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2018年11月10日12:12

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表現の自由をめぐる、ある悲劇の記録

はじめに

これから私が綴るのは、本当に起こったある表現を巡って起こってしまった、絶望的で地獄のような悲劇です。
あるひとつの表現を守るために、人一人が世の中の物事に対して意見を述べることを不特定多数の人間が口を塞いで潰し、その相手が消えようと殴り続けることは、果たして正しいことなのでしょうか?

第一章 抱き枕

ことの発端は2018年10月31日。
世間では渋谷の街でのハロウィンの狂騒が報じられている只中でした。
その日私は、あるアニメ作品のグッズが発売されるという情報を目にしました。
そのアニメは、「SSSS.GRIDMAN」(以下グリッドマン)
1993年に放送された特撮ヒーロードラマ「電光超人グリッドマン」(以下原作版)を原案としたTVアニメです。
私自身もこの作品は楽しく視聴しておりました。

このグッズの発売が、アナウンスされる時までは。

私が目にしたグッズは、グリッドマンの登場人物宝多立花と、新条アカネのあられもない姿の描かれた抱き枕カバーでした。

グリッドマンには、原作版と同様にヒーローであるグリッドマンと共に戦う少年少女と、グリッドマンと敵対する何者かに加担する同年代の若者という構図が存在しました。
宝多立花はグリッドマンと共に戦う側の、新条アカネはグリッドマンと敵対する側の少女でした
彼女達の下着姿や、シャツやパーカーを羽織っただけで下着は身につけていないと思しき扇情的なイラストが、その抱き枕カバーには描かれていました。

それを見た時、私はこれは公式に出していいグッズなのか?と疑問に感じました。
私が最初に問題だと感じたのは、この抱き枕カバーはキャラクターを公式に性的に消費してもよいとアナウンスしているように取れるということです。
グリッドマンは特段美少女キャラクターやお色気サービスを前面に押し出した作品ではなく、ヒーローアクションアニメです。
ましてや成人向け作品でもありません。
そうであるにも関わらず、女性キャラのあられもない姿を公式グッズとして見せたのは、立花やアカネを性的消費してよい、というお墨つきを与えたと解釈されても過言ではありません。
事実、そのようなツイートもTwitter上では見受けられました。
アニメやゲームなどのキャラクターで性欲を解消する−−おかずにすること自体を私は否定はしません。
しかしながら、同人誌などの非公式の形でそれをやるならまだしも、公式にそれを行うことについては先述のような疑問が残ります。

奇しくも、これの少し前に少女型ロボットという設定のプラスチックキット「メガミデバイス」のキャラクター、朱羅(アスラ)忍者と朱羅弓兵の抱き枕カバーの発売もアナウンスされていましたが、これについても私はロボットという設定を鑑みてもなお、疑問を感じました。
ファンが非公式な形でやるのではなく、公式に性欲のはけ口にするグッズが販売されるのは、キャラクターを「性的に消費するためのエロい記号」としか考えていないようにしか思えませんでした。
そもそも、私が見た限りではグリッドマンに露骨なお色気サービスシーンは皆無でした。
そういう作品の世界観と合致しないという点でも、この抱き枕カバーには疑問がありました。

そして、私以上にそのことについて疑問や批判的な意識を抱いていた一人の人間が居ました。

この人物こそがこの一件の主人公、いや、「被害者」です。

第二章 批判する者

その人物の名前は絢辻かなた、某放送局に勤めている女性でした。
私が彼女を知ったのは2017年、Twitterでのことで直接の面識は存在しませんでした。
絢辻さんの様々な興味深い発言をフォローしている方のリツイートで目にして、10月31日当時まで相互フォローしていました。
絢辻さんは、いわゆるフェミニズムを唱えていた人物で社会における女性差別や表現、または男女平等について日頃から発信し続けていました。
一方で、本人も自称するオタク趣味の持ち主で、特撮ヒーロードラマを愛好し、ガンダムシリーズも見ていたと語っていました。
私がフォローした当時は、その頃アニメ化された小説「Fate/Apocrypha」の登場人物の公式フリー素材をアイコンとしていました。
絢辻さんは、そういう特撮とアニメを愛するファンとしての観点からグリッドマン抱き枕カバーや、それについて肯定的な声やグリッドマンの主題歌アーティストの抱き枕カバーを茶化す発言を批判していました。

しかしながら、絢辻さんに浴びせられたのは謂れのない誹謗中傷でした。
この一件以前にも彼女はその発言が災いしてフェミニストやフェミニズムを嫌悪・憎悪するオタク男性や女性嫌悪者−−ミソジニストからの誹謗中傷に晒されていました。
今年に入ってからは、質問箱というTwitterと連動したウェブサービスで殺人予告や誹謗中傷を受け続け、さらにはグロテスクな画像を送られて、元より患っていたうつ病が悪化してしまったとも語っていました。
しかしながら彼女は、それに屈する素振りを見せることなく振舞っていました。
ところが、その日彼女はある一言を呟いていました。

「ヒーローなんかいない」

今思えば、それは彼女の嘆きであり、絶望の顕れであり、そして、「遺言」だったのかもしれません。

第三章 踏みにじられた声

翌日、私は自身のTwitterのタイムラインにある異変に気づきました。

「絢辻さんがいない」

他のフォローした方々のツイートやリツイートは見れるのに、何故か絢辻さんのツイートやリツイートが見当たらない。
それは、私がフォローした人数が減っていたことや、通知欄からも明らかでした。
しかしながら、私はこの時彼女はオタク男性達の嫌がらせで凍結されたのではないかと考えていました。
過去にも、絢辻さんのアカウントにはこの様な事例が起こっていました。
その時は嫌がらせ目的の通報がきっかけだったように記憶しています。
嫌がらせでの凍結であれば絢辻さんはいずれ戻ってくるだろう、私はそう思いながらもグリッドマン抱き枕カバーの件で彼女に嫌がらせ通報を行なったであろう相手への怒りを胸にしていたのでした。
ところが、事態はそれよりも深刻なものとなっていたことを、この時の私は知りませんでした。

翌日、とあるSNSで私は絢辻さんの件について目を疑う事実を知りました。
それは彼女が、アカウントを削除したというものでした。
このこととの因果関係はわかりませんが、成人向けゲームブランド「オーバーフロー」を擁する有限会社スタックのメイザーズぬまきちこと大沼明夫氏が、絢辻さんに関してデマ−−虚偽の情報を流していたのです。

「絢辻かなたの正体」として、彼女と同じ団体職員の女性が絢辻さんであると自身のTwitterアカウントで紹介していました。
もっとも、絢辻さん自身は過去に独身であると語っており、この一件以前に25歳になったとも公言しており年齢も違うため、すぐに嘘とばれるレベルのものではありました。
その後大沼氏は、「絢辻かなたは以前紹介していた団体職員になりすましていた」と自身のTwitterで再度投稿し、絢辻さんに関する個人情報を募り始めました。
大沼氏の行動は、あたかも絢辻さんが他人になりすましていた悪人であるかの如く宣伝する名誉毀損であります。
また、大沼氏は絢辻さんの個人情報を手に入れた後にその情報をどの様に利用するつもりだったのでしょうか。
考えたくはありませんが、本人宅への電凸−−電話による攻撃などの迷惑行為の煽動を目論んでいたのかも知れません。
大沼氏には抗議しているのですが、何も大沼氏からの返答はありません。
仮にも会社を預かる人間が、何故軽率に一般人の個人情報を手に入れようとしたコトには本当に疑問が残ります。

彼女がアカウントを削除してもなお、このような嫌がらせが行われ、そして11月5日、最悪の事態が起こってしまいました。

絢辻さんご本人のアカウントから、「死亡報告」が出されたのです。
この死亡報告が、「絢辻かなたとして活動していた人間自身」の死だったのか。
それとも、「絢辻かなたというアカウント」の死であり、彼女は今も生きているのか。
あるいは、何者かによる悪質な乗っ取り行為なのか。
真偽とその安否は明らかではありません。

ですが、絢辻さんがグリッドマン抱き枕カバーを批判したことによって、苛烈な嫌がらせを受けて、言葉と意見を発信する自由を踏みにじられたということは、紛れもない事実です。
この「死亡報告」以降、「絢辻かなた」を名乗るアカウントが現れていますが、これにはなりすましではないかという疑いが掛かっています。
「死亡報告」以降も、絢辻さんは悪意による攻撃を受け続けているのです。

この一件が起こってしまったことによって、私はもうグリッドマン−−SSSS.GRIDMANを見ることが出来なくなりました。
たかだかグッズを批判した者に、正当な批判などとは到底言えない攻撃を行うという悪魔の所業を目の当たりにしてもなお、グリッドマンを何事もなかったかのように楽しむことなど、もはや私には出来ませんでした。

第四章 守られるべき表現

絢辻さんは何も、グリッドマン抱き枕カバーを撲滅しようとしていたわけでも、グリッドマンの放送を打ち切らせようとしていたわけでもありません。
ただ、このようなグッズを公式に販売することへの批判をしていただけにすぎません。
オタク男性の側からすれば、グリッドマンを−−「表現」を守ろうとしたのかもしれませんが、それにしてもアカウント削除にまで追い込むのはやりすぎです。
そもそも、繰り返しになりますが彼女はグリッドマンを脅かす意思などありませんでした。
ひとりの特撮ヒーローやアニメを愛する人間として、疑問を抱き批判しただけなのです。
絢辻さんの行動もまた、表現のひとつの形だったのです。

表現の自由という言葉から皆さんが思い浮かべるのは、絵画や音楽など芸術活動やアニメや漫画の様なサブカルチャーの分野が多いかもしれません。
ですがそれだけではありません。
日本国憲法第二十一条に、以下のような条文があります。

集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

今回の件でいうならば、グリッドマン抱き枕カバーは表現です。
ですが、絢辻さんが行ったような批判もまた、表現のひとつなのです。
それではオタク男性たちが、絢辻さんに質問箱に殺人予告をしたりグロテスクな画像を送りつけたりと嫌がらせを続け、アカウント削除にまで追い込むような行為が批判−−表現のひとつと言えるのでしょうか。
私にはそれが批判だとは思えませんし、彼女をアカウントを削除させるまで追い詰めたのは表現の自由の侵害に他ならないと考えます。
無論、大沼明夫氏のようなデマの流布や個人情報を嗅ぎ回る行為は単なる嫌がらせです。
そしてもしも、「死亡報告」が事実ならば、彼らの行いはただのリンチの末の殺人と何も変わりはありません。
現在の日本の法で裁けるかはわかりませんが、それは明確な罪です。

創作なり言論なり、表現が差別煽動−−ヘイトスピーチに当てはまったり、デマやフェイクニュースの様な虚偽だったりしない限りは、私はそれは尊重すべきだと考えています。
また、それが今回のグリッドマン抱き枕カバーの様な性的消費のような問題点を抱えていたなら批判することも尊重すべきですし、それへの賛否を述べることも同様です。
ですが、批判者を誹謗中傷し、あまつさえその言論を踏みにじることは絶対に尊重すべきものではないと私は考えています。
しかも今回は、命さえも失われている恐れがあります。
過去にも、女性が何らかの表現について批判的な意見を述べた際には誹謗中傷や嫌がらせが行われ、中には相手を笑い者にして批判を無効化しようとしたこともありました。
女性差別の問題となると表現の自由問題から若干ずれる恐れがあるのですが、性別によって意見や表現の自由を軽んじる様な感覚、ネットにおける風潮もまた、絢辻さんを絶望に追い込んだ一因だと考えられます。

おわりに

この文章は、私が自身のTwitterに投稿したツイートを元として、その後に起こったことを加えて書き直しと内容の取捨選択をしたものです。
今回の絢辻さんの一件に至る以前にもネットにおいて女性の声は様々な形で踏みにじられ続けていました。

汚い言葉という表面だけで、Twitterアカウントを凍結された女性(これは女性だけに限りませんが)。
強姦の被害に遭い、セカンドレイプ−−被害者にも落ち度があるとして責め立てる二次加害を受けた女性。
ちゃんとした取材をせずに悪意と差別意識に基づいたデマを全国放送されたテレビ番組で放送され、日本を離れざるを得なかった女性。
そして、今回の絢辻かなたさんの件は命が失われた恐れがある、行き着くところまで来てしまった最悪の事例です

このような事態が起こる背景には、根深く残る女性差別やオタクのフェミニズムとフェミニストへの無理解や過剰な敵視、ネットという他人の顔の見えない空間での暴走と、様々なものが考えられるでしょう。

この文章を読んでくださった皆さんと、今回のグリッドマン抱き枕カバー事件を知る方々、そして、何も知らなかった方々に私は言いたいのです。
この先、いずれ表現を巡って批判や問題提起が起こることがあるでしょう。
ですがその時に、誰かの言葉に流されてその相手に批判とは言えない過度の攻撃をする前に、相手の言葉を一度受け止めて、ご自身の頭と心で、考えていただきたいのです。

それがヘイトスピーチのような差別や、デマやフェイクニュースのような虚偽の流布でない限りは、それは足蹴にしていいものでも物笑いにしていいものでもなく、表現や意見として受け止めるべきものなのですから。
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