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2021年02月27日16:39

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マシーン日記

“マシーン日記”を観て来た。
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私が転げまわるくらい好きなマシーン日記。私は松尾氏の芝居で特に好きな芝居が5本あるのだが、その中の1本がこれ。

初演は1996年。元々は、松尾スズキ氏が、片桐はいりさんの為に書き下ろした戯曲。
今回で4回目の再演。初演から再演全て観ている私にとって5回目のマシーン日記となる。…否、実はマシーン日記は2003年『演技者』にて、大根仁氏により映像化されているので、6回目か(因みに演技者も録画してある)。
思えば初演は、スズナリで上演された。ミチオ役は第三エロチカの有薗氏だった。アングラ芝居感が強かった記憶。今回はアングラ臭は減り、エンタメマシーン日記である。

今回の演出は、その演技者の大根仁氏。演技者では、ミチオ役を森田剛氏が演じた。今回のミチオ役は関ジャニの横山氏。森田氏は松尾氏も言うように「悪そうな感じ」もあったけれど、人の良さそうな横山氏がどんなミチオを演じてくれるのか?最後の叫びをどう決めてくれるのか楽しみだった。結果、今までのミチオ史上、1番人間味のあるミチオになった。この芝居を観て、初めて私はミチオのコトを「可哀想」と思った。有薗ミチオ、阿部ミチオ、少路ミチオ、森田ミチオ、どのミチオにもそんなコト微塵も感じなかったのに。反面、最後に訪れるカタルシスは少な目だった。最後の叫び、ミチオの歓喜と絶望に彩られた「キチガイ!キチガイだぁ!」横山氏のこの叫びは、私には諦観に聴こえたからかも知れない。「ああ、もう戻れない。逃れられないところまで来た…」という「キチガイ」歓喜は少な目。だから、カタルシスも少なかったのだろう。

秋山さんのケイコ役。ケイコ役にしては美女過ぎるのだけど、バッサリショートカットにしてハードコアで美しいケイコを演じていた。この役難しいはずなんだ。元々片桐はいりさんに当て書きされた物だから、片桐さんが言うからこそ説得力があったり面白かったりする台詞がある。でも、そこは大根氏が台詞を変えたり、演出で補ったりしていた。

大倉氏のアキトシは、アキトシ史上1番気が狂って見えた。狂っているのに最後の演出のせいか、1番優しいアキトシにも思えた。

森川さんのサチコ。私は初見からサチコが嫌いで、ハッキリしなくて被害者意識ばかり強くて、おどおどして卑屈で…と思っていたが、森川さんのサチコには図太さも感じた。良いサチコだった。サチコってこの中で、実は1番計算高いのかも。

演出の大根氏は映像畑の人だからか、雨のプロジェクションマッピングや、工場の歯車の映像を上手く美しく使っていた。そして何より、エンタメ度が増して分かりやすくなっていた。「何でこの台詞変えたんだよ!好きだったのに!」という部分もあったけど、考えてみたら「こうした方が分かりやすいからか!」と。
今回の芝居は大人計画の芝居ではない。横山氏のファンも沢山観に来る。その人達は、おそらく松尾スズキ氏の舞台に馴染みはないだろう。その人達にも伝わるようにしたのかな?と。結果、ちょっと説明台詞っぽくなってしまうところはあったけれどね。

松尾氏の『悪霊』の再演時、丁度あまちゃんをやってて、あまちゃんが好きで観に来たのに、この芝居を観てしまい、ショックで椅子から立てなくなってしまったお客がいた。友人に「大丈夫?」と言われ、「吃驚した…。凄かった…。」と呟きやっと立ち上がり「でも、良かった。甲斐さん(松尾氏が演じたあまちゃんでの役)観られて嬉しかったし。」と言っていたのを思い出す。今回も横山氏や森川さんを観に来てこれ見て吃驚して立てなくなった人はいるだろうか?そんなコトを思い劇場を出たら、横山氏の筋肉が素敵〜恰好良い〜キャーハートという、感想を言い合っている女の子達がいて、「アイドルファン、スゲエ!」と思った。この芝居観て、そんな感想、私には出て来ない。目から鱗!異文化交流本当に大事!!プロデュース公演の良さや意義って、まさにコレだと思う。色んな感想、本当に大切。

あと音楽がサカナクションだったコトも追記しておく。

※以下、もう少し詳しくマシーン日記の感想を書きます。ネタバレになってしまう部分もあるので、ネタバレNGの方は、ここから先は読まない方が良いです。この芝居って、何も予備知識入れないで観た方が面白いと思う。

マシーン日記
作:松尾スズキ 演出:大根仁
会場:シアターコクーン
出演:ミチオ/横山裕 アキトシ/大倉孝二 サチコ/森川葵 ケイコ/秋山菜津子

サックリ粗筋。
小さな町工場ツジヨシ兄弟電業。弟ミチオは、この工場で働く女工サチコを強姦する。兄アキトシはその責任を取ると言い、サチコと結婚。ミチオはプレハブ小屋に鎖で繋がれ監禁される。その工場にケイコという女が働きに来る。ケイコはサチコの中学時代の恩師。サチコをイジメから救った先生である。ケイコは何でも物事を数字に変換する。教師は給料の査定が曖昧で、だから工場に勤めに来たという。そしてサチコに冗談めかし、「アナタを救った見返りを貰いに来た。」とも。サチコはケイコに「自分と一緒にイジメられていた松沢君はどうなったか?」と問うも、ケイコは口を濁す。

ツジヨシ家は池でワニを飼っている。アキトシは以前誤ってこのワニに金玉を食われ現在、金玉1個になっている。又、アキトシには1つの良い思い出がある。家族皆で行ったジャングル風呂の思い出だ。

ケイコは監禁された弟ミチオに興味を持ち近づく。弟と関係を持った彼女は言う。「絶対好きにならない奴を見つけた。」と。「男の価値など相対的ではっきりせず分からないが、アンタのクズさは分かる」と。そして、ケイコは決意する。「決めた。私、アンタのマシーンになる。」ケイコは、ミチオが自分を性的に満足させてくれる限り、ミチオのマシーンとなり手足となって働くと宣言する。
ケイコに電話が来る。その電話は彼女の旦那からのもの。彼女の旦那は実は松沢。サチコと一緒にいじめられていた生徒。ケイコは言う。イジメからサチコは脱出出来た。でも、松沢はダメだったと。「本当のクズだったのよ。そいつは私と結婚したは。」

ケイコとミチオの関係を知り複雑な心境のサチコ。サチコの夫アキトシは双極性障害らしく、現在ハイな状態で、サチコへの暴力もエスカレートしていっている。
サチコには主役をやりたい願望がある。学校演劇のオズの魔法使いのドロシー。彼女は夫から暴力を受けると、オーバーザレインボーが脳内に流れるのだと。
そんな折、ケイコが妊娠したらしい。ハイなアキトシは「ツジヨシ家に大卒の血が入る」と喜び、「今度4人で合コンしよう!」と楽しそうだ。

ミチオには秘密がある。彼は修理した家電に盗聴器をつけ、近所3キロ以内の家庭の様子を盗聴している。それがケイコにバレる。人の不幸を喜々として語るミチオ。その中に6軒赤い文字。それは、かつてミチオをいじめた同級生の家。ミチオは言う。「俺の過去のキャラクターを知る人が全ていなくなれば、俺はやり直せるのに。」と。

アキトシのハイ状態は悪化している。サチコが食事に薬を混ぜているコトを知り彼女に暴力をふるう。アキトシは昔、鳥人間コンテストに出場していた。しかしアキトシは6本指という奇形だった為、TVに映らず、それを逆恨みし、司会の東野コウジを刺しに日テレへ。不審尋問され彼は捕まり執行猶予はつくも罪人へ。そのコトがあり、ミチオは就職もダメになってしまったという過去がある。そんなアキトシは今度は欽ちゃんの仮装大賞に4人で出るコトを夢見ている。テーマはジャングル風呂。ライオンの被り物を作るアキトシ。その姿に恐怖するサチコ。
サチコは半ば助けを求めるようにミチオの元に行く。サチコは言う。「アンタの兄さん、アンタをここから出す気なんてない。私と一緒に逃げて!」と。サチコは鎖をハンマーで叩き切ろうとするも切れない。そこにアキトシがやって来てしまう。アキトシに見つかると殺されるとサチコはトイレに隠れるも見つかってしまい、思わずアキトシをハンマーで殴りつける。アキトシの死体の処理をケイコに頼むミチオ。ケイコはブリキで甲冑を作り、斧でアキトシの死体を処理しようとするも、アキトシは生きていた。しかも4人で合コンをやっていると思っている。何とか取り繕うも、狂ったアキトシは、プレハブ小屋に火を点ける。鎖に繋がれ逃げられないミチオ。「鎖を切ってくれ!」とサチコに頼むも、サチコは間違ってミチオの足を切断。アキトシは池に落ち、ワニにもう1個の金玉を齧られるも生還。
そしてサチコの目の前に現れたのは、片脚のミチオはカカシさん、ブリキの甲冑姿のケイコはブリキさん、ライオンの被りモノのアキトシはライオンさん。サチコは歓喜する。「オズの魔法使いじゃん!私、主役じゃん!」と。そんなハイに喜ぶサチコの首をケイコは折り殺害。ケイコは片脚になったミチオに「もうズボンも履けて就職も出来る。就職出来る土台は私が今晩中に作っておく。」と言い、彼の過去のキャラクターを知っている友人達を殺す為町に火を放つ。
歓喜と絶望の中、ミチオは叫ぶ「あの女、本当にやりやがった!キチガイ!キチガイだぁ!」

こんな感じ。これだけだと陰惨な話っぽく思えるが、松尾氏の戯曲なので、随所に笑いが入る。
松尾演出だと、最後、ミチオの足が切断された時も笑いが起こる。「あ〜あ、サチコ何やってんだよぉ〜」という笑いで、有薗ミチオや阿部ミチオは呆れたツッコミのように「何で足なんだよぉ。鎖だろぉ〜。」と言うからだと思うのだが。ベースは横山ミチオも同じなのだが、こちらは、シリアスに感じた。なので笑いは起きず緊迫する。(でも、ブリキさん、カカシさん、ライオンさん、では笑い起きるケドね)

ミチオにサチコ&ケイコのタックで迫る「ツインターボ!」もやってくれた。

ケイコのクリトリスが4センチ。これ、松尾版だと「クリトリスが4センチだ」とケイコは言うのだが、大根版だと「未発達の男性器のようなモノがあるのよ。」と言っていて、サチコも松尾版では「♪クリトリスが4センチ〜」と唄うのだが(そして私はこのシーンが好き)、今回はサチコも「♪男性器が4センチ〜」と唄っていた。これ、何で変えたのか不思議だったのだが、この方が分かりやすいからかな?ようはケイコって真性半陰陽(両性具有者)だと思うのだが、こっちの「男性器がある」の方がよりそれが分かりやすいか?と。
「男か女か私も良く分からなかったから。」というケイコの台詞はなかったケド、これは中性的な片桐さんが言うから面白い台詞だもんな。秋山さんは女性だもん。

ケイコがアキトシを「双極性障害」と言う場面もあるが、松尾版だとない。おそらく、これもより分かりやすくしたのだろうと思う。ただ、やはり若干説明台詞っぽいなとは思った。(松尾氏は、客の想像力・理解力に任せる方法をより取る演出なんだと思う)

ケイコ&サチコのバトルも大根版の方が、リアルだったような。松尾版の方がもっとコミカル。扇風機攻撃はなかったな。その代り、サチコが皿を回し「コレでアンタを養ってあげる!」とミチオに言うので、強いサチコに見えた。この時BGMがデカ過ぎて、ミチオの台詞が良く聴こえなかったのが残念だった。「女2人が俺を取り合って争ってる!コレは夢か?」のところな。呑気だな!ミチオ(笑)。
この皿回しや、マイケルのダンスでエンタメ度が上がっていた。(因みに演技者では、マカレナを踊るんだよ・笑)

今回は舞台が囲み舞台で、丸見えなのだが、ケイコとミチオのセックスシーンどうするの?と思ったら、ダンスっぽいアート系の絡みになっていた(松尾版は文字とナレーションのみで、しかも長い体位を言えずに噛むというギャグもある)。一応、松葉崩しや、屈曲なんちゃらとか全部やってくれるので「こういう体位だったのか!」と分かってコレはコレで面白かった。ただ、閉塞感は文字のみの方がある。

松尾版のサチコとミチオのセックスしながら棚に上ってくシーンが私はマヌケで大好きなんだケド(てか、松尾氏はセックスを「大事ではあるが、マヌケな行為でもある」と捉えてるのかな?という演出が度々ある)、今回は棚はないので、結構リアルセックスシーンになっていた。だからか、ちょっと切ないシーンになってたな。

「キチガイ、先生、アンタ。この中だったら、アンタが1番いい!」というサチコの台詞。私、この台詞も好きなのだが、森川サチコは切羽詰まった感が強かった。

最後、ケイコがサチコの首を折る。これはケイコはサチコにイラついて殺害したのかと思ったが、今回は「ミチオの為に殺したのかな?」と思えた。サチコもある意味、ミチオの過去のキャラを知っている“他者”ではあるし。いや、義姉ではあるが、ミチオにその感覚があったかどうか。
ミチオは実は小屋に繋がれて外に出られないコトで安心してたんだよね。それをサチコは見透かした。ここから出す気はないと言っても驚かないミチオを見て「気持ち悪い!」と。世間とどうにも折り合いがつけられないミチオ。

以前、松尾氏のインタビューで、サチコに関して「主役になれる器ではないのに、主役になりたがる者の滑稽さや悲哀を描きたかった。」と言っていた。なるほどと思う。今回も思った。サチコは最後主役になれた。でも、すぐに彼女は殺される。そもそもが主役の器ではないから。だからなった途端に殺される。一瞬の主役に彼女は何を見たのだろう?オーバーザレインボーは流れたろうか?
ところで。私が好きな演出で、サチコが死ぬ時、かかとを3回鳴らす…というのがあったのだが、今回、これあったか?てか、これって、有薗ミチオの時しかやらない演出なのかな?私、この演出が好きで、かかとを3回でドロシーは家に帰れたが、主役になれぬサチコは何処へも帰れなかったのか…と思った。

最後、アキトシが死んだサチコを抱きしめていた。これ、松尾演出だとないよね?これがあったので、アキトシが優しく見えたのだろう。いや、病気のせいだったとしてもDVは絶対ダメだけど、これがあったから大倉アキトシは、1番キチガイでも優しいになった。実はアキトシの感情が1番分からない。一応ミチオへも愛情あったのかな?少年ジャンプ食べるシーンで笑ったなぁ。「鬼滅うめえ!」って(^_^;)。
彼の1番の大事な思い出が『ジャングル風呂』なんだよね。それを考えると、ライオン作ってた彼も切ない。きっとジャングル風呂で家族を作り直そうとしたのだろう。

ミチオが言う、「俺の過去のキャラクターを知ってる奴がいなくなれば、もう1度やり直せる。」これね、初演の時、私はコレを見て「私と同じコト思ってる奴がいたー!」と思って吃驚した。私もこれを良く思う。でも、違うんだよね。自分が自分である以上、キャラ変なんて、そうそう出来ないし、いなくなったところできっと同じなんだ。松尾氏の芝居では、変わろうと思った奴が周りに多大な迷惑をかけ、周りの人が死んだり不幸になったりする芝居が結構あると思うけど、「ダメな奴はダメなままでいいのにね。」と言われてるような気もする。
ミチオはこの後変れるのだろうか?いや、きっと無理だろう。

この後、この家族はどうなったかな?おそらくケイコは警察に捕まるし、サチコは死んだし、アキトシはおそらく精神病院送りだろう。ミチオはどうなる?盗聴の罪はあれど、死刑にはならないだろうし、片脚なくなってるし。どの道幸せにはなれそうもない。松尾氏が言う「ぬるい地獄」を生きて行くのかな。横山ミチオは人が良さそうなので、何処かの障害者施設でそこそこ身の丈にあった暮らしをするのかも知れない。

「クビになる社会人はいるけど、一生懸命やらないと首を折られる社会人なんて、世界初だぜ。」というミチオの言葉。この「どうやって紹介する?愛したら殺されるんで〜」からの一連の独白台詞がもの凄く好きだ。横山ミチオはここでも諦めの度合いが強かったような気がする。有薗ミチオはやや怒っていたように思えて、阿部ミチオはコミカルに言っていた記憶。

最後の「キチガイだぁ!」のカタルシス。前述通り、今回は1番カタルシスが少なかく、やりきれない思いにもなったが、この感情も悪くない。歓喜と絶望の叫び。諦観の叫び。どのミチオの叫びにも、役者の気持ちは乗っていると思えるしね。

やっぱりマシーン日記好きでした。
しかし、てっきりマシーン日記をやって下さいという依頼があったと思ったら、大根氏に「松尾脚本でどれがやりたい?」と訊いて、「マシーン日記が良い」と大根氏自らが言った…という話につくづく大根氏も松尾氏への業が深いのかな?と思ったよ(^_^;)。

おまけ。
☆2013年版のマシーン日記の感想ネタバレあり↓
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1897290982&owner_id=429476
☆2013年版のマシーン日記の感想ネタバレなし↓
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1897286062&owner_id=429476
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