１９７０年代にプログレを創生した美声の美青年たちは、８０年代には３０代。音楽はビートを強調したディスコのようなダンス音楽が全盛だったが、そんな苦しい中でポップ化したミュージシャンが多かった。しかしその本質は７０年代と変わってはいなかったのだ。
・ 曲 バンド アルバム
�� Vintage wine / The Moody Blues [ Sur la mer 1988 ]
トップは私が８０年代ムーディー・ブルースで最も好きな曲とさせていただいた。彼らは優しくメロディアスなＡＯＲとなって、アメリカで人気を博した。回顧するこの曲は、楽しそうなメロディーとリズムなのに、ジャスティン・ヘイワードの繊細な声がとても悲しい。「古いワインを味わい思い出す、１９６３年から６９年。できることなら戻りたい。僕も君も若くて自由だった。照明が上がり、ガラガラのステージ。でも音楽のおかげで自由だった。そこに君がいたから」
�� Owner of a lonely heart / Yes [ 90125 1983 ]
８０年代のジョン・アンダーソンは、ジョン＆ヴァンゲリス、ソロアルバム、そしてＡＢＷＨと名曲多数なのだが、ここは万難を排して本家イエスのこの曲「ロンリー・ハート」を選んだ。南アフリカ出身トレヴァ―・ラビンのポップセンスがイエスの新境地となった。ジェフ・ダウンズとも合流。歌うアンダーソンには不本意だったかもしれないが、プログレを下地にした８０年代ポップをエイジアとともに切り拓いた。
�� Only time will tell / Asia [ Asia 1982 ]
ファンファーレとともにエイジアの快進撃が始まった。カール・パーマー（ｄ）、ジェフ・ダウンズ（ｋ）は控えめで、ひたすらジョン・ウェットンのヴォーカルを引き立てる。「４分間劇場」にエイジアとウェットンの魅力が凝縮された曲。単純なラブソングだが、男の哀愁たっぷりだ。楽曲もどれもメロディアスながら多彩で、全米１位。
�� Another rolling stone / Kevin Ayers [ Falling up 1988 ]
ケヴィン・エヤーズは、イギリスの喧騒たる音楽シーンを嫌って、スペインのマヨルカ島で８０年代を過ごしていた。ロンドンに久しぶりに戻ってオリ−・ハルソール（ｇ）と組み、時代に一切迎合しなかった。とつとつと歌うケヴィン流の脱力ポップスは、ほろ苦さに満ちて、疲れや緊張を癒してくれる。「君を強く抱きしめて、夜の中にすべり込む。泣かなくていい。ずっとこのまま。僕たちはただの流れ者。心に月光が満ちている」
�� Just a day away / Barclay James Harvest [ Ring of changes 1983 ]
ＢＪＨジョン・リーズの声は、少しかすれたような枯淡な味わいのある少年声。この人の声は、いつも秋を感じさせる。８０年代ＢＪＨは、本国イギリスでは受けなかったものの、ドイツなどヨーロッパで人気を博した。「覚えてるかい。空の星が海に落ちるまで、永遠に君を愛すると言ったこと。永遠は過ぎ去ってしまって、未来のまま。それが君を近くに感じさせるんだ。」
�� Entre gris clair et gris fonce / Jean-Jack Goldman [ Entre gris clair et gris fonce 1987 ]
タイ・フォン出身のジャン・ジャック・ゴールドマンは、ソロ・ヴォーカリストとしてフランスで大成功。フランス語なのに、愁いを秘めたブリティッシュ感覚。彼の祖母がイギリス人だったようだ。従来のフランスの殻を打ち破り、国民的人気のロックスターとなった。私は最初、ＮＨＫＴＶのフランス語番組で見た。
�� Mars, the bringer of war / Emerson Lake & Powell [ Emerson Lake & Powell 1986 ]
ここでの主人公はキース・エマーソン。彼の美声はキーボードだという前提だ。ホルストの「火星」を取り上げたが、この曲はキング・クリムゾンの「デヴィルズ・トライアングル」の原曲でもある。エマーソンのクラシック＝プログレ志向が最も如実に表れた曲。クリムゾンはメロトロン、エマーソンはシンセサイザーで多彩な音響を出した。彼がこれほど壮大なオーケストレーションを１人で描き切った曲は他にはない。凶暴な火星の砂嵐が吹き荒れる。
�� Nervous / The Moody Blues [ Long distance voyager 1981 ]
ムーディー・ブルースのジャスティン・ヘイワードと並ぶもう１人のフロントマン、ジョン・ロッジはヘイワードよりも男性的な声ながら透明感は抜群。往年の名曲「生命をもう一度」を思わせる繊細さで始まり、キーボードとコーラスで広がっていく。そしてドラムが入ってドラマチックに盛り上がる。全米１位となったこのアルバムで、ジョン・ロッジの貢献も大きかった。
�� It hurts / Greg Lake [ Greg Lake 1981 ]
７０年代エマーソン・レイク＆パーマーのヴォーカリストとして、美貌と美声を誇り、世界中でアイドル的な人気を誇ったグレッグ・レイク。３０代になると太り始め、声が低くなった。ゲイリー・ムーアをギタリストに迎えたこのソロアルバムでは、その声が大人っぽさを示して、切々とした憂愁を表現している。ムーアのギターはあまり前面に出ないで、レイクのヴォーカルを引き立てている。
�� Paolo pa / Banco Del Mutuo Soccorso [ Urgentissimo 1980 ]
バンコ・デル・ムトゥオ・ソッコルソのフランチェスコ・ディ・ジャコモ。ヒゲと太鼓腹で美青年とは言い難いが魅力的な風貌。美声であることは間違いない。８０年代のバンコは、黒人パーカッションを入れたり、英語で歌ったり、名前を短くしたり、更にはキーボードのノツェンツィが歌ったりと迷走を繰り返し、遂に活動停止に追い込まれる。誰でも食べて行かなければならない。それが若い頃には分からず、私もポップになるバンドを批判的に見ていた。しかし今聴くと、メロディーセンスは変わらず、明るいのにどこか翳りを帯びていて、そこに却って心打たれる。
[次点] She cares / Styx [ Paradise theatre 1981 ]
イギリスのプログレ不振を横目に、アメリカのスティクスは１９７６年に美声の美青年トミー・ショウを迎えて全盛期を迎えていた。美声はデニス・デ・ヤングの方が高いが、ショウの見た目の美しさはフロントマンとして最高。その容姿は女性的ながら、声はデ・ヤングよりも少し大人っぽい少年声。バラード志向のデ・ヤングに対して、ショウはカントリー志向が強い。
[番外] I saw it on TV / John Fogerty [ Centerfield 1984 ]
プログレでないが、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバルのジョン・フォガティからも１曲。彼は苦しい時代を乗り越えて、１人多重録音したソロ・アルバムで全米１位のヒット。懐かしい思い出の歌を配して、ＣＣＲ回顧人気だけでない幅広い共感を得た。「ボストンから来た若者が新しいフロンティアに船出しようと言った。でも夢はダボスで死んだ。知ってるよ、現実さ。ＴＶで見たんだ。」
（参考）その後の・美声の美青年１０選（熟年期・２１世紀偏）
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1955408147&owner_id=9666295
ログインしてコメントを確認・投稿する