異性愛者が同性愛者を演じても鎌わないとは思うけど・・・

「C・ブランシェット「異性愛者にも同性愛者を演じる権利はある」と主張 映画界の多様性を考える」

映画『Rub & Tug』で1970年代はピッツバーグにて、犯罪王となったトランスジェンダーのダンテ・テックス・ジルを、スカーレット・ヨハンセンが演じると発表された時、一部のセクシュアル・マイノリティから批判が出た。
ぶっちゃけ、多数派がセクマイを演じるにはおかしい。セクマイはセクマイが演じるべきではないのか？　と言うことだ。

さらっとネットを観ていると、このニュースに戸惑う人が多いようだ。
これもポリコレ棒？
確かに日本人は戸惑うニュースだと思う。

私はホラー映画好きなので、例えがホラーに偏るのはゆるしてもらいたい。
ロメロは「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」の主役に、デュアンを起用にするにあたって、相当な覚悟が要ったし、デュアンも主役とされたことに当初は戸惑い、ご機嫌ななめだったという。これはグリフィスの「国家の創生」の時代じゃない。２０世紀半ばを過ぎ、公民権運動が盛り上がっている最中のことだ。それ以前は推してしるべし、だ。

「黒人のキャラが出てきて、それを黒人が演じる」って当たり前のことが、黒人のアイディンティティにおいて重要だったりする。それは映画において、長らくぞんざいな扱いを受けてきた黒人にとって重要な意味がある。
ミンストレルショーの歴史があるアメリカに置いては特にね。
ミンストレルショーとは、ぶっちゃけ白人が顔を黒く塗って黒人に扮して行なうコントだ。内容は黒人をバカにして嘲るギャグが多く、人種差別文化の典型である。
だからアメリカでは、「白人が黒人の真似をする」と言うことには、非常に敏感なんだな。

「テルマエロマエ」実写映画を、それっぽい顔の日本人が演じた時、幸いな事にイタリア人はこれをユーモアと受け入れた。
けどこれが黒人をテーマにした作品だったら、笑い話じゃ済まないだろう。つまり「背景」を考えるって大事なんだな。特にこう言う微妙な問題はね。

ちょっと前に、白人が日本人の格好をすることに、激しい批判が起こった。
これは当の日本人を戸惑わせた。日本人は、別にこれが自分らを差別しているとは思えなかったわけだ。私も当初はそうだった。
これは日本にミンストレルショーの歴史が無いゆえに、議論においてその文脈が存在しなかったからだ。
それに対し、海の向こうでは多くの人が、白人が日本人の真似をすることに、ミンストレルショーを連想したんだね。

ちょっと前に、とんねるずのギャグ、保毛尾田保毛男(ほもおだほもお)を巡って論争が起こったよね。
私個人は、さして気にはしない。ゲイをネタにしたギャグなんてのは、昔っからあるし、漫画もこうしたキャラの洪水だ。いちいち気にしていたらキリが無いから。
ただ、これを擁護し、批判者を「ポリコレ棒だ」とする意見には、さすがに全く同調できなかった。
そりゃそーでしょ。
件のとんねるずのギャグは、セクマイ版ミンストレルショーに他ならない。
ゲイを「滑稽なバケモノ」として笑っているんだから。
ミンストレルショーは、お笑いカルチャーの歴史において、大きな負の遺産である。私たちは、これについて、ちょっと真剣に考えるべきだと思う。

じゃあ、マイノリティの理想的な描かれ方って何なんだろう。
簡単である。「属性は違えど同じ同等の人間」として描くことだ。
描写における、差別を巡るポリコレの本来の目的はこれなのだ。

今でこそアメリカの映画やドラマには、「黒人であることに特に意味の無い」黒人キャラ、「たまたまその人が黒人だっただけ」と言うキャラが、日常の風景として描かれる。これこそが黒人差別を廃した風景なんだよな。
けど、これが実現するまでは、長い毀誉褒貶があった。
「黒人キャラが出てきて、それを黒人が演じる」ってのが、その始まりだった。

今、セクマイについても同じ現象が起こってるんだよな。
ポリコレ棒批判も結構だが、まずその前に「背景」を知るってことは、とても大切なんだよ。
まあ、私個人はキャスティングには、あまりこだわらない。記事中にもある通り、異性愛者が同性愛者を演じてきた実績もあるし、逆に同性愛者が異性愛者の役を演じたこともある。
私個人は、ダンテ・テックス・ジルをスカーレット・ヨハンセンが演じたって良いじゃないか、とは思う。
でも、「セクマイキャラはセクマイにやらせるべき」って意見にも、それ相応の言い分があることは理解できる。