mixiユーザー(id:5456296)

2015年10月23日18:26

512 view

中露を警戒する中央アジア諸国の日本への期待は大きい 袴田茂樹(新潟県立大教授)

 下記は、2015.10.23 付の産経新聞の【正論】です。

                     記

 安倍晋三首相の中央アジア訪問が実現した。2006年の小泉純一郎首相以来9年ぶりだ。今回は日本の首相として初めて全5カ国を訪問する。安倍首相の意欲的な積極外交には脱帽だが、日本として中央アジアにどう対応すべきか考えたい。その前に、この地域の特徴と問題点を概観したい。

 ≪中露の勢力圏争いの場≫

 中央アジアは旧ソ連邦の一部で、露との結びつきが強く、元来ロシア系住民も多い。露は自らの勢力圏と見て「ユーラシア経済同盟」や「CIS安全保障機構」に取り込む構えだ。しかし、近年は経済的に中国の影響が圧倒的となり、習近平主席は「シルクロード経済ベルト」構想を2013年にカザフスタンでぶち上げた。

 「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」には、中立国トルクメニスタンを除く4カ国がいち早く創立国として参加した。露は当初、シルクロード構想をユーラシア経済同盟に対立するものと反発したが、対抗するだけの経済力がなく、今は何とか折り合いをつけ共存しようとしている。

 ただ、この地域が、中露の勢力圏争いの場であることに違いはない。中央アジア諸国は、中露だけでなく欧米も競合させて利益を引き出そうとしている。狡猾とも言えるが、小国の知恵でもある。

 この地域は幾つかの問題を抱えている。第1に、カザフ、トルクメンの資源国を除いて国民は貧しく、資源国も産業は弱体だ。最も貧しいタジキスタンやキルギスは、露への出稼ぎの送金が国内総生産(GDP)の3〜4割にもなる。中央アジアのいずれの国も、今は経済面で中国を頼りにしているが、支配への警戒心も強い。

 第2に、IS(イスラム国)などの影響やイスラム過激派の台頭に神経を尖らせている。シリアなどに何千もの若者がこの地域から渡り、彼らの帰国後の行動が心配なのだ。この面では、同様の問題を抱えるロシアの軍事力に頼りたい気持ちもある。しかし、どの国もソ連時代のような露の支配は拒否しており、民族路線を強め、近年ロシア人も減った。「クリミア併合」以後は、露の帝国主義的行動に警戒心を強めた。とくにロシア人のまだ多いカザフがそうだ。

 ≪限られる日本のプレゼンス≫

 第3に、いずれの国も権威主義の傾向が強く、貧困や腐敗・汚職、民族や氏族の対立により政権は不安定だ。地域大国としてのカザフやウズベキスタンでは、高齢の独裁的指導者が去った後の混乱が心配されている。また、ウズベク、タジク、キルギスでは、社会的不満層の青年失業者が政権にとって危険な存在だが、今はロシアやカザフへの彼らの出稼ぎが体制の安全弁となっている。隣国アフガニスタンからの大量の麻薬流入も、社会を脅かす深刻な問題だ。

 最後に、中央アジア諸国はまとまっていない。共有する河川の上流国と下流国は、水資源をめぐって激しく対立している。国境紛争、民族紛争も絶えず、戦争寸前という状況もあった。もっとも、露にとっては、分割支配上この地域がまとまらない方が好都合だ。

 さてこの地域に、日本としてどう対応すべきか。この地域は一般に親日的であり、ソ連邦崩壊後は、日本の援助や投資に熱い目が向けられた。日本もエネルギー、レアメタル、ウランなどの資源の豊かなこの地域に関心を向けた。

 しかし、劣悪な投資環境や限定された市場、地理的閉塞性、また日本経済の停滞などで、日本からの投資や企業進出はごく限られ、中国が台頭すると、中央アジア諸国の日本への熱も冷めた。04年には「中央アジア+日本」の枠組みも作られ、一定の対話と協力も推進されたが、この地域における日本のプレゼンスは限られている。

 ≪地域安定、経済協力で貢献を≫

 しかし最近は、露や中国の支配への警戒心、中国の経済協力の利己主義や質への不満が強まり、再び日本の誠実な対応への期待が強まっている。それゆえ、安倍首相の訪問はまさにタイムリーだ。

 日本としては、先に述べた地域の諸問題を深く理解し、次の優先順位で協力を推進すべきだ。(1)地域の安定(2)経済協力(3)民主化・人権などの価値観の共有−である。

 今、中東やアフガン、ウクライナなどが混迷し欧米と露の対立も強まって世界が揺れる中で、この地域の安定は世界全体にとって死活的に重要だ。(1)の地域の安定と(2)の経済発展は密接に結びついているので、日本政府は当面は(1)、(2)を重点に考え、イスラム圏としての特殊性を考慮すると、(3)の民主化や価値観の共有は長期的課題と考えるべきだろう。

 特に重要なことは、今日の国際状況の下で、この地域でのわが国のプレゼンスが強まり、地域の安定に寄与するならば、中露をはじめ世界に対して日本の発言力が強まることである。

 つまり、日本はエネルギーや資源などの経済利害だけでなく長期的な国家政策の観点から、中央アジアの重要性を認識すべきだ。そのために政府は負担を覚悟しても企業進出や人的交流、人材育成などを積極的に支援すべきである。(はかまだ しげき)

 http://www.sankei.com/column/news/151023/clm1510230001-n1.html
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する