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2020年12月25日16:13

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一生モノのコート

と、店員さんに言われて買ったコートがある。
20年ほど前の話。

アンゴラ素材のブラックカラーのショートコートで、手触りは限りなく柔らかく、温かいのにとても軽い。襟もとにはたっぷりとフォックスファー…今ではもう買わなくなったが、これはリアルファー…が付いており、
形はオーソドックスで若くても年取っても着られそうな上品なデザイン。
社会人になって間もないころで貯金もなく迷ったけど、ちょうどセールで安くなっていたので(それでも高かったけど)思い切って買った。

で、今まで大事に着ていた。
転勤だの結婚だの引っ越しだのいろいろあった20年、他のコートは入れ代わり立ち代わりしていたけど、このコートだけはいつもクローゼットの一番いいところに鎮座しており、水洗いは厳禁なので毎年必ずきちんとクリーニングにも出し、手入れもしていた。
本当に一生着られたらいいなぁと思っていた。

それで昨日いつも通りに洗濯して、洗濯物をかごに入れて、さて干そうかと思ってガサゴソしてたら、そのコートが丸まって出てきた。


一瞬時が止まった。


ザ・ワールド。


頭真っ白になりながら取り出してみたら、間違いなくあのコート。
しっかり洗われた様子で見るも無残な様相になっており、ファーもぐしゃぐしゃ。
アンゴラ素材なので洗ってしまうとフェルト化するのだが、今は濡れていて被害の程度がわからない。

なぜこんなことに。自分が間違って入れたのか。でもコートなんか入れるか?
いや落ち着け。こういう時は素数を…数えてられるかぁ!!!
一瞬
「若年性認知症」
という言葉までよぎる。いやまさか。でも最近物忘れも激しいし、もしかして…
でもよりによってこのコートを入れるか?大事にしていたのに。まさかそんな。

多分このくらいの事を0.5秒で考えた。

それでどうしたかというと、まずコートのしわを伸ばした。ファーをできるだけなでつけ、一番良いハンガーにかけ、室内で干すことにした。
大げさなと思われそうだが涙が出てきた。
少なくともあと10年は着ようと思っていたのに私はなんてことを…。
どうにか少しでも復元してくれと願いながら、裏に返したり表にしたり、できるだけ日に当てず、エアコンの風も当たらないようにして優しく干した。
その様子を見ていた娘が何やってるのと聞くので、おかあさんのコートがダメになって…と説明すると娘も何とも言えない顔をしている。
まさかと思って探りを入れると、

「ごめんなさい」
「コート、洗濯機に入れちゃった」

正直叫びだしたくなったが、なぜコートを洗濯機に入れたのかだいたいわかる。
私の手伝いをしようと思ったのだ。
いつも、洗濯物は洗濯機に!と口すっぱく言っているから、椅子の背にかけていたコートも、これもかと思って入れてくれたのだろう。

怒れるわけがない…。

もうため息をつくしかなく、コートを久しぶりに矯めつ眇めつしていたら、なんだか胴体裾のあたりが糸の状態になって、下地が少しづつ見え始めていることに気が付いた。
これは擦り切れる寸前のサインだ。

そうかぁーーー。
素材自体に寿命があるのを忘れていた。いくら大事に着ても20年もたてば擦り切れてくるのは当然の成り行きだ。
娘のやらかしがきっかけだったが、もうそろそろお別れの時がきたのさとコートの側からも教えられてやっと踏ん切りがついた。
これだけ長く着ればもう十分元も取れているし、「一生もの」と呼ぶにふさわしい品質だった。
乾かすと案外もとに戻ってくれていて(すごい)、着てみると縮んでもいなかったのだが、今年いっぱいでもう手放すことにした。

クローゼットの中の一番の古株がいなくなると思うと、なんか寂しい。
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