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2019年07月24日23:13

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Speak like a child

 むかしむかし、といっても今からそれほど昔のことではなく、21世紀が始まってから20年くらい経ったころのことでしたが、ある一人の男が、自分の仕事場に迷いこんだ一匹のヤモリを逃がしました。同じ職場で働くおばさま達が何やら大騒ぎをしているので、何してはんねやろ、と男が見に行くと、おばさま達は「トカゲかヤモリかいるのよ」「割り箸ない? 割り箸」「潰そう」と小さな生き物に怯え、捕らえて潰して殺す算段をしていたのです。男はその生き物が人間には全く無害なヤモリであることを見てとると、俺やりますわ、とおばさま達から紙コップと割り箸を奪うように借り受けて捕獲し、建物を出てすぐの植え込みにヤモリを放したのでした。
 それからしばらくして、男が住むアパートの一室へ、夜、見知らぬ美しい女性が訪ねてきて言いました。「私は貴方がこの間逃がしたヤモリの関係者です。見れば貴方はお一人住まいのご様子、身の回りのお世話などさせていただきたく思いますので、どうかここに置いて下さいまし」男はヤモリ差別をする人間ではなかったし断る理由もなかったので許可することにしました。女は気立てもよく働き者でした。ただひとつ不思議だったのは、時々押し入れに閉じこもることでした。男が理由を訊いても答えず、「私がここに入っている間は絶対に開けないで下さい」というばかりでした。そして女が押し入れに閉じこもっているときは、中から、しゃーき、しゃーき、と包丁を研いでいるとしか思えない音が聞こえてくるのでした。
 男が徐々にその女との生活に慣れ始めたころ、夜寝ているとき、ふと目が覚めました。そして何気なく寝返りを打ったとき、首すれすれの、一秒前まで男の喉があった場所に出刃包丁が突き刺さりました。男は飛び起きました。女はなおも出刃包丁を構えて男を刺そうとします。男は左手で女の包丁を握ったままの両手首を左へ押さえ、右半身になって踏み込むと右の手刀で容赦なく女の首を一撃して力が緩んだ隙に包丁を奪い取りました。包丁はよほど念入りに研いだのでしょう、刃がきらきらと光っているほどでした。男が「何故こんなことを」と訊くと、女は答えます、「私は実は貴方が逃がしたヤモリの妻です。夫は死にました。貴方は善かれと思って夫を屋外に逃がしたのでしょうが、ヤモリにとっては建物の中の方が外敵が少なく餌となる小さな昆虫が捕りやすく、はるかに過ごしやすいのです。だから家を守ると書いて家守でヤモリと読むのです。それを貴方に屋外に放り出されたので、北大阪の夏の隠れ名物、“それなりにコンクリートの街だと思ってたら意外とその辺をうろついてるカマキリ”に捕まって食われて死んだのです。夫の恨み晴らさでおくべきか」男は「いや俺が外に出せへんかったらおばちゃんらに潰されてたし。旦那は可哀想やけど俺への復讐は諦めてんか、早よ出て行かなキ◯チョールかけんで」と女を追い出しました。女、いやヤモリの妻がその後どうなったかは誰も知りません。


 以上、サスペンス風おとぎ話をお送りしました。冒頭のヤモリ捕獲シーンだけつい最近あった実話を元にしています。私は田舎の生まれだけれどヤモリを割り箸で挟んだのは生まれて初めてだったわー。ヤモリの胴体はぐにょりとしていましたのことよ。多分、マカロニの穴に糸こんにゃくを詰めたらあんな感じ。放した場所を少ししてから見に行ったらいなくなっていたので、ヤモリの行方は誰も知らない。
 それにしても、現代人は皆、昆虫や小動物に怯えすぎじゃないかしらと思う。以前にも職場で若い女の子が私を呼びに来て、
「トンボがいるんですけど」
 と言うのだけれど、そう言われたところで私にしてみればトンボがいるから何なのよ、としか思わない。田舎育ちの私にとっては虫の類いはまず“害のある虫”か“害のない虫”かに分けられ、害のある虫、例えば刺す種類のハチだったら外に出すし不潔の象徴“G”だったら即デストロイだが、トンボは害のない虫なので、放っといたら勝手に出ていくやろー、くらいの感じである。ええやん別に、と思うのだが、この子は要するに私にトンボを排除しろって言ってるのね、と察した私はトンボを素手で掴んで外に出した。所要時間約三十秒。何故素手でいったかというと、虫を傷つけずに捕獲しようと思ったら、虫取網がない場合は、下手にビニール袋やら紙やらを使うより素手でいった方が確実だからである(毒虫の場合はもちろん素手でやってはいけないヨ!)。そしたら女の子は
「ありがとうございます……」
 と言いながら私にドン引きしていた。いや貴方が私にトンボおる(どうにかせい)って言って来たのよね? ひどくない?
 その話を別の若い子にしたとき、トンボは無害やし、カマキリくらいやったら素手でいけるでしょ……? と言ったら、
「私カマキリはカマあるんで無理です」
 と言われた。いや、カマキリは確かにカマあるけど人間にはカマ使ってこないから。

 時代は変わったなあ……人間も変わったなあ……と思う。
私が小学生の頃は、子供達はまだ電気虫遊びをしていたものである。校庭の木にくっついている緑の毛虫を騙して触らせて、刺されて痛がっているのを見て喜ぶ、という……今から考えるとあの電気虫はイラガの幼虫で、場合によっては皮膚科で治療が必要なくらいひどくかぶれるらしい。
 これ、今の時代だったらおそらく保護者が大騒ぎして、やった子供(の親)の吊し上げがSNS上で行われ、学校側が説明会開いて学年主任と教頭が頭を下げるレベルの事件になるはずだけれど、当時は女の子が男の子を騙して電気虫を触らせてたのよ。
 年がばれるので何年前のことかは書かぬ。男の子に電気虫触らせてた女の子の行方は、誰も知らない。 
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