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2016年12月31日21:37

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【創作】超攻鬼装オーガイン  第六話:テンプテーション・パニック【その1】

【創作まとめ】
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【前回】
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 特別強襲機動隊。
 通称、特機。
 対シャドール事件の担当であり、日本警察の切り札。
 改造人間オーガインを擁する特殊部隊で、スタッフもそれぞれ警察内でもトップクラスの能力を持った人間が集められている。
「オーガイン、準備はいい?」
「いつでも大丈夫ですよ」
 オーガインは右手に握られたハンドガンを構える。
 ここは特機の詰所の地下にある射撃訓練施設。
 ガコンという音と共に、オーガインの背後で人型のターゲットがせり上がると、彼は体を独楽のように素早く反転させ目標を撃ち抜く。
「まずまずの反応ね。ならこれはどうかしら?」
 私はコンソールを操作して、オーガインの死角に次々とターゲットを繰り出す。
「よっ! はっ! ほいっとな!」
 なんとも気の抜けるかけ声を発しながら次々と目標を撃ち抜くオーガイン。
 この様子を見る限り、かなり本調子に戻ってきたように見えるわね。
 先日、私たち特機はシャドールの下部組織でもあるブラックサタデーという武器密輸組織を壊滅させた。
 あ、シャドールというのは、世界征服を企む悪の組織だと思ってもらって良いかな。
 シャドールの主力も何人か出てきて、それはもう激しい戦いになったわけだけど、その際にオーガインはかなりのダメージを受けた。
 どれくらいのダメージかと言うと、オーガインを構成するパーツの七割が交換必要だったくらい。
 ここまで来れば修理というよりも、オーバーホール状態ね。
 しかもオーガインは警察で開発されたわけでなく、敵であるシャドールによって石動雷馬が改造された姿。
 つまりパーツ交換したくても、そのパーツが簡単には手に入らない状態。
 仕方なく大手家電メーカーであるフューチャーアイズに特注でパーツ製造を依頼したわけだけど、全てのパーツが完成するのに約一週間かかった。
 その間オーガインは、特機で用意した改造人間用のメディカルベッドで応急処置を受けていた。
 つまり簡単に言うとパーツが無かったため、重傷の患者を一週間放置したことになるわけね。
 よくもまあ、ナノマシンを活性化させるエナジーリキッドの投与だけで凌げたものね。
 そして今日、無事にパーツが届きオーガインの修理が完了し、その動作テストをしているわけ。
 ちなみにオーガインが装備しているハンドガンは、彼のパーツが入荷するまでの一週間で私が作り上げた新装備よ。
 オーガインとハンドガン、両方の動作確認が出来て一石二鳥ってやつね。
「ほいさっ! よっこいさっ! どっこいしょっ!」
「あのさ、黙って撃てないわけ?」
 相変わらず気の抜けるダサいかけ声のオーガインに苦言を呈してみる。
 一応はヒーロー的な外見であることを認識してるはずなんだけど、たまにセンスを疑いたくなるわ。
「いやー、かけ声あった方が雰囲気出るかなーと思いまして」
「むしろ新装備実験の緊張した雰囲気が台無しよ」
 どこまでもマイペースで呑気な男ね。
 ある日突然、オーガインに改造されたにも関わらず、悲壮感に暮れることなく陽気に振る舞ってくれるのはいいんだけど。
 暗く振る舞われるより百倍マシね。
「ところでこのハンドガン、名前とか決めてるんですか?」
「決まってても、いつも勝手に変な名前付けるでしょ」
「それはヒーローとして、叫びやすい武器名って重要ですから」
「むしろ武器名を叫ぶメリットを教えて欲しいわ」
 対シャドール怪人用ハンドガン、ヘブンズゲート。
 かつて戦争が歩兵と戦車で行われていた時代、歩兵でも戦車に対抗可能なように開発された銃があった。
 三十ミリと大口径な拳銃は、 思惑通り分厚い装甲を貫通し、操縦者の命を奪うことに成功した。
 だがその圧倒的威力と引き換えに、使用者の腕が、拳銃を握りしめた利き腕が、肩口から引きちぎれる程の反動を持っていた。
 ターゲットと使用者の両方を死へと誘う銃、地獄の門を蹴破る魔銃・・・・・・ヘルズゲート。
 当然、危険極まりないこの銃は、試験的に製造された、最初で最後の一丁だけで製造が中止された。
 そのヘルズゲートの設計図を元に改良、製造された物が、天の門を開き裁きを下す銃、ヘブンズゲートである。
 常人では耐えられない反動でも、改造人間であるオーガインなら耐えられると踏んだわけ。
 それにしてもこの名前、いよいよ私も石動君の中二病に毒されてきたのかしら。
「ヘブンズゲートよ」
「ヘブンズゲート?」
「そのハンドガンの名前よ」
 オーガインはヘブンズゲートをまじまじと見つめ、その感触を確かめる。
 これから命を預ける武器の一つとなるわけだから、大事に使って欲しいところね。
「ヘブンズゲートって・・・・・・まるで自分が機械天使みたいな名前の武器じゃないですか!」
「いやアンタは鬼であって天使には見えないわ」
「み・な・ぎっ・て・キター!」
 忘れていたけど、どうも彼は機械天使に思い入れがあるらしい。
 それはもう『改造人間=機械天使』くらいの認識で、その情熱は謎である。
 面倒臭いからあまり触れたくない部分でもあるわけよ。
「はいはい、ウザいからテスト続けるわよ」
 再びコンソールを操作してテストを再開する。
「ヘブンズゲート、シューッ!」
 うん、ウザいわ。
 言動はふざけているように感じるけど、彼の銃捌きはなかなかのもので、次々とターゲットを撃ち抜いていく。
 元々銃の素養はあったんだろうけど、改造されて機械的なサポートも相まっての精度ってことなのかもしれないわね。
「イッツパーフェクト!」
 だからいちいちポーズをとるな。
 動きはウザいけど、動作確認としてはまずまずな結果ね。
「何がパーフェクトだ、もっと精度を上げられるだろ」
 私の横でオーガインの動作確認を見ていた氷室さんが口をはさむ。
 そういえば居たのよね、彼。
 彼の名は氷室忠司、以前はSteDと呼ばれる警察の特殊部隊に所属し、今は特機のメンバーの一人よ。
 元々彼とオーガインこと石動雷馬は同じ特殊部隊出身ということもあり、固い信頼関係で結ばれているように見えるわ。
「もっと肩口の三センチの円を狙え。三〜五ミリもズレがあるじゃないか」
 指摘が細か過ぎる。
 僅か数ミリなんて誤差の範囲だと思うんだけどなー。
「そこまてシビアに見なくてもいいんじゃないですか?」
 思わず氷室さんの指摘に口を挟んでしまったわけだけど、これが彼の堪に触ったのか、猛反撃を受ける。
「なに言ってるんですか、我々はあらゆる可能性を想定して訓練をつむ必要があるんです。もし敵が人質を盾にしていたらどうしますか? 僅か数ミリの誤差で人質に弾が当たるかもしれません。人質を無事に助けるためにも、我々は僅か誤差さえ許されないんですよ」
「わ、わかったから顔近い」
 なるほど、人質の可能性を考慮して、ね。
 実際に家族を人質に取られたことのある私としては、無視することはできないわね。
「代われ、俺が手本を見せてやる」
 言い終わると氷室さんはジャケットを脱いで射撃場へと入っていき、オーガインと交代する。
 さすがに生身の人間である氷室さんにヘブンズゲートを使わせるわけにはいかないので、彼には普段通り訓練用の銃を使用してもらうことにした。
「では始めますよ」
「いつでもどうぞ」
 氷室さんが銃を構えるのを確認すると、私はコンソールを操り彼の死角に次々とターゲットわ出現させていく。
 氷室さんは変なかけ声を上げること無く淡々と、作業のようにターゲットを撃ち抜いていく。
 それは針に糸を通すような繊細な動きでありながら、時には振り向いた瞬間に撃つといった荒々しさも感じさせる。
 彼の手に収まる銃は、長年命を預けてきた相棒として彼の期待に応え続ける。
「さすが、言うだけのことはあるわね」
 撃ち抜かれた弾痕を拡大して確認してみても、一ミリのズレさえ確認出来ない。
 まさに職人技といった感じね。
「氷室さんの射撃の腕は、警視庁でもダントツのトップですからね」
「そうなの?」
 それなら今までの戦いでその腕を活かして欲しかったわ。
 まあ彼が戦ったバイオソルジャーやギアモンスターに通常の拳銃が有効だとは思えないけど。
 かといってこのまま宝の持ち腐れにさせておくのは勿体ないし、これは何か手を打った方がよさそうね。
「まだテストの段階だから、さすがにここまでの精度は要求しないけどね」
「ところでもう一つの追加装備の仕上がりってどうなんですか?」
 もう一つの装備というのは、現在開発途中のもので、オーガインの機動力を上げるアイテムね。
「素組みは終わったけど、調整はまだまだよ」
「そうですか、それは残念です」
 オーガインは目に見えて肩を落とす。
「そんなに期待してるの?」
「まあ、ヒーローの象徴の一つでもありますからね」
「そういう物なんだ」
 ぶっちゃけ、オーガインのリクエストで制作したのだが、やっぱり私には理解し難い拘りがあるようね。
「それよりも、あっちの方はどうなのよ?」
「えーと・・・・・・夜の営みですか?」
「次にそういうボケをしたら廃棄処分確定ね?」
「すみません、自分が悪かったです」
 私が懸念しているのは当然ながら夜の営みの事ではなく、前回の戦いで覚醒したオーバーイマジンシステムのことね。
 想いの力を無行の力場へと具現化するシステムは、あの日以来一度も発動に成功していない。
 脳をCTスキャンにかけてみても異常は出なかった。
「やっぱり精神的に追い詰められてないってのが原因なんですかね?」
「たぶん、その可能性が一番高いと思うけど、その辺はさすがに数値化できないからなんとも言えないわ」
「ということは、追い詰めらたら発動するってことでオッケーですね」
「は? アンタ本気で言ってんの?」
 戦いの中で不確定要素に頼るのは、ただの博打でしかない。
 不確定なものを確かな物にするための訓練であり、テストなのよ。
 だいたいあの日以来発動しない以上、追い詰められたら発動するという保証なんて何処にもないというのに。
「訓練で発動できるまで、オーバーイマジンは使用禁止ね」
「そんなー、折角の強力必殺技ですよ?」
「制御不能な状態で、前回のような威力を街中で使ったらどうなるかわかってるの?」
 私はため息混じりに忠告する。
 倉庫を一つ、綺麗サッパリ消滅させたあの威力を。
 たった一撃とはいえ、街中で使用するオーバーイマジンの力がどれ程の被害を出すのか。
 もしそんな事になれば特機とシャドール、どちらが街を滅ぼそうとしてるのか分からないわ。
「すいません、自分が軽率でした」
「まあまあ、要は使いこなせるようになればいいってことですよね?」
 射撃場から戻ってきた氷室さんが、オーガインの落とした肩を叩きながら励ます。
「戦いからずっとベッドで寝てたんだ。勘を取り戻すのに時間がかかるのは仕方ないさ」
「でも・・・・・・」
「思い詰めるのはよくない。たまには息抜きも必要さ」
 オーバーイマジンの不調が精神的なものが原因とするのなら、氷室さんの意見も頷けるわね。
 たまにはハメを外してリラックスするのもいいかもしれない。
「どうだ? 今夜付き合えよ」
「いいんじゃない? アンタ、オーガインになってから、遊びらしい遊びしてないんだし」
「そうそう、それに警察署での戦いの時に奢る約束しただろ?」
 そう言えば、そんなことも言ってたわね。
 何だっけ?たしか石動君がオーガインになって距離を取ってしまったことへの贖罪だっけ?
「そこまで言うのでしたら。桜子さんも一緒にいかがですか?」
「私は遠慮しておくわ。最近はこっちにかかりっきりだったから、そろそろ会社の方にも顔を出さないといけないし」
 それに私が居ると、気を使ってリラックスできないでしょうしね。
「それじゃ、今夜は男二人で楽しもうか!」
「はあ〜、色気無いですね」
 変身を解いた石動君がため息をつく。
 そうそう、さっき名前が出たから自己紹介をしておくわね。
 私の名前は小鳥遊桜子、オーガインのメンテナンスや装備開発の担当として、特機に出向している民間協力者。
 そして世界征服を企む悪の組織シャドールの研究者にしてオーガインを改造した人間の一人。
 そう、特機に潜入するシャドールの華麗なる女スパイ、それが私よ。


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 翌朝、私はシャドールの研究所へと出社した。
 シャドールの構成員は表向き、世界的家電メーカーであるフューチャーアイズの社員として登録されている。
 そのフューチャーアイズ社屋の地下一キロメートル、元は地下水源だった空洞にシャドールの本部が存在する。
「おはようございまーす」
 この研究所、機械兵器を主に開発する第一研究室において、私は副室長を担っている。
 まあ簡単に言えば、ここの室長である園崎顕将の助手である。
 つまりは博士と私が石動雷馬をオーガインに改造したわけで、彼の修理用のパーツも、フューチャーアイズのラボではなく、ここで製造している。
 当然ながら予備パーツも全部揃ってるわけだけど、特機からの発注に対して即日対応してしまうと怪しまれてしまう。
 オーガインのパーツは本来、フューチャーアイズで製造していないことになっているのだから。
 だから入荷もわざと一週間遅らせた。
 警察や特機のメンバーに怪しまれないように活動するには、色々涙ぐましい努力が必要なわけよ。
 ホント、我ながらよくバレずにやれてると思うわ。
「桜子先輩、おはようございます」
 挨拶を返してきたのは、この第一開発室で事務員をしているエミール・クロスフォード。
 ここに来る前は大英帝国銀行に勤めてたらしいけど、なんか博士がスカウトしてきた。
 由緒正しい銀行に勤めてた彼女が、どういう経緯で悪の組織に入ることになったのかは知らされてない。
 過去を詮索しないのも悪の組織ならではのマナーね。
「おはようさん、なんや桜子の嬢ちゃんと会うのも久しぶりやな」
「グッモーニン、ミス桜子。荒矢、嬢ちゃんとかミス桜子は立派なレディですヨ」
「おはよう、桜子女史。毎日実家からの通勤も大変だな」
 思わぬ人物達から返事が返ってきた。
 関西弁を操るのはコマンダー部隊総隊長の御雷荒矢(みかずちあらや)隊長、カタコトの日本語を話すのは第二開発室室長のミカエラ・アンダーソン博士、最後に丁寧に答えてくれた眼鏡の紳士が情報局局長のスミス・マクガーレン局長である。
「あれ? 四大長の皆さんが、こんなところに揃い踏みなんて珍しいですね」
 この三人はシャドールの幹部であり、それぞれの部署を纏める存在でもある。
 なんでも彼らの上には、大総統と三聖者と呼ばれる大幹部が存在するらしいのだけど、私は会ったことがない。
 だってシャドールを実質的に運用してるのは四大長なのだから。
 ていうかこの三人はともかく、ここに一番居なくちゃいけない四大長が居ないじゃない。
「エミール、博士はどうしたの?」
「園咲博士は外出中でーす」
「珍しいわね」
 普段は研究ばかりで、滅多に出歩いたりしないのに。
「だって今日は月末の金曜日ですよ?」
「なるほど、理解したわ」
 エミールの言葉に納得、月末の金曜日なら仕方ないわね。
 きっと私が止めても、博士ならあの場所に行くに違いないわ。
「で、皆さんの御用はなんですか? 博士が不在なので、よかったら代わりにうかがいますけど」
 正直にいうと、四大長ってちょっと怖いイメージがあるのだけど、博士がここに居ない以上、助手の私がなんとかするしかない。
「お構いナク! 我々は園咲の帰りをマッテルだけデース!」
「帰りを?」
「ああ、ここに居る全員、園咲が出かけるついでに買い物を頼んでいてな」
 ミカエラ博士の言葉をスミス局長が捕捉する。
 いくら今日が月末の金曜日で博士が出かけるとわかっていたとしても、四大長全員が買い物を頼むなんて珍しすぎるわ。
「俺は嬢ちゃんにも用があって来てんけどな」
「そうなんですか?」
 御雷隊長が私に用ってなんだろう?
「これ、修理しといたってくれへんか」
 そう言って差し出されたのは超振動分子ランス。
「これって・・・・・・」
「ああ、風間の石切丸や」
 風間さんっていうのはコマンダー部隊の中でも空戦部隊を纏める隊長であり、作戦遂行時はコマンダー・ウインドのコードネームで呼ばれている。
 そしてこの槍は彼の愛用武器でもある。
 穂先に止まったトンボが真っ二つになったと言われる本田忠勝の蜻蛉切(とんぼきり)、じゃれついた猫が真っ二つになった南泉斬猫(なんせんざんみょう)と名高い足利将軍家の南泉一文字、落雷を断ち斬ったと言われる戸次道雪の雷切丸千鳥(らいきりまるちどり)といった、曰く付きの武器に憧れている。
 それゆえこの槍も、立て掛けてあった槍が倒れた拍子に庭石が真っ二つになった、という設定が付け加えられており、それに因んで彼はこれを『石切丸』と呼んでいる。
 当然これは彼が勝手に後付けした設定なので、特にそんな事実があったわけではない。
 だいたい、コレ作ったの私なんだから、名工でも刀匠でもない私にそんな名刀が打てるわけがないのよ。
 私はあくまでも機械工学の科学者なんだから。
「何で御雷隊長がパシらされてるんですか?」
「パシらされてるとか人聞きの悪いことを言うなや」
 私は槍を受けとると、細かくチェックする。
「風間さんが直接持ってくればいいのに」
「ああそれな、今アイツ入院中やねん」
「え? 何で?」
 たしかこの前の作戦でオーガインと戦ってたけど、そんなに酷い怪我はしてなかったと思うんだけど。
 それどころか、私たちを見逃してやるとかドヤ顔で言ってたくらいなのに。
 実は見えないところで深手を負ってたのかしら。
 ちなみにその作戦、私は特機側で参加してたから、彼の知らない所で殺されそうになってたのよね。
「前の作戦でな、オーガインを倒すチャンスがあったのに、わざと見逃したって言いよったから俺がボコった」
「何でボコったんですか!?」
 この人右腕が機械の義手を着けてるから、常人よりも遥かに腕力があるのよね。
「何でって、戦場を嘗めとったからやん。戦場では何が起こるかわからへん。せやから倒せる敵は倒せる時に始末せなあかん。余裕見せて見逃して、次に逢うた時にこっちが殺されたら洒落にならんからな」
 それは傭兵として、幾度となく戦場で死線を潜り抜けてきた御雷隊長ならではの言葉だった。
 命懸けで戦い、多くの仲間と生死を共にした彼ならではの。
「それに風間が帰還した後、園咲がオーガインと戦ったって言うやん? 四大長ほったらかしにして何帰ってきとんねんって」
 うん、納得。そりゃボコられるわ。
 直属の上司じゃないとはいえ、あんなんでもシャドールの幹部だからね。
 それによく考えてみれば、ブラックサタデーの施設を護りに来たのに途中で帰って、結果としてブラックサタデーも壊滅しちゃったわけだしね。
 救いようが無いわ。
 そう考えるとあの時の風間さんのドヤ顔、笑えるわね。
「で、ちょっとやり過ぎて全治一ヶ月ってことになってん」
「そりゃ御愁傷様で。じゃあコレのメンテって急ぎじゃないんですね?」
「風間が退院するまでに間に合えばええよ」
「了解しました」
 この件に関しては、時間に余裕がある時にでもメンテナンスすることにするわ。
 で、それは置いておいて。
「それはそうと博士に何の買い物を頼まれたんですか?」
「それはその・・・・・・機密事項だ」
 普段はハッキリとものを言うスミス局長が言葉を濁すなんて怪しいわね。
 怪しいけど、組織の幹部ともなると、末端には話せない機密の一つや二つはあるのかもしれないわね。
 特にここは悪の秘密組織、不用意に首を突っ込んで始末とかされたらたまったもんじゃないわ。
「なんや隠す事もないやろ? 別に減るもんじゃないし、教えたってもええやんけ」
「おい御雷、それ以上はやめろ!」
 御雷隊長の言葉に狼狽えるスミス局長。
 しかし御雷隊長は止まらない。
「園咲の買い物のついでに、俺らも欲しいのがあったからついでに買ってきてもらってるだけやん」
 四大長が欲しいもの?
「ねえエミール、博士の出掛けた先っていつものとこでいいのよね?」
「ええ、間違いないですよ」
 ということは、おのずと導きだされる答えは一つ。
「ご明察、我々四大長はじゃんけんに負けてエロゲーを買いに行った園咲を待ってるんや!」
 そう、月末の金曜日。
 それは新作エロゲーの発売日で、博士が一ヶ月の中で一番待ちわびている日。
 向かった先は・・・・・・秋葉原よ。
 どうでもいいけど、キメ顔で指を拳銃に見立てたバキュンポーズの御雷隊長、なんか腹立つわー。
「てゆーか、みなさんもエロゲーされるんですか?」
「当たり前やん!」
「男の嗜みとしてな」
「いつでもセーシュンに戻れるネ!」
 えーと、ここって一応、世界征服を企む悪の秘密組織よね?
 その幹部が揃いも揃ってエロゲー待ちって。
「バカじゃないの?」
 思わず口を突いて出てしまった。
「ああん?なんや嬢ちゃん、エロゲーを馬鹿にしてんのか?」
 一番武闘派な人から頭の悪そうな反論が来てしまった。
「いえ、別にそういう訳じゃ」
「お前、俺の姉萌え属性嘗めとったらあかんで?」
 この人、姉萌え属性なんだ。
 ある意味、妹萌え属性を持つ博士の天敵じゃない。
「ちなみにスミスは眼鏡委員長萌え、ミカエラが黒髪巫女萌えや」
「おいコラ、人の属性をサラッとバラすんじゃない」
「日本の黒髪巫女、ビューティホーね」
 御雷隊長の言葉にスミス局長が被爆した。
 このまま放っておくと、面白い話が聴けるかもしれないわね。
「頼んだブツは俺が『爆姉クリニック』、スミスが『催眠風紀委員〜俺が校則となり女子生徒は思いのまま〜』、そしてミカエラが『世紀末巫女伝説アンジェラ』や」
「だから機密事項をサラッとバラすんじゃない!」
「色々濃いですね」
 スミス局長の被爆被害が広がっていく。
 もうやめて、彼のライフはとっくにゼロよ!
 そしてミカエラ博士のラインナップも気になるタイトルね。
「ちにみに私は話題の擬人化BL『錠前パラダイス』を頼んでますよ」
「エミールも頼んでるの?」
 アンタ、一応博士の部下だよね?
 それなのにパシらせちゃったの?
「だってじゃんけんで負けた人が買いに行くって勝負でしたから、園咲博士一発負けしちゃって」
「園咲のストレート負けデース」
 自由だなーこの組織。
「なんかもう突っ込むのも馬鹿馬鹿しくなりました」
「そうか、わかってくれりゃええねん」
 呆れ果てた私を見て、御雷隊長も気が逸れたのか、いつもの柔和な笑顔に戻った。
 まあこの場は仕方ないにしても、ちょっと緩すぎるんじゃない?
 せめてこの状況を作った博士には一言くらい注意してもいいよね?
 私は携帯を取り出し博士にコールする。
「あ、博士ですか? 私です、桜子です。博士はじゃんけん弱いんですから、勝負しちゃダメって何度言えば分かるんですか。ええ、はい、いやそんな子供の言い訳みたいなこと言わないでください。分かったら返事、はいよろしい。それじゃあ、あとは私の分の『ますらおヘヴン・参』も忘れないでくださいね。ええ、だから乙女ゲーコーナーに行けばありますから。文句言わないでさっさと行く。それじゃお願いしますね」
 そう告げると通話を切る。
「お前も頼むんかい!」
 その場にいた全員からツッコミが飛んでくる。
 様式美が綺麗に決まった瞬間って気持ちいいよね。

【その2へ続く】
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1957758419&owner_id=6086567
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