『角がある者』
〜俺は鬼になる、怪物になる!化物に成る!もっとでかくてもっとおぞましい何かになってやる!
うわあああああああああ!〜
声が聞こえた。
あれは、俺が一度だって忘れた事のない悪魔の叫びそのものだ。
目に映る全ての命を片端から殺し、目に映る全ての物質を破壊する純粋な悪意と殺意。
敵と対峙する獣ですらここまでの咆哮をだせないだろう。
その咆哮を聞けば百人中百人が震えて逃げると確信できる。
だが俺は逃げる事はそんな悪魔の前に躍り出たんだ。殺される為じゃない。
対抗する為に飛び出して、叫んだんだ。
〜ユウキ!お前が怪物に、化物に、もっとおぞましい何かに成るんなら、
俺はお前を止める存在になってやる!
正義の味方より、英雄より、もっと素晴らしい何かに成ってお前を止めてやる!〜
叫んだ。
叫んでやった。
百人をいっぺんに食い殺せるような悪魔に、俺は戦いを挑んだんだ。
悪魔は、ユウキは俺に視線を向けた。
それは敵として睨んだ目じゃない。
まるで今ようやく、俺の存在を感知したかのように物珍しげに見つめたんだ。
ユウキはしばらく黙って俺を見つめて、静かに微笑んでいったんだ。
〜無理だ。お前じゃ止められないぜ、ハサギ〜
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼
???
ハサギ「う・・ぁ・・」
「は、ハサギさん!起きたんスね!?
良かった、良かったッス・・!」
ハサギが目を覚ますと、目の前にはノリの微笑む顔が見えた。
ノリの笑みを見てハサギは気づく。
今見たのは過去の現実で、少し前まで見ていた夢だったのだ。
それに気づいてからだんだん思い出す。
ハサギ「そうだ、俺は・・ニバリを殺そうとしてセキタに気絶させられて、それで・・そうだ、ノリ!
なんでお前がここに!?怪物にされた筈じゃ・・!?」
ハサギが起き上がり辺りを見渡すと、そこは先ほどまで自分が拠点にしていた場所だった。部屋の片端には破壊された自分の兵器が横たわっている。
背後で正座していたノリは軽くハサギの肩を叩いて落ち着かせる。
ノリ「ハサギさん、ボクはもう大丈夫ッス。
ちゃんと元の人間に戻ってるッスよ」
ハサギ「ノリ・・お前、本当にノリなんだな!」
『怪物にされたノリが人間に戻る』ただそれだけでノリは嬉しさと喜びと感動とその他色々な感情に呑まれてしまい、思うより早くノリの細い体を抱き締めていた。
ノリ「ひ、ひやあっ!?」
ハサギ「ノリ!良かった!
良かった・・!お前が生きていて、本当に良か"っだ!」
ノリ「は、ハサ、ハサギさ、あわわわわ」
ノリは恥ずかしさと嬉しさ、あとついでに息苦しさで顔が真っ赤になりながらもなんとか冷静になろうとするが、ハサギがそれを許さない。
ハサギ「お、俺!俺はまた誰も守れないんじゃないかって怖かったんだ!また何も止められないのが嫌だったんだ!
ノリ、ノリ!お前が生きていて本当に、本当に良かった・・!」
ノリ「は、ハサギさん!ギブギブ!
嬉しいけどストップ!ぼ、ボク苦しくて死んじゃう・・!」
ハサギ「ノリ、ノリ、ノリイイイ!!」
ぎゅーっと強く抱きしめられ、ノリはますます息が苦しくなる。仕方なくノリはハサギの頭をつかみ、ハサギの頭に軽く頭突きした。
ノリ「ごめんッス!」
ハサギ「あだっ!
は、ノリ・・・・すまない。俺とした事がつい嬉しくて、本当に・・・・すまん」
ノリ「いや、ボクの方こそ痛くしてごめんッスよ。
それよりハサギさん、もう少し休んだら事情を説明するので、もう少し大人しくしていてくださいッス」
ハサギ「ああ、そうだな・・少し暴れすぎた。俺はもう少し休むとするよ」
そう言って、ハサギは左腕を枕にしノリに背を向け横になる。
それを見たノリもくるりと回転し、先ほどのハサギの行動を思い出して顔を真っ赤にする。
ノリ(あ、あわわわわわ!
なんて凄い力!初めて男の人に凄い力で抱きしめられちゃった!
というかハサギさん、ボクがずっと膝枕してたのもボクが『男じゃない』事も気付いてないよね!あんなに強く抱きしめたのに鈍感とかズルすぎません!?)
ハサギに背を向けてるのは分かってても真っ赤な顔を両手で隠し、一人静かに、しかしわたわたと慌てるノリ。
ノリ(いやなんで気付かないッスか!
ぼ、ボクの体は確かにそんなに魅力無いほうかもしれないけど!あんなに強く抱きしめたんだからもっと疑っても良くない!?抱きしめ・・!
きゃーーーーーーーっ!!)
慌てる内にまた先ほどの行為を思い出し、もう全身が真っ赤になりそうな勢いで一人、あくまで静かに騒ぐノリ。
しかし慌てる内にふと、ハサギの気になった言葉を思い出していた。
ノリ(それにしても、ハサギさん・・さっき言ってた『また』って何だったんだろう・・ハサギさんも従軍経験者だから色々あった筈なんだけど、そこは何も教えてくれないッスよね・・。
ハサギさん、過去に一体何があったッスか・・?)
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼
アタゴリアン王国・道路。
果心は体に傷を付けながらも立ち上がった。
アイの蹴りを脇腹に喰らい、鞘で僅かに衝撃を殺したが、その分大きく吹き飛ばされて足に幾つか擦り傷が出来てしまう。
その痛みに気づきつつも、彼女はアイと戦う為に立ち上がる。
守りに使った鞘を取り出し、二刀のつもりでアイに構える。
アイは果心が突然鞘を持ち出した事にたじろぎつつも拳を握り走り出していく。
果心もまた刀と鞘を構え、走り出した。
果心「アイ、その程度の攻撃で私を倒せるつもりですか?」
アイ「うおおお!?」
二刀流の真価は『刀が2つある』事ではなく『2つの刀で戦う』事にある。
アイの銀の右拳を鞘で払い、がら空きになった部分に刀が入り込んで強烈な一撃を与えるのだ。
アイは膝を無理やり上げて果心の刀を跳ね上げたおかげで、真っ二つに裂かれる筈の一撃が僅かに服と肌を抉る程度で済んだ。
胸の中心から血を流しつつアイは果心に怒鳴った。
アイ「果心、鞘と刀の二刀で攻撃してくるなんてアリかぁ!?」
果心「一撃でもまともに受けたら骨が砕ける銀の拳を振り回すあなたにだけは言われたくないですがね!
追撃いきますよ!」
果心が鞘と刀を構えたまま走り出す。
アイは冷や汗をかいたまま後ろに後退していく。
アイ「く、あれじゃ俺が攻撃しても弾かれるか体勢崩されて間違いなく斬られる・・なら、こいつはどうだ!
『不成者格闘術(ナラズモノコマンド)』!」
アイが逃げるのをやめて果心に向き合い、左足を後ろに振り上げながら左手からアイスボムを取り出して自分の足元に向けて落とす。
果心は鞘と刀を握りしめたままアイに向かっていくが、その途中でアイの動向に気がついた。
果心「アイ、あなた何を・・!」
アイ「くらえ、『鬼瓦乃角(オニガワラ・ホーンズ)』!!」
アイがそう言って、アイスボムを蹴飛ばした。アイに向かっていた果心は避ける事が出来ず、鞘でアイスボムをはじく。
だがそのすぐ後ろをもう1つのアイスボムが走っていた。
果心がそれに気づく時には、アイスボムは目の前に迫っている。
果心「しまっ・・!」
アイ「凍れ、永遠」
アイスボムが爆破し、果心林檎の姿が瞬く間に凍りついていく。果心の足から頭の先まで凍りつき、その姿は止まってしまった。
それを見たパーは思わず悲鳴を上げる。
パー「か、果心様ァーーー!!」
ライ「あ、あのビューティー果心が氷の中に閉ざされてしまったー!
二撃目を隠したアイの技術が凄過ぎる事もそうだが、相手を容赦なく凍らせるアイスボムもえげつない!
あいつ、自分の武器をあそこまで使いこなしていやがるなんて!」
スス「でも果心は炎をあやつれる。
あんな氷なんかすぐ溶かせるわ!」
シティ「だったら溶ける前に果心の頭を砕いちゃえば良いのよ!
やっちゃえアーイ!」
ダンク「シティ、お前いま色々とやばい発言してる自覚あるか!?」
アイ「はあああああっ!」
アイが思い切り跳躍し、果心に上から殴りかかかろうとする。シティの読み通り上から頭を攻撃してくるつもりなのだろう。
果心は魔術を刀を通して詠唱していたが、それは火属性の魔術ではなかった。
果心(『土崑(どこん)・・』)
アイ「砕けろ、永遠!」
果心(『城』(じょう)!)
瞬間、果心の足元の大地が大きく盛り上がり、異変に気づいたアイは殴るのをやめて着地する。
その間にも果心の盛り上がった大地は岩山となって姿を現した。そしてその衝撃で果心を閉じ込めていた氷が砕けていき、
果心はアイを見下ろしながら語り始める。
果心「『風雲果心城』。
長生きする間、1つ場所に留まれない私が作り上げた岩のテントです。
当然、侵入者を防ぐ為の防犯設備も仕込まれていますよ。こんな風にね。
『土崑鍵(どこんじょう)』」
果心が刀を岩山に差し込むと、山の麓が扉のように開く。その内側は闇であり、完全に中が見えない。
と思ったら、強力な吸い込み風が発生しアイはその風に呑まれてしまう。
アイ「う、うおおおおお!?」
果心「私の城に不法侵入しようとした者を無理やり吸い込み、特別頑丈な部屋に封印するのですよ」
アイ「嘘だろおい!
の、のわああああああ!!」
アイが悲鳴を上げつつ地面を掴んで抵抗するが・・その地面ごと吹き飛ばされてしまい、城の中に飲み込まれてしまう。
果心「『閉じろ、我が城。
土崑鍵(どこんじょう)』」
そういいながら果心が刀を引き抜くと、岩山はズブズブと沈み込み、やがてその姿が完全に地面の下に沈み込んでしまった。
それを見て果心は大きな声で宣言する。
果心「よし、私の勝ちですね」
全員「え"え"え"え"!?」
果心「あら貴方達、そこにいたんですね。
もう戦いは終わったので降りて大丈夫ですよ」
パー「か、かかかか果心サマ?
まさかアイを岩山に封印させて勝利、という訳では・・」
果心「はいその通りです。
二回も私を氷に閉じ込めたんですからね。お返しに彼を土の下に閉じ込めてあげました」
シティ「戦いをするふりをして相手を閉じ込めるなんて・・果心、なんて巧妙なワナを仕掛けてくるの・・!」
ダンク「いや、少し考えたら気づいた気がしたが!?
と言うかリーダー、なんで自ら罠に飛び込んだんだ!?」
観戦していた人達が次々に騒ぎ出す中、イシキとユーだけは黙って果心の足元に目を向けていた。
果心もそれに気付いたのか、イシキに優しい口調で声をかけていく。
果心「ああ、貴方は元ゴブリンズの・・。
戦いはこれにておしまいです。
アイなら心配ありませんよ?
数時間暗闇の中に閉じ込めてあるだけです、翌日には解放しますよ」
イシキ「甘いなあ」
果心「え?」
緩やかに終わりそうな雰囲気を、イシキはばっかりと切り捨てた。
民家の屋根の上から、果心を見下ろしながら彼は言葉を紡ぐ。
イシキ「甘いと言っとるんじゃ。
お主と対峙した男をただの人間と見下したのは間違いなんだよ、果心」
果心「・・なんですって?」
イシキ「奴は『小鬼達(ゴブリンズ)』を引き継いだ男じゃぞ?
奴は一人で我等小鬼達の半世紀のうらみつらみを背負った男じゃぞ?
その背中が、そんな簡単に消える訳ないだろう。
死にたくなければ今の内に次の策を用意しておく事を忠告するぜ、お嬢ちゃん」
果心「・・?
貴方は一体・・えっ!?」
果心が一瞬だけイシキの言葉に気を取られた瞬間、大地が揺れ始めていく。
混乱しながらも果心は跳躍し、その場を離れる。今度はイシキがにんまりと笑みを浮かべた。
イシキ「ユーちゃんや、よく見とけ。
あれが鬼の宝だよ」
ユー「・・!」
「『不成者格闘術(ナラズモノコマンド)』!!」
大地から声が響き渡り、揺れが更に大きくなっていく。「まさか」と動揺を顔にだす果心と「見せろよ」と余裕の笑みを見せるイシキの前で、大地にビシリとヒビが入っていく。そして聞こえてくるのは、あの男の声。
アイ「『金角王芭蕉扇(ゴールデンホーキング・バショーセン)』!!」
アイが叫んだ瞬間、大地が破壊され竜巻が噴き上げる。いきなり大地から竜巻が噴き上がり、果心は抵抗する間も無く竜巻に飲まれていく。
その様子を一番端で見ていたダンクが、思わず叫んだ。
シティ「な、なんです、これはああああ!」
ダンク「あああ!あれは、俺との戦いで使った超大技!
まさかここで使うなんてー!」
スス「・・ダンク、あんたなんでそんな隅っこにいるのよ」
ダンク「いや、今の俺はかなりオーバーリアクションでな。あいつらが戦う度に悲鳴をあげそうになったりすごく驚いたり心臓に悪いから、なるべく遠くから見てるんだ」
スス「そう・・あなたなりに頑張ってるのね・・」
ススは色々とツッコミを入れたいのを我慢して観戦する事に決めた。
そんな事を話している内に地面が竜巻により破壊され、中に隠れていたアイが姿を現す。
アイ「どうだ果心!
てめえの城を攻略して・・なんだこれ!?
いつの間に大地がせり上がってるんだ!?」
イシキ「どうやらあいつ、埋められた事にすら気付いてないみたいだな」
ユー「パパ、色々と凄い・・」
イシキとユーが複雑な心境でアイを見つめるなか、アイはふらりと体勢を崩し、片膝をついてしまう。
イシキ「奴め、まだこの力を完全に使いこなしていないな?
今ので相当体力を使ったようだ」
ダンク「いや、たおれないだけでも相当凄いぞ!?
前に俺と戦って同じ技を使った時、あいつは身動き1つ取れないほど疲れていたんだ!
体力全開の状態でもそうだったのにこんな激闘の後で使って倒れないって、
あいつは普段からどれだけ鍛えてたんだよ!!」
ユー「パ・・・・っ!」
アイ「ぐぐ・・ま、まだ倒れるわけにいかねえ・・!」
アイは全身を震わせながら倒れる体を抑え、一息いれて跳躍して本物の大地に着地する。そうして辺りを見渡すと、倒れている果心の姿が見えた。
竜巻に吹き飛ばされ、強烈な勢いで壁に叩きつけられた果心の体に痛みが暴れまわっているのは誰の目から見ても明らかだった。
アイ「はぁーっ、はぁーっ!
か、果心・・なんだてめえ・・もうくたばったのか?
ま、まだ俺は戦えるぜ・・」
果心「つ、ぐ・・う・・!
わ、私もですよ・・アイ!
こんな痛み、私にとっては・・飾り、です!」
果心がガクガクと震えた体を持ち上げて立ち上がろうとするが・・途中で力の入れ方を間違えたのか派手に転んでしまう。
アイも立ち上がろうとするが、体が動いてくれなかった。
それでも果心は呼吸を整え、アイは残った体力を振り絞って立ち上がる。
汗や血が絶えず流れる体を震わせて、それでも銀の拳を持ち上げていく。
果心も泥だらけ、傷だらけの体を無理やり従わせて立ち上がる。
不死身の体が傷を再生していくが、その痛みがまた果心の体力を奪っていくのだ。
あまりに痛々しい二人の姿にススは思わず一度だけ目線を背けようとしたが、ユーが両手を強く握りしめながらそれでも二人の姿を黙って観ていた事に気付き、すぐに目線を戻した。
ふらふらの二人が対峙した瞬間、果心は刀を横に構えてアイを睨み付け、アイも右腕を武器にして果心に対抗する。
傷だらけで、血だらけで、それでも二人の闘志に穢れも衰えも一切ない。
ーー先に仕掛けたのは、果心だ。
刀を上げ、力を振り絞ってアイに走っていく。
果心「ハァアアアッ!!」
アイ「おおおおおっ!」
対するアイは金棒を突きの体勢で構え、果心の攻撃を迎え撃つ。
横の刀と縦の金棒が激突し、互いに弾かれてしまう。
果心もアイも、弾かれた武器を見向きもせずに走り、アイは左手で殴りかかる。
果心もまた左手で拳を作り、拳をかわしつつ体を丸くしながらアイの懐に潜り込む。
アイ「!?」
果心「接近戦なら勝てるとでも?
私の人生を舐めないでください!」
果心は左からの下アッパーを放ち、アイの顎を的確に撃ち抜いた。
アイは目を丸くしながら、体が仰け反り倒れそうになる。だが倒れそうになる体を、地面から離れていく足を無理やり力を入れて大地を踏み抜く。
果心「!?」
アイ「てめえこそ、ナメるなよ・・!
ゴブリンズリーダー、『氷鬼』の底力をよぉ!」
アイの伸びきった左腕が戻る。
その拳は開き、果心の髪の毛を掴む。
それと同時にアイが果心の腹部に膝蹴りを喰らわせていく。
果心「がはっ!」
アイ「ぜぇ、ぜぇ・・ぐ、力がうまく入らないから攻撃が浅い・・!」
言いながらアイは素早く果心の髪を離し背後に跳躍する。
その瞬間、果心の手には背後に飛んだ筈の日本刀が握られていた。
果心「やりましたね、アイ・・!
ですがこの程度じゃ攻撃になりませんよ!」
アイ「当たり前だ、今度は宇宙まで飛ばす攻撃してやらあ!」
アイもまた落ちた金棒を拾って握りしめ、果心に向かっていく。
2つの金属がまた激突していくが、その様子を観ていたライが叫ぶ。
ライ「あ、ああああい!
貴様、美女に手を出すとはなんて事をするんだあああ!
ビューティー果心を傷つけたら俺が許さねえぞおおお!」
ジャン「お前さっきはアイの応援してたよな?」
ライ「俺はいつでも美女の味方だ!
ビューティー果心が傷つくのをみて黙ってられるか!」
パー「単純だなあ。
しかしお主、さっきから言ってる『ビューティー果心』ってなんだ?」
ライ「あ?そんなの決まってるだろ!
果心は美女、しかも超がつくほど美しい。つまりビューティーだ。
だからビューティー果心。何もおかしくないだろ?」
パー&ジャン「・・・・・・・・・・なるほど!」
シティ「バカな事で意気投合してんじゃない!」
シティがバカ三人を蹴り飛ばしてる間にも、二人の猛攻は続く。
アイの金属の拳をかわし、果心の刀をいなし、果心の技に翻弄され、アイの力に押し出され、互いに傷つき、痛みが広がっていく。
果心「ぐぅっ!
く、貴方も、なかなかやるじゃ、ないですか・・」
アイ「てめえこそ、なぁ!
まだまだ、まだまだやらせてもらう、ぜ・・」
果心に技をかけられて立ち上がろうとしたアイだが、がくりと膝をついてしまう。
力が入らないからだ。疲労、痛み、苦しみ、あらゆるダメージが彼の闘志を抑えさせようと叫んでいる。
アイ(ここ、までか・・!
ここまで、なのか!?
まだ、奴を倒してないのに!
まだ、全力を出しきってないのに!
邪魔だ痛み、邪魔だ苦しみ、俺の怒りの邪魔をするんじゃあない!)
アイはもう一度立ち上がろうと体に力を入れるが、逆に尻餅をついてしまう。
それを観て、ダンクは静かに手を伸ばす。
ダンク(このままじゃアイが負ける・・!
あいつの戦いの邪魔はしたくないが、こっそり回復魔法をかけて・・・・え?)
ダンクが回復魔法をかける前に、果心が魔術を込めた刀をアイに向けて振るう。
すると、アイの全身から疲れや痛みが消えていきアイは簡単に立ち上がれてしまった。
アイ「え、え・・・・。
果心、テメェまさか・・!」
果心「貴方に魔術をかけました。
ですがそれは回復魔法ではありません」
アイ「何・・?」
アイは改めて自分の胸元を見ると、痛みこそないが血は僅かに流れ、傷は一切治ってない。
果心「貴方にかけた魔術は麻酔魔術。
痛みや疲れをしばらく感じなくさせる術です。その代わり魔術が解ければ今までの痛みが全部戻ってきますが・・今の貴方にはそれを苦に思う事はありませんよね」
アイ「・・ああ、そうさ。
今おれが思うのは、お前が情けをかけたって事だ。
あんたは敵だってのにな」
果心「情け?
それこそあり得ません」
果心は視線をアイから刀に向ける。
何度も衝突したり攻撃を防がれた刀は傷こそたくさんついてるが、一切の刃こぼれが見えなかった。
果心「この刀がここまで傷ついたのは、初めてです。
私が様々な事が出来るのも、コスプレが出来るのも少しでも『普通の人々』の世界に溶けこみたかったからです。
ですが、ここまで真剣に何かに打ち込んだ事はありませんでした・・」
アイ「・・・・」
果心「貴方と戦えば、私はもっと知らない私を見つける事が出来るんじゃないか?
今この場で戦いを終わらせるのは勿体ない。
だけどこの傷(カザリ)を失うのも嫌。だから私は貴方に麻酔をかけただけですよ」
アイ「・・つまりはテメェのワガママかよ・・」
果心「あら、ワガママを叫ぶ権利は誰にでもあるのでは?
貴方こそ、私と戦ってもっと知らない貴方に出会いたいんじゃないんですか?」
アイ「・・・・まあ、そうなのか?
わからねえな。分からねえけど・・。
テメェをゆるさない気持ちだけは、変える気は無いぜ。
俺にとっちゃ、あんたは敵なんだよ・・」
アイは右腕を武器にし、金棒を構える。
果心は刀を構え、アイに刃を向ける。
二人の戦いはまだ、続く。
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