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2022年06月18日16:20

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ノアック:『12の超絶技巧練習曲』(リャプノフ)

【収録曲】
セルゲイ・リャプノフ「12の超絶技巧練習曲」Op.11

1 子守歌 嬰ヘ長調
2 幽霊たちの輪舞 嬰二短調
3 鏡 ロ長調
4 テレク川 嬰ト短調
5 夏の夜 ホ長調
6 嵐 嬰ハ短調
7 牧歌 イ長調
8 叙事詩 嬰へ短調
9 エオリアン・ハープ ニ長調
10 レズギンカ ロ短調
11 妖精たちの輪舞 ト長調
12 フランツ・リストを偲ぶエレジー ホ短調

フローリアン・ノアック(ピアノ)

録音:2020年6月2〜5日,ドイツ放送室内楽ザール,ケルン
la dolce volta LDV90(セッション)


これは新進気鋭ピアニスト,フローリアン・ノアックが最も評価する作曲家,セルゲイ・リャプノフの最高傑作にして最重要作品とされる「12の超絶技巧練習曲」を収めたCD。

ノアックは1990年,ベルギーに生まれたピアニスト。14歳のときにリャプノフの「12の超絶技巧練習曲」を知り,これほど緻密に書かれた傑作が無視されていることに驚きと怒りを感じたという。このディスク以前に「ある旅人のアルバム〜ピアノによる民族音楽」とプロコフィエフの「ピアノ・ソナタ第6番ほか」2点のCDをリリース。ECHO Klassik,Diapason d’Or of the Year,Octave de la Musique,International Classical Music Awardを受賞。レコーディングでもリサイタルでも超絶技巧作品を積極的に取り上げるピアニスト。2018年に初来日。

セルゲイ・リャプノフ(1859〜1924)はロシアの作曲家。ニコライ・ルビンシュテインの推薦によりモスクワ音楽院に進学。卒業後,バラキレフに私淑し,やがてサンクトペテルベルク音楽院の教授を務めるが,ロシア革命後の1923年にパリに逃れ,翌年その地で客死。リャードフと並んでロシア国民学派最後の一人とされる。

このCDを聴く限り,リャプノフはラフマニノフのように後期ロマン派の爛熟した音楽を追求した作曲家と言えそう。甘美なサウンドを追い求めただけでなく,超絶技巧を追求した点でもラフマニノフとよく似ている。音楽の響きから感じられる個性はやや希薄。

このディスクを聴いて最も印象に残るのは濃厚過ぎるほど濃厚なロマンチシズムだ。「12の超絶技巧練習曲」はリストの「超絶技巧練習曲」から着想を得て作曲された作品。リストが自身の練習曲で使わなかった調性を用いてリャプノフはこの作品を書いている。当初リストが24の調性全てを使って完成させようとした練習曲を作品を補完することを意図したかどうかは定かではないにしろ,リャプノフがリストの音楽を意識していたことはこのアルバムを聴くとわかる気がする。それにリャプノフが活動した時期などを重ね合わせると,ドイツ後期ロマン派以上に爛熟し切った音楽が生まれてくることに何の不思議もない。

さらにこのCDを繰り返し聴けば聴くほど驚くほどの超絶技巧を駆使した作品であることが理解できる。この曲を演奏する際に要求されるテクニックはラフマニノフの音楽で求められるものと似た超絶技巧と言っていいだろう。ピアノを打鍵するときに恐ろしいほどの力が要求されるようだ。それと同時に気が遠くなるほどの数の音符を信じられないくらいのテンポで弾かなくてはならない箇所が少なくない。さらに,このような動が強調される音楽と落ち着いた静が支配的な音楽とが併存していて,この二つのダイナミズムの差も決して小さくない。演奏効果を上げるための体力的な消耗はもちろんのこと,心理的なエネルギーの消費も激しい音楽であることは間違いない。

とはいえ音楽や響きに関して,リャプノフならではの個性を感じさせる作品とは言い難い気がする。ベートーヴェンやバッハを持ち出すまでもなく,いわゆる大作曲家とされる音楽家の作品にはその人物特有のサウンドがあり,ほんの一節を聴いただけで誰がそれを書いたか分かってしまうことが多い。だがリャプノフの超絶技巧練習曲を聴いても,誰が作曲したのかすぐに言い当てることができるだけの特徴に乏しい。あるいは超絶技巧を駆使して書いたロマンチシズムあふれる,やや深みに欠ける音楽にきこえてしまいがちである。

おそらく,このあたりが一流の作曲家とそれ以外の作曲家とを区別する分水嶺になるのだろう。これはテクニック云々以前の芸術家のこころのありように関わってくる問題だと思う。もちろん,こうしたタイプの音楽が好きな人が居ても一向に構わない。音楽に何を求めるのか,人それぞれ違っていて,つまるところ個人の趣味の問題という一面もあるのだろうから。
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