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2011年08月26日06:37

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青木繁展 −よみがえる神話と芸術−

さて。君をどう評そうか?

倣岸。不遜。自分勝手。自己中心的。俺様気質。自信過剰。自意識過剰。高飛車。破滅的。

そうだね。どれも言い当てている。どれも君の性質の一部ではあるんだろう。
でもね。それでも私は君に言うんだろう。
「君は間違いなく天才だった」と。「画家として、才気あふれる君」と。
君の28年間の人生。実はどうだったんだろう?人並みに落ち込んだ?人並みに悲しんだ?人並みに生きているのが嫌にもなった?イヤ、君のことだ。「僕が人並みであるはずがない!」ってふんぞり返って言うのかな?

ブリジストン美術館で開催中の『青木繁展 −よみがえる神話と芸術−』に行って来ました。チケットは母の友人から貰い、2枚あったので、母と一緒に行ったのですが。

青木繁。有名画家ですね。重文指定された絵が2枚もある。美術の教科書にも載ってますね。
今回は、没後100年と言うコトで開催されたそうです。学芸員さんのスライドトークにも参加したのですが、8年前に企画が決まって、8年かけた展示会だそうです。

私の中で、青木繁って画家は面白い位置におりました。
おそらく、私、青木繁の絵、好きなんです。だって、神話モティーフが多いでしょ?ちょっと、ラファエル前派っぽいし、中村不折っぽくもある。宗教画や、神話画題の絵が大好きな私が嫌いなワケないのです。でも、その反面、「この画家、好きになっちゃいけない気がする・・・」と言う思いもあったりしました。有名過ぎる・・ってのも、理由の一つなのかも知れないし、神話好きで「この画家好き」って、あんまりにもベタじゃね?って思ったからかも知れません。

飛んじゃったよ。そんな思い。本物見たらね。君の本気を見せられたらね。飛んじゃったよ。
「私、青木繁好きだ。」今は、ちゃんとそう言えます。

青木繁は28歳でこの世を去りました。美術評論家の山田五郎氏曰く「憎みきれないろくでなし。」
さて、では、このろくでなしの絵の感想などを、ちょっくら書いてみようじゃないか。

青木繁は久留米藩主の子として生まれるのですが、実家は裕福ではなかったそうです。14歳の頃に画家になろうと決意するのだが、その時の思いが、まぁ〜スゲエ。
『僕は、何でも人並み以上に良く出来た。アレキサンダー大王に憧れていたので、軍人になろうと思ったが、今は軍人って、戦争に行くしかないから、それじゃ意味ないと思い、哲学者など諸々考えて、芸術家になるコトにした』的なコトを言ってるのです。ぶっちゃけ、こんな高飛車な14歳、イヤだ!(^_^;)。

親には反対されたケド、彼は、東京美術学校(今の東京藝大)に入学します。

んで。展示会場に入ると、正面にズバーンとあるのが、『自画像』。現在もそうらしいのですが、東京藝大の卒業制作って、自画像なのだそうです。で、コレもその卒業制作として描かれた絵。『かつて東京美術学校にある日』って書いてある。この頃は、まだ「ドヤ顔」じゃないのだが、それでも、目力がハンパねえ。
青木の他の肖像画。逸話が凄かった。元は個人蔵だったのだが、この肖像画、夜中にシクシク泣き出したんだそうです。所有者が恐くなって、寄付した・・と言う逸話があった。魂込めすぎちゃったんだろうなぁ〜。

んで。青木繁は、当時、上野に今の国会図書館(帝国図書館って言うのかな?)があって、そこで、神話や聖書などを読みまくったらしく、それで、幻想的な絵を描くようになったらしい。

私、展示会見て吃驚したんだケド、青木繁って、こんなに色んなタッチの絵を描いてる人だって知らなかった。
バーン=ジョーンズ風のもあるし、レイトンっぽいのもある。中村不折っぽい重いモノもあれば、モネっぽいモノもある。ファンタン・ラトゥールみたいなタッチのモノもある。モローっぽいのもある。

デッサンも面白い。この人、やっぱり、絵、上手いや。自分で自分のこと「天才」って言うだけあるは(そう言う奴、基本的に私ゃ嫌いだケドさ(^_^;))。

デッサンに、小学生の頃からのお友達『坂本繁二郎像』があった。横を向いて座ってる絵。でも、青木はね、坂本を「つかいっぱ」くらいにしか思ってなかったみたいなの(^_^;)。でも、その坂本が、後に、石橋正二郎さん(だっけ?ブリジストンの創設者)に、「青木の絵が散逸してしまうのは残念なので、絵を買い集めて欲しい。」って言ったらしいよ。(坂本さんは、石橋さんの絵の先生だったんだってサ) あぁ、この辺りが「憎みきれないろくでなし」の所以か・・・。

デッサンで『林』ってのがあったのだが、横のいたずら書きが楽しいんだな♪

『輪転』。私のお気に入りの1枚。ちょっと、ファンタン・ラトゥールっぽいタッチの絵なんだ。輪郭がボヤ〜ンとした感じでね。
4人の裸体の女性が、海でロンドを踊ってるように私には見える。中央に車輪があって、金色の太陽が輝く。幻想的な絵。

『黄泉比良坂』。私の超お気に入り絵。因みに、この企画考えた学芸員さんも「この絵、私、大好きなんです。あんまり学芸員は、好き嫌い言っちゃダメなんですケド。」って言ってらした。
黄泉比良坂は、あの世とこの世の境目ね。イザナギって言う神様と、イザナミって言う女神がいたんだケド(夫婦ね)、イザナミは、火の神を生んで、焼け死んじゃうのです。悲しんだイザナギは、冥界に行って「イザナミを生き返らせて」って頼むんだ。で、「生き返らせても良いケド、黄泉の国を抜けるまで、途中絶対後ろを振り返るな!」って約束させられるのね。でも、イザナギは、それを守れず、後ろを振りかえってしまう・・・・。

すると、そこには・・・・。ウジまみれで半溶け状態の世にも醜い姿のイザナミの姿が・・・。吃驚したイザナギはイザナギを放り出し逃げる!ところが怒ったイザナミは、冥界の鬼女にイザナギを追わせる!!逃げるイザナギ、追う鬼女!!

と、まさにその場面を描いた絵。画面上は光にあたり、その光の中で頭を抱えるイザナギ。その下の薄暗い部分には、5人(6人と言う説も)の鬼女が、渦を巻くように上に上がろうとしている。鬼女のはずの女は、美しい裸体の女性になってます。構図も美しい。
コレで、白馬賞を取った青木は注目の青年画家となったらしい。

小さい作品だったケド、好きだったのが『闍威弥尼』。ジャイミニって読むらしい。古代インドの哲学者だそうな。椅子に座った闍威弥尼さん。色彩が美しかった。

青木が持っていた島崎藤村の本『若菜集』。コレ、デザイン絵が、中村不折だったの。私、青木の絵を見ると、ちょっと不折っぽい〜って思ったりもするんだケド・・・。コレって偶然かな?
他、『宿泊人届簿』には、青木の名前があるも、年齢が24歳になってる。この時、ホントは21歳だったのよ。若者特有の「早く大人になりたい願望」かしらん??

んで。1904年。青木は坂本繁二郎、森田恒久、恋人の福田たねさんと、房州の布良へ旅行へ行きました。ぶっちゃけ、青木は、森田も坂本も「つかいっぱ」だと思ってたみたいで、つかいっぱと彼女で旅行行った的な感じだったみたい(^_^;)。
で、そこで、青木は坂本から大漁水揚げの話を聞く。聞いたとたん、青木の目がらんらんと輝き、とある絵を描いたらしい。

そう。この時描いた絵が、有名な『海の幸』。今や重要文化財ですね。
荒々しいタッチで描かれた水揚げ。全裸の銛を持った男性達が画面右から左へ歩いている。どこか神儀っぽくもある。中央少し右に、白い顔の人物。体は男性だけど、顔は恋人のたねさんだ。2年後に加筆されたモノらしい。この絵、面白いのは、デッサン線もそのままで、足も描いてなかったりして、かきかけっぽくもある。この絵は凄く評判になったそうな。

恋人のたねさん。他の絵にも出てくるの。
『天平時代』って言う絵があって、奈良時代シリーズの一つらしいのですが、奈良風の建物に女性が思い思いのポーズでいるのね。建物の中なのに、池のようなモノがあり、蓮の花が浮いている。で、この中に朱の着物を来てる女性が、画面のこちらを凝視してるんだケド・・・。説明文には何もなかったケド、これ、たねさんだと思うんだ。
絵の中のたねさんは、必ずカメラ目線。

『少女群舞』。袴姿・・なのだろうか?朝鮮風の着物かなぁ〜。そんな衣装の3人の少女が輪になって踊っている。緋色の袴がまぶしい。

『海』。点描画でモネっぽい。青木はフランス留学してないケド、何処かでモネの絵を見たのかも知れない。

『海景(布良の海)』。荒々しい海。コレもモネっぽいかな。

『女の顔』と言う絵。コレはたねさんの顔だ。眼差しが強い美女だね。たねさんは、青木もいた不同舎って言う画塾の生徒だったそうな。栃木生まれでお金持ちのお嬢さんだったみたい。

『男の顔(自画像)』。私、青木のイメージってコレです。ロン毛の青木。ふんぞり返って、人を見下してみるみたい。スゲエどや顔してるの(笑)。「オマエ、キリストかよ!」みたいな雰囲気もあってサ。でも、学芸員さん曰く「青木は恰好つけてロン毛だったワケじゃなくて、お金がなくて、髪の毛が切れなかった。」そうです。あ・・・そうだったんだ・・・。てっきり、キリストっぽくしてたのかと・・・(^_^;)。因みに。青木は、本当にふんぞり返って歩いてたらしくて、口の悪い友人には「青木は、後ろから声をかけた方が早い」って言われてたんだってサ。

『木立(森の暮色)』。凄く暗い木の絵。背景はグレーだし。重ったるい。でも、私の心を掴んだ絵。こう言う表現が「中村不折っぽい」って私が思っちゃう所以なのかなぁ〜。

デッサンに『眼』って言うのがあった。自分の目・・なんでしょうかね?強い意志を感じる目。学芸員さんもお気に入りのデッサン絵らしいです。青木自身も「目を描くのは難しい」と言ってるそうな。青木は乱近視だったから眼鏡男子だったんだケド、自画像を描く時、絶対眼鏡描かないんだ。何故だろう?素の眼を見て欲しかったのか、ただの恰好付けなのか・・・。

板に焼き絵と言う技法で描かれた『海景(円光寺板戸)』ってのがあったのだが、コレ、青木らしいのは、旅行の際、このお寺にやっかいになった時、この絵、許可取らずに、勝手に描いちゃったらしい(^_^;)。
青木は、こういうコト、平気でします。美術学校にいた時も、他の仲間の絵に勝手に手を入れたり(青木曰く「僕は天才だから、そういうコトをしても許される」んだそうな。)、仲間の絵の具を勝手に使ったり(青木曰く「自分のような天才に使われた方が、絵の具も嬉しい」のだそうな)するのだが。でも、級友は、わざと青木が使える場所に絵の具を置いておいたりしてたみたい。青木は貧乏で絵の具を買うのも苦労してたの知ってたみたい。このあたり、やっぱり「憎みきれないろくでなし」なんだね。皆、きっと才能は認めてたんだ。

私の大好きな青木の絵がある。2点あるんだケド。今回も展示してあった。
まず、『大穴牟知命』。大穴牟知命って、後に大国主神になる神様です。因幡の白兎の話に出てくる神様ね。
この神様、兄達を差し置いて、ヤカミ姫(だったかな?)に好かれたから、さぁ大変。兄達の策略にあい、焼けた石を持たされて焼け死んじゃった。母親は死を悲しみ、「蘇生させて」と訴えます。そこに、現れたのが、赤貝の女神のウムギ姫と、蛤の女神のキサガイ姫。赤貝ちゃんが、貝を削った白い粉を出して、蛤ちゃんが、母乳をまぜて作った薬を大穴牟知命に塗って、蘇生させる・・と言うお話。
まさにその場面を描いた作品。中央にドンって、大穴牟知命が寝てて(てか死んでて)、両脇に、赤貝ちゃんと、蛤ちゃんがいるのだが、蛤ちゃんは乳を出してます。母乳を使うから・・らしいのだが、この話が載ってる『日本書紀』には、乳を出す・・と言う場面はないので、コレは、青木アレンジ。
で、この蛤ちゃん、カメラ目線でこっちを見てる・・・ってコトは、そう!モデルは恋人のたねさんだ!
これ、大穴牟知命の体は反り返ってて、体も「こんなに曲げるか?」ってほど曲がって寝ているのだが、それがスゲエダイナミックで恰好良い。昔から好きな絵で、私のお気に入りです。

もう1枚の好きな絵は、重文指定の有名な絵。
『わだつみのいろこの宮』。コレは、『古事記』の話が元。海幸彦と山幸彦の話です。ある日、この2人は、自分達の仕事を取り替えた。海幸彦は山へ、山幸彦は海へ行くのだが、海幸の釣り針を、山幸はなくしてしまう。怒った海幸は「見つけて来い!」って山幸に言う。
山幸が海に入って、神様が座る、神聖なユツカツラの木って言う木に座ってたら、侍女と水を汲みに来ていた(海の中なのに、何故か井戸があるのよ)、豊玉姫とバッタリ遭遇。2人は恋に落ち、2人の間には子供が生まれ、そう、この子供が、現在まで続く天皇陛下の始まりですな。
美智子様が、この美術展に来ていたらしいのだが、この絵を見ながら「義理とは言え、ご先祖様の絵なのね。」と仰っていたそうな。そうだね!義理のご先祖様だ!

絵は、豊玉ちゃんと、山幸がバッタリ会う場面。中央にはユツカツラに座る山幸彦。ちょっと不安そうな顔にも見える。左の朱の着物が豊玉姫。山幸と見詰め合っている。右の白い着物が侍女。
でね。本当にバーン=ジョーンズの絵に似てるの!!タッチと良い、朱の色味と良い。私は、クピドとプシュケの絵を思い出した。服のひだの感じや、水に漂う帯の感じとか。
青木繁、ホントに、ラファエル前派好きだったんだなぁ〜って。

この絵。青木が勝負をかけた絵です。たねさんの実家でかなり援助してもらい、下書きも入念にし、描いた絵。そして、東京府立勧業博覧会に満を持して持っていった絵。でも、結果は3等。青木は失意に落ち、父親の具合も悪くなっていて、実家の久留米に帰って行ったのです。

でも、結果。現在では、青木のこの絵は重要文化財です。3等だったこの絵が。
美術評論家の山田氏曰く「1等の絵は、凡庸でつまらないの。こっちの絵の方が全然凄い」そうな。『ぶらぶら美術・博物館』で、そう言ってました。山田氏が「当時の審査員は見る眼なかったってコトなんだろうねぇ。お笑いでもそういうコトってあるでしょ?」っておぎやはぎに訊いてました。おぎやはぎ、半苦笑で「まぁ・・・ありますねぇ〜」と。おぎやはぎも、M−1や、NHKの新人演芸大賞とか、賞レースに出てるもんね。思うところもあったのかな?

たねさんと、青木の間には息子がいたのだが、結果、結婚はせず、たねさんは別の男性と結婚。息子はたねさんの弟として、福田家で育てられたらしい。息子の名前は『幸彦』。あ、海幸。山幸だね。
この息子さん、大人になったら尺八奏者になり、『笛吹き童子』の曲を作曲するらしい。
♪ひゃり〜こひゃられ〜ろ〜。んで、その尺八奏者の子供が、元クレージーキャッツの石橋さんである。石橋さんって、青木の孫なのね。
山田氏曰く青木は借金も多くて、孫の代まで迷惑をかけたらしい。パンチの強い人間が身内に1人出ると、大変なコトになるんだな(^_^;)。因みに、現在、ひ孫さんは、とある議員の秘書だそうな。学芸員さん曰く「4代目になったら、まともになった」と(笑)。

そんな金なし青木がした金になりそうな仕事。それが『旧約聖書物語挿絵』。コレ、恰好良いんだぁ〜。ザクザクって描いてるんだケド、ちょっとそれが、ギュスタブ・モローの水彩画風で恰好良いのよ。
お気に入りは『紅海のモーゼ』。手を伸ばし、指差すモーゼ。『ヤエル、シラセを斬る』も好き。

彼は久留米に帰ってから、九州を放浪します。
学生時代に世話になった絵の先生などを訪ねるも、そこでも、勝手に人の服を着ちゃったりして、先生の奥さんは、青木が嫌いだったみたい(^_^;)。傲慢っぷりはあまり変わらなかったのね。
んで、『秋声』って言う絵を描いて文展に送るも落選。

その頃の絵に『温泉』って絵があるのだが、コレが良い!
オリエント風のタイルのお風呂に裸体の美女が足をつけて立っている。そして髪をくしけずる姿。背景に純白の百合。コレは純潔を表しているので、乙女の純潔って言う意味なんだろうね。で、絵はちょっとレイトン(ヴィクトリア朝絵画の人)っぽいって思って。レイトンほど内省的な絵ではないけれど。

彼は失意のうちに肺結核になり、28歳8ヶ月で死亡。
絶筆になった絵のタイトルは・・・・。

『朝日』。穏やかな海。そこに朝日。いや、朝日にも見えるけど、夕日にも見える。綺麗・・・。
あれ・・・ちょっと泣きそうになってるよ、私・・・。
あんなに荒々しい海を描いてた人が、最後に描いた海は、何故か穏やかで美しかった。

お土産はポストカード7枚ほど。お気に入りのわだつみ〜の大きい絵葉書も買っちゃった。
9月4日までやってます。



さて。君をどう評そうか?

倣岸。不遜。自分勝手。自己中心的。俺様気質。自信過剰。自意識過剰。高飛車。破滅的。

不思議だね。どれも合っていて、どれも間違っているような気もするよ。
君の28年間の人生。実はどうだったんだろう?人並みに落ち込んだ?人並みに悲しんだ?人並みに生きているのが嫌にもなった?イヤ、君のことだ。「僕が人並みであるはずがない!」ってふんぞり返って言うのかな?

それでも私は君に言うのだろう。
「君は間違いなく天才だった」って。
そして、私は言うのだろう。「君の絵が好きだ」って。
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