１９７０年代も末になるとほとんどのプログレが死滅状態となり、５大バンドさえも正規アルバムを出したのはピンク・フロイドのみ。そうした砂漠のような枯渇した年にも、ごくまれではあるがオアシスのような緑したたる美しい作品があったのだ。
・ 曲 バンド アルバム
�� Adonis / Anyone’s Daughter [ Adonis / Germany ]
時代の流れとは一切関係なく、エニワンズ・ドーターのファースト・アルバムが奇跡のように登場したのはこの年だった。７０年代プログレの粋を集めて更に洗練させ、水晶のような透明感を醸し出す。低音から高音まで自由自在のヴォーカル、これ以上は美しく弾けないだろうと思えるギター、針の穴を通すドラムス、包み込む天上の光のようなキーボード群。哀切極まりないクライマックス。そしてトータルな神話性。叙情派シンフォの最高峰である。
�� Niente / Banco Del Mutuo Soccorso [ Canto di primavera / Itary ]
バンコ・デル・ムトゥオ・ソッコルソは、前作までのキリスト教やクラシックの世界から、のびやかな陽光溢れる地中海音楽に回帰した。大曲主義を改めて少しポップになりながらも、プログレの華やかさを失っていない。永遠に届けとばかりに張り上げる故フランチェスコ・ディ・ジャコモの声には、金縛りになるほどの戦慄と感動を覚える。
�� Ruthless queen / Kayak [ Phantom of the night / Holland ]
カヤックはもともとかなりポップ寄りの小曲中心だったため時代に適合したのか、ラブソング「ルースレス・クイーン」がオランダ本国でヒット。エドワード・リーカーズの声は、若々しいハイトーンでよく通る。極上のメロディーやしっとりとしたドラムスとともに、悲哀感情を発露している。
�� Caring no cross / UK [ Danger money / UK ]
ＵＫは７０年代にプログレで活躍した４人によるスーパー・バンドだったが、ヒットしたのは日本のみで、ジョン・ウェットンはプログレに行くべきかポップになるべきか悩んだという。このセカンドでは、ウェットン(b,vo)のほかは、エディ・ジョブソン(k)、テリー・ボジオ（ｄ）というＥＬ＆Ｐと同じ３人編成。この曲はエピタフ型のドラマチックなメロディで、ウェットンの男性的なヴォーカルが青空に突き抜けて行く。
�� Lights / Styx [ Cornerstorn / USA ]
アメリカでは、スティクスが実に元気で、このアルバムは全米２位。シングル曲「ベイブ」も全米１位という快挙を果たしている。デニス・デ・ヤングに加えトミー・ショウが加入し、ハイトーン・ヴォーカリスト２人体制となって向かうところ敵なし。この曲はヴォーカルを包み込むコーラスと疾走するサウンドがイエス・タイプなのだが、正統のプログレ・ファンからはあくまで「プログレ関連」と見なされている。
�� Suisido / Mezquita [ Recuerdos de mi tierra / Spain ]
スペインのプログレ・ムーヴメントの中でもやや遅れて出現したメズキータは、普通の４人編成ながら、スピード感満点に疾走するサウンドがぞくぞくするほどスリリングで魔術的。しかし一転男性スキャットは空気感のある中東音階で、灼熱の砂漠の光景が現われる。途中はモーグで、ラストは合唱。空前絶後・唯一無二のスパニッシュ・アラビック・シンフォである。
�� Epic �� / Mario Millo [ Epic �� / Australia ]
「哀愁の南十字星」で知られるセバスチャン・ハーディーのリーダーだったマリオ・ミーロ(g,vo)がこの年ソロ・アルバムを出している。しかし実質的にはセバスチャン・ハーディーのアルバムと言って良い内容だ。泣きギターで始まる１４分強の組曲。ギターの爪弾き、キーボードの指使いはいずれも速いが叙情的。望ましいシンフォの１つの型を示している。
�� Si todo hiciera crack / Crack [ Si todo hiciera crack / Spain ]
こちらもスペインのクラック。男女ヴォーカルのサウンドであって、私はあまり好まないのだが、この作品は別格。クラシカルなピアノや生ギター、各種キーボード、更にはフルートが配置され、複雑なつづれ織りのように音色が組み合わされて、気品に満ちている。そして男女ヴォーカルが歌われる繊細なメロディー。女性のスキャットは虚空にこだまするかのようだ。
�� 鬼 / 新月 [ 新月 / 日本 ]
新月の登場は、８０年代ジャップス・プログレ隆盛のさきがけのような事件だった。キーボードの洪水で始まるジェネシス・タイプのサウンドだが、民話・民俗といった和風の伝統を身にまとう。北川真の脆弱系のヴォーカルは好みを分けるところだが、ステージでも着物のような和風の衣装だった。ドラムスは複雑なテンポを巧みにこなし、曲は１か所に立ち止まることなくどんどん変化していく。
�� Vieux corps de vie d’ange / Pllen [ Pollen / Canada ]
カナダ・ケベック州のポーレンは、フランス語で歌う４人組だが、アンジュに似ていなくて、むしろスピード感があるのでイエス・タイプと言われた。ドラマチックで声を張り上げる局面ではアンジュを想起させるものの、疾走感満点にギターとキーボードが掛け合いをする。間奏の静寂部ではフルートも登場して、ユニークな音造りだった。
[次点] Hello, Hello, Hello / New England [ New England / USA ]
プログレとアメリカン・プログレ・ハードのまさに境界線上に位置するニュー・イングランドは、この年ファースト・アルバムで登場した。３声のコーラスの膨らみがすごい。ひたすらテンポよく能天気なだけじゃなくて、どことなく悲しげな陰影のあるメロディーを奏でるところがプログレ・ファンに支持される理由だろう。
○その他候補にしたバンド
Archanoid, Art Bears, Bottega Dell’arte, Bregent, Enid, Fabrizio De Andre, Flyte, Kansas, Luna, Moondancer, Morning Star, Neuschwanstein, Orion, Pink Floyd ( The wall), Pursabit, Rousseau, Stormy Six, Tibet
（参考）プログレ／１９７８年低迷期の名曲１０選（２０１８年１１月１１日）
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1969129953&owner_id=9666295
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