mixiユーザー(id:8306745)

2017年11月22日19:19

144 view

「仮面ライダーフィギュア『発生』事件」。

(註:これは事実を脚色したフィクションで
ある)

【問題編】

「こんなフィギュア、あったっけ?」
不意にした妻の声に、私はドキリとした。
我が家の細やかな平和の保守の為、個人の
趣味のグッズはキチンと管理出来る程度を
目処に住居内での存在を許され、勝手な
増殖は基本的に許されてはいない。
両者遵守を旨としてはいるが、凡そ
遍く条約がそうであるように、弱者を
強者が規制するものとなっており、
この場合は私が規制されるそれとなる。

私は恐る恐る振り返ると、妻は仮面ライダー
フィギュア棚の中央付近で、神々しい気品を
称える一体を指差していた。
私はその指の方向を確認して、心から
安堵した。

「嫌だなぁ、ずっとそれはそこにあるよ」

私は余裕を持って答える。全く混じり気なし
の真実なので、声音な僅かな「嘘のノイズ」
が含まれる事もない。
しかし、妻は不審そうである。
件のフィギュアは仮面ライダーキバの
エンペラーフォームである。金ピカに
マントを翻して段平を携えているので、
中々派手だ。

(参考画像)
フォト


「ずっとあったなら気付く筈だ」
という疑問なのだろう。私は小さく苦笑する。
「ああ、キミとは『キバ』は一緒に観て
ないからね。一緒に観たのは、『クウガ』、
『555』、『W』が最終回まで、で途中に
なっているのが『アギト』と現在進行形の
『ビルド』だね。うん、誤解、というか
認識の誤差はそこに産まれたんだな」
私がしたり顔で言うと、妻は不満げな
顔をした。
私はにこりと笑って、
「『キバ』を観ずに『ビルド』を見始めたの
が、全ての原因なのさ」
と言った。種明かしをせねばなるまい。


【回答編】

「どゆ事?『ビルド』は面白いけどさぁ」
妻は腑に落ちないぞ、という態度を全面的に
表す。
「つまり、こういう事だよ。脳が今迄認識
して無かったんだよ、そこにあるキバの
フィギュアを」
私は充分に貯めを作ってから、言った。
「全然分からないんですけど」
「分かり易く言うとね。キミは車の免許を
持って無くて、僕は持っている。そして
キミは車に興味が無くて、僕はイタリア車が
好きだ。僕ら二人が散歩しているとして、
前から走って来る車があったとしたら、
キミの認識は漠然と『車』でしかない。
トラックやバスなら見分けが付くけど、
別にそれ以外は皆同じ、の筈」
私はここで一旦言葉を切り、妻の反応を
窺う。よし、今の処怒ってない。
「脳の認識とはそれくらい取捨選択が
激しくて、興味がない、知らないものは
視界に入っていても記憶に残さないんだよ。
僕は植物に興味がないから、ウチの前に
何の木が植えられているか、知らない。
でもキミは知っているだろ?」
「・・・ツツジ」
私は大きく頷く。どうやら、妻も私の
論旨が掴めて来たようだ。
「と、言う事は、私はずっとここにあった
この金ピカのライダーが存在はしていても
認識していなかった、と言う事?」
そんな事ある?と言うように妻が言った。
現実にあるんだから、仕方ない。
「そこで、『では何で仮面ライダーキバ
エンペラーフォームが認識されるように
なったか?』だよね、謎は」
私は言う。
「答えは簡単なんだ。今観ていて、キミも
幸い楽しんでくれている『仮面ライダー
ビルド』なんだよ」
「ビルド関係無くない?」
「処があるんだ」
私は手元のスマホで画像検索を掛けた。
目当ての画像はすぐに現れた。流石は
絶賛放送中。私はその画面を、妻の方に
向けた。
「あ、ナイトローグ」
「そう、これだ」

参考画像
フォト


「単純な話だけど、ナイトローグと
キバは『似ている』んだ。ここで新しい
認識が生まれた。
今迄は脳が認識しなかったフィギュアが
『ナイトローグと似ているもの』として
キミに認識されたんだよ」
「だから、急に増えたみたいな感じが
した訳ねぇ」
「そう、その通り。だから、キバの
フィギュアが増えた訳じゃないんだよ」
私は、話が綺麗に収まってくれた事に
深い満足を覚えた。良かった、怒られずに
済んだ。

「で、さ」
「ん?何だい?」
「それは分かったんだけどさ」
妻はもう一度フィギュア棚を指差した。

キバの隣を。

「その隣のは何?」
「ごめんなさい」


2 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する