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2018年08月25日23:50

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8月25日

 よくその土地との相性をあらわすのに、水が合う、水が合わないといった言い方をすることがある。今回の旅行で、なるほどなと実感したのはシャワーをあびた後のことだ。肌が驚くほどにさらさらになっていた。髪の毛もすとんとまっすぐに落ちて、いつもの嫌味な跳ね方をしない。それは明らかに東京の水とは違う。地元の人に聞くと、ここの水はバナジウムやミネラルを豊富に含んでいるらしく、美容などに素晴らしい効果があるということだ。おまけに代謝を高める作用もあり、ダイエットにもいいという。実際にさっとシャワーの水を流しただけで肌の印象はがらりと変わってしまった。もはやそれは神がかった現象にも感じられる。人間が水から受けとるものは計り知れない。ふだんは恩沢に浴していることをついつい忘れてしまうが、今回は改めて水のありがたさを教えてもらったように思う。
 それにしてもきれいな水だった。たぶん、この環境は旅行客だけでなく、さまざまな動物も呼び寄せている。
 早朝に森の中を散歩していると、熊注意の看板がいたるところに見受けられた。迫力のあるイラストに恐ろしい文言を添えて、ぼくたちに注意を喚起している。でもこちらがどれだけ注意していても実際に彼らが登場したら逃げ切る自信はない。十中八九、絶命すると思う。もしかすると、すでにこの森のどこかにひそみ、ぼくを見ているのかもしれない。そう思うとぴりりとした緊張がはしり、脇にたくさんの汗をかいた。頭上は葉っぱが綿密におおいかぶさり、朝の新しい光が充分に届いてこない。あたりにはまだ夜の不気味な気配が残っていた。
 もし熊と対峙したらどうすればいいのか考えた。ためしに頭の中で助走をつけたドロップキックをしてみると、そのあとに喉笛を噛み千切られてしまった。走って逃げてみても、100メートルを六秒台で走るという彼らにあえなく捕らえられ、表社会を歩きにくい顔面に変えられてしまう。その圧倒的な体躯の前でぼくはあまりに無力であり、鈴を一生懸命に振りながら腹を貫かれる想像におよんだところで生還はあきらめた。
 唯一、希望があるとすれば水だと思った。この森に出てくる熊が、体毛がさらさらのフェミニンな熊であってほしい。代謝が高く、がりがりに痩せた熊であってほしい。神秘の水が野性の血を洗い流し、理智的で話のわかる熊になっていることを祈りながら、足早に道をもどる。
 
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