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2023年12月04日07:22

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GHQの焚書目録

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「GHQに没収された本―総目録」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4879020230

久々に見たら、プレミアがついていた。
確かに貴重な資料。
帯にある「図書館資料として必携」にも同意します。

でも、この改訂増補版の編者の意見には、ぼくは冷笑的ですな。
言論弾圧?
この人たちの書いたものや経歴を見れば、その思想的な立ち居地は大体わかるんだけど、ぶっちゃけ
「お前が言うか???」
と言うことなんですよね。

なるほど、確かにGHQのやったことは「焚書」かもしれない。
しかし戦前戦中の日本政府の行った言論弾圧、焚書のほうがずっとずっと遥かに遥かにひどかったわけです。
編者がこの事実にほんのちょっとで良いから、序文でにでもページを割いてくれれば、ぼくは普通に尊敬できたんですけどね。残念ながら、戦前戦中のナショナリズムを賛美するばかりで、それがない。

GHQによって回収処分を食らった本の著者には、天皇機関説事件や古事記の史料批判を行った歴史学者への弾圧に、嬉々として参加した連中の名も見られる。
立場が逆転したと言う喜劇的な展開でしょう。

戦前戦中の日本は、新聞紙発行条目(1873年太政官布告352号)、出版条例(1872年、明治4年)、讒謗律(1875年)、出版条例(1875年)、新聞紙条例(1875年)、出版法、新聞紙法(1909年)、映画法、治安警察法(第16条)、興行場及興行取締規則(警視庁令第15号)などなど、数々の法律で「言論弾圧」を行ったわけで。

エロや左翼系の出版物はもちろん、政府と意見の合わない右翼思想、宗教、オカルト、不敬にあたる文学、果ては音楽にいたるまで、GHQのそれより遥かに範囲は広かったわけです。
そこは禁書コレクターの城市郎さんの諸著書を見れば一目瞭然なわけで。
終いには自費出版や同人誌にまで目を光らせた。
ハイネが言うには、「本を焼きたがる者は、やがて人間を焼きたがる」
小林多喜二をはじめとしたプロレタリアート文学の作家たちが、どんな目に遭わされたかは言うまでもないでしょう。
GHQはそこまでやっていない。

大事なことは、当時の多数派の人々は、「アカ」や「大本教の邪教徒」や北一輝のシンパ達が、弾圧されても、それは当然のことと考え、疑問に思わなかったことです。
本当の意味で言論・出版の自由を実現するためには、こうした根の深い社会の根底にある抑圧的な価値観をいったん解体しなければならない。

そうした視点から敢えて意地の悪い言い方をさせてもらえば、GHQのやったことは、「言論・出版の自由」を日本に定着させるための過渡的な荒療治だったかもしれない、ということです。

実際、現在ではこのリストに上がってる本を復刻しても、現在は特高に踏み込まれる心配もないし、事実復刻されている本もある。
ミもフタもなく言えば、写本の時代ならともかくも、20世紀以降の印刷技術が進歩した時代において、本を完全に抹殺するなんてことは、極めて難しいのです。

もちろん、ぼくは本好きの端くれとして、このGHQの出版物回収・処分の政策を支持するものではありません。
ひとつの異なった視点として、そういう見方もあるのでは? ということなんです。

ただ、このリストを見ると、確かに「どうしてこの本が?」と思うものもある。
増補改定前は重複などの混乱もあったという。
正直、どこか杜撰なところもあったのでしょうね。

むしろ興味深いのは、こんな短期間に7千冊のリストを作るには、絶対に日本人の協力があったということです。
と言うより、リスト作りは、日本人の専門家が主体となって行われたと考えたほうが自然です。
このリストの増補改定の編者は、露骨なプロパガンダ本は意外に少なく、むしろ一般庶民が手を出すとは考えにくい学術系の本が多いことを不思議がってるけど、そう考えれば別に不思議なことではないでしょう。

実際、同じ御用学者でも、通俗的な扇動家の平泉澄の著書はわずか2冊しかないのに、固い学術的な蓑田胸喜の著書は7冊にもおよんでいる。これは蓑田が、自分の気に食わない学者や知識人の弾圧に熱心だったことを考えれば、納得の行く話しでしょう。

最後にこのリストの増補改定版を作った編者たちの仕事には、心底敬意を表します。
しかし、彼らのダブルスタンダードな価値観には、とうてい賛同できない。

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