【創作まとめ】
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【前回】
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埠頭は暗闇に包まれ、先程の戦闘からうって変わって心なしか薄気味悪く感じる。
先の戦闘での爆雷で、埠頭に設置されていた街灯が全て吹き飛ばされたようね。
爆風って凄いんだなって思いつつ、さっきまでの戦いを思い出す。
コマンダー・ウインドと、彼が操る二体のギアラプターズ。
その激闘の中でオーガインは大きく傷つき、一部の機能が使用不能になってしまった。
主に私達の乗る指揮車両との接触事故で。
仲間同士で何やってんのって思うでしょ? 私もそう思う。
成り行きで仕方なかったとはいえ大失態も甚だしいわよ。
考えてみれば、二体のギアラプターズを仕留めたのも指揮車両組だし、今回の戦いでオーガインって何の役にも立ってないんじゃないの?
いや、撥ね飛ばした際の人間砲弾として役立ったか。
でも唯一の見せ場が人間砲弾ってどうなのよ?
「雷閃光で皆さんをかっこよく助けたじゃないですか」
横を歩くオーガインから抗議が来た。
どうやら考えが声に出てたようね。
「これから敵のアジトに二人で乗り込むんだから、さっきみたいな腑抜けた戦闘はやめてよね」
「いやいや、さっきも別に腑抜けてませんよ。頑張って戦ってたじゃないですか」
「そう? アンタの撃墜数0、指揮車両組の撃墜数2」
「ぐぬぬぬ・・・・・・でも仲間に背後から撥ね飛ばされるなんて、普通は予想できませんし、対応も無理ですよね?」
「アンタに求められてるのは普通の戦士じゃないの。一騎当千のハイパーソルジャーなの、アンダスタン?」
「お、おーけー」
変身して表情が分からない分、どうにも腑に落ちないといった雰囲気を全身を使って出しているわね。
「だから次の戦いはカッコよく決めてよね、頼んだわよ」
「OK!」
今度は決意に満ちた、活力溢れる返事ね。
戦闘後、しばしの休憩をとっていると、岡田教授が作戦への参加を拒否し、部隊の離脱を申し出たわけだけど、その際に彼はオーガノイド・オベロンに連れ去られてしまった。
特機の結成の邪魔をしたり、オーガインの装備開発の邪魔をしたり、メンテナンス業務を拒否したり、作戦参加を拒否したり、挙げ句の果てにボスの注意を無視して単独行動した結果、誘拐される足手まといさ。
考えれば考えるほど、助ける必要が無いような気がしてくるわ。
大学教授で警察の装備開発顧問という稀有な存在でありながら、ここまで人徳の無い人も珍しいわね。
「なんか岡田教授のこと考えてたら、助けなくてもいいような気がしてきたわ」
「さっき特機の仲間にかっこいいセリフを言ったとこなのに、もうテンションダウンですか?」
「だってあの人居ない方が、色々といい方向に回るわよ?」
「あの、一応我々は警察の人間なので、そういった発言は控えましょうよ」
「えー」
警察の立場で考えれば、あんなんでも人命第一ということになるのは理解できるけど。
でもなあ、何か納得いかないのよね。
「ところで桜子さん、岡田教授を拐ったヤツですが、どう思います?」
「デザイン的にアンタと似てるから、新手の改造人間でしょうね」
実際、私も今朝がた改造手術に立ち会ったわけだし間違いないわ。
あれはオーガノイド・オベロンよ。
とはいえ、私の立場的にもここでそんなことは口が裂けても言えないんだけどね。
「クソッ、自分のような被害者を出さないために戦ってきたというのに」
「アンタが悔しがる必要は無いわ。アンタはアンタの手の届く範囲で助ければいいのだから」
「それは分かってるのですが・・・・・・分かっていても悔しいことには違いありませんよ」
特に今回はオーガインの時のような、外部の人間を拐って改造したわけではなく、身内のコマンダーを改造したわけだからオーガインに止める術はないのよね。
彼の正義感からすれば、悔しい気持ちは分からなくもないけど。
「その気持ちはこれからの戦闘のためにとっときなさい」
「わかりました」
これから敵の、ブラックサタデーのアジトに乗り込んで戦うことになる。
園咲顕将の操るオーガノイド・オベロンと。
「それにしても、私たちって幸先悪いわよね」
「何がですか?」
「特機設立してからの初陣なのに、コマンダー・ウインドにボコボコに負けちゃったことよ」
先程の戦いを思い出してげんなりする。
反省点は数えきれないくらいあるが、それでも見逃されたという事実は屈辱的で精神的に堪えるわ。
「何言ってるんですか? 勝ったじゃないですか」
「は? アンタこそ何言ってんのよ。指揮車両は廃棄処分確定なくらいボコボコ、アンタも一部の機能が使えないくらいボロボロ、おまけに相手に見逃されたのよ?」
言ってて滅入るわー。
「でも作戦続行出来てるじゃないですか。確かに戦いだけで見るとボコボコにやられたかもしれませんが、結果として作戦は次の段階へと進められるようになったじゃないですか。それって作戦としては勝ったってことですよ」
「なにその試合に勝って、勝負に負けたみたいなの」
そんなに楽観視できないっての。
「何事も前向きに考えていきましょうよ。さもないと勝てる勝負も勝てなくなってしまいますって」
「まあ戦うのはアンタなんだから、それでモチベーションが上がるならいいんじゃない?」
「桜子さんはドライ過ぎですよ」
オーガノイド・オベロンとの戦いに関しては、おそらく私が手伝うことなんて何もないはずよ。
オベロンを操る博士と私は、シャドールの同じ開発室のメンバーであり、上司と部下という間柄なのだから。
だから私は二人の改造人間の戦いを見守るだけ。
どちらかに加担することは無いわ。
「ここですね」
「ええ、ここよ」
会話をしている間に、オベロンが指定した倉庫の前にたどり着いた。
倉庫という名のブラックサタデー本部。
倉庫に偽装されているが、中にどんな仕掛けがあるかは分からない。
「行くわよ」
「りょーかい、いっちょ人命救助といきますか!」
オーガインは扉に手を掛け、地の底から唸りを上げるような低い音を響かせながら開いた。
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倉庫に入って暫くは薄暗い通路を進む。
何でこんなに暗いのよ、これじゃ足下もおぼつかないじゃない。
「特に迎撃システムとかはないみたいね」
敵のアジトだということで、侵入者対策のトラップや入りくんだ通路を覚悟していたのだけど、実際は普通の倉庫のように感じた。
考えてみれば、敵は普段からのこの場所を拠点として利用しているわけだから、人が出入りするだけで迎撃システムが起動したり、ゲームのダンジョンのように入りくんでると活動に支障をきたすものね。
実際、組織としてはブラックサタデーよりもシャドールの方が規模が大きいわけだけど、本部は地下深くに埋まってるだけで迎撃システムもなければ、ダンジョンにもなってないものね。
もしシャドールがダンジョンみたいになってたら、実家から通勤している私は毎日遅刻確定よ。
「待っていたぞ、オーガイン!」
慎重に歩を進めると突然声が響き渡り、お立ち台というか、高台のような所でこちらに背を向け、両手を頭上で交差させた謎のポーズで白衣の男がスポットライトを浴びながら立っていた。
ていうか博士だった。
きっとこの演出のためだけに辺りを暗くしていたに違いないわ。
スポットライトの光を辿っていくと、二階でオーガノイド・オベロンが照明を操作しているのが確認できた。
改造人間に何させとんねん!
「あと桜子君も待っていたよ」
「思い出したように付け足すのやめてください」
「素っ気ないねえ。そろそろ僕のことをお兄ちゃんと呼ぶ気になったかい?」
「そんな気には永遠になりませんのでご心配なく」
「え? お兄ちゃん? 桜子さんと園崎ってどういう関係なんですか!?」
ついいつもの調子で会話してしまったせいでオーガインが困惑している。
後で特機で変な噂を立てられても困るからさっさと誤解を解かないといけないわね。
「アンタも知ってるでしょ、昔少しだけ一緒に研究をしていた間柄よ」
「でも今の会話、なんか深い関係に聞こえたのですが」
「冗談はやめてよ。ただ彼がちょっと妹萌え属性の強い変態なだけで、私が研究から抜けてからは会ってないわ」
実際にはシャドールの研究所でほぼ毎日会っているわけだけど、一緒に研究をしている間柄だけど、特機では私とシャドールは全然関係ない設定で、博士とはとっくの昔に袂を別ったことになっている。
こんな些細なことでシャドールとの関係を疑われて、今までの苦労が水の泡にされるわけにはいかないわ。
「それとも何? 今までシャドールに何度も命を狙われた私を疑ってるの?」
「まさか、とんでもないですよ」
今までオーガインの協力者として、シャドールと何度も戦ってきた。
それはオーガインを監視し、その戦闘データを採取するという博士から極秘に与えられた任務によるものだ。
博士以外のシャドールの構成員は、私がオーガインに協力していることを知らない。
だからコマンダー部隊も私を敵として認識しており、何度も命を狙われたわけね。
その容赦ない攻撃に何度殺されかけたことか。
「盛り上がってるところ悪いけど、僕は漫才を鑑賞するためにこんなところまで来たわけじゃないんだよ」
しびれを切らした博士が割って入る。
いや博士が迂闊に「お兄ちゃんと呼べ」とか言わなければ、こんな茶番をする必要もなかったわけなのだが。
「さあ、戦おうじゃないか!」
博士がパチンと指を鳴らすと、照明を操作していたオーガノイド・オベロンが二階から飛び降り、博士を守るように前に歩み出てくる。
「その前に、人質は無事なんだろうな」
そういえば、岡田教授が拐われていたんだっけ。
あたりを見回しても、それらしい人影は見当たらない。
人質にしても邪魔になるだけだから、既に殺されてしまったのかしら?
「人質? ああ、あの豚なら既にに開放したよ。君たち二人を誘き出せればもう用はないからね。今頃はここを抜け出してお仲間と合流でもしてるんじゃないか?」
博士はオーガインとオベロンを戦わせることを目的としている。
おそらく岡田教授を開放したというのは嘘じゃないと思う。
「本当だろうな?」
「だってアイツ、ギャーギャー煩くて雰囲気ぶち壊しだもん。だから気にしなくていいよ。それにせっかくの改造人間同士の戦い、無粋な真似で汚したくないからね」
岡田教授が煩いのは確かだけど、果たしてあの小心者が誘拐された先で騒ぐことができたのだろうか。
だがここに居ない以上、人質を利用して戦いを有利に進めるという手段は使わないと思われる。
博士にとってもこの戦いは、絶好のデータ収集の場でもあるのだから。
「分かった。だが俺は改造人間と戦う気はない」
「つれないねえ」
おそらくオーガインはオーガノイド・オベロンのことを、自分と同じように関係ない人間を誘拐して改造したと思っているのだろう。
実際は違うわけだが、私の口からそれを告げることはできないわ。
「君の意思など関係ないよ。戦わないならここで死ぬだけだ。行け、オーガノイド・オベロン!」
「ラジャ」
オベロンは博士の言葉に短く返事し、オーガインに向かって走り出す。
戦う意思が無いとはいえ、オーガインも無抵抗に倒されるわけにはいかず、仕方なく身構える。
二人の改造人間は四つで組み合い、力の均衡を保つ。
「オベロン・・・・・・だと?」
組み合う改造人間の名前を聞き、オーガインはその名前に疑問を持つ。
「そうだ、彼はオベロン。君が研究所を抜け出して最初に戦った男の今の姿だよ」
オーガノイド・オベロン。
かつてオーガイン排除の指令を受けて戦ったコマンダーの成れの果て。
記憶と感情を消去され、戦うための超人として改造された戦士。
私の家族を人質にするという卑怯な手段を用いたが、オーガインに敗れ去った男。
その代償として、本人の意思とは関係なく改造人間となった因縁深い相手。
「バカな、お前は仲間をも改造したと言うのか!?」
「関係ない人間を誘拐して改造するよりは人道的だと思うが?」
二人の改造人間の人工筋肉は唸りを上げる。
人間を遥かに凌駕する力と力、その二つが互いにせめぎ合う。
「ふざけるな、人間を改造することが人道的であってなるものか!」
「何を言っているんだ? 肉体を損傷した人間が医療補助器具でサポートするのと同じだよ。君に敗れ、精神的に戦えなくなった彼が、再び戦士として戦うために必要だったことさ」
しばらくは力の均衡を保っていたが、戦うことに迷いがあるせいか、ジリジリとオーガインが押され始める。
本来なら同等のスペックを保有する二人、片方が力負けするなんてことは無いはずなのだが、脳改造によって感情を消されたオベロンと違い、オーガインの力は気持ちに左右される。
「研究所を抜け出し己の正義に従った結果、随分と貧弱になったものだね」
力負けしてジリジリと後ずさるオーガインをつまらない物を見るように博士は吐き捨てる。
「その言葉・・・・・・まさか!?」
「ん? 何のことだい?」
オベロンは組んでいた手を解き、オーガインに対して鋭く蹴りを放つ。
バランスを崩したところに攻撃を受けたオーガインはそのまま後方へ吹き飛び砂埃を蒔き散らす。
「俺が研究所で目覚めたとき、一つの言葉が脳に残されていた。『研究所を抜け出し、己の正義に従え』と。まさかあれは貴様が・・・・・・」
「何を言っているのかわからないなあ」
困惑するオーガインに、オベロンの追撃が迫る。
左右のコンビネーションブロウでガードを上げさせ、その隙にがら空きとなったボディに蹴りが襲い掛かる。
だが、それでもオーガインは反撃をしない。
自分と同じ改造人間を傷つけないために。
「僕はただ、君がシャドールの戦士と戦うことで、生きた戦闘データが取れると思って逃がしただけだよ」
オベロンの攻撃によろけるオーガインを掴み、今度は力任せに投げ飛ばす。
倉庫に積まれていた木箱へ落下し、粉々に砕け散る。
「それ以上の理由は無いよ。さて、そろそろデータを回収するとしようか」
それにしてもさっきの会話、気になるわね。
オーガインが研究所で目を覚ました時、脳改造は受けていなかったはず。
なのに先ほどの彼の言葉からすると、研究所を抜け出す指示がされていたということになる。
私の知らない情報、博士は何かを隠してるの?
「オベロン、ウエポンシステム起動だ」
「ラジャ」
オベロンは短く答えると、背中のランドセルのようなバックパックを展開させ、中からガトリングガンが現れ左腕に装着する。
なにあれ、今朝改造した時にはあんなの装備されてなかったのに。
オベロンは機体性能でいえばオーガインと同等だが、予算の都合上、内蔵武器を有していない。
そこにオーガインの勝機があると踏んでいたのだけれど、その考えはあっさりと、無情にも否定されたことになる。
オーガインと戦うことを想定して、博士が短時間で作ったに違いないわ。
どんだけ本気なのよ。
「マズい」
その様子を見たオーガインは、急いで私から離れるように駆け出す。
流れ弾が私に向かわないようにするための配慮に違いないわ。
その後を追うかのようにガトリングガンが火を噴き、落雷のような轟音が閉鎖された空間に連続で響き渡る。
「やめるんだ、オベロン。お前は改造されたことに何も感じないのか!?」
「・・・・・・・・・・・・」
「無駄だよ、彼は感情を有していないからね。僕からの命令を忠実に実行する兵器さ」
木箱に隠れるも遮蔽物としては心もとなく、次々と木っ端微塵に吹き飛ばされオーガインを追い詰める。
攻撃するオベロンもオーガインの言葉には何も聞こえないかのように沈黙のまま攻撃を続けている。
「どうしたの、オーガイン! このまま反撃もせずにむざむざとやられる気なの?」
この戦いに口を挟む気はなかったのだけれど、あまりに一方的な展開のため、居ても立ってもいられず叫んでしまう。
これはオーガインとオベロンの戦いであり、オーガインと博士との闘い。
そして博士と私の戦いでもある。
オーガインを見守る立場として、ずっとサポートしてきた立場として、このまま何もできずに一方的に倒されるのを黙って見られるわけないわ。
「自分には同じように改造された被害者を攻撃することなんてできません」
そう言っている間も身を隠す遮蔽物がなくなり、全身に弾丸を受け吹き飛ばされる。
いかにオーガインの装甲が頑丈で、ナノマシンにより多少の傷は回復するとはいえ、このまま攻撃を受け続けるとただでは済まないわ。
「はっはっはっ、これは面白いことを言うねえ」
「何が言いたい?」
博士の言葉にオーガインは苛立ちを隠せないでいる。
「任務のためなら人を殺すことさえ厭わない、元SteDの犬が人命を尊ぶとでも言うのかい?」
「なに?」
「僕が君の身元を確認せずに改造を施したとでも思っているのかい? 君はSteD、政府に殺人を許可された元殺し屋じゃないか。今さら命の一つや二つ、気にすることはないだろう?」
オーガイン。
いや、石動雷馬が以前に所属していたSteDという部隊は、反政府組織等に潜入し、武装蜂起を未然に防ぐためにその代表者を暗殺することを認められていた。
博士の言う通り、超法規的に殺人を認められた部隊に所属していたということになる。
「くっ・・・・・・だからと言って簡単に人を殺して良いわけがない!」
「甘いねぇ。あ、そう言えば君はSteDに所属していながら、人を殺したことのない欠陥品だったっけ?」
「黙れ!」
どういうことなの?
彼は任務によっては人を殺すことを厭わない、時として非情に徹する戦士だったんじゃないの?
もちろん、一般的には人の命を殺めることは許されない。
だが時と場合によっては、多くの命を救うためには最小の犠牲を払う必要があることもある。
世の中が全て詭弁だけで通る優しい世界でないことくらい、私でも知っているわ。
「そんなことでは守れる命も守れないよ? 守るべき命を取捨選択しないとね」
「黙れと言っている!」
オーガインは博士の言葉を遮るためか、被弾もお構いなしに博士に突進する。
しかしそれはオベロンが間に入り阻止される。
「どけッ!」
オベロンを振り払おうとするが、逆に膝蹴りを腹部にくらって押し返される。
「人命第一、素晴らしいね。敵も味方も、正義も悪も、全て平等に命を守りたいか? そんなだから君は人々を守れなかったんだよ」
「黙れ!」
オベロンの連撃を受けながらもオーガインは倒れない。
「五年前に起きた地下鉄毒ガス事件、君がかの教団の教祖を事前に暗殺しておけば防げたかもしれないんだろ?」
「黙れ!」
博士はオーガインの心の柔らかい場所をねっとりと、そして執拗に攻める。
だがオーガインはオベロンの攻撃を受けながらも歩みを止めない。
「でも君はくだらない、生かす価値のない命を選んだ結果、多くの命が失われた」
「黙れ!」
オベロンを振り払い駆け出す。
「頑なに殺人を拒否し続けたその姿、無様だがその信念には敬服するよ」
「黙れえええ!」
博士に拳を振りぬこうとした瞬間、追いついたオベロンに羽交い絞めで止められる。
「でも残念、君は既に人を殺してるんだよ」
「な・・・・・・に?」
博士の言葉に困惑するオーガイン。
彼の信念ともいえる不殺の精神、それが既に破られている?
「先日、警察で戦った際、君は元捜査一課課長の山田敏郎を殺しただろ?」
「う・・・・・・」
「それとも人の姿を捨てた人間は、殺しても人命にカウントされないルールなのかな? だとしたら随分と都合のいい自分ルールじゃないか」
博士の笑い声が倉庫にこだまする。
悦に入って勝ち誇る姿とは対照的にオーガインは力なくその場にへたり込む。
「俺が・・・・・・人を殺していた・・・・・・?」
呆然とするその姿は無防備そのもの。
オベロンは決着をつけるべくガトリングガンの銃口をその頭部に押し当てる。
「だが気にすることはない。正義のために命を取捨選択するのは当然のことさ。だからオベロンとも全力で戦い、そして彼を殺してみせるがいい」
「無理だ。俺は彼を殺すことはできない。たとえ正義のためとはいえ、人を殺していい理由にはならない」
投降するかのように、オーガインは抵抗を見せない。
人を殺した罪の意識が彼を苛んでいるのだろう。
無機質なセンサーアイも心なしか絶望に満ちているように暗く感じる。
「ふっざけんじゃないわよッ!」
気が付けば私は力の限り叫んでいた。
彼の言う通り、いかな理由があろうとも人が人を殺していい理由にならないのかもしれない。
それでも。
それでもよ。
「あの時、アンタがトカゲ男を止めなければ、私も氷室さんも殺されていたのよ!」
「・・・・・・桜子さん?」
「それだけじゃないわ。あの日、あの時、警察に来ていた一般客だって沢山殺されたかもしれないわ!」
私はありったけの想いを言葉にして叫ぶ。
「アンタは確かに山田を殺したかもしれない。でもね、同時に人の命を救ってんのよ!」
人が人を殺すという行為は、人の法の中では許されない。
だがそれ以上に命を守るということは尊いものだと思う。
私はシャドールの人間で、特機には潜入しているだけのスパイかもしれない。
博士と一緒に改造手術もした。
場合によっては人の命もパーツとして扱うわ。
それでも・・・・・・
「アンタは警察官でしょ! 警察官なら死んだ悪党の数よりも、救った命の数を大切に数えなさい!」
「救った命を・・・・・・」
オーガインは自分の両手を見つめる。
命を殺めた血塗られた手としてではなく、人の命を救った、命を掬い取った手として。
「そうだ、俺は人々の命を救いたい」
無機質だったセンサーアイに再び光が灯る。
「アンタはシャドールの手から人々を守る為に鬼と化した男でしょ!」
「そうだ・・・・・・そうだった。大事なことを忘れるとこだった」
「アンタの名を言ってみなさい!」
オーガインは立ち上がる。
そこに迷いはなく、決意に満ちた力強さを感じさせる。
「俺の名はオーガイン、超攻鬼装オーガインだッ!」
ファイティングポーズをビシッと決め、決意に満ちた深紅のセンサーアイが鋭く光り輝く。
「俺はもう迷わない。たとえ誰かを守る為に人を殺めたとしても。全てが終わった後、償えばいい」
オベロンの銃口を払いのけその胸板に全力の拳を撃ち込み吹き飛ばす。
「さぁ、地獄へのカウントダウンの始まりだッ!」
【その2へ続く】
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