君住む街角

太陽の塔が、好きです。大阪万博のアレ。芸術は爆発のアレ。万博終了後、速やかに解体されるはずだったのに何故か今もって存在するという、北大阪は千里丘陵に聳え立つ現代のオーパーツ。
実を言うと“太陽の顔”（お腹にある顔）はあまり好みの顔立ちではないのだけれど、“黄金の顔”（天辺の顔）と全体の形状が好きなのです。
お前は普段カピバラのことを好きだ好きだと言っているではないか、カピバラと太陽の塔、一体どちらが好きなのだ……と問われれば、カピバラと即答するが、かたいもの部門では間違いなく一番好きだ。スカイツリーの五百倍くらい好き。
最初は太陽の塔には全く興味がなかった。世間の皆様だって大多数は同様だと思う。おそらくは、太陽の塔の天辺の顔の目にはサーチライトが仕込まれていて午後５時を過ぎるとキュピーンって光る、ということすら地元の人間以外にはほとんど知られていまい。
私は三年ほど前にカピバラに会うため万博記念公園にあるニフレルなる水族館と動物園の複合施設に行った折に初めて太陽の塔の実物を見てしびれた。あれはやばい、人類の敵だ、絶対に極太のビーム撃ってくるタイプの敵だ！！ と思った。聞くところによると『21世紀少年』の映画版で動くらしいのだが私は観たことがない。ビームは撃つのだろうか？
以後二度ほど万博記念公園に行って遠くから恐々と太陽の塔を愛でている私。結局人類の敵ではなかったし動きそうだけど動かないしビームも撃ってこない。一見恐いけどよくよく見ると、ゆるい。リラッ〇マやカ〇バラさんと同じかそれ以上にゆるい。そしてでかい。ゆるくてでかいので恐竜的な可愛さがある。ブロントサウルスとかフタバスズキリュウみたいな感じでよいではないか。
今年の三月あたりに太陽の塔を見た帰り、大阪モノレールの万博記念公園駅のホームで電車を待っていたら、二十代後半くらいのお姉さんに声をかけられた。
「南茨木に行きたいんですけど……」
ごめんわかりません！ 普段モノレール乗らないから！ 阪急民族なので、千里丘陵の向こうが吹田、くらいのざっくりした認識しかせずに生きているから吹田市と茨木市と高槻市の位置関係も実はよく分かっていない。私に訊かないで！ 何故私に！？ と思いながら
「すみません詳しくなくて……」
と答えると、
「えーっ！！？」
ってすごく驚かれた。単にモノレール民族でないだけなのに、そんなに驚くことかしら。
今は携帯電話の乗り換え案内サイトという便利なものがあるので即座に検索して門真行きに乗ったら行けます、と教えてあげた。私ではなく乗り換え案内サイトの手柄である。
それにしてもあのお姉さんはなぜわざわざ私に訊いてきたのか……考えてみれば簡単な話で、今、私のスマートフォンのケースは手帳タイプでそこに太陽の塔のアップリケが貼り付けてあるのだった（自分で貼った）。そら万博記念公園駅のホームに太陽の塔印のスマートフォン持ってる奴がいたらこの辺めっちゃ詳しいと思うわね。太陽の塔印のスマートフォン持ってる奴が南茨木の行き方知らなかったら、
「えーっ！！？」
ってそら言うわね。
ところでお前が以前持っていたカピバラ色のスマートフォンはどうした……？ と問われれば、お電池が寿命をお迎えになったとお答えする。
今の太陽の塔印のスマートフォンに切り替える時は色々と難儀した、今時電話帳データの移し換えはネット上で自分でやるらしいのだけれど、携帯を換えるのが四年か五年ぶりだったので全く知らなかった上に携帯ショップのお姉さんが何も言ってくれないタイプのお姉さんだったので、新しいスマートフォン持って家に帰ってからびっくりした。電話帳がまっさらなのだもの。一件も入っていないのだもの。仕方がないので、フル充電後数分でブラックアウトするカピバラ色携帯の画面を見て一件一件手打ちで入力した……泣きそうになりながら。
LINEの引き継ぎも上手くできなかった……新しい携帯にLINEデータを引き継ぐ場合は前もって操作が必要なんて、しょっちゅう機種換えてるヘビーな携帯ジャンキーくらいしか知らんじゃろ、と思うのだが。というわけで新しくアカウントを作り直した。古いアカウントは消すことも出来ず放置してあるわけなのだが、あれは今どうなっているのだろうか……。放置されたアカウントに意思が宿って、人類を滅亡させねば！！ と頑張りだして自動車工場をハッキングしてターミネーター的なロボット軍団をガシャコンガシャコン作り出したりしていないだろうか。してないか。
もししていたら、私は太陽の塔に乗って戦う。ビーム撃つ。