時政をかき口説くりくの様子にはなかなかな妖しさがあって、いい歳のおっさんがこうやって迫られたら、そりゃ逆らえないよなと思ってしまう。『太平記』のふっくらしていたころとはまた別の、�瓩燭韻燭箸任發いい燭�なるような魅力がある。りくがいかに時政を骨抜きにしているか、エピソードとしてはあまり語られていないので、もっぱら宮沢りえの演技でそこを視聴者に納得させないといけないのだけど、十分にその任は果たしていると思う。三谷幸喜もそこは彼女に任せるつもりで、特に筆を割かなかったのかもしれない。
とはいえ、所詮は大勢が決した後の悪あがきであって、三浦を引きこもうとしても善哉に鎌倉殿を継がせる気がないのを見透かされて失敗、鎌倉殿を継がせるつもりの当の娘婿・平賀朝雅にも逃げらているありさまで、端から勝ち筋はないのだった。
その時政が、最後に「ちょっと寄ってくるところがある」と訪れたのが、政子の館である。ちょうど三浦からのタレコミについて政子と義時が話していたところだったので、妙に鼻白んだ二人の様子を気にもとめないように、やたらとハイな調子で「ひさしぶりに飲みに来たぞ」と盛り上がっている。
真衣には、「とうとう頭に来たんじゃないの」と言われる始末だけれど、ここで時政はしきりに杯を重ねながら、「オンベレブンビンバ」とくり返す。
「それはなに」
と問われ、大姫が自分の健康のために教えてくれた呪文だと答える。不可解としか思えなかった今回のタイトルの謎が解き明かされた瞬間だけれど、どうもそれは違うのではないかということになって、全員が自分の思い出した呪文を披露する流れになる。ここのところはどう間違えるか脚本に指定はなくて、役者が本当に自分の記憶から引っ張り出しているのだろうと思う。
大河史上でも屈指の他愛のないシーンだけど、始めの白々しい雰囲気から一転して、家族がかつての語らいを取り戻した様子は感慨深い。ナレーションが正解を挟むのは蛇足のようだけれども、どっちにしろ意味はないのだということを強調する意図があるのかもしれない。
政争に関わったがために失われてしまったけれど、家庭の団欒とは実はこういう他愛のないことの積み重ねなのだろうということだろうし、この後で訪れる決定的な破綻を強調するシーンでもある。
茄子の苗を植えかえた義時と時房は、時政が負けを見越して今回の挙に及んだのだろうと話し合う。時政がりくに言った、「一番大切なのはおまえだ」という言葉は、その先に敗北があっても彼女の言うことは拒めないという意味だろうし、その後に彼女が「素敵。覚悟を決めた男の顔ね」というのも、クーデターを決行することではなくて、予知される破滅に踏みこむ腹を括ったということなのであろう。
いつものように気散じに和田義盛邸を訪れた源実朝を、三浦義村が迎えに来る。しかし、連れ帰ったのは時政の私邸のある名越の方角だという。
ちなみに、後に北条の分家で名越流というのができるから、鎌倉における北条氏の拠点として続いたのだろう。たしか『北条時宗』でも名越流は出てきたと思う。『龍が如く』のプロデューサーは名越稔洋という人だけど、それと関係あるかはわからない。
私邸に実朝を招いた時政は鎌倉殿を降りる書面を書かせようとするが、当然のごとく実朝はこれを拒否して、さてどうなるかと次回に続くのだけど、まあ、うまくいきそうな気配はまるでないのだった。
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