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2017年10月29日22:11

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平和と武力


8月6日。今年も広島原爆忌がめぐってきた。原爆ドームの写真を見ると、ワシントンのスミソニアン博物館で見た、修復されてピカピカに磨き上げられた原爆投下機「エノラ・ゲイ」に対する違和感を思い出す。そこには、このB29が投下した原爆によって、何人が殺されたかについての説明は一言もなかった。これが「勝者の書く歴史だ」と思った。
 欧州に目を転じると、バルト三国とポーランドの市民は、再びロシアの脅威に怯えている。ポーランドの陰の実力者カチンスキ―は今年「欧州は独自の核抑止力を持つべきだ」と公言した。東アジアの緊張も高まる一方。世界は、1945年8月6日から何も学んでいない。
 ただし欧州に27年前から住んでいる私は、「時には平和を武力で勝ち取らなくてはならない」という事実も学んだ。ナチスドイツが崩壊したのは、1944年に米英連合軍が、多大な犠牲を払ってフランスのノルマンディー海岸に上陸して「大陸反攻」を開始したからだ。
 あの時米国が「欧州には介入しない」と孤立主義を取っていたら、ナチスによる恐怖政治は当分続き、強制収容所で殺されるユダヤ人の数もさらに増えていただろう。当時トランプが米国の大統領でなくてよかった。
 またドイツの憲法は、「非民主主義的な勢力が政権を取った場合、市民には反抗する義務がある」と定めている。つまり、ナチスのような勢力が政権を取った場合、国民は武装闘争も含めて抵抗するべきだと言うのだ。ドイツ人がナチス時代から学んだ教訓である。
 いまバルト三国やポーランドで不安が強まっている理由の1つは、「もう米国は頼りにならない」ということを人々が感じ始めているからだ。バルト三国がNATOに加盟したのは、自力でロシアの侵略を防げないことを知っているからだ。彼らは、米国やドイツ、フランスの手を借りなければ、ロシアから身を守ることができない。ロシアがクリミアを併合した今、脅威は現実化しつつある。この事実も、我々は決して忘れてはならない。平和主義を標榜するドイツの緑の党ですら、政権についていた時、コソボへのNATOの軍事攻撃を是認した。反戦主義者たちにとっては、苦渋の決断だった。タガが外れた今日の世界では、今後さらに難しい状況が出現するだろう。我々日本人も、どの方向へ国を進めるのかについて、国民的合意を打ち建てる必要がある。対症療法だけでは、十分ではない。国家の理念が求められている。
(熊谷 徹 ミュンヘン在住)ホームページ http://www.tkumagai.de

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