続きました。
◆3日目【活動時間/8:40、行動時間/6:30】
7:05/剣山荘(標高2475m)出発、アタック開始⇒7:35/一服剱(標高2618m)
登頂(ここで7:45まで小休止)⇒7:55/武蔵のコル⇒8:55/前剱(標高2813m)
登頂(ここで9:15まで小休止)⇒9:30/前剱の門⇒9:55/平蔵の頭⇒10:10/平
蔵のコル(ここで10:20まで小休止)⇒カニのたてばい⇒11:00/早月尾根分岐
⇒11:10/剱岳(標高2999m)登頂(ここで12:00までお昼休憩)⇒12:25/カニの
よこばい⇒12:50/平蔵のコル(ここで12:55まで小休止)⇒13:00/平蔵の頭⇒
13:30/前剱の門⇒13:45/前剱(標高2813m)登頂(ここで14:05まで小休止)⇒
14:55/武蔵のコル⇒15:05/一服剱(標高2618m)登頂(ここで15:20まで小休止)
⇒15:45/剣山荘(標高2475m)に帰還、チェックイン、泊
◆写真はYAMAPへ↓
剱岳
https://yamap.com/activities/4540894
【ピークアタック】
おはようございます。朝です。遂にこの時が来ました。剱岳へのピークアタック。とは言え、今回初めてなのでアタックなのか普通の登山なのかどうにも勝手がわからない。槍の穂先は完全にピークアタックです。空いていれば肩からは往復1時間前後だし。北穂は無積雪期・積雪期、どちらも登頂しましたが、こちらは往復6時間くらい。剱岳も6時間前後の標準コースタイムですが、北穂小屋で昼食を摂ったり補給が出来たりする北穂と違い、剱は剣山荘を出発したら登頂から帰還まで完全に無補給なのです。なので、不要な荷物は当然、小屋にデポして身軽にして行くわけですが、水と行動食は普段のアタックの倍は持って行かないと心配。結果、確かに荷物は軽くなるも、多分重さは10kgはあるんじゃないか？というザックを背負って、いざ！出発です！
朝から快晴、気温も高め。この日は早朝、ほとんどの登山客は5時前後に小屋を出発してしまった。朝食は5時半〜ですが、食堂に行ったらスッカスカ。部屋もほとんど無人で、おかげでのんびりと支度が出来ましたよ。6:15、小屋を一旦チェックアウト。連泊で予約してあるのですが、夕方帰還したら再度チェックインが必要。テラスで装備チェックやルート確認、準備運動などをしながら梅さんの合流を待つ。6:45、梅さんが来た。荷物はウェストバッグだけの超軽装、ヘルメットも帽子もサングラスも無し。勇者じゃ〜！
7時過ぎ、剣山荘の裏手の道を登り始める。まず最初に目指すのは「一服剱」。出発が遅いせいで、後ろから登ってくる人はほとんどいない。プレッシャーをかけられると落ち着かないので、後ろから人が来た場合は悉く先に行ってもらう。途中2ヶ所の鎖場があるも、ほぼウォーミングアップといった感じで30分ほどで一服剱に登頂。確か山頂の証があるはずなのだが、見当たらない。木の棒の破片が2つ、落ちていたので、おそらく破損してどこかへ行ってしまったのだろう。目線を上げると視界に前剱が飛び込んできた。視野のほとんどを占める前剱の山容に圧倒される。
「え？何これ、マジでこれ、登るの？」
思わず声が出る。なんだこの無理ゲー感！このいきなりラスボスが現れた感じは！壁のような斜面なんだが、ホントにこれ、登れるのか？目を凝らすと先行している登山者が複数、張り付いているのが見える。確かにルートはあるようだけどこれ、まだラスボスじゃないよね？中ボスだよね？中ボスでこれっすか？初代バーチャロンで言うところのヤガランデか。ジグラットはまだ先か。剣山荘でもらった詳細のルートマップを見ると、前剱には3番目鎖場と4番目鎖場があり、残り9個の鎖場はまだその先。登りと下りでルートが分岐するのもその先、となっている。文字通りの序盤戦かよ。剱岳登頂の前衛峰が正にこの前剱のようである。ネットの記録とかでよく目にする「天気悪かったら取り合えず前剱まで登って様子を見る」っていうあれ、一服剱の間違いなんじゃないだろか？
呼吸を整えたら小休止終了、歩き出す。まずは一服剱を下りて武蔵のコルへ。ルートは勿論岩場だが、高低差はさほどでもない。コルから見上げる前剱は一服剱山頂から見た景色と全然違う。もうスケール感がデカすぎて、色々と遠近感がおかしくなる。しばらくはハイマツ帯に付けられたガレた道を登って行く。歩いて登れるのは出だしだけで、あっという間に手を使わなければ登れない斜度になってきた。とにかく「落石注意」である。後ろに人が居ないのは幸いだが、ここのガレ場で岩を崩したらシャレにならない。逆に上から落ちてくるかも知れない岩にも細心の注意を払う。この斜度の落石はもう、転がり落ちる岩ではなく、上空からの落下となるんじゃないだろうか。
小刻みな立ち休憩を繰り替えし、呼吸を整えながら標高を上げていく。気づけば先ほどの一服剱の山頂を遥か上から見下ろす高さまで来た。大岩にある3番目鎖場を通過、稜線に出るとここから先のルートが見える。剱岳まではまだまだある。上述の通り、剱岳の別山尾根ルートには全部で13ヶ所の鎖場があり、全ての鎖場にナンバープレートが打ってある。このプレートの番号が詳細ルートマップと照合すると現在位置を把握するのに役立つのだ。山頂直下を正面右にトラバースしながら4番目鎖場を通過。岩を一登りしてやっとこさ前剱に登頂。ここにはステンレス製の山頂の証がありました。
「うお〜！すっげー！」
標高2813m。振り返ると剱沢が一望出来る。剱沢の全景ってこうなっていたのか。真下に一服剱、その向こうの下に剣山荘。真ん中には剱沢小屋とキャンプ場が見える。左側には別山、右側には剱御前。とても歪な形をしたカール地形なんですね。外輪山の内側のような感じ。縁の外側はめっちゃ切れ落ちてる。別山尾根ルートにエスケープルートが全く無い理由が全景を見てようやく理解出来た。そして180度振り返って進行方向、剱岳の本峰とご対面。昨日、剱沢から見た通り緑が全く無い。前剱はそれでも前半半分はハイマツ帯を通って来たけど、剱岳本峰部分はハイマツすら生えていない本当にグレーの一色。ザックを降ろして中休憩に入る。水分補給は勿論のこと、エネルギー補給もしなくては。今回のルートで休憩が取れるポイントは一服剱とここ、前剱の山頂、あとは平蔵のコルと剱岳の山頂の4ヶ所しかないはず。事前の予習では、この4ヶ所以外は地形的に立ち休憩すら危険そうだ。行動食もその回数分を計算して持参した。それにしてもなんて景色だろう。もう気分的にはここがゴールでもいいんじゃないだろか？
「さ、それじゃあそろそろ、行きますかね。」
休憩を切り上げ、先頭を切る梅さんについて行く。ここから先は登りと下りでルートが異なる。我々は前剱の稜線に沿った登りルートを進む。しばらく歩くと事前の予習通り4mの鉄ブリッジが登場！右側が切れ落ちているので、強風時には特に注意が必要な場所だ。ブリッジを渡り切ると岩壁をへつる5番目鎖場だ。ここの高度感は中々のもので、勝手に「なんちゃってカニよこばい」と名付ける。一人一人間隔を空けて進む。梅さんがブリッジを渡り岩壁に取り付いたのを確認してブリッジ通過に取り掛かる。
「俺氏さん、持ってるならビレイした方がいいよ！ここマジで危ない！落ちたら死ぬ〜！」
先行する梅さんから声がかかる。うむ、確かに使うために持ってきてるんだから、使うべき場所で使うべきだろう。ギアループからカラビナを外して鎖にかける。シングルなので鎖のアンカーで掛け変えをする際はどうしてもフリーな時間が発生するが、それでもセルフビレイの安心感は大きいよ。ちなみにセルフビレイはアルパイン用の小型シットハーネスに60cmのダイニーマスリングとカラビナを付けただけのシンプルなものです。槍の穂先や妙義山の上に登った時などに使用経験あり。ちなみにカラビナだけはこだわりで、PETZLのヴィアフェラータ用カラビナ「ヴェルティゴ」のワイヤーロックタイプを使ってます。へつりが終わるとそのまま即、6番目鎖場。今度は下りです。降り立つとそこはめっちゃ狭いコル「前剱の門」。「門」とか「窓」っていうのはコル＝鞍部の呼び方です。つまり前剱の門ってことは、前剱を降りてきたってこと。この後は更なる難所、巨岩「平蔵の頭」が待ち構えている。
前剱の門から平蔵の頭の取り付きまでは、詳細マップによると「残雪期は雪渓に入り込まないように注意」と書かれているが、残雪は皆無だ。しばらく進むと7番目鎖場が見えてきた。ここは基部が下りルートの12番目鎖場の終点と被っており、降りて来る女性パーティがいるので手前でしばらく待つ。全員ビレイしながら下降しているので時間がかかり、結構待たされる。だが待ち時間も登山の一部、こういうタイミングで水分補給をしたり、呼吸を整えたりする。女性パーティーが全員下り切り、ようやく登りに取り掛かる。我々は登りルートなので右側へ。詳細マップだと平蔵の頭はスラブ状の岩壁、とあるが、その通りだった。ただ、鎖とは別に鉄杭が何本も打ってあるのでホールドやスタンスに困ることは全くない。しかしながらほぼ垂直の岩壁なので怖いと言えば怖いが・・・。
なお、この7番目鎖場は平蔵の頭を下り切るまでで一つの鎖場だった。登り切ると今度は滑り台の様なスラブ岩のクラックに付けられたルートを鎖を頼りに下って行く。これも相当な死亡遊戯だが、この頃にはもう、完全に感覚が麻痺してしまっている。自分が今どんな場所にいるのか、その行動の先に何があるのか、とかを全然考えなくなってしまうのだよ。眼前に剱岳の核心部が見えたので思わず写真を撮る。すると先行する梅さんから
「俺氏さん、何やってんの！そこ、写真ダメ！手を離さない！通過に集中して〜！」
と、怒鳴り声が。
「あっ。」
慌ててカメラをしまって体勢を整える。自分何と、三点支持が基本の岩場で、しかもスラブ岩壁の下りの鎖場で、両手でカメラを構えて写真を撮ってました。いや、危ねえ！自殺行為じゃねえか、これ！慣れというか感覚が麻痺して恐怖を感じなくなってくるとこれだわ。多分だけど、単独行だとこういうシチュエーションで事故を起こすんじゃないかな。自分の行動を評価してくれる同行者はやっぱり大切ですよ、改めて実感。
続いて8番目鎖場。岩壁をへつって登ってようやく「平蔵のコル」に到着。一段降りた大き目の平な岩の上で、ザックを降ろして最後の小休止に入る。振り返ると先ほど通過してきた平蔵の頭の全景が。俎板を斜めにぶっ刺したようなビジュアル、文字通りのスラブ岩壁だ。ここを降りてきたのか。んでもって帰りはこれを登るのか。目を凝らすと人が何人も張り付いてる。ビジュアルだけなら平蔵の頭の無理ゲー感はピカイチなんじゃなかろうか？そして180度振り返って進行方向、目の前には有名な「カニのたてばい」がある。取り付いている人の動きを観察する。ここも一つの渋滞ポイントであることは間違いなさそうだ。
剱岳登頂の正に核心部分。平蔵のコルから山頂までの標高差は約180m、そのスタートが有名な剱岳名物「カニのたてばい」である。垂直50mの岩壁を一気登りする9番目鎖場である。先行の人達が登り切るのを確認したら休憩を切り上げ、カニのたてばいの取り付き部分まで移動する。先頭は梅さん、二番手に自分、殿はHGさん。固まって動くと危険なので、最初のバンド(17m上)に到達を確認してから次が登り始めることにした。
「うっそ何これ〜！ハングしてるよハング〜！」
と梅さん。カニたての取り付きは岩の左側に一旦回り込むが、確かに取り付き部分が前傾壁になっている。無論、鎖と鉄杭があるので全く問題は無いのだが、「一般登山道の鎖場で前傾壁なんて絶対に無いから！」という持論がこの瞬間、崩れ去った。梅さんがバンドをトラバースしてチムニー状の岩の中に消えたのを確認して自分も登り始める。確かに凄い鎖場だが、ホールドもスタンスも沢山あり、しかもしっかりしているので基本を守れば何てことはない。鎖は基本、セルフビレイ用で握ることはせず、代わりに鉄杭が良い感じなので存分に活用させてもらう。鎖のアンカー部分でカラビナの掛け変えをする時が一番緊張したかな。作業中は片腕ででしか岩を掴んでられませんからね。登りながら下を見ると、岩場登りというか、これは電柱を登っているのではないか？という錯覚。落ちたら滑落じゃなくて完全に墜落。死んじゃう死んじゃう！
バンドに出て横方向にかかる鎖にカラビナをかけ、セルフビレイを取ったら深呼吸。HGさんに登ってOKのサインを送り、自分はバンドをトラバースしてチムニー状の岩へ。抜けると今度はレの字型のルンゼの中を登る感じ。ここも鎖場だが、岩が大きく乗り越える際に鎖を使ってしまった。梅さん同様、ここまで極力ビレイ以外では鎖を握らないようにしてきたんだが、まあ仕方がない。ルンゼを抜けると広い場所に出た。一面岩を敷き詰めたようなガレ場だ。もう山頂が見える。あとはこのガレを登っていくだけ。途中、標識が立っているのが見えたので、見に行ってみる。案の定、早月尾根との分岐だった。道標の矢印が指す方向を覗き込んでみる。一面の岩場、道なんてどこにもないが、どうやらこれが早月尾根のようだ。遥か彼方に赤い屋根が見えるが、あれが早月小屋だろう。スタート地点の馬場島がどこなのかは検討もつかないが、目線を上げていくと先に富山湾が見える。うおー、日本海か！山から日本海を見るのは白馬岳以来ですわ。とにかくここ、剱岳の一般登山道は別山尾根ルートと早月尾根ルートの2つしかない。ルートが2しかない山なんて、自分の知る限り剱岳の他は皇海山しかないんじゃないか？他のルートは全てバリエーション。源次郎尾根とか長次郎尾根とか。
ガレ場をえっちらおっちら一登りすると、祠の裏側に出た。祠の反対側に回ると山頂の証があった。剱岳2999m、登頂〜！ふぃ〜、登頂したぜえ！祠の前では写真撮影の列が出来ているので、並ぶ。方向的に逆光で、どうやっても写真は真っ黒になってしまうがまあ、仕方あるまい。写真を撮ったら一段下がった岩に移動してやっとこさ、お昼休憩。色々と迷ったのですが、小屋でお弁当をお願いしてきたんですね。いやホントこれ、大正解。ここまでの行動食の消費を考えると、どうしても帰り、足りなくなる計算。山頂で食べる分を下山時に充てられるのは心強い。とにかく3000m近い標高での全身運動ですからね、てか、全身運動しかしてないから。腕を使わない箇所なんて剣山荘から一服剱の間だけ。もうね、エネルギー消費がハンパないっす。同じく晴天なのは嬉しいけども暑さがシャレにならん。発汗量も尋常じゃなくて、食料よりも帰りの水が心配ですよ。
お弁当を食べて人心地着いたら360度の絶景パノラマを堪能する。剱沢と富山湾側は登っている時から見えてたのであれですが、山頂に着いたら今度は後立山連峰が丸見え〜！正面に白馬山、そこから時計回りに杓子岳・白馬鑓ヶ岳の白馬三山、そして唐松岳・五竜岳・鹿島槍ヶ岳・爺ヶ岳・・・。脈々と連なる北アルプスの山々。後立山連峰と自分たちの間の谷には黒部湖が(剱岳からは見えないんですが)。そう言えば1日ズレでうちの弟氏がチームO野の皆さんと五竜・鹿島槍を縦走しているんだった。スケジュール的に今日は五竜山荘に泊まるって言ってたので、もしかしたらこの時間、五竜・鹿島槍チームも稜線に上がって「わー、剱岳だー！やっほー！」なんてやってるかも知れませんね。ちなみにもう1チーム、元うけもち登山部の副部長のパーティは自分らと同じ日程で裏剱にいたそうです。下山してから聞いたのですが、黒部湖から内蔵助⇒真砂沢⇒阿曽原温泉⇒水平歩道⇒欅平と歩いていたみたい。元うけもち登山部の主要メンバーがほとんど、同じ日程で同じ山域にいるとは！こういうこともあるんですねえ。
その��に続く・・・。
■写真解説
�（紳△離灰襪�ら見上げる剱岳の本体。もう、これでもか！というくらいの岩！岩！岩！「岩の殿堂」という二つ名は伊達じゃねえ！
��剱岳名物「9番目鎖場/カニのたてばい」！50mの大岩壁を一気登りする、剱岳本体の正に核心部分！
�Ｑ�岳(2999m)に登頂〜！一般登山道国内最難の山を制覇〜！でも、無事に下山するまでが登山です。
ログインしてコメントを確認・投稿する