はい。
読み応えたっぷりの東京荒野、ちょっとだけ触れてみます。
小西六「コスモス�掘―�活日記 〜再会〜」。68歳の西成在住の独身男の日記。西成の風俗とやるせない日常が描かれる。
黙受「比較して誤魔化す」。小学５年生の息子から「陰キャ」扱いされる父たる私。尿失禁・便失禁するバイオグラフィーを淡々と語る。
泉由良「紫色に光る店」。北大路堀川のギャラリー・バー「汚点紫（しみむらさき）」の思い出を綴る。「お客さんは敵でもないが神様でもない」という張り紙のことや、いまは亡きSSWもやっていたマスター・柏井銀路の想い出。感傷的だ。
山野井譲原作・はっとりあつし漫画の「恥ずかシーサイドディスコ 第十三夜 キミが死ぬまで続く��」。冒頭の「電気グルーヴの誰だ！ でも聴くかー」という台詞が面白い。恋する男の煩悶。
馬野ミキ「二丁目の思い出」。おかまの部屋に引きずり込まれSEXする様子を回想。「おかまの乳首をなめた/まずかった」という率直さがいい。ミキくんの散文のファンです。
登坂尚高「登坂尚高の農園日記」。思い立って、実家の裏庭を開墾する男の奮闘記。苗販売に行き、レコ屋に行く感覚に似てるという記述が独創的。「トマト苗はThe Beatles、茄子はThe Rollingstone、ピーマンパブリカ辺りは九十年代ロックで、」と喩えは続いていく。文章を読む醍醐味。
川北玲の漫画「インターナショナル・ニート」。国際交流パーティに入り浸るニート。そこで捕まえた外国人を弾き語りのライブに連れて行き、英語の曲を歌うことで自己承認欲求を満たす。代償としてライブハウスにノルマを払う。どうしようもない日常。
山本拓磨「神様に見捨てられた天使」。パンクバンドでベースを弾きながら、介護のバイトをする裕也。何かと言うと「すみません。」と謝ってる、コールセンターのバイトをしながら音楽をやってる「俺」。ある日、裕也と「俺」と、キャバクラのボーイをしながらピン芸人をやってる、高校の同級生だった鉄ちゃんと3年ぶりに家飲みすることになる。昔の話に花が咲く宴。いまのくすぶってる生活への焦りも吐露される。酔って、家に帰った「俺」は、ボイスメモに思いついた歌を残す。酔いが醒めて、ボイスメモを再生すると「すみません」からはじまるむっちゃダサイ歌詞が残されていた。
宮崎季宇「I grind for my core」。四次元の世界から来た友達の夢から醒めて、「目覚めても友達の自己主張を感じる醒めない夢じゃった。」と語る。
あさとよしやの詩「風呂敷」。風に運ばれた風呂敷が、少年の頭を覆い、その頭はメロンに変わる。少年の頭は六等分にされる。以後、少年を見たものはいない。不思議な後味。
浅野葛「ただ、おだやかに暮らしたい」。性自認に沿って男から女になった主人公が、活動家の兄を亡くし、始末をつける様子を描く。差別の問題が重層的に語られる。
井上チエの詩「題名なし」。「絶対平和な存在証明」「裏切りの天国/無能の神様」と言ったフレーズが刺さる。
高木弥生の詩「ぞうきん」。ぞうきんに仮託する詩の話者。切ない。
玉木偉之「オモイオコセバ」。人間失格の葉蔵よりも恥だらけの人生を送ってきたと言う六十四歳の俺。仕送りを催促した母親に銀行に金を借りに行けと言われ、その通りにしてしまう俺。冷たくあしらわれ、世間を知る。諦念が深い。
松永明金の詩「脳 NO ネガティブシンキング」。「神はいないよ/でも、女神はいるよ」「俺たちは、精液」というパンチラインが泣かせる。
もずらいと「新宿アリス狂想曲」。同性を好きになる女性のカリン。ある日、ふとしたキッカケでメイドカフェに行く。メイド・いちごとあずさと交流して、カリンは失恋の傷を癒す。都会のファンタジー。
春野たんぽぽの詩「恋」。「頭上を見上げる/女が笑っている/蜃気楼が揺れて/花弁に撃たれ続けてみる」という終連が見事。
二宮友和「忘れられざる石」。学生時代の回想。校則の髪型の「ツーブロック禁止」は何の為にあったのかを、いまさら考える。
森下くるみ「ちったい、にゅうにゅう」。アンパンマンを見て、「ねぇ、コロナやっちけた？」と聞いてくる幼い息子。コロナ禍の中での子育て、主婦の実存を考える。
無善菩薩「南無観世音大菩薩」。アートバー無力無善寺マスターによる、ありがたいページ。南無。
三上寛の連載詩「蟻のハ 第二十一回」。沖縄とアイヌ、それぞれの苗字を考察する。知里真志保の名前が出てくる。沖縄の人物を連想させるアイヌ民族の言語学者として。言葉にウィルス的伝播能力を見出す作者の眼力は玄妙だ。
まだまだ「東京荒野」22号には魅力的な作品がある。手に取ってみては如何？ 秋の夜長に打ってつけ。
以上、感想文は過渡期ナイトPD事業部・死紺亭柳竹でした♪
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