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2018年05月13日01:49

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5月12日

スーパーの乾物コーナーで、きざみのりを手にとった。お買得商品とあって、それなりの値下げがされている。内容量も悪くなさそうだった。パッケージの裏を見てみると、きざみのりをつかったレシピとして明太子チーズパスタの作り方が、かわいらしい挿し絵とともに紹介されていた。ぼくは小声で明太子チーズパスタと何度か言ってみた。そして首をかしげた。きざみのりがそこで何をしたいのか、ちょっとぼくにはよくわからなかった。それはレシピの内容が不親切だということではなく、そもそもなぜそんな提案ができるのかが、はなはだ疑問に思えた。たとえば、パスタとか明太子が、この明太子チーズパスタを紹介しているのならば、話はよくわかる。君たちが言うのならば間違いなさそうだし、ちょっと今晩やってみようかな、と思える。でも、さいごにぱらっと着地するだけのきざみのりが、さも自分の敷地であるかのように案内をはじめるというのは、どうも素直に受け入れることができない。その料理を語るだけの仕事をきざみのりがしているのかといえば、やはり疑問符がついてしまう。正直に言えば、風に飛ばされそうなその質量からしても、装飾品という域からは抜け出ないものだとぼくは思っている。それだから、まるでチーズや明太子と肩を並べたようなその太々しい態度には、なんだか釈然としないものを感じる。ちょっと言葉が悪いようだけど、きざみのりの分際で、と思ってしまう。
 だからぼくは想像をする。自宅のキッチンで、明太子チーズパスタのレシピを見ながら調理に取りかかる。そこに示された行程にしたがって、ひとつひとつ段階的に作業をこなしていく。やがて味が出来ていったパスタは、お皿にうつされる。あとはきざみのりを散りばめれば完成となる。パッケージの中のきざみのりも、自分の出番を前にして、そわそわしはじめた。上空から指がつまみにくるのを見上げて待っている。でもぼくは、くるっと回転して、きざみのりを棚の奥へと押し込んだ。そして何も言わずにパタンと扉をしめる。きっときざみのりは、暗闇の中で何が起こったのかわからないでいる。でもだんだんとぼくに裏切られたことに思い当たる。レシピだけを利用されたことに憤慨して、扉をどんどんと叩く。でもぼくは素知らぬ顔で、パスタをフォークでくるくる巻いている。
そんな想像は、ぼくの嗜虐的な部分をおおいに刺激した。ふふふと息がもれて、とても愉快にな気分になる。これからローラースケートで町内を走り回りたいくらいだった。でもぼくは買い物を続けなけばならない。腹の減った家族が、ぼくがおつかいから戻るのを待っているからだ。ぼくはきざみのりをレジかごにいれて、ふたたび買い物リストの紙に目をうつす。
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