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2019年06月10日15:25

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日曜に書く 東シナ海で「令和」を考えた 論説顧問・斎藤勉

 下記は、2019.6.9 付の 産経ニュース の記事です。

                        記

 ◆第一列島線の間近

 平成から令和への御代替わりを東シナ海の洋上で迎えた。東京を出て台湾・基隆港を折り返すイタリア客船でのボーッとした船旅だったが、航路をつぶさに知らされたときはいささか戦慄を覚えた。鹿児島から沖縄本島、宮古島、石垣島、そして中国船が日夜領海侵入する尖閣諸島…。中国が米軍を放逐してまず制海権を握る最初の目標ラインである「第一列島線」の間近を通っていたからだ。

 中国・習近平政権の巨大経済圏構想「一帯一路」への参加を決めたイタリアだからか、この客船はもともとが膨大な中国人観光市場を当て込み、日本人客を乗せるのは最初で最後とか。しかも船室のテレビは大半が中国のチャンネル。今年が全国規模の反日「五・四運動」から100年とあってか、番組は「抗日」ドラマのオンパレードである。「日本鬼子」「打倒日本帝国」…。クルージングを楽しもうという自国民に、これでもか、これでもか、と日本への敵意を刷り込もうという算段なのだろう。

 図らずも米中覇権争いの影と中国の執拗(しつよう)な「反日」宣伝の一端を知らされる旅になった。

 ◆天安門での白昼夢

 30年前の1989年正月。昭和から平成への変わり目は共産主義の総本山、ソ連のモスクワ駐在だった。ゴルバチョフ政権のペレストロイカ(再編)で東欧共産諸国が瓦解(がかい)を始め、ベルリンの壁が崩壊した年だ。その5月中旬、「歴史的な中ソ和解」のため訪中したゴルバチョフ氏に同行して北京に入った。

 天安門広場一帯はソ連圏民主化の立役者である「ゴルビー」を歓迎する何十万という若者の熱情で燃え盛っていた。ふと気付いたとき、私は「李鵬(首相)下台(退陣)!」の大デモの取材で一緒に抗議の拳を突き上げていた。文化大革命報道で産経の北京支局長が不当に追放されてすでに20年以上経っていた憤りもあったのかもしれない。「ひょっとして中国はこのまま共産党独裁放棄に追い込まれ、崩壊するかも?」。それは甘く、愚かな白昼夢だった。広場はほどない6月4日、武力弾圧で悪夢の流血現場と化した。

 それから3年後、中国は天皇皇后両陛下のご訪中を巧みに政治利用して、国辱的な天安門事件による国際的孤立と経済制裁から脱却した。これを踏み台に中国は平成の過去30年間、米国と覇を競い合うまで経済・軍事大国として増長してきた。

 米国の著名な中国分析家、M・ピルズベリー氏は著書『100年のマラソン』で中国は建国100年を迎える30年後の2049(令和31)年を目標に「経済、政治、軍事の各分野で米国を完全に追い抜く超大国となり、自国の価値観に基づく世界秩序と覇権を確立しようとしている」と警鐘を鳴らした。これに呼応してM・ペンス米副大統領は昨年10月の講演で中国を「過去に例のない監視国家」と呼んで全面対決の姿勢を鮮明にした。軍事戦略家、E・ルトワック氏は「対決は共産党独裁体制の崩壊まで続く」と断言している。

 ◆中国との「最後の激闘」

 換言すれば、令和は日米同盟が中国といわば「最後の激闘」を余儀なくされる時代なのだ。だが、いまの日本にその認識と覚悟があるとはとても思えない。そんな折も折の5月、ソ連東欧共産圏の体制悪を描いた映画を立て続けに見た。生皮を剥がすような共産党独裁体制の残忍さを理解するうえで特に若い世代にはお薦めの作品だ。

 ソ連の世界的なバレエダンサーだったルドルフ・ヌレエフが1961年6月、客演先のパリの空港で監視の秘密警察を振り切って決死の亡命を敢行する英国映画『ホワイト・クロウ(白いカラス)』。天安門事件後の活動家らの相次ぐ亡命劇やいまの「脱北」さながらだ。

 もう一本はドイツの『僕たちは希望という名の列車に乗った』。ベルリンの壁構築(61年)前の56年、東ベルリンから首尾よく西側の映画館に潜り込んだ2人の高校生が画面で「ハンガリー動乱」を知る。「東欧の天安門事件」ともいうべきソ連軍による民主化弾圧事件だ。クラスに戻って犠牲者追悼の黙祷(もくとう)を呼びかけたことが「国家への反逆」だとして当局の苛烈な尋問責めにあい、ついには西へ脱出する。いずれも実話だ。

 甲板で東シナ海の風に吹かれながらふと、ある不安が頭をよぎった。近い将来に日本公式訪問が取り沙汰される習近平国家主席が日米分断狙いで今度は新天皇の中国ご訪問をもちかけてきはしないか−と。(さいとう つとむ)

 https://www.sankei.com/column/news/190609/clm1906090006-n1.html
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