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2019年09月24日13:16

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ロシアで行った北方領土論議 新潟県立大学教授・袴田茂樹

 下記は、2019.9.24 付の 正論 の記事です。

                        記

 ≪露側からの相異なる反応≫

 ロシアのウラジオストクでの東方経済フォーラムと日露首脳会談の直後に、同市とハバロフスク市などで私は「日ロ極東学術シンポジウム」に出席し、「平和条約交渉の行き詰まりとその背景−日本側の視点」と題する報告を行った。露側からは相異なる反応が出て、熱心な討議になった。

 2005年9月にプーチン大統領が「第二次世界大戦の結果、南クリール(北方四島)は露領となった」と従来とは異なる見解を述べて以来、「日露間には領土問題は存在しない」というのが露側の公式見解になりつつある。ラブロフ外相も「第二次大戦の結果を日本が認めることが、今後の平和条約交渉の基本条件だ」といった暴論を述べている。

 では何のための平和条約交渉なのか、というのが私の基本的な問題意識だ。ただ、露側のこのような政治状況下で、露科学アカデミーの研究所が、私にデリケートな領土問題関連の報告を認めて意見交換をしようとしたこと自体、その意気は高く評価したい。

 私は次のことを強調した。プーチン氏自身は2001年の「イルクーツク声明」でも、2003年の「日露行動計画」でも、「平和条約締結後に歯舞、色丹島を日本に引き渡す」とした「日ソ共同宣言」(1956年)と共に、「4島の帰属問題を解決して平和条約を締結する」とした「東京宣言」を、平和条約交渉の基礎になる重要な合意だと認めて署名した。しかし前述の如くその後態度を変えて「第二次大戦結果論」を主張するようになった。歴史の修正だ。

 日本側アプローチの問題点も私は指摘した。日本のメディアはかつてプーチン氏の「ヒキワケ」「妥協」といった心地良い言葉を強調したが、彼の強硬論、つまり「(56年宣言には)引き渡し後、島の主権がどの国のものになるか、いかなる条件で引き渡すかは書かれていない」といった言は長年あえて無視してきた。また首相官邸も、「新アプローチ」として露との経済協力などを推進すれば、プーチン・安倍時代に平和条約締結が可能だという楽観的幻想を抱いていた。つまり、露指導部の考え、発想法、論理をリアルに理解していなかった。

 ≪「56年宣言」は国家間の契約≫

 この私の発言に対して、露側から様々な反応があったが、典型的かつ相反する反応を伝えたい。一つの研究所では参加者が次のように述べた。「ラブロフ外相などの発言は自国民を騙(だま)すための政治的プロパガンダだ。我々が彼と同様に考えていると思わないでほしい。私はあなたの発言に同感だ」

 ただ、ロシア国民の77%が島の返還に反対しているとの世論調査もあり、露指導部の言動は国民に広く浸透している。

 他の研究所では逆に討論者が私を批判した。以下、それらの批判と私が述べた反論を伝えたい。

 「56年宣言以来、国際情勢も激変している。露国民の大部分も、56年宣言の領土条項は間違いだと考えている。国際情勢が激変したので56年宣言も意味を失い、2島も返還する必要はない」「平和条約がなくても経済協力は進展するではないか」

 これに対しては次のように反論した。56年宣言は国家間の契約である。契約というものは状況の変化で一方的に無効化できるものではない。これは単なる政治問題ではなく、露で市場経済が発達しないのも、まともな「契約」の観念が薄いからではないか。わが国には、「武士に二言はない」との諺(ことわざ)もある。また、ではなぜ昨年のシンガポールでの日露首脳会談で「56年宣言を基礎に平和条約交渉を加速する」とプーチン氏が合意したのか、とも反論した。

 ≪日本側の国際発信弱い≫

 さらに「東京宣言は国会の批准がないので単なる覚書にすぎず、守る必要はない」との批判も出た。それに対し私は、ロシア側は領土保有の根拠としてヤルタ合意を持ち出すが、これは秘密合意でどの国でも批准されておらず、日本は関与さえしていない。米大統領たちも、ヤルタ合意を米国史上最大の過ちと自己批判している、と反論した。

 大きな議論になったのは東京宣言の日本語文の「4島の帰属問題を解決して」との文言だ。批判者は「日本語の『帰属』とは元の所有者への返還という意味だ」と説明した。そして、そもそも4島の日本への返還を前提にした東京宣言の日本語文は一方的な強硬論だと述べた。これに対しては、日本語の「帰属」と「返還」は別で、東京宣言の文言は帰属先を述べていない中立的表現であり、その意味で日本にとってもリスクのある表現だ。批判者の日本語理解が間違えていると説明した。これらの討論で、一定の理解は得られた。

 私は東京宣言を日本側が無視することに納得できないし、経済協力のみを強めれば、露で「平和条約不要論」が強まることも強調しておきたい。国家主権や歴史に関わる問題で日本側の国際発信があまりにも弱いことに、強い危機感を抱いている。(はかまだ しげき)


 https://special.sankei.com/f/seiron/article/20190924/0001.html
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