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2021年04月24日17:20

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しょうせつ

 ノベプラの方に新しく小説書いたので、こっちにものっけとく。地味でシリアスなファンタジー。しかも序盤なので、まだ主人公なんも活躍しねぇ。まぁ、たまにはこんなのも書くって事で読んでみてくれれば幸い。

タイトル:危険を冒す者を冒険者と呼ぶ

序章:生まれも育ちも戦場

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 産湯に浸かったのは戦場だったらしい。

 父親は薄いオレンジ色の肌をした小柄な男で、傭兵団の副団長をやっていた。団員からはよく「イエロー」と呼ばれて親しまれていた。幼い頃はオレンジ色なのに、なぜイエロー?と不思議に思った物だが、その理由は後で知る事となる。
 母親は対照的に大柄で浅黒い、豪快な女性だった。本名はなにやら長ったらしい名前らしいが、単に「アニー」と呼ばれていた。正直、本名はいまだに思い出せない。その内知る事もあるだろう。
 その二人から生まれた私は、よく「カラード」と呼ばれていた。色付きという意味だ。間違ってはいないので気にしてはいなかったが、よく考えてみると本名を呼ばれない内に本名を自分でも忘れてしまっていたのは、今更ながら両親には言えない事だ。

 傭兵団にいる以上、周囲の人間がすべからくそうであるように、自分も物心つく頃には棒切れを振り回していた。歳は覚えていないが、父親から剣の手ほどきを受けるようになり、身体が作られる頃になると、実戦にも参加するようになっていた。父親は周りとは違う、僅かに反った片刃の剣を使っていたので、自分もそれに合わせようとしたのだが、木の棒ならともかく鉄製のそれは売っていなかったので、曲刀を使うようにした。意外と自分には合っていたようで、それをみた団長は「竜が竜を生んだか?」と笑っていた。

 自分が13の時、母親が戦死した。この頃から多くなってきていた魔物との戦いで、ある村の護衛をしていたのだが、たまたま哨戒に出ていた母親のグループが姿を消す魔法を使った魔物に襲われたらしい。母親は自分の腕に傷を付け、周囲に血をまき散らせて敵を炙り出し、仲間と共に討ち取ったそうだ。唯一の誤算は、母親の想像以上に敵が多く、全ての敵を討ち取る時にはすでに出血をし過ぎてしまった事だと、生きて帰った仲間が言っていた。他の仲間も同じように自ら血を撒けば良かったとは言えない。敵がまだいるかも知れない状態で、被害を最小限に留めたのは母親自身の判断だったというから。

 毎日剣の稽古をつけてくれていた父親が、その日だけは稽古をしてくれなかった。

 15の時に父親も死んだ。隊商の護衛をしていた時、飛んできた肉腐れの毒矢を腰に受けたのだ。襲い掛かってきた盗賊共は斬り伏せたが、数日もしない内に足腰が利かなくなってきていた。団長は参謀として残るようにと言ったのだが、父親は首を振ると、一人、テントの中で腹を切った。残された手紙には団長と団員への最期の挨拶、自分の事を頼むというような事が書いてあった。団長は悲しげに自分に言った。
「それは刀と呼ばれる武器だ。伊衛郎が故国から持ってきた逸品らしい。その国では15で大人と認められ、その証として刀を預かる立場になるそうだ。その刀に恥じない生き方をしろよ」

 その時から父親の剣、刀は自分の刀となり、父親がなぜ「イエロー」と呼ばれていたのか、初めて知った。

 その内、自分達のいる地域の情勢は魔物の襲撃率が高くなり、いくつかの国が滅んだ。街と街の経路は寸断され、街は自衛手段として要塞化し、都市国家のようになっていった。そんな中、滅んだ街の一行が開拓している土地で自警団として丸ごと雇われた。他の街へ助けを求めたが、どこからも断られたためにやむなく開拓の道を選んだと、恰幅はいいが人受けの良さそうな代表者が笑いながら言っていた。
 ようやく自給の目途が立ちそうになった時、自分は18歳だったが、自警団と開拓地の村は壊滅した。襲ってきたのは皮肉にも、魔物に滅ぼされた国の兵士たちだった。初めは「平和的に話し合いで済ませよう」と、代表者が従者を連れて会いに行ったのだが、帰ってきたのは震えあがった従者と代表者の首だった。話し合いは無理と悟った団長は、村人だけはなんとしても助けろと団員たちに指示を出し、団員たちもその言葉に奮い立ったのだったが、こちらより遥かに多い数の兵士に襲われてはひとたまりもなかった。それでも8割方の村人は荒野へと逃がす事が出来た。荒野で生き延びられるかどうかは運次第だが。
 自分は途中で蹴り飛ばされ、無様にも気を失い、気が付いた時には全てが終わっていた。父親譲りの小柄な体躯が幸いしたのか、何人かの仲間の死体の下で倒れていたようだ。もっとも、単に周囲が自分を村人と同じく守ってくれただけなのかもしれない。何故なら、私の真上に乗っていた死体は、他ならぬ団長の物だったのだから。

 既に生きる物はどこにもおらず、途方に暮れた自分は、とりあえず死体を弔おうと、仲間だった物から鎧や武器を引き剥がした。敵の死体も少なからずあったが、放っておいても疫病の元になるので、一カ所にまとめて焼いてしまった。仲間の死体も同様に一体一体燃やしていったのだが、団長の傷つき凹んだ鎧を外した時、腹に血文字で「ココ↓」と書かれている事に気付いた。どんな器用な技を使ったのかはわからないが、おそらく致命傷を受けた時になんとか指先を突っ込んで書いたのだろう。若干気が咎めたが、ココと矢印をされた場所を刀で斬ってみると、血と脂に塗れた小さな布袋が腹の中に入っていた。一体どうやってこんな物を飲み込んだのかとは聞かないで欲しい。自分にもわからないから。とにもかくにも、その袋を開けてみると、紙と大粒の黒い宝石が一つ入っていて、紙にはこう書かれていた。
『ライルへ。はしっこいお前の事だからコレに気付いた物として話を進める。この宝石はブラックダイアモンドといって、それ自体は少々高いだけの宝石だが、重要な魔術に使われるらしい。売れば数年は遊んで暮らせるだろう。伊衛郎に託された形見だが、売って金に換えろと言われていた。お前に任せる。前にも言ったが、刀に恥じない生き方をしろ。じゃあな』
 それで思い出した。私はそういえばライルという名前であったと。

 仲間の死体を弔うのに数日かけ、私は近くの街へ向かった。幸い、途中で隊商に紛れ込む事が出来たため、比較的大きな街、『ストランディア』に入り込むことが出来た。元はこの周辺を治めていた国の有力都市だったため、宝石も無事に売る事ができ、街外れに小さな家を買う事も出来た。

 数年、そこで暮らした。たまに酒場の用心棒などを頼まれたりしたが、あとは日がな一日寝っ転がったりしているだけの生活だった。そんなある日、酒場でエールをあおっていると、最近、冒険者なる職業が流行っていると耳にした。ある者は一攫千金のため、またある者は名誉のため、ある者は魔術の極みを追い求めて、あえて危険を冒して旅をする者たち。そういったごろつき寸前の連中を総称して『冒険者』と呼ぶらしい。その日は、それで家路についた。

 しばらくさぼっていた刀の稽古を再開し、体力も以前以上に戻した。家は売った。その金で鎧や小型のクロスボウ、その他、荒野をうろつくのに支障のない装備を整えた。刀に恥じない生き方というのがどういうものかわからないが、少なくともこの街で腐っていくのは、違うだろうと感じた。だから、自分も少し、危険を冒してみたくなったのだ。

「さて、と。それじゃ、行ってみますかね」

 まだ朝靄の晴れない内に、俺は、街の外へと、出た。

 冒険者人生が始まった瞬間だった。
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 ちなみにひかりとやみのなんとかはノベプラの方で更新してるから、暇があったら
https://novelup.plus/story/720832946
で読んでみるもよし。
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