皆さんは『悪貨が良貨を駆逐する。』という言葉をご存知かと思います。
かって、金貨の金の含有量を下げた改鋳が、経済政策として行われていました。
日本で例えれば、１両小判の金の含有量を半分にしたと考えたら判ります。
１両が２両になる訳ですから、政府(幕府)は盛に改鋳しましたから、良貨である旧１両小判は無くなります。
中には隠匿する人も居たでしょうから、こうして改鋳された後には旧１両小判(良貨)は
駆逐され、悪貨である新１両小判だけが流通する事になる訳です。
これは単に貨幣だけの問題では無く、経済や社会生活でも見られる傾向です。
私が以前から書いていますように、普遍的な工業製品(家電・自動車・スマホ等)の場合では、性能の差が価格の差として受け入れられない場合には、安い人件費(経費を含む)を求めて生産拠点は移動します。
先進国に比べて教育水準が低い発展途上国に生産設備を移す事で、価格競争力を確保しようとする訳です。
国民所得が低い〓教育水準が低いというはっきりした傾向が存在する訳ですが、この場合の考え方としては、製品の初期故障率の低下等に伴うコスト増も、この人件費の低下で補えるという事なのでしょう。
かっての日本国内生産だけの製品では、故障率がアメリカのNASAの基準の１００倍以上とも言われていましたが、現在ではそれは夢の世界の話だと感じられます。(正解なデータは判りませんから世間の評判から判断しました)
この教育水準や所得水準を、高い〓良貨、安い〓悪貨として考えてみたら判ります。
生産拠点を移した事が、生産管理の劣化を生んだとも言える訳です。
象徴的な出来事として、自動車各社で何度も起きている不正検査やデータの改竄で、これは、たまたま日産のゴーン会長逮捕もありましたが、日産危機以前では、考えられない話なのです。
ゴーン改革と持て囃されましたが、その中身には、それまでの厳格な製品管理が、結果として甘くなった〓お金をかけなくなったからだと思います。
同じ事が、外国人労働者の受け入れにも通じます。
日本語が理解できるかという問題は、仕事の効率に直結しますから、外国人労働者は当然給与水準は安くなる訳です。(言葉の問題で、細かなニュアンス等は特に伝えにくい訳です。)
しかし、ここで問題が生まれます。
基本的な技術さへあれば、言葉の問題はある程度はカバーでき、サブとして、又は補助者としては使える訳ですから、この給与格差は、必ず安い方に寄っていきます。
それは、日本人のサブや補助者と、これら外国人労働者の差が僅かだと判断されたら、必ず外国人労働者の賃上げよりも、日本人労働者の賃下げに動くと思われるのです。
作業効率が２割程度の違いなら、メーンの日本人は自分の成績の事もありますから、必ず頑張って、１割程度は補うと思われますから、賃下げすればその程度の効率の悪化は差し引きすれば得という事になるのでしょう。
サブや補助者として外国人労働者を現場で使う労働者も、外国人労働者を上手く使わなければならないという心労は増えるのに、サブや補助者との所得格差が大きいと思われたなら、当然安い方に寄っていきます。
これは高い給与水準〓良貨が、安い給与水準〓悪貨に駆逐される事になる訳です。
これは経営者の立場で考えてみたら判る事であり、なるべく安く人を使いたいのは当たり前であり、労働組合が弱い日本では、労組幹部は、必ず職場確保という大義名分で認める事でしょう。
大企業がそう動けば、日本の風土としては必ずそうなるのは、判り切った話です。
資本主義が言う自由競争とは、競争相手を価格競争に引き摺り込んで、資本力の差で撤退させる事の他に、それを口実にしての給与の抑え込みもある訳です。
寡占状態になれば、莫大な利益がある訳ですから、企業活動の中にこのような理由の賃下げ圧力は入る訳です。
今は信奉者が少なくなった共産主義や社会主義ですが、資本家(経営者)対労働者として考えた場合、富(利益)の再配分を労働者が主張できるという土壌を作ったという功績は、確かにあったのです。
大企業が福利厚生にもある程度の配慮し充実させ、曲がりなりにも毎年賃上げをする事で、会社と対立する要因が減少し、その結果として共産・社会主義の主張に魅力が薄れ、トドメとしてソ連や中国で新たな党幹部という特権階級が生まれて、国民の自由への弾圧等も行っていると、広く知られた事もあり、その思想自体が魅力を失ったのです。
勿論、成長力が低い状態で落ち着き、物価も安定した状態になると、大きな賃上げが無くてもストライキに訴えても賃上げという雰囲気も失せ、労組は求心力を無くしていきます。
特に日本では、労組は企業内労組の連合体であり、外国のように職種ごとではありませんから、尚更、経営者に対抗するには弱い部分があるのです。(企業が倒産したら失業という事になります。)
もう１つ大きな魅力損失の理由として、組合の業界としての連合体の、専従幹部の労働貴族化も、大きな原因としてあげられるでしょう。
彼等は、必ずしも労働者全体の事など考えてはいません。(私の偏見かも知れませんがそう見えます。)
派遣法改悪の時も、彼等は、就労(職場)確保の大義名分の元、大した抵抗もせずに受け入れました。
一般の労働者も、共産主義や社会主義に対する幻滅が広がるにつれ、これらの労働貴族を養う事がバカらしく感じられるようになった為か、労組の組織率が急速に低下してしまいました。
そんな現状でも、彼等労働貴族は変わりません。
今回の外国人労働者受け入れに対しては、もっと労働者や労組が声を上げ、盛んに議論をし、その議論を拒否し、成立に邁進する政府に対しては、デモで国会を包囲しても良いと私は思います。
私がここまで書いてきたような懸念が、完全に払拭され、外国人労働者が技能を習得して、実質的に移民になったとしても、彼等が日本社会に融合してくれるなら、それも善しとします。
しかし、在日二世や三世の問題を考える時、複雑なこの問題の他に、新たに潜在的な人種問題が生まれる懸念は大きいのです。
私は人種差別論者ではありませんが、やはり民族に固有の考え方や習慣の差はありますから、日本人の移民のように、その国に溶け込む努力をするなら大歓迎ですが、日本の中に自国を持ち込むなら、移民とかした外国人労働者の増加と共に、日本人としてのアイデンティティーが失われる事になります。
その懸念を払拭する為のシステムも、本来なら外国人労働者受け入れ拡大とセットであるべきで、それが欠けている限り、賃金の問題だけでなく、労組が動員をかけて、デモで国会を包囲するべきだと私は思うのです。
私は、過去の記事を確認して頂けば判りますが、思想的には左派ではありません。
天皇家を国家の象徴とした改定民主主義者ですが、このような国家の根幹に関わる事で、ましてやそれが労働問題であるのですから、労組が動員してのデモには大賛成をいたします。
共産主義や社会主義は、ユートピアを目指す理想主義的な側面もありました。
ですから前世紀の初期には、全世界的に若者を中心に知識層にまでその思想は浸透し、信奉者以外にも大なり小なりの影響を与えました。
労働者と経営者との立場の強弱を埋め、所得格差を埋めようというこの思想は、現在の富の偏在・所得格差の拡大を考えた時、実は理想主義としては良貨だったと思われるのです。(あくまでも理想主義としては、です。現実的には実行には問題が多いと考えています。)
その思想が生んだ労組も、本来は良貨であるべきなのですが、それをミニソ連やミニ中国と化してしまった労働貴族達が、幻滅をばら蒔いてしまったのです。
労働貴族こそが悪貨であり、ここにも悪貨が良貨を駆逐した実例があります。
資本主義とは、根本的には弱肉強食の思想を含む物であり、寡占状態になった市場に、競争からくる適正価格は存在しません。
記憶だけで書きますから間違いがあるかも知れませんが、百均で買える商品が、自衛隊に納入された金額では、数千円になるという話を聞きました。
これなどは、寡占状態では適正価格にならないという好例だと思います。
又、資本主義は必ず貧富の差を拡大していきます。
それを少なくとも食い止め、富の偏在を減らすには、資本主義という、人間のストレートな欲望を表現したような怪物に対して、そのアンチテーゼになるような思想が必要なのです。
残念ながら、米ソ冷戦が終了した後は、共産・社会主義思想は急速に魅力を失いましたが、富の再配分を旗印にし、新たに労働組合運動を展開する事も可ではないでしょか？
勿論、私は私が提唱した『神聖民主主義』こそがアンチテーゼ有り得ると考えていますが、賛同者が居ない現在では、労働組合運動に期待するしか無いのです。
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