私の名前は川口民雄。子どものころから、周囲から浮いていた。学校の成績は低空飛行で、お情けで卒業させてもらった。小学校低学年のころからごく普通に生きられないと堪忍した。なんでみんなと同じことができないのだろうか。学校時代の運動会、学芸会、展示会、修学旅行で、周囲のクラスメートと同じ行動をとるのに、非常に神経を使った。仕事をいくつか渡り歩き、発達障害を支援するNPOで働いている。大人になって、検査を受け、検査の結果で、読み書きはかなり厳しいことがわかった。発達障害当事者は別に努力して、普通に見せようとしても、無理である。例え給与は低くとも、暮らしていければ、文句はない。この仕事は自分に向いているようだ。発達障害トラブルシューティングが仕事になった。
川口がパソコンに向かっている。川口が依頼者、金子氏にzoomで話を聞いている。続き
金子
「履歴は埋められたんですが、志望動機が埋められません。どう入力すれば、いいでしょうか」
川口
「志望する企業によって、違います。どんな企業に応募するんですか」
金子
「食品企業です。一年前まで、外食産業で働いていたんですが、忙しくて、休みが取れませんでした。身体を壊して、退社しました」
川口
「たいへんでしたね。少し休んでから、再就職を志しているわけですか。それなら、そこのところ、正直に書いたら、どうでしょうか。ところで、何年ぐらい、働いていたんですか」
金子
「3年です。4年目になるとき、退職しました」
川口
「3年か。何か、得意なことはありますか」
金子
「決められた材料で、温めてから、お客に出すのを5分以内にできます。忙しい現場でも、大丈夫です」
川口
「それって、案外、強みかもしれなませんね。それを正直に書いて、志望企業の人気商品なら、こんなことができます、と入力したら、どうでしょう」
金子
「具体的にか。少し考える時間をくれませんか。すぐには思いつかない。応募締め切りは一週間後です」
川口
「では保留にしておきます。他に応募するところはないですか」
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