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2020年12月05日16:25
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メディチ家の至宝
日経新聞の文化欄に、「メディチ家の至宝」が連載されています。
日本の工芸品に比べて西洋のそれは、なんとなく雑で品がないと思っていましたが、それは私が名品を知らなかったからだと気付きました。
「リブレット聖遺物容器」リブレットとは小さな本。
14世紀に作られた本型の容器に聖遺物(キリスト受難の遺物)が入っており、その容器を入れる神殿型の容器が16世紀に作られた。「リブレット聖遺物容器」は二重の聖遺物容器。中世金細工の白眉。
ご存知の通り、メディチ家はルネサンス期フィレンツェの大富豪であり実質的支配者でした。その財力でボッティチェリ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロなど多数の芸術家をパトロンとして支援し、ルネサンスの文化を育てる上で大きな役割を果たしました。
記事によると「メディチ家の当主が、他国の君主や貴族を自宅に招いて、自慢気に披露するのは絵画や彫刻の美術品ではなく、工芸品すなわち宝物のコレクションだった。」そうです。
これは、メディチ家が商人の家系だったからではなく、後のFine art(純粋芸術・絵画、彫刻など)至上主義の価値観ではなく、美術と工芸に優劣の考えが無かったからでしょう。
一方、東洋では現代に至るまで、書画と工芸は共に美術品として観賞され来ました。
メディチ家の至宝と日本の至宝を比較して、私なりに考察してみました。
「リブレット聖遺物容器」は、14世紀にフランス王が
発注した聖遺物の携帯容器です。聖遺物とはキリストの受難にちなむもので、キリストの血や最後の晩餐でキリストが着ていた服の小布などです。日本だと、仏典、仏像等を納める小さな厨子あるいは仏陀の舎利を納めた水晶五輪塔ですね。
仁和寺 国宝「薬師如来座像」高さ22��
(京都新聞写真借用)
この大きさなら小さな厨子に納めて持ち運びできますね。
国宝「平家納経 金銀荘雲龍文銅製経箱」
厳島神社に平家が納めた経典の箱
次のお宝は、「ファルネーゼの皿」です。
紀元前２世紀の古代エジプト・プトレマイオス朝で造られた「ファルネーゼの皿」。1枚の丸いメノウに、盃を掲げる神々が精巧に浮き彫りにされている。光線の具合で色彩が変わるらしい。メディチ家最盛期の当主、ロレンツォ・デ・メディチが教皇の遺品として入手したそうです。
古代中国の「玉」の皿かな。残念ながらこの時代の日本には見つからない。
故宮博物館 HPより 「ファルネーゼの皿」には敵わないですね。
次は、ヴェレリオ・ベッリ「カトリーヌ・ド・メディシスの小箱」
高さ15�� 幅27��
この宝物は、作者と制作年が分かっています。
作者は、ヴィチェンツァ出身のイタリア人宝石彫刻師ヴェレリオ・ベッリです。注文主は、メディチ家出身の教皇クレメンス7世(1478〜1534)です。
クレメンス7世
クレメンス7世は、ラファエロのパトロンであり、ミケランジェロにシスティーナ礼拝堂の天井画を依頼した人物です。
当時のイタリアは、覇権を巡ってフランスとハプスブル家(神聖ローマ帝国)が戦うイタリア戦争の真っ只中でした。クレメンス7世は、アレッサンドロ・ド・メディチを神聖ローマ帝国皇帝の娘と結婚させる一方、
カトリーヌ・ド・メディシスをフランス王の長男に嫁がせます。フランス、ハプスブルク家の双方とメディチ家を繋げる政略結婚です。
カトリーヌ・ド・メディシスは、1533年に14歳でフランス王家に嫁ぎます。
カトリーヌの嫁入り
この嫁入り道具の核となったのが、ヴェレリオ・ベッリ「カトリーヌ・ド・メディシスの小箱」です。
フィレンツェの実質的支配者であるメディチ家の娘であっても、商人の娘と王家の身分違いの結婚という悪評を封じる為にも豪華な嫁入り道具が重要だったようです。小箱には、キリストの生涯が24枚の水晶パネルにレリーフされています。中央パネルの「東方三博士の礼拝」には、エジプトの国王がメディチ家の当主に贈った「キリン」がわざわざ描かれている。
さて、豪華絢爛な嫁入り道具といえば、日本も負けていません。最も有名なのは、国宝「初音の調度」でしょうか。
初音の調度一式
初音蒔絵貝桶
初音蒔絵橋台
3代将軍 家光の第一子千代姫が尾張徳川家の2代光友に嫁いだ時(1639年)の嫁入り道具です。「源氏物語」の「初音」や「胡蝶」をテーマにした蒔絵の調度品です。
春日局が、京蒔絵師の幸阿弥長重に製作を依頼し、彫金は金匠の後藤顕乗、意匠一式をあの岩佐又兵衛が担当した。「初音」をテーマにしたのは又兵衛のアイデアらしいです。
さて、話をカトリーヌ・ド・メディシス(1519〜1589)に戻すと、彼女の生涯は決して幸福とはいえないものでした。フランス王アンリ2世の王妃であり、3人のフランス王の母后となりました。アンリ2世が馬上試合で不慮の死を遂げた後、カトリーヌは常に黒の喪服を着用していたそうです。
カトリーヌ・ド・メディシス
カトリーヌはフランス宮廷にイタリア文化(トスカーナ料理など)を持ち込んだと言われています。しかし、歴史に名を残したのは、悪名高き「サン・バルテミルの虐殺(1572)」に関わった事でしょう。カトリックとユグノー(プロテスタント)の争いに対して、国王(息子)が関与したユグノーの虐殺の影の首謀者と言われています。
サン・バルテミルの虐殺
臨終の床にあった69歳のカトリーナは、孫娘とメディチ家大公の縁談をとりまとめ、花嫁にヴェレリオ・ベッリの小箱を託したのでした。
写真はネット借用です。
日本の工芸品に比べて西洋のそれは、なんとなく雑で品がないと思っていましたが、それは私が名品を知らなかったからだと気付きました。
「リブレット聖遺物容器」リブレットとは小さな本。
14世紀に作られた本型の容器に聖遺物(キリスト受難の遺物)が入っており、その容器を入れる神殿型の容器が16世紀に作られた。「リブレット聖遺物容器」は二重の聖遺物容器。中世金細工の白眉。
ご存知の通り、メディチ家はルネサンス期フィレンツェの大富豪であり実質的支配者でした。その財力でボッティチェリ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロなど多数の芸術家をパトロンとして支援し、ルネサンスの文化を育てる上で大きな役割を果たしました。
記事によると「メディチ家の当主が、他国の君主や貴族を自宅に招いて、自慢気に披露するのは絵画や彫刻の美術品ではなく、工芸品すなわち宝物のコレクションだった。」そうです。
これは、メディチ家が商人の家系だったからではなく、後のFine art(純粋芸術・絵画、彫刻など)至上主義の価値観ではなく、美術と工芸に優劣の考えが無かったからでしょう。
一方、東洋では現代に至るまで、書画と工芸は共に美術品として観賞され来ました。
メディチ家の至宝と日本の至宝を比較して、私なりに考察してみました。
「リブレット聖遺物容器」は、14世紀にフランス王が
発注した聖遺物の携帯容器です。聖遺物とはキリストの受難にちなむもので、キリストの血や最後の晩餐でキリストが着ていた服の小布などです。日本だと、仏典、仏像等を納める小さな厨子あるいは仏陀の舎利を納めた水晶五輪塔ですね。
仁和寺 国宝「薬師如来座像」高さ22��
(京都新聞写真借用)
この大きさなら小さな厨子に納めて持ち運びできますね。
国宝「平家納経 金銀荘雲龍文銅製経箱」
厳島神社に平家が納めた経典の箱
次のお宝は、「ファルネーゼの皿」です。
紀元前２世紀の古代エジプト・プトレマイオス朝で造られた「ファルネーゼの皿」。1枚の丸いメノウに、盃を掲げる神々が精巧に浮き彫りにされている。光線の具合で色彩が変わるらしい。メディチ家最盛期の当主、ロレンツォ・デ・メディチが教皇の遺品として入手したそうです。
古代中国の「玉」の皿かな。残念ながらこの時代の日本には見つからない。
故宮博物館 HPより 「ファルネーゼの皿」には敵わないですね。
次は、ヴェレリオ・ベッリ「カトリーヌ・ド・メディシスの小箱」
高さ15�� 幅27��
この宝物は、作者と制作年が分かっています。
作者は、ヴィチェンツァ出身のイタリア人宝石彫刻師ヴェレリオ・ベッリです。注文主は、メディチ家出身の教皇クレメンス7世(1478〜1534)です。
クレメンス7世
クレメンス7世は、ラファエロのパトロンであり、ミケランジェロにシスティーナ礼拝堂の天井画を依頼した人物です。
当時のイタリアは、覇権を巡ってフランスとハプスブル家(神聖ローマ帝国)が戦うイタリア戦争の真っ只中でした。クレメンス7世は、アレッサンドロ・ド・メディチを神聖ローマ帝国皇帝の娘と結婚させる一方、
カトリーヌ・ド・メディシスをフランス王の長男に嫁がせます。フランス、ハプスブルク家の双方とメディチ家を繋げる政略結婚です。
カトリーヌ・ド・メディシスは、1533年に14歳でフランス王家に嫁ぎます。
カトリーヌの嫁入り
この嫁入り道具の核となったのが、ヴェレリオ・ベッリ「カトリーヌ・ド・メディシスの小箱」です。
フィレンツェの実質的支配者であるメディチ家の娘であっても、商人の娘と王家の身分違いの結婚という悪評を封じる為にも豪華な嫁入り道具が重要だったようです。小箱には、キリストの生涯が24枚の水晶パネルにレリーフされています。中央パネルの「東方三博士の礼拝」には、エジプトの国王がメディチ家の当主に贈った「キリン」がわざわざ描かれている。
さて、豪華絢爛な嫁入り道具といえば、日本も負けていません。最も有名なのは、国宝「初音の調度」でしょうか。
初音の調度一式
初音蒔絵貝桶
初音蒔絵橋台
3代将軍 家光の第一子千代姫が尾張徳川家の2代光友に嫁いだ時(1639年)の嫁入り道具です。「源氏物語」の「初音」や「胡蝶」をテーマにした蒔絵の調度品です。
春日局が、京蒔絵師の幸阿弥長重に製作を依頼し、彫金は金匠の後藤顕乗、意匠一式をあの岩佐又兵衛が担当した。「初音」をテーマにしたのは又兵衛のアイデアらしいです。
さて、話をカトリーヌ・ド・メディシス(1519〜1589)に戻すと、彼女の生涯は決して幸福とはいえないものでした。フランス王アンリ2世の王妃であり、3人のフランス王の母后となりました。アンリ2世が馬上試合で不慮の死を遂げた後、カトリーヌは常に黒の喪服を着用していたそうです。
カトリーヌ・ド・メディシス
カトリーヌはフランス宮廷にイタリア文化(トスカーナ料理など)を持ち込んだと言われています。しかし、歴史に名を残したのは、悪名高き「サン・バルテミルの虐殺(1572)」に関わった事でしょう。カトリックとユグノー(プロテスタント)の争いに対して、国王(息子)が関与したユグノーの虐殺の影の首謀者と言われています。
サン・バルテミルの虐殺
臨終の床にあった69歳のカトリーナは、孫娘とメディチ家大公の縁談をとりまとめ、花嫁にヴェレリオ・ベッリの小箱を託したのでした。
写真はネット借用です。
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