ケータイを洗濯した

　当然、完全にオシャカになった。ちょうど臨時収入があったことでもあり、いい機会なのでスマートフォンに換えようかと思った。携帯電話といっても、ほとんど時計としてしか使っていない。通話機能は、年に数回ある出先の待ち合わせで、行き違ったときにすごく便利という位置づけでしかない。いわんや、スマフォをやという状況ではある。

　しかし、趣味でちくちくスマフォのアプリを作ってみるのも楽しそうな気がした。当分、そんな暇はなさそうだけれど、一度換えたらどうせまた洗濯するまでそのままだろうし、スマフォそのものに慣れておくのは悪くなさそうではある。

　いままで、スマートフォンそのものに懐疑的だった。個人的には上記のような生活だから、そもそも必要がない。世間的にも、スマートフォンの機能を使いこなしている人間なんて、一握りではないかという気がしている。フィーチャーフォンでも間に合うのにスマフォを使っているケースが多く、それどころか、セキュリティやコストを考慮するとスマフォにしない方がいい場合もかなりありそうだと思う。もちろん、ネットワークはインフラにもなったけれど、嗜好品としての意味合いも強く、それだけ普及しているということは商品としての魅力があるということではある。

　ガラケーという言い方にも釈然としていなくて、この言葉が使われ始めたころ、情報処理端末のサービスのレベルでは日本が世界をリードしていたと思う。もちろん、独自基準のせいでメーカーは海外進出に苦労したが（そして、結果として失敗したが）、裏を返せばすでに単独で成立しうる市場を形成していたともいえる。そこで培ったノウハウで世界に打って出れればよかったけれど、メーカーは明らかに明後日の方角に目を向けてしまっていた。このころ、厚さ1ミリのケータイなんぞを作っていて、そんなもの開発者の自己満足でしかないことは明白である。所詮、メーカーはデバイスを作るのが仕事であって、サービスを持っていくという発想はなかったのだろう。

　アプリやデータの配信といったネットワーク上のサービスについて、アイフォンはむしろ、日本の状況を後追いしていた。日本の市場にインパクトを与えたのは、タッチパネルによるインターフェースだけれど、あれはたしか電子手帳からの流用だったとはずである。あと、アメリカ人はケータイの小さいキーが苦手でもあった。つまるところ、技術的には別に目新しいものはなかった。
　もちろん、既存のものを組み合わせてまったく新しく魅力的な商品を作り出すことは大切である。だから、スマートフォンの商品化そのものに難癖をつけるつもりはさらさらないのだけれど、日本での受け入れられ方については、タッチパネルに目を奪われて、その向こうにあるネット上のサービスはすでに利用してきたものであることが見落とされていたような気がして仕方がない。

　ひとつ違いがあるとすれば、iアプリなんかは機能上の制約が多かったけれど、アイフォン以下スマートフォンのアプリにはそれが少なく、結果としてパワフルではあった。反面、セキュリティなどには問題を抱えたけれど、それはユーザーの自己責任というのが、むこうの文化である。海外からきたものがそういう仕組みでも受け入れられるけれど、日本で作られたものが個人情報をガードしていなかったら、槍玉に上がったような気はする。

　日本のプロバイダがそうしたサービスに及び腰だったのは、推測だけれど、ＮＴＴがダイヤルＱ２でかなり批判されたことが影響していると思う。ケータイのコンテンツを開発していたころ、特にドコモはコンテンツ上の掲示板機能に神経質でとにかくうるさかった。すでにパソコンを介した掲示板でのやりとりは一般化していて、いまさらなにを言っているのだろうと思ったけれど、そういう歴史を持ってしまっている以上、仕方がないことなのかもしれない。
　一般に日本のプロバイダはユーザー保護の姿勢が強く、というか、個人情報を積極的に利用することによって新たなビジネスに結びつけるという意識が希薄で、そこがそのまま現状につながっていると思う。

　そんなこんなで、スマートフォンをいじっている人間を目にするたびに、ケッと思っていたのだけれど、いよいよ自分がスマフォを手にする以上は、完全に掌を返してガラケーを使っているやつらを積極的にバカにしていく所存であった。しかし、販売店の窓口で「保険がきいていますから、お安く新品に交換できますよ」と言われると、やはり乗り換えるのは手続きも面倒くさいし、どうせアプリの開発なんてやるわけないしということで、あっさり交換の手続きをしたのだった。