この娘は、私だったかも知れない

私の母が倒れたときの話をします。
妹からのSOSで駆けつけたとき、母は支離滅裂なことをブツブツと繰り返していました。

冷蔵庫が冷えない。捨てないといけないのに運べない。
お風呂の水が出しっぱなしで、部屋にあふれてくる。
電気代がかかるから電気をつけるな。
ガスは使うな、火事になる。
２階へ行くな、階段が危ない。
冷蔵庫のものは全部捨てなさい。
宇宙人がきて内臓をとられたから、もう何も食べられない。
お風呂の水が出てるわよ。出てるっていうのに。止めなさい、お願い止めてえええ。

「お母さん、車で迎えに来たから、一緒にお医者さん行こう」
「トイレは？　ほら私につかまって」
ギャアアア触らないでえええと暴れる。母60代、けっこう強い。ヤバいコワイ。

丸２晩、妹と交替で踏ん張って見守り、月曜の朝に夫が差し入れてくれたコンビニ弁当を別室でコソコソ食べ（それ古いよ腐ってるわよ食べちゃダメえええ対策）、気力が戻ったところで「もう行動しよう！」と救急車を要請。
この人たちに病院に連れて行ってもらおうよ、私も一緒に行くし大丈夫。
救急隊「はいお母さんゴメンね、血圧測らせてね」
ぶちっ。
バイタル測定拒否。
病院行かない。絶対に家から出ない。イヤだ私は病気じゃない、帰って帰ってええええ。
救急隊「あー、普段の様子と違うであろうことは分かるんですが、ご本人が拒否している以上、搬送できないんです。『まずは』市の福祉窓口などで相談して頂けますか」
と、これが朝7：30頃。

間もなく８：００、かかりつけ医の診療開始。
診察室で状態を説明するうちに、みるみる先生の表情が冷たくなり、
「そんなことコッチに言われてもねえ。連れてくりゃぁ点滴でもなんでもしますけど？　本人が来ないんじゃ、どぉーしようもないんだよね！」
「お宅A市でしょ？　ここはB市なんで（近所だが市境を挟んでいる）、『まずは』A市の国保窓口なり、とにかくウチじゃ一切、何もできないから！　ハイ次の人！」
ケンもホロロとはまさにこのこと、ダメならダメで普通に説明してくれれば良いものを。

負けじと、9：00きっかりから夫と代わる代わる、医療相談、福祉相談、ありとあらゆる窓口に片っ端から電話をかけ始めました。
「母の様子がおかしい。少なくとも２日は何も口にしておらず、コタツに横になったまま起き上がれない。幻覚や幻聴もあるかも知れない。救急搬送は拒否してしまった」

「ああ、それはうちの担当じゃないので、○○に電話してみてください」
「えーと、確かにウチは○○ですけど、そのケースは◎◎が担当になりますので」
「はい◎◎ですが…そういう状態なら☆☆に問い合わせを（←最初に電話したところ）」
「歩けないということですか？　家の中に手すりを設置するご相談なら△△課が担当なので、一度お邪魔して家の中を見せて頂いて」
「ああなるほど、病院に連れて行けない？　車いすの貸し出しは◇◇課ですが、福祉タクシーは電話ではご紹介できなくて、窓口にお越し頂ければパンフレットが…」
「ちょうど来月、家族のための認知症講座というのがありますので受講なさっては？」
「相談員を派遣しますので、来週以降でご都合の良い日時を」
「主治医にご相談はされましたか？　『まずは』主治医の先生に…」

なんだこりゃ。
「娘は何をしていたんだ」「誰に相談すればいいか分からないって知的障害か」の、一歩手前だったと思います。
行政側が接触を試みたか、こちらが救援を求めたかは違えど、両者が噛み合わないと、こんなにもどうしようもないんだ…。
もう何日か飲まず食わずにしておいて、意識不明になったら改めて救急車を呼べば、運んでもらえる？
夫と、妹と、私と、30代40代の大人が雁首揃えてそう考えてしまうほど、追いつめられました。

結局、某病院併設の健康相談窓口から病棟のケースワーカーさんに繋がり、
「うちで受け入れます。もう一度救急車を呼んで、受け入れ先が決まっていると言ってこの電話番号を提示して、何とか搬送してもらってください」
と言って頂けて、エイヤと入院に漕ぎ着けることができました。
今では通院服薬と週１のデイサービスで安定を保っている母ですが、あんな恐ろしい思いはもう御免なので、見守りと称してせっせと実家に通ってはお昼を食べさせてもらっている（!?）私です。

ごみ部屋で女性救出 両足壊死
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