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2019年10月24日14:14

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「ベンツ疑惑」対北密輸の闇解明を 国連安保理専門家パネル元委員・古川勝久

 下記は、2019.10.24 付の 正論 です。

                         記

 その写真に写っているのは、サーフィンをしている筋骨隆々の若いイタリア人男性だ。南欧の海辺だろうか。高さ5〜6メートルほどの波のトンネルの中を彼は華麗に潜(くぐ)り抜けている。フェイスブックに掲載された他の写真を見ると、男性の妻と思われる若い女性が海辺で寝そべっている。小さな男の子と女の子が海岸で沈みゆく夕日を眺めている写真もある。男性の子供たちだ。男性(A氏)は、イタリアのローマ市内所在の物流会社(B社)の株主兼営業責任者だ。幸せな家庭。成功裏のキャリア。写真の中の男性は、理想の父親であり、理想の夫を体現している。

 A氏が2012年9月26日にアップロードしていた写真がある。どこかのレストランで撮られたものだ。テーブルでA氏の横には、年配のアジア系男性が座っている。A氏はそこに次のメッセージも添えていた。

 「素晴らしいビジネスランチだった。あなたがいつかローマで私たちと一緒に参加してくれますように」

この「アジア系男性」は、キム・チュングク。当時の駐イタリア・北朝鮮大使である。韓国メディアによると、2016年2月に肝臓がんで死亡したという。

 写真撮影当時、彼らはいかなる「ビジネス」について話し合っていたのか。そして、B社と北朝鮮との関係はその後どうなったのか。答えの片鱗(へんりん)を見つけたのは、それから7年弱後のことだ。

 ≪「金委員長の高級車」運んだのは≫

 北朝鮮の国営メディア・朝鮮中央通信が、2019年1月31日、金正恩・朝鮮労働党委員長が党中央委員会を訪問した際の映像を放送していた。金委員長は新たな高級乗用車で登場した。装甲車に改造されたメルセデス・マイバッハS600である。北朝鮮がいつ、どうやってこの高級車を調達していたのかは不明だった。

 その後、北朝鮮の高級乗用車調達ルートを摘発する報告書が7月16日に公表された。米国の研究機関「C4ADS」の報告書によると、金委員長の乗用車とほぼ同型の車両2台が、ドイツで製造された後、オランダのロッテルダムに輸送され、その後、2018年6月以降、中国の大連、日本の大阪、韓国の釜山を経てロシアのナホトカまで海上輸送されてから、10月初めにウラジオストクから北朝鮮へ空輸された可能性があるという。複雑な輸送ルートである。

 報告書が、不正輸出で中心的役割を果たしたと指摘するのが、大阪市西区所在の美濃物流株式会社と徐正健社長だ。報告書の公表後、徐社長と美濃物流は、世界中のメディアで「制裁違反容疑者」として実名が報道され、日米などの金融機関から資金洗浄の疑いをかけられるなど、大きな影響を受けた。

 ≪調達チームはイタリア国内に≫

 しかし、筆者の調査の結果、ベンツ輸送を徐社長に依頼していた「真の黒幕」は、ウラジオストクを拠点とする企業と大連にいる中国人2人であることが判明した。いずれも北朝鮮と深い関係にある。徐社長は事情を何も知らずに、ベンツ輸送の業務を一部の区間だけ請け負っていた。

 不正輸出には、韓国・釜山市に配置された協力者と、もう1社、ローマ市所在の企業も関与していた。冒頭で紹介したB社である。なぜかB社は、ベンツ2台がオランダから輸送された際の「荷送人」として船荷証券等に記載されていた。

 徐社長にベンツ輸送を依頼した中国人らは、筆者と徐社長に対して、「ロシア人からの依頼だった」と証言している。そこで10月5日、このロシア人に関西空港まで来てもらい、徐社長と筆者が問いただすこととした。筆者らとの面会の際、彼は中国人と取引があったことを認めつつも、ベンツ輸送への関与を全面否定した。現在、中国人とロシア人は互いに責任を擦(なす)り付けあっている。

 さらに、筆者が入手した最新情報によると、先述のベンツ2台は、もともと、ベンツ社がイタリア国内の「長年にわたる顧客」に向けて販売していた車両だったという。この「顧客」がB社なのか、まだ不明である。ただ、イタリア国内に、北朝鮮の高級乗用車の調達チームがいるのは間違いないようだ。密輸の闇は深い。

 ≪「真の黒幕」こそ制裁せよ≫

 2017年以降、中国政府は対北朝鮮制裁を強めており、中国から北朝鮮への高級乗用車の不正輸出は難しくなっている。そこで北朝鮮は、欧州やアジア等、各地に配置した要員を有機的に連携させて、制裁網を潜り抜けている。特にロシアを巻き込む制裁違反事件の数が増えているが、ロシア政府には自国企業の制裁違反への関与を隠蔽(いんぺい)する傾向が強く、主犯格の摘発に至らないことが多い。

 その結果、知らずに事件に巻き込まれていた徐社長が、制裁違反の主犯格に仕立て上げられたままである。国際社会は「真の黒幕」こそ制裁しなければならないはずだ。北朝鮮の非合法ネットワークが日本企業をはめた事実を、私たちは決して許してはならない。

(ふるかわ かつひさ)

 https://special.sankei.com/f/seiron/article/20191024/0001.html
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