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2015年02月21日20:03

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札幌交響楽団第577回定期演奏会

【プログラム】
シベリウス: 交響曲第5番 変ホ長調 Op.82
       〜〜〜休憩〜〜〜
シベリウス: 交響曲第6番 ニ短調 Op.104
       〜〜〜休憩〜〜〜
シベリウス: 交響曲第7番 ハ長調 Op.105

札幌交響楽団
尾高 忠明(指揮)

2015年2月14日(土),14:00〜,札幌コンサートホールKitara


『シベリウス生誕150年記念,シベリウス交響曲シリーズvol.3』と銘打ったこの定期演奏会は,尾高忠明と札響のコンビが手がけてきたシベリウス・チクルスの締め括り。2012年のベートーヴェン交響曲全集に続き,この秋には,このコンビによるシベリウス交響曲全集が発売になる。

正直なところ,シベリウスの熱心な聴き手ではない。交響曲第1番と第2番,交響詩「フィンランディア」,ヴァイオリン協奏曲を除くと,シベリウスの作品は知らないに等しい。それにもかかわらず,ヒラリー・ハーンの現代音楽風のシャープな演奏を聴いて以降,ヴァイオリン協奏曲がシベリウスの最高傑作だと勝手に決めている。

また,シベリウスについては,個人的にささいな混乱がある。シベリウスは,いわゆる民族楽派の系譜に属する作曲家だと考えているが,れっきとした現代作曲家だと主張する向きもある。この作曲家は20世紀のなかばまで長生きしたこともあり,たしかに現代音楽に通ずる一面がなくもない。妙なこだわりであることは自覚しているつもりだが,この点に関する疑問は未だ心の中で燻り続けている。

さて,この日,演奏された3曲の交響曲のうち,最も現代音楽に近づいたのが交響曲第5番で,第6番と第7番ではロマン派風の調性音楽に戻ったという印象だった。だが,フィンランドの風土や文化を最も色濃く反映していたのは第5番の交響曲。やはり,シベリウスは一筋縄では行かない作曲家である。

交響曲第5番の演奏を聴いていて,「春の祭典」に通ずるようなところがあることに気付く。何小節かごとに拍子が変わるよう書かれているようでもある。そして,この交響曲は断片化された音塊を繋ぎ合せて作られているようにきこえる点でも,「春の祭典」に似ているといえなくもない。その和声も調性音楽の枠を超えるものではないにしても,斬新かつ独特な風合いがあって,これまでに聴いたシベリウスの作品の中では,最も前衛的な音楽のように感じる。

一方,この交響曲は,現代音楽風の抽象性は維持しつつも,フィンランドの気候風土や自然を壮大なスケールで描いた一大絵巻であるという別の側面も持つ。海から陸地へと深く切れ込んだフィヨルド。その断崖絶壁を覆う大森林。氷河に削られた深い谷を含む雄大な山並み一帯を深い霧が包み込んでいる。このような光景が目に浮かぶ,ある種の標題音楽のようでもある。オーケストラは,モノクロームの深い響きで,ダイナミックな音楽を作るのに懸命だった。

指揮者はこの作品を巨大なジグソー・パズルのような音楽と捉えていた節がある。ジグソー・パズルのピース一つひとつを克明に描きつつ,それぞれが作品全体に占めるウエイトや他のピースとのバランスに配慮し,全体を壮大なスケールの音楽にまとめあげるアプローチを採っていたように思う。ただ,指揮者とオーケストラが,この作品の全体像や骨格をどの程度共有していたのか疑問の余地がなくもない。そもそも,こうしたアプローチに不可欠な明快なビジョンが共有されていたのかさえ疑わしいほどもどかしい箇所もあった。とはいえ,このアプローチそのものは興味深い。

交響曲第6番と第7番では,オーケストラは色彩感と透明感にあふれるサウンドに一変する。演奏も主旋律をくっきりと描き出す前期ロマン派のようなスタイルにかわる。メロディーを美しく歌わせ,弾むようなリズムにのせて,曲は快調に進んでゆく。だが,メロディーやハーモニーの端々にシベリウスらしさが感じられるものの,サウンドに関しては,イタリアのオーケストラが演奏するシベリウスのようにきこえてしまう。これらの交響曲がもつ明快な一面を強調し過ぎたのではないだろうか。

この日聴いた札響には,以前と比べて変わった面と相変わらずの面とが混在していた。このホールを本拠地にするようになって,演奏技術が向上しサウンドも洗練されたことは間違いない。良いホールが良いオーケストラを育てる好例だと思う。反面,このオーケストラのアンサンブルの甘さやサウンドの粗さが,ときおり顔をのぞかせることもあった。ある意味で懐かしくもあり,残念でもあり,変わることの難しさを思い知らされる。もちろん,トータルでは疑いようもなく向上していることは確かで,このオーケストラの個性を発揮しつつ,さらなる高みを目指す段階に達していることは間違いない。

ところで,札幌コンサートホールは,この札響の定期をもって一時休館しし,再開する6月16日までの間に,設備のメインテナンスを中心にした改修工事を行う。また,年度替わりが近づいていることもあり,コンサートマスターの1人,副首席フルート奏者,首席ティンパニ・打楽器奏者の退団が発表された。そして,この日は音楽監督をつとめる尾高忠明が指揮する最後の定期演奏会でもある。退任のスピーチで,オーケストラにとって最も必要とされることは多くの指揮者の下で演奏することだ,という一節が印象に残った。

初めて聴いた札響の定期演奏会は,ロビー・コンサートに始まり,この楽団を去る人たちの紹介で終わった。ホール内はオールド・ファンと比較的若い聴衆でほぼ埋め尽くされ,地元の愛好家に支えられながら,新陳代謝を繰り返す,地方オーケストラの姿が凝縮された演奏会だった。

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