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2017年07月26日19:00

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再び赤道を越ゆるの譜 − 吉田嘉七 ガダルカナル戦詩集より



再び赤道を越ゆるの譜 − 吉田嘉七 ガダルカナル戦詩集より


今ぞまた赤道を越ゆ。
更闌けし汐の八重路。 かうたけししほのやゑじ
かがやかに月には砕けて、
音もなし、南冥の波。
静けさは灯し火もな無く、
満天の星も語らず。
南風そよとデッキに揺れて はえそよとでっきにゆれて
再びぞ赤道を越ゆ。

戦友よ、今赤道を越ゆ。
北斗星、へさきに冴えて、
消え残る我が想い出か、
水脈しろく光かげりぬ。
赤道を再び超えて
帰りなん、いざや故郷。
君を待ついとし父母、麗しき山やはた河、
おん霊の神しずむべき
ふるさとに船はむかうを。

見ざらむや、君よ、わが戦友。
かの夜に空を仰ぎて、
指さして勢いたるかの
十字星、こよい背に負い、
われひとり空しく帰る。
日の本のますらおたけおの
おほきみのみことのままに
国護り、桜と果つる
君をこそ羨しと言はめ。 きみをこそともしといはめ
長らうるなんの命ぞ。
オリオンを右に、左に、
マスト影、黒くゆらぐに。

ゆるる、ただマストのみかは。
更たけしデッキにありて、
ただただに何をか言はめ。
粛々と船はすすみて、
今ぞまた赤道を越ゆ。




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