mixiユーザー(id:1046799)

2020年09月11日17:50

307 view

詩誌「指名手配」創刊号を読む。

はい。
冒頭の「告示 あるいは 発刊の辞」がキテる。「市民諸氏に告ぐ。」に始まり、ブンガクやブンカといった「効率優先社会の敵」を愛好する「この連中」(掲載詩人)の危険さに警鐘を鳴らす。「この連中」は「『現代詩の世界とポエトリー・リーディング、ネット詩世界をつなぐ橋となる』とか『音楽・絵画・演劇・映画・スポーツ・俗世間との親和性を広げる』などと誇大妄想をほざいている。」さりげないヤバさを抱えているという。
では、その指名犯の面々を見てみよう。全部という訳にはいかないが。
井嶋りゅう「午後から不在」。「いつかの幸福にうな垂れたふりをしながら/この部屋は相槌を打っている」。言葉はあたらしい世界を創るという好例。
小篠真琴「みらいの食卓」。函館新塩ラーメンを作る過程を描く。そして、食後の認識として、「もうすぐ、そこさ、とびらが開くのは/『出口は見えるか?』/問いかけられて/(出口はあなたに、潜んでいます)」。内在する出口、「みらい」。アカルイミライ、だろうか。
遠藤ヒツジ「棚にあげる」。諸々を棚上げして、「それで自ら棚にあがる そうやって自分のことを棚にあげる 棚へ寝そべってすっぽり収まる ここちいい眠気とともに 自分の身体を 棚にあげる」。帰結として「なくなる」。これでは指名手配されてもしょうがあるまい。
ミカヅキカゲリは「捏造パーク」と「僕は螺旋になる」の二編。電動車椅子からの思索をデリバリー。
GOKU「舌の味なる風の吹く」。朗読詩人の山暮らし。「『声を返してください』/その葉に あなたの舌を/あなたの舌だけを乗せて/かえしてください/透明な血で汚された言葉の嗚咽を/なかったことになどできないのです」。マザー・タングは母国語であり、母なる舌。その意味を考えた。
熊谷直樹「化け猫日記『唯物論者』」。世にも奇妙な物語。オチが効いている。
佐藤克哉「雨あがり」。雨、水からはじまる考察は天にも昇る。
マイケル・シャワティ”Closed for Remodeling"、小熊秀雄「大人とは何だらう」の英訳”What's an Adult Anyway?”。聞けば、戦前日本の無産者運動を研究しているという。奇特だ。
若宮明彦「潮待ち」。終連の「だが ある朝 海がはじけたのだ」という一行のイメジャリが見事。
吉峯芙美子「帰りたい」。「綺麗事の励ましも要らないだろう/これまでとこれからが/どんなものであっても/私は言いたい」、それは一言、「『おかえりなさい』」。心強い。
立原一洋「節約」。全文引用。「隣の町のスーパーは、醤油が百円安い/どれ、タクシーに乗っていこう」。巧みなユーモア。笑ってしまいました。
柴田望「盾 ー『功績』」。志村けんの死を題材にする。「コメディアンの死を『最後の功績』だなんて、/ふざけるな ふざけるな東京都知事よ、/コメディアンの死を政治利用するな」。まっとうな怒り。喜劇人の端くれとして、同意。
勝嶋啓太「指名手配」。ある日、突然カツシマケイタは指名手配されてしまう。罪状は「『詩人のくせにバカ』」。身につまされるなぁ。死紺亭も指名手配されるかもしれない。
奥ノ矢真弓「愛する」。恋愛詩。至極まっとうな恋愛詩。
佐相憲一「愁いをワクチンにする腐葉土の森」。タイトルからしてポエジー濃度が高い。「自ら腐葉土になって希望の葉が絶えないように/雑木林のおおもとを潤せたらどんなにすてきでしょう/そんな存在に出会うと/いい詩集を読んだみたいにせつなくなります」。この切なさにはおぼえがある。

駆け足で詩誌を紹介した。まだまだ掲載作はある。あなたも「指名手配」の「この連中」の魅力にはまってほしい。そうすれば、あなたも共犯者!

以上、過渡期ナイトPD事業部・死紺亭柳竹でした。
2 4

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する