華清宮襲撃事件から、警護がいっそう厳しくなり、楊貴妃と妃たちは、宮中から外出することは禁止され、陛下の誕生祝いは内内で、後宮に祀られている九尾の狐に守られての、後宮にて行われました。
玄宗皇帝は、武恵妃が亡くなってから杖を必要とするようになっていましたが、
若い梅妃と寿王妃(寿王李瑁の嫁だった頃の楊貴妃)を寵愛し出すと、ぎっくり腰も治ってきて、杖をつかなくなっておりました。
しかし、
後宮の水に合わない梅妃が、流産を繰り返し、洛陽の平民に戻ってしまってからは、
寿王妃だった楊玉環(楊貴妃)を、世間体の目を誤魔化す為に、一旦、
唐の国で一番位の高い女道士の太真法師にしてから
楊貴妃として、側室の妃に迎え入れていたのでした。
「楊貴妃よ、朕が今生で、一番気がかりなのは、そなたの未来だ……
ついに、朕との子を授けてやれなかった。
それだけが心残りだ。
朕が亡くなった後、世継ぎの龍星と、養子になった飛鳥が、そなたを
大事にしてくれれば良いのだが……
絶対権力の誘惑の前に、あの男盛りの二人が、善良なままでいられるかどうか……
若い頃の朕だとて、誘惑に負けたのだ……
だが、
朕は、我が子を二度と殺したくないのだ
そなたとの間に、血の繋がった子が、あれば良かったのだが……」
「隆……それならば、私の子は、戸籍で作りますわ。
現実に、飛鳥とは、血の繋がりはなくても、私の子(養子)になっているのですから。」
「そうさのう。ならば誰が適任と思うか
」
「大将軍の飛鳥の長男と、紅蘭を結婚させて、私の子にしてしまうというのは
」
「そうさのう……それは名案じゃのお❣
紅蘭は、孤児の独りぼっちゆえに、心細くて寂しかろうと、いつも思っておったんじゃ。」
「ええ、紅蘭は強がって見せてるけど、時々、夜空の星を見つめて
こっそり
産んでくれた両親を恋しがって
泣いているのですよ。」
「そうかそうか。やはり、そうじゃったか……」
「花花が宮中の仲人を仕切っているから、このことは花花に任せましょう。」
楊貴妃は、襲撃事件以来、監禁状態になった事で、拓哉と飛鳥、そして新しいツバメの、
青龍と逢瀬ができなくなったので、欲求不満状態になっていたのでした。
🌤
数日後
花花が後宮に、安飛鳥の長男を連れて来ました。
「安慶悟にございます。」
長い髪を二つに結んでいる、13才の美少年は
紛れもなく
飛鳥に似ておりました。
楊貴妃は、目の前の男の子を産んだ、飛鳥の妻に
強い嫉妬心を感じながら。
「立っていいわ。安慶悟に椅子を。」
すぐに、銀菊が椅子を持って来ると、慶悟はその椅子に座りました。
「安慶悟、こちらが麗紅蘭よ。」
「父から聞いたとおりの別嬪ですね❣」
「安慶悟、失礼ですよ
」
楊貴妃は、ムッとして叱りました。
「失礼しました。麗紅蘭様が、あまりにもお美しいので。」
紅蘭は、好みの美少年の慶悟を、玉座の楊貴妃の横で、目を細めて見つめています。
「父が、楊貴妃様の子なら、僕は、楊貴妃様の孫に当たります。
孫として、礼をいたします。」
そう言うと、腰掛けている椅子から起立して、深くお辞儀し直すと、楊貴妃を熱く見つめました。
「慶悟、立って、椅子に座っていいわよ。」
「父が、陛下から賜った褒美は、辺境の本陣に飾ってあります。
私は、母と、長安に住んでおりますので、孫の僕にも褒美を下さい。」
「この親にしてこの子ありね。慶悟、よく聞きなさい。
私からの褒美は、この紅蘭です。
紅蘭を、大事にするのですよ。」
「楊貴妃様の、あっいえ、祖母上の言いつけは、何でも必ず守ります。
もちろん、紅蘭にも約束します。
至らないところは、お許しください。」
可愛いっ
と、楊貴妃と紅蘭は同時に、胸の内で思っていました。
⛩
慶悟の父親の飛鳥から、後宮に、貂の毛皮が二着届けられました。
「紅蘭、これは、異民族の男が、愛しい女に贈る
結納の品だそうよ。」
「ええぇー
すっごおーく綺麗で豪華だわぁ〜
」
家族がいない紅蘭は、年下の美少年と婚約できた事を、素直に喜んでいました。
楊貴妃は、飛鳥が、貂の毛皮を紅蘭だけじゃなく、自分にも贈って来た
男心に、
胸が締め付けられていました。
楊貴妃は、慶悟と紅蘭の婚礼式で、飛鳥の長安の妻と、顔を合わすと思うと
ジュッ
パチッ
パチッ
と
嫉妬で身を焦がす
女の情念が
心の内で静かに燃え滾っているのを
感じずにはいられませんでした。
つづく
⛩絶世の美女と言わせ続ける妖魔伝説
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