下記は、2018.8.13 付の産経ニュース【ビジネスの裏側】です。
記
米ハーバード大教授らと関西の経営者らが議論する「関西・ハーバードフォーラム」(関西経済同友会など主催)が7月10日、大阪市内で開かれた。出席者を驚かせたのは、同大学教授陣が熱く語った「日本人気質」。チームプレーの大切さや信念を貫く経営姿勢など、かつて日本企業のお家芸とされた理念こそ、米国でベンチャー企業が続々と生まれる秘密だというのだ。(牛島要平)
「サッカーで自分が点を入れたことより、チームが勝ったかどうかが重要」
ハーバード・ケネディスクールのロジャー・ポーター教授は基調講演の最後をそう締めくくった。
個人プレーよりもチームプレー。個人主義の文化だといわれる米国人の口から出た発言に、会場に詰めかけた企業関係者ら約130人は意表をつかれた。
ポーター教授は会社組織のあり方について「どのように従業員が会社から扱われているかが重要。長く優れた製品を生み出している企業は、従業員から感謝される企業だ」と述べ、従業員の満足度を経営の大きな指標に位置づけた。
能力主義でリストラは当たり前という、米国企業に抱きがちな日本人の固定観念を打ち砕く言葉だった。
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基調講演後のパネルディスカッションでは、ベンチャー育成をめぐって議論が白熱した。
ここでも、合理主義ではくくれない米国の企業風土に会場の関心が向けられた。ベンチャーに求められるのは、利益重視の冷徹な経営判断よりも、もっと人間的な情熱だというのだ。
「すべての成功した起業家には世界を変えたいという強い使命感があった。自分のやり方がこれまでより優れているという強い信念だ」
そう熱っぽく語ったのは同スクールのリチャード・キャバナフ非常勤講師。
大林組の大林剛郎会長が「日本には米国のようにベンチャーの奇抜な発想を受け入れる素地がない」と指摘したのに対して、キャバナフ氏は「米国でもほとんどのベンチャーが失敗する。不屈の精神、粘り強さが必要」と強調した。
ほかの参加者からは「なぜ日本の良い技術が世界標準を取れないのか」と疑問が示されたが、キャバナフ氏は「日本にも起業家精神の黄金期があった。1950〜70年代に自動車や家電メーカーが成長し、日本がグローバルスタンダードだった」と問いかけた。
神戸大大学院の三品和広教授はキャバナフ氏の意見を広げる形で、「経営管理がいわれ出してから日本は弱くなった。(利益が出ず)自転車操業だったころの日本は活力があった。ベンチャーが最初から金を目的にすべきではないということだ」と話した。
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同友会は平成5年から毎年、米ボストンを訪問してハーバード大と共催でフォーラムを開催。創立70周年を迎えた28年に初めて大阪でフォーラムを開き、今回は2回目だった。
ハーバードの教授陣がチームプレーや精神力の重要性を訴えたことに、会場からは「ハーバードの先生方は日本人よりも日本人らしい」と驚きの声が上がった。同友会の黒田章裕代表幹事(コクヨ会長)は7月31日の定例記者会見で「日本的な経営の仕方、ものの考え方が評価され、勇気づけられた」と振り返った。
ただ、アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏が何度も挫折しながら、エンジニアのスティーブ・ウォズニアック氏らと力を合わせて成功したことを思い起こせば、「みんなでがんばる」ことは日本人の専売特許ではない。
また、バブル崩壊と「失われた20年」を経て日本企業が忘れかけた価値観を、かつてライバルとして客観的にみていた米国人から逆に教えられたのかもしれない。
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http://www.sankei.com/west/news/180813/wst1808130005-n1.html
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