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2017年02月26日22:28

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虚妄の米ドル安路線 「貿易赤字削減」は偽情報だ

 下記は、2017.2.26 付の【田村秀男の日曜経済講座】です。

                       記

 トランプ米大統領は経済・通商の閣僚・スタッフの陣容が固まり次第、主要貿易赤字相手国の通貨に対してドル安攻勢を仕掛けそうだ。為替市場に当局が介入、管理している中国や韓国などと、完全に自由な変動相場制の日本を混同するのは論外だが、その前にトランプ政権に物申すことがある。ドル安で貿易不均衡を解決できるという見方は虚妄であると。

 まずはグラフのドルの主要通貨に対する実効平均相場と米貿易赤字の前年比増減率に注目しよう。ドル相場はプラスがドル安、マイナスがドル高で、貿易赤字はゼロ軸から上方が赤字減を表す。一目瞭然、ドル安時で貿易赤字が減るケースはまれで、ドル安期間の大半で赤字が増えた。

 貿易不均衡の幅を動かす主因はドル相場ではなく、景気である。2002年から07年にかけて赤字が大幅に増えたのは、米国の住宅バブルに伴って輸入が急増したためであり、07年のバブル崩落、08年9月のリーマン・ショックを機に内需が大きく減退すると、輸入が急落して赤字が一挙に縮小した。こうした事実は米政財界や米メディアにはわかりそうなものだが、拙論が知る限り、「貿易赤字とドル相場は無縁」との言説は聞こえてこない。

 経済学上は、好況時には消費が増えて貯蓄が減り、投資に貯蓄が追いつかない。この貯蓄不足分が貿易赤字に相当すると説明できるが、いかにもわかりにくい。

 結局、「ドル安=貿易赤字縮小」「ドル高=赤字拡大」とする考え方が、わが物顔に横行する。トランプ流に言えば、それこそ恐るべき虚偽(フェイク)情報なのだが、トランプ氏自身は真実だと信じているようだ。

 それにしても、なぜドル安は米指導層をひき付けるのか。答えはグラフの米対外資産増減率にある。

 米国は世界最大の対外債務国であると同時に最大の対外資産国で、海外資産規模は昨年9月時点で約25兆ドルに上る。海外資産は米企業などの対外投資によって増減するのだが、それより大きい変動要因はドル相場である。

 現地資産のドル評価額はドル安・現地通貨高で増え、ドル高・現地通貨安で減る。ドルが他通貨に比べて10%下がれば2兆5千億ドル弱、海外資産が膨らむ。モノとサービスの合計の米貿易赤字は年間で5千億ドル程度で、2%ドル安になればその赤字分は楽々とチャラにできるわけだ。

 ドルは基軸通貨なので、世界のどの国の資産でも何の障害もなくドルに換算できる。半面、外国企業の在米資産はもちろんドルだ。ドル安にすればするほど、米国の海外資産から外国の対米資産を差し引いた米国の純負債は減る。

 歴代の米大統領はそんな基軸通貨の特権を活用する誘惑に駆られ、ドル安政策に踏み出した。

 米国が純債務国に転落しかけた1985年9月、「強いドル」を標榜(ひょうぼう)していたはずのレーガン政権は日本、西ドイツなどを巻き込んでドル安誘導のためのプラザ合意を演出した。90年代前半のクリントン政権は「日本たたき」のため円高・ドル安誘導政策にのめり込んだ。2001年発足のジョージ・W・ブッシュ政権は住宅市場刺激策と合わせてドル安路線をとった。

 だが、一本調子のドル安は恐るべき災厄を招く。1987年10月の史上最大規模のニューヨーク株価暴落、そしてリーマン・ショックが代表例だ。97年のアジア通貨危機はクリントン政権が95年にドル高路線に切り替えたのに、東南アジアや韓国が適応に失敗したからだ。

 さしあたり、痛い目に遭わないとしても、債務国米国の金融界はドル安には不安を感じるはずだ。ニューヨーク・ウォール街は世界の投資家から資金を集めて国内に回すばかりでなく、世界に再配分して荒稼ぎする。海外の投資家はドル安で莫大(ばくだい)な為替差損を被りかねないのだから、ワシントンがドル安容認路線をとるなら、対米投資に腰が引ける。顧客がそうならウォール街のためにもならない。

 4月には、先の首脳会談で合意した包括的な日米経済対話が始まる。トランプ大統領は、選挙公約通りインフラ投資や大型減税に踏み切るためには、世界最大の純債権国日本からの投融資に頼らざるを得ない。したがって、円安批判を自粛するかもしれないが、まだまだ先は長い。上記の通り、ドル安の誘惑はトランプ氏にもつきまとう。

 安倍晋三政権はトランプ政権に対し、「弱いドル」は米貿易不均衡是正ばかりでなく「米国第一主義」を損なうと警告すべきだ。

 (編集委員)

 http://www.sankei.com/economy/news/170226/ecn1702260007-n1.html
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