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2020年07月21日12:59

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コロナ

欧州コロナ通信 第331回 2020年7月21日

5月20日、つまりEU首脳会議前に書いた記事です。独仏の最初の提案は、以下の記事の通りでした。

過去20年間のユーロをめぐる論争の経緯を知らないと、なかなか問題点が見えてこないし、これくらい長く書かないと、理解できないと思います。

長いので、ご覚悟のほどを。
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驚愕!コロナ危機でドイツ政府が初めてEUの資金調達を容認

 5月18日に独仏が打ち出したパンデミック関連の加盟国支援策は、コロナ危機が欧州を大きく変えたことの証拠だ。ドイツはこれまでEUが国債市場で加盟国のために資金を調達することに強く反対していた。しかしメルケル首相は、コロナ危機に対応するために態度を180度変え、例外的にこの措置に賛成した。この背景には南欧諸国の経済状態の悪化がある。

*メルケル首相が態度を180度変えた

 5月18日にドイツのメルケル首相とフランスのマクロン大統領がパンデミック対策として発表した「復興基金案」は、各国政府を驚かせた。ドイツが「EUによる借金」に対する姿勢を全面的に変えたからだ。
 両国の提案によると、EUはコロナ対策として2021年に5000億ユーロ(60兆円・1ユーロ=120円換算)規模の「復興基金」を創設する。この基金の財源は、EUが独自の予算を使って、国債市場などで借金をすることによって調達する。この基金からは、パンデミックによって甚大な経済損害を受けたスペインやイタリアなどの加盟国に援助金が払われるが、支援を受けた政府はこの金を返済する必要はない。この復興支援プログラムは、2027年まで続く。
 ドイツの保守系日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)は、この提案について「これまでのドイツの路線から完全に逸脱するものだ。メルケル首相は、態度を180%変えた」と論評している。
 その理由は、ドイツが「EUの国債市場での資金調達」にこれまで頑なに反対してきたからだ。イタリアやスペインは、ユーロ圏加盟国が共同で国債を発行するユーロ共同債(ユーロ・ボンド)もしくは、コロナ共同債(コロナ・ボンド)の発行を求めていた。ユーロ・ボンドかコロナ・ボンドを発行すれば、イタリアやスペインにとっては資金調達コスト(つまり債権者に払う利回り)が現在よりも少なくなり、借金をしやすくなるからだ。EUという信用度の高い大所帯が加盟国を代表してお金を借りるとすれば、イタリアやスペインなどが個々に行うよりも、有利な条件で資金を調達できるかもしれない。
 これまでフランスのマクロン大統領も、「欧州の政治的団結を深めるためには、EUによる資金調達が必要ではないか」として、イタリアやスペインの立場に理解を示してきた。

*コロナ・ボンドに反対してきたドイツ

 だがドイツにとって、ユーロ・ボンドやコロナ・ボンドは禁忌(タブー)だった。その理由は、万一イタリアやスペインが債務を返済できなくなった場合、ドイツなど他の国々が返さなくてはならない債務が増える可能性があるからだ。
 これは、欧州通貨同盟を規定するリスボン条約に違反する行為だ。リスボン条約は、いわゆる「ノー・ベイルアウト条項」によって、欧州通貨同盟の加盟国が他の国の債務を肩代わりすることを禁じている。
 1990年代にドイツ国民は、マルクを廃止してユーロを導入することについて消極的だった。ドイツ国民がしぶしぶ欧州通貨同盟への参加に賛成した理由は、当時のコール政権が「ドイツがイタリアなどの債務を肩代わりすることは絶対にない」と保証したからだ。つまりユーロ・ボンドやコロナ・ボンドは、1990年代に当時のコール政権が国民に対して行った約束を反故にする可能性を含んでいる。これが、メルケル首相が共同債の発行について頑なに反対してきた理由だ。
 だがメルケル首相は、今回「コロナ危機は欧州にとって、第二次世界大戦以来最大の試練であり、被害を受けた国々に手を差し伸べる必要がある」として、例外的にリスボン条約の122条が認める「緊急事態条項」の適用に同意した。第122条は、大規模な自然災害のような緊急事態が起きた時に、欧州通貨同盟が特別な援助措置を実施することを認めている。
 しかもメルケル首相は、このEUによる資金調達を常態化させず、2027年までの期限付き特例措置とすることを条件としている。
 メルケル首相は発表に先立ち、国内政界で十分に根回しを行っていた。普段はコロナ・ボンドに批判的なキリスト教民主同盟(CDU)のフリードリッヒ・メルツ氏らも、メルケル首相の提案を支持している。大連立政権のパートナーである社会民主党(SPD)は、元々ユーロ・ボンドに前向きだったので、メルケル首相の提案に賛成した。
 今回の提案は、イタリアやスペインも歓迎している。その理由は復興基金から支払われる金を返済する必要がないからだ。両国はこれまでEUが提案してきたコロナ融資については難色を示し、融資ではなく返済不要の援助金にするよう求めていた。
 復興基金案については、EUの全加盟国の議会が承認しなくてはならない。ドイツ同様にEUの資金調達に消極的だったオーストリア、オランダ、スウェーデンは、「復興基金から南欧諸国に支払う金は援助金ではなく、融資にするべきだ」と批判的な姿勢を見せている。このため、メルケル首相とマクロン大統領は他国の理解を得るための説得工作を始めるだろう。
 もっともドイツ国内の保守勢力の間には、「この提案は事実上のユーロ・ボンドだ」として強硬に反対する人々もいるだろう。中には連邦憲法裁判所に違憲訴訟を起こす者もいるかもしれない。ドイツでは、5月5日に連邦憲法裁判所が「欧州中央銀行が2015年から行ってきた国債の買い取りは部分的に違憲だった」という判決を下したばかりだ。その意味でメルケル首相の決断は、国内で法廷闘争に発展する可能性もある。

*コロナ危機は南欧諸国に甚大な経済損害

 なぜメルケル首相は、そうしたリスクを意識した上で、態度を大きく変えたのだろうか。その背景には、コロナ危機によって南欧諸国の経済状態、財政状態が悪化しているという事実がある。
 EU統計局によると、今年第1・四半期のイタリアの実質GDPは4.7%、スペインでは5.2%も減少した。これはドイツのGDP減少率(2.2%)を大幅に上回る。
 その理由は、新型コロナウイルスの感染者や死亡者数がドイツよりも多かったために、ロックダウンがドイツよりもはるかに厳しかったからだ。たとえばイタリアでは、感染者増加のスピードを抑えるために、一時食料品など生活必需品に関係のある業種以外の企業は営業を禁じられたが、ドイツではそのような措置は取られなかった。このため加盟国の経済状態の間に、格差が生じつつある。
 EU統計局によると、2019年のイタリアの公的債務の累積残高は、GDPの134.8%とギリシャに次ぎユーロ圏で2番目に高かった。ドイツのメディア界では、コロナ危機の影響で、近くイタリアの債務比率が150%に達するのではないかという憶測が流れている。2019年末の時点で、イタリアの公的債務残高は2兆4098億ユーロ(289兆円)で、ギリシャ(3311億ユーロ)の7.3倍だった。小国ギリシャはEUなどの緊急融資によって救われたが、万一イタリアの財政状態が急激に悪化した場合、救済には莫大な金額が必要になる。ドイツ、そしてEUは、コロナ危機が第2のユーロ危機になることを、絶対に避けなくてはならない。ロックダウンが緩和されると、各国間の被害の違いが露わになる。比較的経済損害が軽微なドイツに対し、イタリアやスペインの有権者の間で怨嗟と羨望の声が強まり、右派ポピュリスト政党にとって追い風になる可能性もある。このためメルケル首相は、本来使いたくなかった「EUによる資金調達」という特別なカードを切ったのだ。

*EUの結束を強めるという観測も

 この特例措置は、長期的に見ればドイツにとっても利益になる。EUはドイツにとって最も重要な輸出先だ。ドイツの輸出の約60%は、EU加盟国向けである。このため貿易に大きく依存するドイツにとって、他のEU加盟国を支援してコロナ危機の悪影響を緩和することは、自国の貿易にとっても重要なのである。
 メルケル首相は、復興基金案を発表した際にこう語った。「パンデミックによる被害には、欧州諸国の間で違いがある。このため欧州の結束が弱まる危険がある。今回、独仏が『EUは通常行わない手段を使うべきだ』と考えたのは、欧州を強化し、連帯を深める必要があるからだ」。この言葉には、メルケル首相の「欧州を守る」という固い決意が表われている。
 ドイツの政界や言論界には、「メルケル首相がマクロン大統領に大きく歩み寄り、イタリアやスペインに例外的な支援措置を打ち出すことで、欧州の政治的統合が一段と強化され、新たな段階に発展する可能性もある」という観測がある。ドイツが「事実上のコロナ・ボンド」に前向きな姿勢を見せたことで、これまでドイツに対して批判的だったイタリアやスペインの姿勢にも変化が現れるかもしれない。
 欧米ではしばしば「コロナ危機後の世界は、コロナ危機前の世界とは大きく変わる」と言われるが、独仏の大胆な提案は、パンデミックがEUに大きな変化をもたらそうとしていることを明確に示している。
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