下記は、2016.11.24 付の【産経抄】です。
記
江戸末期のペリー来航について、200種類以上のかわら版が出版されたそうだ。黒船の威容を目の当たりにした当時の日本人が、どれほど大きな衝撃を受けたかよくわかる。ペリーは、開国を迫る米国大統領の国書を携えていた。現在の首相に当たる老中首座を務めていた阿部正弘は、異例の判断を下す。受け取った国書を広く回覧したのだ。
▼歴史作家の中村彰彦さんによれば、大名ばかりか庶民にまで意見を求めていた。外国人が来たら、酒を飲ませて仲良くなったと見せかけて、刺身包丁で殺してしまえ。吉原の遊郭の主人が出したこんな意見書まで残っている(『黒船以降』)。
▼「平成の黒船」といえるトランプ次期米大統領は21日、大統領就任初日にTPPから離脱すると宣言した。アジアの経済秩序の主導権を中国に奪われかねない事態である。戦略の練り直しを急がなければならない。日米同盟について、今度はどんな発言をするのか。大げさにいえば、日本全体が固唾を呑(の)んで見守っている。
▼ところで、黒船に「泰平の眠り」を破られた日本人は、ただ右往左往していたわけではない。軍事力の圧倒的な差を見せつけられた幕府と諸藩は、西洋技術の国産化に力を注いだ。同時に身分の差にこだわらない人材登用を進めて、明治維新の準備が整っていく。
▼「どうも私たちは能動的主体的な国民ではなく、変化に対応してうまく身を処して行くのに長じた民族のように思える」。歴史学者の故会田雄次さんが、昭和50年1月の正論欄に書いていた。日本の歴史を振り返ると、受け身に回ったときの方が成功に恵まれてきた、というのだ。
▼それを信じて、「トランプショック」というピンチをチャンスに変えていくしかない。
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http://www.sankei.com/column/news/161124/clm1611240003-n1.html
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