ターゲットとする年齢層を絞り、本来百貨店の方針の根源にある「高級」というイメージを再確立し、このような世代に提供していけば、本来の百貨店の魅力を十分に発揮することができ、成功ビジョンは具体化されると言っても過言はないであろう。そのためにはコンセプトを明確にし、百貨店のイメージというものをも明確にしていく必要があると言えよう。この場合のコンセプトとは、やはり「高級さ」であり、どの業界もこの深刻な不況下において価格競争を強いられ、いかに低価格で販売するかに重点をおいているのが現状であるが、このような時代であるからこそ他との差別化が必要であるのである。「高級」をコンセプトとしている商業施設はない状況下で、百貨店の持ち合わせる「高級感」という要素は差別化を行う上で、最強のツールであろう。だからこそ「高級さ」の定義を徹底して定めて実現させる必要があるのである。現在の百貨店においても、高級さを感じさせる要素はない訳ではないが、中途半端で建前だけになっている点が多々見られる。そういった部分が現在の百貨店の低迷に少なくともリンクしているとも言えよう。まず、取り扱う商品が重要となるが、安売りというイメージのあるバーゲンを廃止し、高価ではあるが高品質である商品を取り揃えることで、価格競争下にあるスーパーなどで見られる「EDLP(Every Day Low Price)」という恒常的に低価格の商品を提供するスタイルと対極をなす、「EDHP(Every Day High Price)」という恒常的に高価格の商品を提供するスタイルを維持し、より一層『高級感』を追求していくのが望ましいと言えよう。こういったスタイルを取ることで、過剰な広告費が削減されるというメリットも持ち合わせている。またより安定したコンセプト確立の徹底のためには取り扱う商品はもちろんのこと、製品の品質詳細表示の徹底による安全保障やトイレなどの施設の充実や定員の対応・マナーの教育等に関しても、徹底して取り組むべきであろう。これらを行うことで「百貨店=高級」の方程式が成り立つに違いない。 ここで我々が考えた差別化を図る案を述べることにしよう。まず、中年層をターゲットにするからにはやはり、長時間百貨店に滞在しても疲労回復や息抜き、食事が可能である「いこいの場」が必要であろう。現在レストランは上層階に配置されている傾向が見られるが、体力面等を配慮するとやはり下層階が望ましいであろう。休憩スペースと言っても通路に設置されているベンチ程度である。この点に関して言うと、現在の百貨店においていこいの場が絶対的に不足していると言えよう。せっかく中高年の人々が高級志向で購買意欲を持っているのにも関わらず、そういった設備や施設が不十分であるがゆえに、非行動的になり、意欲を喪失してしまうという悪循環に陥ってしまっているのである。だから現在設置されているベンチとは別に、ターゲットである中年層の嗜好や環境に合わせて、いこいの場を設けるべきではないだろうか。そのような配慮が魅力の向上にリンクするのである。また次に、品質の安全性を向上させることが顧客の安心感を生み、信用・信頼される百貨店という概念を定着させることが必要であろう。その1つとして、製品の品質表示の徹底が挙げられる。品物によって表示方法や程度が異なるが、その品物に適した品質表示を行うことが望ましい。例えば、アパレル関係の製品であれば国名や性質、食品であれば産地や生産者などのように製品によって表示方法・要素を変化させる必要があると言えよう。ただ表示する、ただ多くの情報を載せるのではなく、必要な情報がパッと見ただけですぐに分かるような工夫を行うべきである。次に提案する案として、販売員の質の向上が挙げられる。現在の百貨店の場合、百貨店にテナントとして入っている店舗においてメーカーから派遣された従業員によって構成されている傾向にある。このような場合、自社ブランド製品を販売し、自社の売上高やマージンを増加させることだけに執着し、ご来店される顧客に見合うファッションをコーディネートするなどの本来のサービスを提供する点においては二の次になり、十分に行えていないという事態に陥ってしまい、販売員の質の低下が信頼性を低下させてしまう可能性がある。こういった事態を阻止するべく、現在の販売員に欠落しているコーディネート能力の強化やブランドの枠を超えて様々なブランドの商品の中からアイテムを抽出し、コーディネートを行う専門的なスキルを持った人材の育成を行う必要がある。現在このようなコーディネーターは数少なく、このようなスキルを十分身に付けるまでにはかなりの経験と時間を要することはやむを得ない。しかし、百貨店というフィールドにおいてコーディネーターの必要性・需要は絶大である。だからこそコーディネーターの育成を徹底して行い、様々な顧客の好み、ニーズに応じたファッションスタイルの提供を行うことで、顧客の信頼を得て確実な需要を得る必要があるのである。これらのコーディネートをサポートするべく、テナントの販売員はトレンドのアイテム情報をより正確にかつ迅速にコーディネーターに対して、また顧客に対して提供することが重要となってくるのである。こういった一人ひとりの顧客を対象に提供するサービスは美意識が高く高級志向の中高年に対してはかなり好感を抱かれ、自分専用のサービスを心地よく思うに違いない。サービス提供の面での差別化は効果的であろう。次にサービス提供に関連して、やはり百貨店の現在のメリットである交通面における利便性を徹底させるべきである。現在、商業施設と都心を循環するバスを定期的に運行させたり、購入金額がある一定の額を超えたら片道分の賃金が無料となったり、商業施設と交通機関の提携サービスが実施されているが、交通機関が充実している絶好の立地に位置する百貨店が十分な集客が期待できるサービスを提供することで、集客面において絶大な効果を発揮することが可能であると言っても過言ではないだろう。さらに現在導入され、普及し始めているインターネットを媒体とするネットショッピングについて述べることにしよう。やはり最大の難関はターゲットとする中高年がパソコンやインターネットに疎く、馴染みが希薄であるという点である。しかし、そういった年代の方々が利用したくなるような充実した機能・サービス・利便性を提供することでネット利用の意欲を向上させ、難関と思われた弱みが一転して強みに変わる可能性をも秘めているのではないだろうか。また、カテゴリーキラーやショッピングセンター(SC)のメリットとも言えるエンターテイメント性の要素を徹底追求し、百貨店にも導入することで明確なビジョン形成に効果的であると言えよう。 以上で述べたような策を実践し、より追求していくことによって、百貨店全体の魅力を向上させることが可能となり、現在客足が遠のいている百貨店に再び賑わいが戻ることを期待したい。