mixiユーザー(id:429476)

2018年08月19日19:18

506 view

落合芳幾

太田記念美術館で開催中の落合芳幾に行きました。

↓以下、公式HP
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/2018/yoshiiku

フォト フォト

フォト フォト 

フォト

落合芳幾というと、弟弟子の月岡芳年とコラボした(って言うのか?)、英名二十八衆句が有名で、血みどろ絵のイメージが強いと思うのですが(そして、私もそうだったのですが)、こんなに何でも描けた人だとは思いませんでした。横浜絵、戯画、役者絵、美人画等々。そして、妖怪などではない、普通の女性を描いた美人画なら、芳年より芳幾の方が上手い!と思いました。
芳幾が、東京日日新聞(現毎日新聞)の新聞錦絵を描いていたコトは知っていたのですが(観たコトもある)、そもそも東京日日新聞の創刊に関わっていたと初めて知りました。きちんとメディアの流れが読める人だったんだな…と。でも、晩年は借金取りに追われて大変だったとか。

落合芳幾。1833〜1904。国芳の門人です。1849年、17歳で国芳に入門。1854年頃、単独で作品を発表するようになったらしい。明治5年の40歳頃、日日新聞の創刊メンバーになっている。そこで、新聞錦絵の東京日日新聞を作るのね。

『源平盛衰記 伊豆ノ図山木合戦』加藤景廉が山本兼高の屋敷に夜討ちをかける場面。当時は本能寺と重ねて観られていた。国芳が同じ場面を描いており、左右反転させると、この絵とほぼ似た構図になるそうな。中央に加藤。薙刀を持って応戦。山本は障子向こうから刀を持ち、加藤を見つめる。矢が飛交い、首に矢が当たり血まみれで座り、こと切れている人も。左の階段の描き方が、ちょっと妙。

『善悪思の案内』悪展でも観たやつ。中央に女に連れられて行く男。悪の擬人化が、釣り糸を持ち、男を釣ろうとしている。右の男女と子供はおそらく男の身内。子供は泣いている。善の擬人化は男の着物の裾を持ち、身内の元へ帰そうとするも、男はガン無視。左の男女は廓の関係者だろう。「してやったり」の顔。擬人化の悪と善がとにかく可愛い。今ならショートアニメのキャラになる。

『源平盛衰記 長門国赤間の浦に於て源平大合戦平家亡びるの図』3枚続き。中央で義経が八艘跳びをしてる。右に船上で薙刀をふるう弁慶。壇ノ浦の様子なのだが、武者が入り乱れて、どうにもごちゃごちゃし過ぎ。若い頃の作品だからかな?

『猛虎之写真』1860年、生後8ヶ月の豹がオランダ船から横浜に来て見世物になった。でもタイトルは虎?って思ったら、そういや当時は豹は雌の虎だと思われてたんだっけ。鶏を片手で掴む豹は口を開けて吠えている。芳幾や暁斎や広景は実際にこの豹を観てるらしい。枠内の美女は何者?

『今様擬源氏 四十一 幻 新中納言平知盛』源氏物語の和歌から連想した物。平知盛が巨大な碇を担いで海に身を投げた場面。割とアッサリ描かれるも、知盛の顔は恨めしげ。全体に青摺り。水中での髪の広がり方がリアル。

『弥次郎兵衛と喜多八』これは肉筆。“東海道中膝栗毛”より、藤沢の茶屋。冷えた団子を焼き直して貰ったが、喜多八は消し炭が付いているコトに気付かず食べ「あつい、あつい」と大騒ぎ。それを見て笑う弥次郎と茶屋の婆さん。遠くに藤沢の遊行寺。かなり大きい絵なのだが(軸になってる)、これを肉筆って、どういう人が注文したんだろ?弥次喜多ファン?
他にも弥次喜多の絵があったが、原作にない場面を補完して描いた物だった。今で言う2次創作みたいもの?

歌舞伎俳優の似顔絵を動物にしたり、西洋から伝わった写真の表現を木版画に取り込んだりしているが、これは、国芳の影響らしい。

『龍宮の日待』夜籠りする擬人化された海の生き物。タコは8本足で三味線、鼓、笛、鈴等を同時に奏で、伊勢海老は腕相撲(海老が青いのは、まだ生きてるからよね?)、フグは太鼓腹を叩き得意げ。「どっかで観た絵」と思ったら、一部のキャラを国芳の“竜宮遊び さかなげいづくし”から拝借。

『諸鳥芸づくし』擬人化した鳥が得意の芸を披露。鳥達は顔は鳥で体が人間の鳥人スタイル。メジロは尻で相撲を取る押し合い(メジロ押し?)、セキレイは突き出した尻を振る尻振り。雀は踊り、蝙蝠はキメ顔で三番叟。鸚鵡は声真似。昔は蝙蝠も鳥に含んだんだね。

『与ハなさけ浮名の横ぐし』“八幡祭小望月賑”に取材。人気歌舞伎俳優達が全員猫の顔。リアルキャッツである(笑)。

『マケロマケヌ 売買大合戦』開港以降日本の経済は変動が激しく、物価が高騰。小判を大将とする貨幣軍と、米俵を大将とする商品軍の戦い。擬人化ね。「まけろ(安く)」「まけぬ」と争っている。酒樽が中央でさすまたをふるう。升が傍に落ちている。大豆に砂糖、二分金、一分銀は刀を持ち対抗。油は倒れ、中の油が頭から出ちゃってる。その横に“油ツギ信”。武将の名前をもじったダジャレだね。糸巻の名前は“細井伊登太(ほそい いとだ)”。巻紙は“白井半四太(しろい はんしだ)”。楽しい風刺画。外国のコインも右下で倒れている。これ、国芳も似たようなの描いてなかった?

『写真鏡 大象図』象に極端で大げさな陰影がついている。周りを油彩画風の額縁っぽくしてある。西洋画っぽくしたってワケか。象の周りには西洋人らしき人々。この絵にも国芳の影響があるよね?

『くまなき影』波月亭花雪の三周忌追善の絵本。冒頭に柴田是真の花雪の肖像画が掛けられた座敷の図があり、その後、芳幾による興画舎のメンバー達の横顔が影絵で描かれる。彼らの略伝等と共に掲載されている。展示してあったのは、筆を持ち絵を描く芳幾本人のシルエット。

『俳優写真鏡 四代目中村芝翫の白拍子花子』輪郭線を排し、色彩の濃淡で写真風の陰影を施した絵。全体的に紗がかかっているよう。湿板写真を意識している。白拍子姿の微笑む芝翫。パッと見、ちょっと不気味かも。似たような絵が後2枚展示してあった。

『一勇斎国芳像』国芳の追善&訃報を伝える死絵。紙と筆を持ち座る国芳像。他に芳富も死絵を描いているらしい。師匠の死絵は、門人としてそれなりの立場にないと描けない物なんだって。

慶應2〜3年。芳幾が34〜35の頃、弟弟子の芳年と英名二十八衆句を描く。歌舞伎や講談を題材とした血みどろ絵が主。

以下、英名二十八衆句より。
『十木伝七』通辞の幸斎典蔵に逆恨みされ、大勢の前で辱めを受けた伝七。それに怒った伝七は、国分寺に忍び入り典蔵を殺害。シャンデリアが上にある。伝七は右足を上げ、今まさに踏み込もうとしている。右手に血刀。下にオレンジのグラデの光が入っているが、これは何だろう?

『鞠ヶ瀬秋夜』秋夜=丸橋忠弥。由比正雪と共に幕府転覆を企む。しかし計画は露見。秋夜が落としたのか、捕り手が梯子から落下。秋夜は、梯子を掴み、血刀を振り上げる。秋夜の右足には槍が刺さり血まみれに。足には血の手形の跡もついている。

『遠城治左エ門』左衛門と喜八郎の兄弟。末弟を殺害した生田伝七郎に仇討しようとするも、伝七郎の門弟に騙し討ちにあい、2人とも殺される。左衛門は青い顔で血まみれ。飛んできた矢は体に刺さり、彼の周りにはいくつもの投げられた石。血刀を持つも、顔は口を結び悔しげ。足は踏ん張るも力は入ってないような…。因みに、英名〜では、芳年は弟の喜八郎が倒れる場面を描いている。

『仁木直則』龍の絵の衝立の前で血刀を持ち立ちすくむイケメンな仁木弾正。衝立の龍が恰好良く、芳幾の名前と落款が衝立の中にある趣向も良い(龍の絵を描いた絵師っぽくってコトね)。外記を油断させ殺そうとするも返り討ちにあった姿。顔は唖然としてるようにも見え、立ち方から、肩で息をしてるように見える。私、今回これが1番好きだったかも。

『西門屋啓十郎』啓十郎が尼の陸水の所持金欲しさに陸水をマサカリで襲い首を刎ねた場面。斬られた首からは大量の血が溢れる。啓十郎はしてやったりの顔で陸水の体を踏みつけマサカリを振るう。しかし、これは陸水が啓十郎に見せた幻術なのだ。馬琴の“新編金瓶梅”に取材。

『春藤治郎左エ門』貧しい身分にやつし、敵を討つ春藤。しかし正体が疑われ、騙し討ちにあう。春藤は全身血まみれで顔も青くなってしまってる。蹲(かな?)に寄りかかり、地蔵が倒れ、足はそこに乗せている。悔しげにキッと睨み右手には血刀を持つ。これも恰好良い構図だったな。英名〜は芳年もそうだが、恰好良い構図の物が多いよね。

『鬼神於松』私の好きなお松ね。血刀を拭く於松。着物の袂を口に咥え、少し上…空の方を見上げる。後ろには月と川。右隅には血まみれの四郎三郎。彼は於松の夫を殺害した、謂わば仇。於松は敵討ちが出来たからか、何処か嬉しそうに見える。

『鳥井又助』望月源蔵に騙された鳥井又助。増水した川を馬で渡ろうとする武士を水中から襲撃。家老の蟹江一角と勘違いして、殿様の多賀大領を惨殺してしまう。口に大領の生首を咥え川の中を逃げる鳥井。解説には激しい水とあったが、私には比較的穏やかにも見えた。藍色のグラデの水の表現が美しい。

芳幾の美人画。明治元年〜4年頃、芳幾はそれまで手掛けていなかった美人画を多く手掛ける。そして、芳幾は美人画が上手い!

『時世粧年中行事之内 一陽来復花姿湯』超オープンな松本楼の楼閣内の風呂。石榴口も囲いもなく、すぐ前が座敷!風呂入ってるところ丸見えじゃん!こういう風俗店か?と思った(笑)。禿が遊女の背中を洗っていたり、偉いさんっぽい男が遊女を呼んでたり。この偉いさんっぽい男は完全にエロオヤジの表情。呼ばれた遊女は胸元を隠して振り返る。部屋の方では、恋文を回し読みする遊女たちや、風呂上りに牛乳ならぬ、お茶を飲んでる遊女がいたり。

『時世粧年中行事之内 競細腰雪柳風呂』当時の銭湯の様子。右端に番台。金を払う女。老婆や若い人、子供もお風呂に入ってる。石鹸代わりの米ぬかの桶もある。左にかがんで入る石榴口。石榴口付近で桶を持ち暴れる女。何か揉め事か?それを宥める女たち。巻き込まれたのか、揉め事の相手かひっくり返ってしまった女もいる。その様子を呆れ顔で見る男は三助だろう。「あ〜あ」の顔。桶や手ぬぐいで陰部が上手く隠されていた。春画じゃないから、陰部は描けないのかな?
この絵を観た3歳くらいの男の子がこの後ずっと「おっぱい、おっぱい、おっぱお」と連呼してて、お母さんが「恥ずかしい!やめなさい!」と言っていたのが可笑しかった。いや、小さい子にとって、ウンコ、チンコ、おしり、おっぱいは4大面白い物だから、見たら言うよね(笑)。

『隅田川花の賑ひ』三囲神社付近の花見。手前では船に乗る花魁や華やかな芸者たち。後ろには隅田堤の屋台や人々。これは、隅田堤の風景を三代広重が描き、美女たちを芳幾が描いている。珍しい組合わせらしい。

新聞錦絵と雑誌。明治5年。芳幾は40歳。西田伝助らと共に新聞会社を立ち上げ、東京日日新聞を創刊。明治8年に平仮名絵入新聞を創刊。新聞記事から事件を拾い出し、その場面を絵画化する新聞錦絵という新たなジャンルも築いた。40代後半、錦絵からは距離を取るも、演劇雑誌等の表紙絵や挿絵を担当した。芳幾はメディアにきちんと乗ったんだね。

以下、日日新聞より。
『四百三十一号』子供が泣くので起きると傍には三つ目の妖僧。見ているとみるみる大きくなる。妖僧の裾を取り、うち倒すと正体は古狸。右上に三つ目の大入道。下に子供と狸を取り押さえる男。他の記事には幽霊を否定的に扱う記事もあったのに、こういう妖怪譚が載る辺り、まだ、江戸が残っているんだね。

『八百三十三号』巡査熊吉が楊弓場の看板娘のお嶌、おみつ、お竹の3人を下宿に招き酒宴の後、3人の女性を惨殺。日本刀を女に突き立てようとする男。傍らには血みどろで倒れている2人の女。何故こんな事件が起きたか原因は書かれていない。何か口論があったのか…。今ならネット炎上案件。男、巡査だし。

『初日影開盛双六』と言う物があった。絵入新聞の付録。幕末で好評だった影絵の横顔有名人を双六にした物。団十郎や菊五郎の他、黙阿弥や山々亭有人等、芳幾と交流のあった著名人等も描かれている。中央の鳥の絵を描いたのは柴田是真。

晩年。明治23年。58歳以降、芳幾は再び錦絵に戻る。役者絵を多く描いた。同時に口絵や挿絵の仕事も続行。晩年は借金に追われるも、72歳…明治37年2月6日に亡くなるまで、仕事は続けた。

歌舞伎新報の口絵。多色摺りの口絵は明治28年8月より刊行された1613号より挟み込むようになった。この展示もあった。道成寺の場面等、カラフルで手が込んでいた。

『百鬼夜行 相馬内裏』相馬の古内裏の大宅太郎光圀。右に滝夜叉姫がおり、妖怪を呼び出す。7人の将門の影武者や大蝦蟇、邪鬼のような妖怪等。“北斎風ニテ”と落款にあり、北斎漫画がもとになってると分かる。この絵には、相馬事件という当時話題になった御家騒動を暗示する風刺画になっているらしい。

『先師一勇斎国芳翁四十回忌追善書画会 案内状』これは絵ではなく案内状。借金返済の為、歌川国芳の四十回忌の追善書画会を開催した。その際の案内状。収入にはなったが、逆にこれにより、芳幾は借金取りに追われ夜逃げするはめに。「金出来たんでしょー!」ってコトで追われたんだね。

『日本演劇 川上と貞奴』貞奴の踊る姿。リアルな人物描写になっていて驚く。明治32年に海外に渡り評判になった川上音二郎と貞奴。明治34年に一時帰国し、その様子を描いたものらしい。扇を持ちちょっと中華風な衣装で踊る貞奴。

『鍾馗』肉筆。下に鍾馗。上の小鬼をねめつける。小鬼は芳幾の息子の芳麿が描いている。幼名は六郎で小鬼のわきに“十四童 落合六郎筆”とある。父さんの血を継いだのか、14歳で描いたわりに凄く上手い!逃げる小鬼の顔がユーモラスで良い。でも、芳麿は、30歳の若さで大正3年に亡くなってしまったそうな。

『昔噺誉比達贔屓 初編』全3編のうち初編上下刊の表紙。2冊分の表紙が繋がり1つの絵になる仕掛け。2人の男の姿。多色刷りの表紙で豪華。

『当世水好伝』人気歌舞伎俳優たちが屋形船に乗り宴会をしてる。水滸伝の豪傑に倣い無頼漢風に描かれている。刺青も入っているが、実際の役者たちには当然入っていない。船に乗り込む美女も俳優なのかな?それともこれは、買った人が「これは私」と自分を投影する為の仕掛け?(イケメンたちと船に乗る疑似体験できるみたいな)

『西洋道中膝栗毛 十編上』弥次喜多の孫がロンドン博覧会を見物に行く話。その道中を描く滑稽本。執筆は仮名垣魯文。パステーシュみたいな物だよね。芳幾の他、暁斎等もこの本の絵を手掛けた。展示されていたのは、普仏戦争の様子と、ロンドン万博の様子。万博には甲冑や陶器等、色々展示してある。

『時世粧年中行事内 酌婦天地人極製』1階では、酒宴。2階では寛ぐ遊女たち。非公認遊郭である岡場所の様子か?2階では、胸もあらわな遊女がしどけなく座ったりしている。1階左隅にトイレに入って用足ししてる女性まで描かれてる。トイレで踏ん張る女性は口に懐紙を咥えている。トイレの前には、紙を咥える女性と、蹲に入った水を掬う女性。彼女は手に蝋燭も持ってるのだが、手を洗うんじゃないのかな?あ、紙を咥えてる女性の手にかけるのかも。

『江戸町二丁目甲子屋浴室之図』妓楼甲子屋の豪華な風呂。雅叙園みたいな内装なんだ。手前にはずらりと当時の人気の遊女の姿。煙草を吸ったり喋ったり。男性は三助さんかな?遊女の着物の豪華さよ。

本の展示も色々あった。歌舞伎の筋書(パンフレット)もあったし、絵入人情雑誌は10日に1冊のペースで刊行されたらしい。今で言う週刊誌みたいなモノか?

芳幾の多彩さが良く分かる展示で面白かったです。展示は8月26日までやっています。
芳幾が好きな人は勿論、当時の風俗を知りたい人にも良い展示かと。

お土産にかまわぬで、付喪神手ぬぐいを買ってしまった。
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2018年08月>
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031