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2022年06月04日17:04

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ピノック:「平均律クラヴィーア曲集第2巻」(J.S.バッハ)

【収録曲】

Disc1
 1 第1番 ハ長調 BWV.870 〜 12 第12番 へ短調 BWV.881

Disc2
 13 第13番 へ長調 BWV.882 〜 24 第24番 ロ短調 BWV.893


トレバー・ピノック(チェンバロ)

録音:2021年6月19-23日,ケント大学 Colyer-Fergusson Hall,カンタベリー
DG 4860771(セッション)


トレバー・ピノックの新譜,平均律クラヴィーア曲集第2巻を聴いた。2年前にリリースされた第1巻に続いて第2巻が発売されたことを嬉しく思う。第2巻もレコーディングの準備は万端だったようだ。

ところで平均律クラヴィーア曲集の第1巻と第2巻のうちどちらかを選ぶとすると,第1巻にする。第2巻は音楽的な完成度は高いのだろうが,少し難しくて退屈しがち。平均律の第1巻は荒削りな面がなきにしもあらずだとしても,バッハが平均律クラヴィーア曲集で意図していたことが素朴な形で実現しているようで,変化に富んでいるので聴いていて楽しい。音楽的に正しいことを言っているかどうかまったく自信はないけれど。

とはいえピノックの第2巻を聴いてみて,より高度な対位法を駆使して書いたとも受け取れる第2巻にアプローチするきっかけをつかめたような気がする。いままで馴染んできたバッハの世界へ連なる入り口をピノックが用意してくれたようである。

この2枚組のCDを聴いて最初に思ったことは,バッハのメロディーラインを弾むように演奏するピノックの演奏が健在だったこと。彼の演奏に初めて接したのはチェンバロ協奏曲集。これらのディスクでピノックは独自のやり方で旋律線を強調していた。メロディーを弾くとき,意識的にテンポを遅くしたり速めたりして,まるで音量を変えているかのような効果を狙った工夫を凝らしていた。これがピノックのバロック解釈なのかと思ったものだ。チェンバロ協奏曲集ほどではないにしても,平均律の第2巻でもピノックはこの流儀を守っている。対位法の作曲家バッハの音楽を表現するために,テンポをデフォルメしてメロディを際立たせる手法を採用している。

そしてポリフォニーを表現するにあたって,ピノックは主旋律と他の旋律が織りなすハーモニー(?)にも細心の注意を払い,中心となるべき旋律をクリアーに強調すべく試みているようだ。同時に鳴り響く複数の旋律に優先順位を割り当てるため,その瞬間に響いている音の縦の積み重ねである和声を上手に処理しているようだ。優先的に強調すべき響と従属的な地位にとどめておくべき響きとの役割分担の与え方がが巧みだと思う。

対位法と和声とが上手に処理されている結果,このディスクではバッハの音楽的世界の特徴とも言える深淵な宇宙がくっきりと現れる。それぞれの瞬間に鳴り響くいくつかの旋律に優先順位がつけられることで,立体的な音響世界が現れる。それはチェンバロで演奏されているにもかかわらず,オーケストラで表現されたかのような奥行きのあるサウンドを持つバッハの世界である。

この新譜から例をひとつ挙げるなら,第20番のプレリュードとフーガだろう。第1巻の第24番には及ばないけれど,第2巻の第20番も奥深い音楽的世界を表現していることは確かだ。

平均律クラヴィーア曲集第2巻で,バッハは第1巻以上に対位法を追究したように思う。ただし残念なことに,プレリュードとフーガという形式は対位法を究めるのに最適な形式とはいい難い。
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