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2020年02月19日00:04

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【映画日記】『スマホを落としただけなのに』〜中田秀夫の不幸な一面〜

 手持無沙汰であったので、レンタルDVDで『スマホを落としただけなのに』を鑑賞。

 別段、今週末から続編が公開されるから観たわけではない。「大して期待はしていないけれど、それなりにカッチリと楽しませてくれるスリラーが観たいなあ」と思ってのチョイスだ。そうだな、最近だと『見えない目撃者』。あのレベルだったら充分に嬉しい。

 ただ、不安はあった。

 中田秀夫監督作品は日本映画界におけるホラー・ブームの立役者として名高いが、彼は本来、純愛ドラマやメロドラマを撮りたいという欲求が強い。本質はそういう志向の映画作家なのだ。だが、その資質は『リング』の社会的ブームにまでなった大ヒットによって、ある部分で大きな不幸を被っているといっても良い。撮りたいタイプの作品を任せてもらえないのだ。そして、稀に任せてもらえたとしても興行的成功に結びつかないのだ。そのため、大方の映画ファンにとって中田秀夫は【有名なホラー映画監督】として認知されていると思しい。

 しかし、それでも中田秀夫は、どこかで自身が本来撮りたいジャンルのエッセンスを注入してしまうことが多い。そして、その結果が作品としてマイナスに作用することが多いのだ。そのため、僕の場合「中田さんの新作かあ……」と身構えてしまう。ホラーやスリラーの場合は特に、だ。結果「あー、やっちまったね、中田さん……」と落胆してしまうことが多い。『クロユリ団地』などがそうだ。でも観てしまう。『女優霊』も『リング』も好きだし、初めて僕が鑑賞した中田秀夫監督作は『暗殺の街 極道捜査線』で、そのウェルメイドなハードボイルドな作りは僕の好みだったし、非ホラー作品である『ラストシーン』なども好きだ。だから、【中田秀夫監督の新作】となると気になってしまう(←以前、中田監督に取材した時、「『暗殺の街 極道捜査線』を映画館で観たっていう人、ほとんどいないでしょ? ありがとう」と喜んで下さった。イイ人だったなあ。楽しい取材だった。ずっとドーナッツ食べていらっしゃったよ、中田さん(笑))

 そういった中での『スマホを落としただけなのに』である。

 「封切時に大ヒットを記録したというから、それなりに面白いのではないか?」

 この淡い期待はものの見事に裏切られた。

 ダリオ・アルジェント作品を彷彿とさせるナイフずぶずぶ突き刺しシークエンスや、明らかに『サイコ』の影響下にある画作りなどにニンマリする映画マニアも少なくないだろうが、「だからどうした、馬鹿野郎」と思う。

 僕の目には、本作は至極陳腐で醜悪極まりない忌々しい作品として映った。

 ヒロインの北川景子は綺麗だし、ブレイクする遥か以前の(もう10年以上も昔の)『恋文日和』や『凍える鏡』から注目していた田中圭も適役だ。

 けれども成田凌のオーバー・アクトには心底からゲンナリさせられたし、それ以上に筋が酷い。嫌悪感しか喚起されない上、あまりにもステロタイプに過ぎる登場人物の不遇な生育過程の描写には「こういうの、もう勘弁してくれよ……」と嫌気がさした。単に出来が悪いというだけではなく、神経に障るのだ。

 志賀篤の筆による原作からしてこんななのだろうか? 原作小説も映画版も共に大ヒット。しかし、それに全く乗れない僕。この詰めようの無い開きには頭を抱える。
 
 「脚本家、誰だよ?」として確認してみたところ大石哲也だった。納得だ。『マッスルヒート』、『天使の牙B.T.A.』、『デスノート』&『デスノート the Last name』、『MW-ムウ-』などなど、彼が脚本を手がけた作品の、その殆どを僕は苦手だ。ああ、そうか。

 といったところで、ジャンル映画の職人監督として中田秀夫の腕が冴えている部分もあるにはある。不穏を煽っておいてから不意に逸らしてみせるカッティングなど悪くはない。とはいえ、このどうしようもないスジでは、その職人的手腕も有機的な結合を見ない。

 更に(といって、原作もそうなのかも知れないが)、中田秀夫は本作でも本来の志向であるウェルメイドな味付けを施している。それが更に全体の醜悪さを倍加させてしまっているように感じた。

 なんだよ、あの最後の【スマホで見る田中圭のセミヌード有り癒し系写真集的なヤツ】は……(苦笑)

 僕、この場面で「なんやねんこれ……?」と一人つぶやいた後、笑ってしまったもの。

 そして、ダメ押し的に続くウェルメイドなラスト……

 取って付けたようなプラネタリウムでの感動シークエンス!!(溜息)

 「中田さんらしいなあ」とも思うのだけれども。

 人として好きな監督だけに、「あー、撮りたいジャンルの作品を撮って欲しいなあ」と思う。製作委員会方式でリスクを拡散させた&本来の志向ではない大味なジャンル映画では無い作品を。

 どこか、中田さんに「ほれ。好きなものを撮っていいから」と出費してくれるスポンサーが現れないものか。

 そうでないと不遇に過ぎると思うのだ。作家として。

 中田秀夫が自信を持って【ならではの作品】を提供してくれる日が来ることを切に願う。

 以上である。


【オマケ】

・昔、僕が書いた中田監督への囲み取材の記事です。ま、前にもmixi日記に貼り付けたんだけど。囲みなので僕以外の方も質問をしていて、それらも全部盛り込んでいるけど、これは割合にイイ内容だと思うなあ。手前味噌ながら。ご興味がありましたら御一読下さい。

コチラ→http://www.indierom.com/dengei/secret/gin_navi/160.htm


<添付画像仕様許諾:(C)2018映画「スマホを落としただけなのに」製作委員会 >
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