1月3日にラジオ番組「プはプログレのプ」で、「ジャズ・ロック無頼編」が放送された。私は聴き逃したのだがコバイヤさん、ドノバンさんのアドバイスがあって聴き逃し配信「らじるらじる」で聴くことができた。
若い頃には管楽器の音が苦手だったので、ジャズやジャズ・ロックが好きではなかった。しかしサイケデリックから入ったソフト・マシーンに導かれて、高校以来カンタベリー・ロックを聴いていたところ、いつの間にかそれはジャズ・ロックの中核になっていた。自分にとってジャズ・ロックとは何だったのかを振り返ってみたい。
曲 バンド アルバム
�� Facelift / Soft Machine [ Third 1970 UK ]
私がソフト・マシーンを知った1970年の頃、このバンドはピンク・フロイドと並ぶ前衛的・実験的ロックの代表として評価されていた。私もこの 2枚組 LP を特異な表現を持つ前衛ロックとして聴き、「ソフト・マシーン空間」と呼んでいた。曲の冒頭ではファズ・オルガンによるひずんだ音色の空間が表現され、それまで聴いたこともなかったし、その後も聴いたことがない。人気絶頂の中で音楽界を去ったマイク・ラトリッジは本当に惜しい。冒頭に続きホーンが入ると、そのメロディーの美しさ、続くインタープレイのスリリングさ。そして変転すると、今度はフルートによる静寂な空間表現。前衛ロックとしても、カンタベリー・ジャズ・ロックとしても金字塔だった。
�� Lark’s tongues in aspic part1（太陽と戦慄パート１）/ King Crimson [ Lark’s tongues in aspic（太陽と戦慄） 1973 UK ]
私はキング・クリムゾンをジャズ・ロックだと思ったことはなかったが、「プはプログレのプ」でラストの代表曲として取り上げられたので、「あ、ジャズ・ロックだったんだ」と思った。1971年、アルバム発売と同時にラジオで聴いたこの冒頭の曲は、山あり谷ありの複雑な構成が完璧に構築されていて、即興中心のジャズとは異なるものとして聴こえ、むしろクリムゾン音楽の実験的な発展型だと思っていた。「毒蛇の中のひばりの舌」という曲名は、「暴力的なものと繊細なもの」を表していると言う。特にデヴィッド・クロスのヴァイオリンが繊細な部分を担っており、当時のロックの中では特に新鮮に思えた。フリップのギター、ミュラーのパーカッション、ブラフォードのドラムス、ウェットンのベースが一丸になって襲いかかる暴力的なパートも衝撃的。何重にも仕掛けが張り巡らされていて、聴き直すと再発見も多いが、間奏部が即興的なので、確かにジャズ・ロックなのだろう。
�� Empty faces / Solution [ Fully interlocking 1988 Holland ]
オランダの4人組、ソリューションは古くから知っているバンドでもないのだが、ジャズ・ロックと言われるジャンルの中で私が偏愛するバンドである。なんといってもヴォーカル・パートの胸に迫るメロディーと声の美しさが特筆に値する。ヴォーカル曲は、極上のシンフォニック・ロックだと言える。声は透明感のある少年声。アルバム中ヴォーカル曲が2曲だけなのが残念だが、他の曲ではちゃんとジャズ・ロックをしている。この曲は長い割にはメロディアスなヴォーカルとコーラスが中心で、全然ジャズ・ロック風でないわけだが、間奏と後奏にサックスのソロがあるので許してもらおう。
�� Hornschmeyer’s island（ホーンシュメイヤーの島） / The Flock [ Dinosaur swamps（恐竜の棲む沼） 1971 USA ]
アメリカのザ・フロックも偏愛バンドである。中学生時代の1970年、「恐竜の棲む沼」というアルバム・タイトルと、「カニの脚」「灯台」「人魚」「ホーンシュメイヤーの島」といった曲名のトータルさに憧れて購入してみたら、ヴァイオリンとホーンがせめぎ合うフランク・ザッパ風の喧噪なジャズ・ロックだった。しかし曲はきちんと構築されていて、ホーンの部分は騒々しいが、ヴァイオリンのパートは静謐だ。ヴァイオリンのジェリー・グッドマンは、少人数編成でオーケストラのような音を目指したのだと言う。フロックは、ホーン4人を含む８人組。
�� Hortz fur dehn stekehn west / Magma [ Mekanik destructiw kommandoh 1973 France ]
18歳で上京したとき、私はマグマが聴きたいと思った。輸入盤でしか存在しない音楽だったので、田舎では聴くことができなかった。他にはない極めて独創的な前衛表現だと聞いていたが、その後マグマを筆頭としてフランスでは前衛的なジャズ・ロックが隆盛を迎えることになる。意味不明のコバイヤ語で男女が呪文のように歌い、重厚なリズム隊が炸裂する暗黒の儀式。一度聴いたら忘れられない。光の差さない暗闇の底なし沼に、足を取られ手を取られながら沈んでいくような音楽である。
�� You never blow yr trip forever / Gong [ You 1974 France ]
ゴングは1971年から73年の「ラジオの精」３部作を活動の頂点とするが、デヴィッド・アレンとギリ・スミスによる空想的で冗談に満ちた音楽嗜好と、他のメンバーの即興的なジャズ志向がせめぎあい、絶妙のところでバランスが取れている。本作「ユー」はその3作目で、ジャズ志向を強めた。11分ある曲のうち、最初の2分ほどはアレンとスミスの声の遊びが展開し、やがてシンセサイザーとフルートに導かれて、ヘヴィなドラムス、アレンのヴォーカル、そしてサックスへと続く。
�� Megalopoli / Area [ Crac! 1974 Italy ]
アレアの音楽は普通の西洋音楽とは違う独特のものだと思っていたら、ヴォーカルのデメトリオ・ストラトスは、アレキサンドリアの生まれのギリシャ人なのだという。エジプト、北アフリカを含む地中海音楽が、幅広く混入しているのは間違いない。高音で奇怪なまでにビブラートする声の訴求力もすごいが、時間の壁を突き破らんとするばかりに超高速で一体となって駆け抜けるヴァイオリン、ギター、キーボード、ドラムスのスリリングな闘争の凄まじさは、完全に人間技を超越していて、聴く者は金縛りに遭ってしまう。
�� Five single combats / Zamla Mammaz Manna [ Family cracks 1980 Sweden ]
ジャズ・ロックは超絶技巧であってほしいものだが、サムラ・ママス・マナの超絶さは単なる技巧を超えて、ある種の狂気のようなものに陥っていることではないだろうか。世俗の音楽を嘲笑し、吹き飛ばしながら、誰も聴いたことのない濃密なアンサンブルに一体化して疾走する。しかし、何度リズムが切り変わっても一糸乱れぬ演奏は、メンバーの全員が極端に完璧な正気を保っていることの証拠だろう。
�� Used to be easy / Nova [ Blink 1976 Italy ]
チェルベロを率いたコッラード・ルスティーチとオザンナの中心人物でサックスを吹いていたダニーロ・ルスティーチの兄弟が合体してできたノヴァは、超絶技巧のジャズ・ロックと英語表現によって、インターナショナルな世界を目指した。ルスティーチ兄弟の曲芸のようなテクニックが惜しげなく繰り広げられるが、何と言っても弟コッラードの超速弾きギターが印象的。まさにアルバム・タイトルのとおり、瞬きの一瞬の閃光のような音楽である。情感に訴えないジャズ・ヴォーカルから始まるが、間奏はスリル満点の演奏、そして花火のように闇に閃くギターとブラスの闘争が次第に加速し、眩暈のように終わっていく。
�� Can’t be long now / Caravan [ If I could do it all over again, I’d do it all over you 1970 UK ]
キャラバンはカンタベリー風のジャズ・ロックを基本としながら、ポップと若干のクラシック・テイストをまじえたサウンドだった。クールなヴォーカルが好みを分けるところだろうが、私自身はかなり後年になってからその魅力を再発見した。この曲はキャラバンのファースト・アルバムの1曲で、細々としたヴォーカルに続いて、フルート、そしてキレキレのファズ・オルガンとサックスが重なり、さらにフルートが疾走していくといったスリルたっぷりの演奏で、キャラバンのすべてを象徴しているかのようだ。即興の応酬でありながら、ある程度構築されたサウンドであり、完全にフリーキーに流れてしまわないところがカンタベリー・ジャズ・ロックらしい。
[次点] Seppia / Picchio Dal Pozzo [ Picchio Gal Pozzo 1976 Italy ]
ジャズ・ロックはテクニックだけで突っ走るバンドもそれなりに気持ちいいが、イタリアのピッキオ・ダル・ポッツォのように奇抜なアイディアで押しまくるバンドの方が、知的好奇心を満たされて私としては面白い。この曲では木琴が重要なアクセントになっており、ヒトの嬌声も不思議に響く。ある意味で、万華鏡のような極彩色の世界に浸ることができる。
〇その他候補として聴いたバンド
Allan Holdsworth, Alti E Mestieri, Centipede, Hatfield & The North ,X Legged Sally,
参考：ジャズ・ロックの叙情ヴォーカル曲１０選 （2014年8月24日）
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1931388516&owner_id=9666295
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