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2017年08月19日16:46

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フランク『ヴァイオリン・ソナタ』&シマノフスキ『神話』ほか

【収録曲】
 フランク
1 ヴァイオリン・ソナタ イ長調
 シマノフスキ
2 神話ー3つの詩 op.30
3 ”歌劇<ロジェ王>”から「ロクサーナの歌」
4 クルピエ地方の歌(コチャリスキ編)

 カヤ・ダンチョフスカ(Vn) 
 クリスチャン・ツィマーマン(Pf)

1980年7月,Herkulessaal in Muenchener Residenz(セッション)
DG 4775903


このCDはシマノフスキの「神話」を聴きたくて買ったものだ。以前,何気なくFM放送を聴いていたとき,シマノフスキのヴァイオリン協奏曲が流れてきて,薄衣を何層か重ねたような音楽に「耳」が釘付けになった。たしか,テツラフ,ブーレーズ,ウィーン・フィルによるヴァイオリン・コンチェルト第1番だったと記憶している。交響曲第3番「夜の歌」とカップリングになったこのCDはすでに手元にありとても気に入っているが,偶然流れてきたもの聴くと,また違ったインパクトがある。そこで「神話」が収められているディスクを探してみたら,ダンチョフスカとツィマーマンの録音に行き着いたのである。

ブーレーズ盤以外に,シマノフスキの作品はラトル&バーミンガム市響による歌劇「ロジェ王」&交響曲第4番(協奏的交響曲)を聴いたことがある。「ロジェ王」はドビュッシーを彷彿とさせる音楽ではあるが,濃厚なロマンチシズムが立ちこめる作品でもある。それはラフマニノフのロマンチシズムに通ずるところがある。同時に,遠い古代の世界への憧憬を込めたアルカイックな風情が漂う音楽でもある。ヨーロッパなどでは,稀にしか取り上げられることがない演目ではないらしいが,ロシア風のロマンチシズムに彩られたアルカイックなオペラという雑多な性質の音楽には少々閉口した。ラトルの解釈と表現が,個人的な好みに合わなかっただけかもしれないけれど。

ブーレーズのシマノフスキがR.シュトラウス風で,ラトルのそれがラフマニノフ風であると割り切って捉えると,ダンチョフスカとツィマーマンによる「神話」,「ロクサーナの歌」,「クルピエ地方の歌」の演奏は,新ウィーン楽派寄りであると性格づけることができそうだ。つまり,薄いヴェールを重ねたような音楽でもなく,スラブの蒸せるような美学でもなく,強靭な線と明滅する点が織りなす構築性の高い演奏であるからからだ。おそらく,シマノフスキにはこうした一面があったに違いない。

こうした印象を与える一因は,この録音が行われた時期にあるだろう。1980年といえば,ダンチョフスカとツィンマーマンは20代の後半で,新進気鋭の演奏家として売り出す時期である。祖国ポーランドの作曲家の作品の新しい側面に脚光を当てようとするかのような意欲を感じさせる演奏だ。それは同時に,この二人の有り余るテクニックを披露する絶好の機会と無意識のうちに捉えている風でもある。最初,LPとしてリリースされたこの録音から溌剌とした斬新さが溢れてくる背景には,こうした事情が隠れているのではないだろうか。

さらに,ダンチョフスカとツィマーマンが音楽作品をいったん最小の単位に分解しそれを組み上げてゆく力量が遺憾なく発揮され,すでに巨匠の域に達していることにも驚く。このCDの演奏を聴くと,20代の中頃でツィマーマンはもうツィマーマンだったことがわかる。考え過ぎることもなく,ストレートな表現が湧き出してくる反面,構成に関しては厳格なポリシーを持っていたことがわかる。そして,当時からそうした構築性を支えるピアノの音色を磨いていたことも興味深い。ダンチョフスカもツィマーマンと息の合った演奏で,音楽観の上でも意気投合していたようだ。彼女のCDはツィマーマンも加わったポーランドの女流作曲家パツェヴィチのピアノ五重奏曲以外は知らなかったが,デュオの演奏を聴くとその秀でた力量がよくわかる。

耳にタコができるほど聴いたフランクのヴァイオリン・ソナタも実に新鮮に聴こえた。よくあるフランコ・ベルギー楽派の甘美な音色とは一線を画したシャープな演奏である。ここでも,楽曲を一度分解してから,全体のバランスを重視しつつ,レンガを一個ずつ丁寧に積み上げる作業を続けた結果うまれたフランクのヴァイオリン・ソナタといえる。おそらく,この演奏の魅力はフレージングの説得力にあるのではないだろうか。普通,この作品を弾くときよりもフレージングは短いが,その切り方が絶妙である。さらに,一つのフレーズと他のフレーズとの繋ぎ方にも聴く者を納得させる力がある。シマノフスキの演奏と同じく,この卓越したフレージングのおかげで比類のない構成力を持つフランクのヴァイオリン・ソナタの演奏がうまれたのだろう。この曲の耽美的な演奏も魅力的ではあるが,構築性にウエイトを置いた演奏も面白い。もともと,フランクのヴァイオリン・ソナタは,ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタに通ずるこうした要素を十分に持ち合わせているのだから。

このCDを買ったときのR.シュトラウス風のシマノフスキを聴きたいという目論見は外れた格好になった。とはいえ,実に面白い演奏に遭遇することができたものだ。その演奏はただユニークというだけでなく,作品の本質に深く根ざした面白さを備えている。特に,シマノフスキの作品に関しては,この作曲家の多面的な特徴を包括的に捉えた演奏か否かは措いておくとして,その一側面に強烈な光をあてたことは間違いなさそうだ。
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