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2015年03月02日20:44

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クリスティアン・ティーレマン&シュターツカペレ・ドレスデン

【プログラム】
リスト: 交響詩「オルフェウス」 S98/R415
ワーグナー: ジークフリート牧歌
     〜〜〜休憩〜〜〜
R.シュトラウス: 交響詩「英雄の生涯」 Op.40

≪アンコール≫
ワーグナー: 歌劇「ローエングリン」より第3幕への前奏曲

シュターツカペレ・ドレスデン
クリスティアン・ティーレマン(指揮)

2015年2月23日(月),19:00〜,サントリーホール


ティーレマンが振る演奏会を聴くのは,これで3度目となる。最初はミュンヘン・フィルを,2回目はシュターツカペレ・ドレスデン(SKD)を指揮した,いずれもブルックナーの交響曲がメインのコンサートだった。残念ながら,過去2回は期待どおりの演奏ではなかった。ティーレマンとブルックナーの相性があまり良くないのが原因ではないかと考えている。日本海海戦のように,艦隊同士が大砲を撃ち合うような豪快なブルックナーの第5番と第8番でけっこう面白かった。だが,ブルックナーの得も言われぬ美しさや深い味わいにやや欠けていたように感じた。

今回はR.シュトラウスがメインのプログラムで,ワーグナーも聴ける。ブルックナー中心のプログラムとは別の一面を披露してくれるかも知れない。また,ティーレマンがSKDの首席指揮者に就任して2年半近く経過し,前回より息の合った演奏をきくことができる可能性も高い。前の2回以上の演奏を期待した。

この演奏会の1曲目,交響詩「オルフェウス」は,予備知識ゼロの完全な白紙状態で聴いた。曲の出だしを聴いた瞬間に,とてつもなく巧い演奏を聴いていることを直感する。演奏技術の域を超えた,音楽的な充実とでも表現すればいいのだろうか。初めて聴いた曲だったが,惚れ惚れとする演奏とともに,オルフェウスの物語をテーマとしたこの作品の仄暗く静かな黄泉の国の雰囲気,さらにリストの音楽が持つ独特の色彩感が伝わってくる。

交響詩「オルフェウス」のみごとな演奏を聴いて,「ジークフリート牧歌」に対する期待も自然に膨らんだのだが,若干肩透かしを食らった格好だ。原因は管楽セクション。それも一部の奏者のスタンド・プレーのような突出し過ぎたソロが元凶だ。「ジークフリート牧歌」では,出だしから管楽器と弦楽器が微妙に噛み合っていなかったところへもってきて,曲の中盤のソロでその食い違いが頂点に達する。全体のバランスを無視した,アマチュア・オーケストラのような木管のソロが,この曲の幸福で親密な雰囲気を台無しにしてしまった。

編成の小さな「ジークフリート牧歌」は期待外れだったが,大編成の「英雄の生涯」は衝撃的だった。この演奏が衝撃的だったのは,これまでの経験から聴くことは到底かなわないと諦めかけていた理想とする演奏を実際に耳にしたからだ。さらに,これまで心の片隅で漠然と燻っていた理想の演奏が,その曖昧なイメージよりも格段に明確なかたちで突きつけられたからである。

派手さや煌びやかさとは無縁の渋い演奏だ。もちろん,SKD特有の燻し銀のような音色のせいもあるが,やはり演奏自体に何とも言えぬ落ち着いた趣や深い味わいがある。精緻に彫琢されたモチーフを素材にして作り上げられた,緻密で堅牢な構成の「英雄の生涯」は,絶妙なバランスの上に成り立っている。

また,このパーフェクトなバランスは,パーフェクトなアンサンブルの賜物でもある。アンサンブルの完璧さは約束事に従った作為的な完璧さではなく,インスピレーションに深く根差した内発的な完璧さである。この驚異的なアンサンブルは,100人を超える大オーケストラのメンバーそれぞれが心の赴くままに演奏したからこそ達成できた,ある種のパラドックスのようなものだ。おそらく,この演奏がもつ驚くべき説得力は,この自発性によるところが大きい。

さらに,この演奏を聴いていると,「英雄の生涯」の各情景がまざまざと浮かんでくる。これほど各場面が自然に浮かんでくる「英雄の生涯」はこれまで聴いたことがない。この作品を聴くときは,知識として知っているストーリーを音楽の展開にあてはめながら聴くことが当たり前になっていた。この交響詩に対する心からの共感が,曲全体の大きな見通しのもとに,それぞれの情景を鮮やかに描き分けることを可能にしているのだろう。

だが,ここまで書き進めてきて,このコンサートを聴いた衝撃の周囲をうろついているだけで,その核心に切り込むことはおろか,その一端に触れてさえいないもどかしさを感じる。要するにひと言でいうとどういうことなのか,コンサートが終わってから考えているが,どう表現していいのかわからない。昨晩も粘ってみたが,一歩も前進しない。潔くこのあたりで諦める。舌足らずで,中途半端なままでも仕方ないだろう。

アンコールは「ローエングリン」第3幕への前奏曲。「英雄の生涯」の余勢を駆った,「ローエングリン」にしては熱気を帯びた第3幕への前奏曲。ティーレマンが指揮する演奏会で,アンコールを聴くのは今回が初めて。オーケストラの団員がステージを去った後,鳴り止まない拍手に応えて,ティーレマンが再び姿を現した。これも,この日の演奏が彼にとっても納得できる演奏だった証なのかもしれない。

これまで聴いた中でも屈指の演奏会であると同時に,これからも演奏会や録音を聴きながら,考え続けるべき宿題を与えられた演奏会になった。それは真剣に考えるに値する課題であり,音楽に対する向き合い方を改めさせる問題提起でもある。

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